やおいとは。やおいの語源とは。その他ヲタク女による重要関連用語の数々。

■やおいとは、受け攻めの配役を固定した、男性キャラばかりのカップル痴話劇漫画のこと
■「やおい」の語源は、なんと手塚治虫
■『同人誌』を、もっともっと分かりやすく言うと
■美少女エロや、やおいばかりではない
■同人誌即売会(イベント)に行ったことはおありで?
■元は少女向け雑誌名だった「JUNE(ジュネ)」
■'90年代急速に浸透・定着した「ボーイズラブ」という言葉
■受け攻め
■『腐女子』とは、ハードなやおいエロに現を抜かす同人女のこと
■乙女,ヲトメ
■カップリング、カプ、カポー
■動物・人外キャラでヤオる際に行われる『擬人化』
■『萌え』は、ヲタク男・アキバ系のみで使う用語ではなく、腐女子たちも重宝している

やおいとは、受け攻めの配役を固定した、男性キャラばかりのカップル痴話劇漫画のこと

 「やおい」―――概して女性向けの漫画、特に同人誌のアニパロ(または漫画パロやゲームパロ)・コミックジャンルのひとつ。
 おたくなヲトメ・おたくな腐女子たちによる、大前提として必ず受け攻めの配役を据えた、男性キャラばかりのカップル痴話劇が最たる基盤。受けキャラを乙女化していたり、攻めキャラも好色で騒がしく嫉妬深かったりした上で、三角関係的恋愛攻防や複雑な相関系図をあつらえての激しいジェラシー劇、結婚や新婚生活を描くなど、ありとあらゆる女性の本質や夢想が色濃く反映されているのが特徴。
 決してホモや少年愛と同意語ではなく、特に、よく混同される"ホモ"、"ゲイ"、"ショタ"、"ショタコン"とは根幹をはっきり異にする。

 また、必ずしも過激で直接的な性描写が盛り込まれているものが『やおい』という訳ではない。飽くまで♂キャラ同士の恋愛カップル痴話劇が基本であり、仄かな恋愛感情の芽生えだけでも、手をつなぐ描写だけのものでも、やおい本として同人少女たちにこよなく愛されている。むしろ生々しいエロを避けるタイプの同人ヲトメも少なくない。

「やおい」の語源は、なんと手塚治虫

 やおいの語源については、

ヤマ無し、イミ無し、オチ無し、の3語の頭文字を取って「や・お・い」

 ……が定説となっている。これはその昔、手塚治虫がヤマもイミもオチもないようなダメな漫画のことを略して『やおい漫画』と呼び、自分の作品への戒めの意味もかねての造語であった。

 そんな"ダメ漫画"を指すやおいは、やがて男性同士の同性愛・恋愛漫画に対して、ダメ漫画の烙印を常套的に押す意味合いで"やおい、やおい"と呼ぶようになり、とどのつまりそれが

【やおい=少女向けな男性同志の同性愛・恋愛漫画】

 という語意として定着する。

 しかし、筆者が麗しの男子高校生であった'80年代後半頃、女性向け同人誌情報雑誌「ぱふ」の読者応募の同人誌通販コーナーで、『夜追』と、はっきり漢字2文字で表記されていたことを鮮明に覚えている。

 この誌的な響きのある『夜追』という漢字二文字の熟語こそ、初期のやおい文化敷衍の立役者であると見た筆者が調べたところ、同人黎明期後半と言える'79年頃の女性向け少女漫画創作サークル『ラヴリ』の定期刊行物「らっぽり(現漫画家:波津彬子編集)」内で、会員メンバーである磨留美樹子氏から寄稿された、男性キャラ同士の色恋沙汰痴話漫画のタイトル。これが「夜追」だった。

 この作品及びタイトルこそ、同サークル内では勿論その後巨大なジャンルカテゴリとなるやおいムーヴメントの発端となったものである。

 当時のやおい漫画には激しい性描写はなく、その行為にゆきつくまでの過程やその後の恋愛痴情劇に終始。「ヤオイ」は当時からエロがメインではなく、受け攻めカップル痴話劇が重心であったことが伺える。

