私の主張 19

ー タイの石炭火力とカンボディアの電力問題を同時に解決できないか ー

(2002年4月11日)


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先日の海電調の飲み会の席上で,ふと思いついたのだが,今揉めているタイの石炭火力開発問題と,カンボディアの問題,即ち電源不足と高い電気料金,これらをセットで解決する方法があるのではないか。カンボディアの唯一の海港シハヌークビルに,大規模な石炭火力を建設して,大部分をタイのEGATに売電し,20万KWか30万KW程度をプノンペンに送る,住民反対で揺れるタイの石炭火力を代替し,プノンペンの高い電気料金問題を一挙に解決する方法だ。既に考えて動いている人がいればごめんなさい,でも,一時タイの石炭火力IPPを目指しながら撤退の決断をした東京電力,今もタイ政府の決断を待ち続ける中部電力と電発改めジェーパワー,JICAのお金で,シハヌークビルに火力建設を提案する関西電力,いずれもこの私の案に対してプロポーサルを作ってくれませんか。勿論,私の手を経ず提案していただいて結構だが,JICA活動を通じて,カンボディア電力セクターの厚い信頼を得ている私に,先方への説得をさせていただければ,少なくともカンボディア政府は乗ってくるでしょう。EGATにとっては,供給信頼度など,問題はあるが,提案してみる価値はある。


1. カンボディアの電源開発問題

(1) カンボディアの電力設備

2002年3月時点に於けるプノンペンに於ける電力設備は,総計で112MW,このうちEDCが所有する設備は62MW,IPPが50MWである。EDC設備の内訳は,第2発電所(C2)が3機18MW,第3発電所(C3)は旧式が2機4.2MW,1996年世銀による4機11.2MW,小計15.4MW,第5発電所(C5)が1995年日本政府無償による2機10MW,第6発電所(C6)がADBによる3機18.6MWである。またIPP50MWの内訳は,CUPLによる7機35MW,JPCによる10機15MW,となっている。これら設備112MWの可能発電力は100.5MWと報告されている。最近の最大需要は,よるの点灯需要で,約78MWを記録しているが,かなりの潜在需要があるものと想定されている。

(2)電源開発の状況

プノンペンの西方約120kmの山岳地帯に位置するキリロム水力発電所は,中国のIPPによって修復が進み,3月6日に竣工式が行われ,本年2002年6月にも営業運転が開始される予定である。最終設備容量は,水車発電機2機による12MWとなっており,送電線も115KVで同じ中国のIPPの中で建設,既に完成している(送電設備はEDCに移管される)。乾期のピーク時8.5セント,オフピーク時4.5セント,その他6.25セント,雨期は,オフピーク時3セントとなっている。同じく,プノンペン西南のカンポットに位置するカムチャイ水力プロジェクトは,カナダの公的資金でハイドロケベックによってFSが進んでいる。最終的には,カナダのIPPによって建設が進むものと期待されている。JICAがFSを実施したシハヌークビル混合火力は,今後,シハヌークビル沖の天然ガスの探査の結果によるもので,今のところ見通しは立っていない。プノンペン西近郊に計画されていたプレクトノット多目的ダムによる水力発電所18MWは,環境問題などで,全く見通しが立っていない。カンポットにIPPによる石炭火力300MWの提案があったとの情報もあるが,具体的には動いていない。ベトナムからの電力輸入については,80MWを目処に協定が出来ているが,カンボディア側の送電線建設について,JBICの融資が確定せず,これを待って世界銀行との協調融資が期待されている。