 尚、当時『漫研ラヴリ』は1970年代半ば頃から既に活動の形跡があり、コミックマーケットには1979年7月第12回開催時に初参加。以後'81年8月の第18回開催までサークル参加が確認できるが、実際には同サークル発行物の総集編が刊行されていた'80年代前半まで、サークルとしての活動は続いていたようだ。
 

『同人誌』を、もっともっと分かりやすく言うと

 由来とか発祥とか、時代による形態の移り変わりとかジャンルとか、欲張って述べてるとどんどん分かりにくくなるので、端的に言うべきだろう。

 『趣味で作るミニコミ誌』

 それが同人誌である。

 出版社/編集さんを雇って200万円ほどのゼニのかかる自費出版とは違う。
 なぜなら、自分でゲンコー用紙を買って来て、自分自身の手&仲間内で描いたり書いたり打ったりして、自分たちで編集、自分で完全原稿に何もかも全てまとめてから同人誌専用の印刷所に持っていって入稿するのだから。

 さばける見込みがないという事情により発行部数を数十部に抑えなければならなかったり、時間が無かったりする場合は、近所のコンビニコピーで印刷&製本のハンドメイド作業でスピード装丁しちゃう早業だってOK。
 もっとスゴイのになると、同人誌即売会前日に完徹で原稿を仕上げ、明朝行きがけのコンビニでコピー、そして会場でバタバタと大急ぎで製本作業、2日もかけず本を仕上げるという離れ業をしでかすサークルもいる(あまり感心されないが)。

 フォトショップなどを使って印刷所へデータ入稿とか、発行する同人誌自体がCD-ROMソフトってのも、今時珍しくない。

美少女エロや、やおいばかりではない

 内容については、アニパロ二次創作やおいかロリコン美少女エロばっかり、という世の揶揄に対して否定はしない。ただ、それが全部が全部100%という訳ではない。

 実際には漫画家を目指すセミプロの創作集団もあれば、オリジナルの小説をコツコツ発表する人達だっている。旅行記や缶ジュースの評論本サークルを永らく続けてる人もいれば、本格演技でドラマCDを録り続けるところだってある。その他、特撮ファンだって、鉄道ファンだって、音楽ファンだって、8ビット時代のオールドゲームファンだって、犬猫動物漫画ファンだって……。

 同人誌とは、まさに個人規模、仲間内規模で、数百部程度の部数のユニット発行が数万以下の低予算で手軽に作れ、あらゆる表現方法が広大な器で許容される、あらゆるファン層の表現にとても寛容な媒体なのだ。

 それでいて、その趣味・そのジャンルに無知・無理解の輩が闖入してトラブルを引き起こすインターネットホームページのような事態も比較的乏しく、自分だけの表現・自分だけの世界を書籍媒体でのびのびと構築できるのだ。規制も束縛も(今のところは)非常に少ない。

 尚、フツー出版社を通じて全国書店で流通しているような本は、例えやおいだろうが美少女ロリエロだろうが同人作家執筆のアンソロジーだろうが、同人誌ではない。それは『商業誌』。例え同人誌として発表した原稿が再編集・再録されたものであろうと、書店流通ならそれは『商業誌』。お間違えのないよう。

 例外として同人誌コーナーを設けて大手作家の同人誌を委託販売している書店もあるけど、それは書店側が同人作家さん・サークルさんと直に交渉・契約して委託販売している特殊な例。売値の何割かは書店の利益となっている。

 じゃあ、正真正銘の同人誌は、一体どこで売っているのかって?

同人誌即売会(イベント)に行ったことはおありで?