(3) 電源開発の問題

電力セクター最大の問題は,緊急で開発したプノンペン市内の電源は,そのすべてがディーゼル発電で,燃料費が高いために電気料金が極めて高く,KWhあたり18円相当とも言われている。これでは,将来のカンボディアの経済発展を大きく阻害することは目に見えている。それではプノンペンに,大規模な電源を開発することが可能か,ノーと言わざるを得ない,それは燃料の供給をメコン河に頼っている限り,現有設備12万KWでもう限界だろう。電気料金を解決する唯一の方法は,何処かに大規模な火力発電所を建設することである。これを考えてJICAは,シハヌークビルに火力を計画するべく,ニュージェックが調査を行ったが,その結果は私を満足させていない。それは,プノンペンの需要を見ている限り,経済性に見合う規模の大きさを計画できないこと燃料を将来の天然ガスの可能性に賭け,当面プノンペンと同じディーゼル方式を基幹に考えられていて,電気料金の解決には何ら貢献していないこと,などである。カンボディアは,出来るだけ早く大規模火力を供給の主体に置き,現在のプノンペンのディーゼル電源を,ピーク供給力または予備力電源に切り替えることである。ベトナムから8万KWの輸入をすべく計画中であるが,電気料金はベトナム側の主導で決定されるので,料金面に置いて,必ずしもカンボディアを満足させるものではない。


2.タイ側の電源問題

タイ全体の電源開発問題は他の文献に譲るとして,当面の電源として話題となっているのは,石炭火力2カ所約280万KWとラオスからの買電によるナムテン2水力約90万KWである。ナムテン2は既に予備的合意がなされているが,なお世銀の協力がはっきりしない。石炭火力について,バンコク週報の記事を参考にすると,次の通りである。

政府、再び決定を延期の可能性

プラチュアップ・キリカン県に建設が予定されている二つの石炭火力発電所―ヒンクルートとボーノック―をめぐるタイ政府の決定が、またも持ち越された。「(四月の)ソンクラーン前に決断」はタクシン・チナワット首相自らが明言した公約。しかし、農民デモの頻発で政府は慎重な対応を迫られているようだ。 報道によると、ポンテープ・テープカンヂャナー国務大臣(エネルギー政策担当)は四月二日の閣議前の記者会見で「ヒンクルート・ボーノック両発電所とタイ‐マレーシア・ガスパイプライン建設については決定を急いでいるが、ソンクラーン後になるだろう」と述べた。

 ヒンクルート発電所(ユニオン・パワー開発社、140万KW)は、プラチュアップ・キリカン県バンサパーン郡トンチャイ村に建設予定で、総事業費13億ドル。ボーノック発電所(ガルフ・パワー社約147万KW)は同県ムアン郡ボーノック村、総事業費8.2ドルとなっている。ユニオン・パワー社もガルフ・パワー社も、電力自由化に向けた業界再編で生まれた独立発電事業体(IPP)。日本のトーメン、中部電力、豊田通商、電源開発などが出資している。

 地元住民の多くはこの建設計画に強く反対しているが、その理由の一つは、発電所からの温排水などによって地域の漁業が影響を受けることである。また、計画の立案・検討に際して反対住民の意見が取り上げられなかった点も反発を呼んでいる。さらに、計画が前提としている電力需要の伸びに対する見込みが高すぎ、買電契約が政府・国民に不利な内容で結ばれている、と指摘するNGO関係者、知識人、学生など社会各層から批判が集まっている。 今年一月十一日に小泉純一郎首相がタイを訪問した際には、地元住民約一二〇〇名がバンコク首相前に集まり「日本よ!環境、生活、コミュニティーを破壊する計画をやめよ」などと書いた横断幕を掲げ抗議運動を展開。タクシン首相は住民の前に姿を現し、自ら建設予定地を訪問することを約束しその場を収め、実際に一月二十四日現地を訪れて反対・賛成両派の住民の意見を聴取した。首相が「ソンクラーン前に決断」を公約したのは、その直後のことである。

 首相が決断に苦慮するのも無理はない。発足一年を過ぎたタクシン政権は大きな正念場を向かえている。かつての民主化運動のリーダーたちを閣僚に加え、「貧民救済」を掲げて登場した同政権であるが、ここにきて当事者である貧困農民たちがタクシン首相に「公約不履行」のレッドカードを突きつけはじめたのである。北タイでは農民と山岳民族が森林管理や山岳民族の市民権獲得をめぐって、東北タイではダム建設で被害を受けた住民たちが生態系・生活回復を求めて声を上げ、債務救済を求める小規模農民たちも立ち上がった。これらの人々は続々とバンコク首相府前などに集結し、タクシン政権に対して、「公約の遵守・実行」を迫る座り込みを始めた。そこに、ヒンクルート・ボーノック両火力発電所とタイ‐マレーシア・ガスパイプライン建設に反対する住民たちも加わった。政府がどれか一つの建設計画でも容認すれば、これらの人々が一斉に反発する事態が予想される。