▲コミックマーケット当日の東京ビッグサイト
 同人誌は売るのも買うのも、代表的な場は今も昔も【同人誌即売会(イベント)】である。これは全国津々浦々、様々な団体が主催、その地域の代表的な会館やイベントホールで定期的に開催している、同人誌のマーケットである。誰でも買いにいけるし、事前申し込みをしていれば誰でも売りにいける。

 しかし一般的な新聞や雑誌、TVなどで参加サークル公募や開催が宣伝されることは非常に稀なので、一般層の目に触れる機会は少ない。
 じゃあどこでイベント告知やサークル募集をアナウンスしているのかというと、同人誌専門のまんが情報誌でのインフォメーションや、同人系マニア向けのコミック専門店のチラシ配布、各々即売会で購入するカタログ(パンフレット)内での次回以降の開催日程案内、等々で豊富に掲載されている。

 地元開催のオールジャンル即売会に行きたいなら、『ぱふ』のような同人系漫画情報誌からあたってみると良いだろう。フリーラックにイベントチラシを常設している同人コミック専門店の店員さんに尋ねてみるのも良い。色々親切に教えてもらえるはずだ。
 ネット検索だと微妙な情報が多量に錯綜していて、初心者は混乱しかねないというのが現状。

 尚、
 『同人誌即売会は今本なんか売ってなくて、きわどいコスプレが120%!!』
 ……などと行きもしないうちから勝手に勘違いしているタコがたまにいるが、即売会最大手【コミックマーケット】参加者におけるコスプレイヤー、またはコスプレ経験者は、サークル参加者でもたったの10%、一般参加者にいたってはわずか4.7%に過ぎない

 他のイベントでも、よく本の即売の障害にならぬようコスプレゾーンを隔離しているし、場合によっては完全に禁止となっているところもあるくらい。

 マスコミは嘲笑や好奇心、非難めいた視角から、同人のほんの一部の要素に過ぎないコスプレを大々的にとりあげる傾向があり、『コミケでは、こ―――んな馬鹿なコスプレが大集合!』とオンエアで大仰にはやし、世の偏見を助長することも少なくないのだ。

 実際は、同人誌漫画の販売スペースが延々続く、長机で設けたマーケットが果てまで列をなす様相なのだが、そういった画像を録るのは絵的に衝撃が乏しく、よっぽど物足りないのだろう。

 話は逸れたが、現在、日本最大規模のコミックマーケットをはじめ、コミッククリエイションコミックライブコミックシティコミティアコミックトレジャー等が代表的な即売会として隆盛している。
 中にはローカル限定で地方色豊かな『ガタケット』のように、新潟の地元ヲタク達の深い信頼を得ているイベントも。

 さらに、特殊なオンリーイベントのような個人開催の単発イベント、コスプレ・ダンパonlyのイベントなど、様々細分化されているのが即売会の傾向なのだが、話がどんどんそれていくのでこのあたりで割愛させて頂く。

 とにもかくにも、行ってみないと話にならない。誰でも売りにいけるのが即売会。誰でも買いにいけるのも即売会。同人誌を買うのにWeb通販もいいが、イベント会場でのあの独特のお祭り気分の高揚感は、一般の漫画専門店では味わえない。
コミックマーケットのカタログよりコミックライブのパンフレットより
▲コミックマーケット(2005年冬コミ)のカタログ▲コミックライブin名古屋のパンフレット(2006年11月)

元は少女向け雑誌名だった「JUNE(ジュネ)」

 『JUNE』『ジュネ』と呼ばれる漫画・小説のジャンルは、やおいの概念と非常に良く似ている。主に創作畑の女性作家が手掛けた男性キャラ同士の性愛漫画の総称

 ギャグ、ハードなエロよりも耽美的な作風と叙情性のある語り口に特徴がある。一貫して『やおい』という言葉が使われているアニパロ同人では、近年あまり使われなくなった。

 語源はKKサン出版の雑誌「JUNE」から。内容はやはり耽美的な画風による女性向けの男性同士の性愛創作作品がテーマ。1978年に「JUN」として創刊。現在休刊しているものの、JUNEのブランド名は季刊誌「小説JUNE」に引き継がれている。