延期とはいえ、タイ政府の決定に注目が集まっていることに変わりはない。しかし、かりにタイ政府が両発電所計画にゴーサインを出しても、建設のためには資金調達という課題が残されている。この点については、日本の国際協力銀行(JBIC)による融資が早くから取り沙汰されているが、決定しているわけではない。事情に詳しいある人物は本紙の取材に答えて、「JBICは、『融資審査に入っていない』と公式の場で何度も明言しています。融資については白紙状態だということです。また、JBICは融資審査にあたって新しい環境ガイドラインを制定しようとしています。このガイドラインが適用されれば、(この件での)融資がどうなるか分かりません」と指摘している。この事業についてはまだしばらく、様々な場で賛成と反対の駆け引きが続く模様だ。

このような分けで,数年後のタイの電力需給は極めて深刻である。この報道では,温排水の問題を取りあげているが,基本は北のマモー火力で住民が受けた大気汚染の影響が尾を引いている。マモーは褐炭であるが,この二つの石炭火力計画では,輸入炭が想定されていて,大気汚染については十分な対応がなされる,と考えて良かろう。


3.シハヌーク大規模石炭火力による解決

JICAのコンサルタントであるニュージェックが,ディーゼルによる複合火力を提案したとき,輸入石炭による火力か,ベトナムのオモン火力のような当面重油将来天然ガス,と言う解決方法がないのか,と糾してみたが,このときの観測では,やはり港湾などのインフラ構築が規模のネックとなったようだ。20万KWや30万KW程度の規模では,火力としての経済性を目指すことは困難で,困った末にあのような提案になったのであろう。もしタイの石炭火力を代替するならば,最大で必要な規模は300万KWを越すわけで,この規模の火力であれば,タイの要求,カンボディアの要求,両方を満足させることが出来る。タイで出来なかった石炭火力がシハヌークビルでは出来るのか,それは条件が全く違う,と言い切って良いだろう。既に必要な開発が終わって更なる環境との調和を目指す段階のタイと,今こそインフラの構築に集中すべき段階のカンボディアとでは,事情が全く違うし,タイで起こった温排水問題も,シハヌークビルでは,現時点では問題にならないだろう。シハヌークビルからバンコク郊外の変電所まで約450km,プノンペンまで約180kmの距離も,今考えられているインドシナ半島送電連携構想から見れば,容易な話である。石炭は勿論輸入に頼るが,港湾インフラの建設が,カンボディアにもたらす便益は相当大きく,IPPがカンボディア政府に貢献するロイヤリティなり固定資産税は,カンボディアにとって莫大で,場合によってはソフトローンによるカンボディア政府の計画への参入の可能性は,ラオスの水力開発と同じく,大いに希望があるのではないか。

それではタイ側はどうか。タイの石炭火力構想は,燃料の多様化を狙ったもので天然ガスに将来のエネルギーを依存することを嫌ったものであろう。ラオスからの水力電気輸入の構想を含めて,他国にあまりに多くの電源を頼ることは,勿論,国としてのエネルギー保安の問題はある。しかし元々燃料の石炭は輸入であるから,石炭を輸入する代わりに電気を直接輸入してもよいし,このIPPにタイ資本が大きく参入することによって,セキュリティを確保する手段もあるであろう。いずれにしても,広域送電連携構想に見られるように,タイのこれ以上の発展は,自国内のみの電源開発は不可能な情勢である。

私として,英文による2,3枚のペーパーと地域の地図上のプレゼンが頂きたい,その中には,最大どの程度の規模まで可能か,港湾インフラはどの程度の規模になるか,輸入する石炭は何を考えその燃料特性はどうか,環境上考えなければならない要素は何か,概略の財務分析はどうなるか,などが包含されていることが望ましい。東京電力,中部電力,関西電力,ジェーパワーは,既にタイの石炭問題で,このあたりの情報は十分にあると思うので,よろしくお願いしたい。

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