 不思議なのは、象徴的な商業雑誌から生まれたJUNEという言葉が、現在では【同人誌の創作もの】に限定した意味で使用されているということ。
 今では商業界で同系統の漫画を指す言葉として、『ボーイズラブ(略してBL)』という用語が一般的に使われている。

'90年代急速に浸透・定着した「ボーイズラブ」という言葉

 その『ボーイズラブ』という用語は、商業出版社がやおいもの、ジュネものを大々的に扱う際、「ジュネ」「やおい」というとっつきにくい呼称では意味が通じづらいだろう…という観点から、一般層にも浸透しやすいよう、その意味合いを直球に表現する、総称的な言葉として生まれた。略して『BL』とも呼ばれ、主に商業漫画誌でのジャンル語として用いられている。

 尚、ボーイズラブの呼称については、白夜書房'91年発刊の「イマージュ」の[BOY'S LOVE COMIC]というレーベル銘柄が草分けで、そのニュアンスの伝わりやすさから『ぱふ』誌でも'94年頃からジャンル名として[ボーイズラブ]の言葉を起用。やがて広く多用されるようになった。

 ところで、杉浦由美子氏の著書『オタク女子研究』においては、

 『人気アニメなど既存の作品のパロディ、二次創作が「やおい」、オリジナルの漫画や小説が「ボーイズラブ」と呼ばれています』

 と、実に平たくした定義づけが試みられている。

 しかしこれに対して、同人誌生活文化研究家の三崎尚人氏は、

 『「二次創作」=「やおい」、「オリジナル」=「BL」という分け方自体ナンセンス』

 と、同氏のサイトにて彼女を名指しで峻烈に斬り込んでいる。

 商業雑誌名から由来してジュネと呼ばれ、やがて同人用語として一般化し、それが後に商業営利目的でにBLと言い換えられた工程を鑑みれば、杉浦氏の『アニパロ・二次ものはやおい、オリジナル創作はBL』という定義は、あながち間違いではない。

 ロールシャッハ的に何の形でも見える岩石は、一度ぐらいスパッと彫刻のようにカットした明晰な姿にしてから現すのも、世の認知を得る方法としてまずくはないだろう。

受け攻め

 やおいの最重要ファクターのひとつ。ゲイ用語の「タチネコ」に見立てて説明すると分かり易いが、それとは異なる機微や、複雑なニュアンス、独自の法則が秘められている。

 まず、やおいにおいて男性同士で恋人関係や性愛を営む場合、必ず、「攻め側」「受け側」の配役決めがなされる。

 臆面無く言うと、強引に相手を押し倒して事におよぶタイプが攻め、それに流されながら悶えるタイプが受け。

 ……もっと露骨に言うと、挿入する側が攻め、される側が受け

 ……じゃあ
 【受けが女の代役、攻めが男の代役】
 【攻めがタチ役、受けがネコ役】
 と言い切れるのか?答えは否。男女の恋愛やゲイのタチネコとは異なる、様々なニュアンスが秘められていて、とても同等のものとしては扱いきれないのだ。飽くまで分かり易いよう強引に例えたまでである。

 表記にも独自の決まりごとがあり、例えば【太郎×マイケル】という、2人のキャラがバツマークで結ばれた表記が同人誌であった場合、『太郎が攻め役で、マイケルが受け役』という意味。必ず前者が攻めで、後者が受けなのだ。もし【マイケル×太郎】なら『マイケル攻め、太郎受けの本』ということになる。

 さらに、それを略して呼ばれることも多く、『タロマイ』なら太郎攻めマイケル受け。『マイタロ』ならマイケル攻め太郎受け。

●この本はマイタロ本なので、お嫌いな方、タロマイカプ派の方、マイケルが攻めなんて考えられない!という方はすぐこの本を閉じて立ち去って下さい。

 という、冒頭からぎすぎすと警告文を掲げていたりするのも常套的。

 それにしても、同じアニメのジャンル同士のファンなのに、相手に対してなぜこんなにもぴりぴり圭角ばっているのか?これについては後述。

『腐女子』とは、ハードなやおいエロに現を抜かす同人女のこと

 『腐女子』(決して変換間違いではない)。
 ニュアンス的には非常に意味が捉え易い用語であろう。ハードなやおいエロ、ハードなボーイズラブ本に日々耽溺、愛好する同人女のことである。

 但し同人女・ヲタク女全般を指す言葉ではない。ハードエロを嫌い、健全なアニパロ・二次創作漫画のみ愛読、または執筆する同人女については、栄えある腐女子と呼ぶに値しないということもお忘れなく。

 因みに2001年頃のことなのだが、愛液描写や肉棒挿入、失禁など、あまりに下世話なハードエロがつるべうちされるご自分のヤオイ本に対して、『腐女子限定!!』と自嘲気味に銘打っていた、某芸能系やおい同人作家さんがいらした。この時、筆者ははじめて『あぁ、腐女子って言葉見たのこれで2回目だ。今流行ってんだなぁ』と感慨したことを覚えている。

乙女,ヲトメ

 腐女子とかなり近いが異なる機微がある。

 むやみハードなエロ本をむさぼるというより、捏造した男キャラ同士の恋愛カップリング関係のラブロマンスの夢想を果てなく脳内にめぐらせ、日々その世界に耽溺する、正に夢見る同人乙女たちのことを指す。

 但し、受けキャラの性格タイプの表す言葉である『乙女化』とは意味も用法も異なる。

※殊更ハードエロのやおい同人誌を好むヲタク女という意味合いで使われていたはずの隠語『腐女子』だが、ここ1年ほどで、ハード作・清純作を問わず、やおい・BLに耽溺するオタク女・同人ヲトメ全般を指す意味合いとして浸透し始めている。TVや週刊誌でも『腐女子』が度々取上げられており、このまま一般人の間にも定着する可能性がでてきた。
 「池袋乙女ロード」は、まだ"腐女子"と"乙女"が使い分けられていた頃に命名された、BL同人誌専門店が林立する池袋サンシャイン60ビルのある大通りのことである。

カップリング、カプ、カポー

 やおいカップルの組み合わせのことを言う。
 アニパロやおいにおいて、このカップリングの明確な表示、標榜は大変に重要。同じアニメの本なのに、カップリングが違ったり、受け攻めが逆だと、買い手もイベントでのブース配置も全く違ってくるからだ。

 この『カップリング』という用語、筆者の場合「サムライトルーパー」ブームの頃('80年代末に大ブレイク)に初めて目にして覚えた用語である。C翼(キャプテン翼)、☆矢(聖闘士星矢)の同人ブーム頃は未浸透であったように記憶している。

動物・人外キャラでヤオる際に行われる『擬人化』

 一般的に、人間以外の物や動物が、話す・歩く・考えるなど人間のような行動をとらせる表現を擬人化というが、同人の世界においては、アニメ・漫画のイヌ・ネコ等の動物キャラがしゃべったり二足歩行したりする程度のものは『擬人化』とは言わない

 動物キャラ、または人間でない物(人外という)を、各々の嗜好に合わせ、けもみみ・けもしっぽつきの萌え的な人間の美形キャラクターへと勝手にアレンジ、恋愛カプ妄想をふくらませて悶えるという所業も、やおい同人誌表現の定石のひとつ。こういったキャラアレンジのことを『擬人化』という。

 勿論、動物キャラのみならず、ロボット、メカキャラの他、コンピューター、楽器、日用品、食材、など、アニメ本編に登場したものなら、まさかと思うようなモノまで、ヤオるためには何でも擬人化・美形化してしまう。彼女らにとって、世の中は全てカップリングと受け攻めで回っているのだから。

 また、動物キャラを半獣半人程度にアレンジするのを『半擬人化』、通常の人間美形キャラへのアレンジを『完全擬人化』、と区別して呼ぶこともあり。前者はマイナーだがケモノ・獣人ファンによるの根強い支持が存在する。

 尚、このアニパロにおける擬人化という行為。筆者が知る限りで最古のものは、高橋よしひろ原作のジャンプ連載作『銀牙-流れ星 銀-('86年アニメ化)』の犬キャラたちを、全てピチピチの犬耳・犬しっぽ少年キャラにアレンジしてしまった巣田祐里子のアニパロ漫画が、人外擬人化の元祖である。

 また、男性向け美少女ロリ同人界隈でも、メカやロボットやコンピューターを『萌え擬人化』として美少女キャラにアレンジする嗜みがあるが、これはオリジナルの美少女キャラクターをデザインするにあたって、インスパイア的な原案元にする所業に近い。捏造カップリング妄想に強引に結びつけるためのやおいヲトメのそれとは若干趣を異にしている。

『萌え』は、ヲタク男・アキバ系のみで使う用語ではなく、腐女子たちも重宝している

 【萌え】という言葉が世に急激に浸透したのは2004年頃のこと。
 これは2003年11月に三才ブックスから発売された英単語集「萌え単」が一般層をも巻き込むヒット書籍となり、『萌え市場』として社会的にも経済的にも注目を集めたことがきっかけ。

 その後'04年10月発売の2ちゃんねるを舞台としたノンフィクション恋愛小説「電車男」によるアキバブーム、'05年のメイド喫茶ブームにてマスコミがこの用語を連呼したため、「萌え」と「ヲタク男」が切り離せぬ相互イメージとして定着してしまった。

 確かに、ヲタクなヤツが主に二次元キャラ相手に慈愛・性愛・庇護愛にそそられ悶える状態を「萌え」と表現する定義の敷衍に異論はないが、これはアキバ男限定で使用する言葉ではない。ヲトメな腐女子たち、即ちヲタク女たちも既に以前から常用していた。

 例えば、メガネくん萌え、ショタっこ萌え、ケモみみ萌え、体格差・年齢差萌え、年下攻め萌え、金髪萌え、など。
 別にメイドスキーなアキバ男たちだけの専売特許用語と言う訳でななかったのである。

 第一、マスコミが萌えに関して突然騒ぎ始めた時頃、同人方面の人間は、
 『…は?なんで今更!?』  ……と、皆首を傾げていた。なぜなら、『萌え』という言葉が同人界で流行り始めたのは、1998年ごろのことなのだから。

 じゃあ本来植物の芽が息吹く意味だったはずの、『萌え』という用語は、どこからやってきたのか。

 筆者がはじめて『萌え』という言葉を耳にしはじめたのも、やはり'98年頃のこと。当時は『萌え萌え』と必ず2連語で使うのが常套であった。

 初めてその言葉を知ったのは、ナムコのプレステ用ゲームソフト「風のクロノア」の1作目の頃のケモノショタ同人誌『クロノアにィー萌え萌え!』というタイトルの本を買ったのがきっかけ。その時点で初めて知った言葉であるにもかかわらず、ニュアンス直結で意味を理解した。

 同じ頃。  『今"萌え萌え"って言葉流行ってますけど、アレどこのジャンルの誰が使い始めたンスかねー?間違いなく同人用語なのは確かなんですけど』
 と、ソレ方面の友人と電話で話しを切り出したところ
 『さ……さぁ〜〜???あでも美少女ロリ系からじゃないですかねー』
 という答えが返ってきたのを覚えている。

 必ずしもクロノアやケモショタジャンルが出どころとではないということは分かったのだが、一番初めに使った作家さん・サークルさんはどなたなのか、今となっては知る由もない。

 だが、愛らしいもの、恋しいものに対し、狂おしく夢想的に慈しむ…というニュアンスで、男女の境は勿論、ジャンルの隔て一切なく、ヲタクたち誰もが目を細めては嬉々として使っていた。親近性と温かみと連帯感のある、そんな言葉だったのだ。

 但し、異なるジャンル同士で交流の乏しい同人界において、『萌え萌え』という言葉が完全に敷衍したのは2000年ごろ。この時期には『腐女子』という言葉も浸透が始まっている。