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ー 2001年12月8日〜10日 雲南省昆明からメコン上流ランサン川に入る ー
昆明より高速経由ランチャン川を南下,大朝山まで
(クリックで少し拡大可能)

プロローグ
メコン委員会から帰任して間もない1993年頃のある日,当時のOECFの課長達がJICA本部に見えて,「中国政府からランチャン川小湾プロジェクトについて円借款を要請してきた,足立専門員も報告書の中でこの計画の重要性を強調しているし,協力の方向で検討したいが,何しろ280mと言う極めて高い特殊なアーチダムで,下流国との問題もあるので,円借款の前にJICAで開発調査を入れることを検討していただけないか」との申し出があって,私はその重要な役回りがJICAに回ってきそうなことに,興奮していた。私に言わせれば,小湾計画こそが,メコン河開発の鍵を握ることになり,メコン河の水資源開発に係わる場合に,この計画を自分たちの手で直接検討することなしには,その全貌を理解することは困難,との立場であった。それは,この小湾貯水池だけが,下流の渇水量を倍増(ラオスのビエンチャン地点で毎秒700トンを1500トンに増量可能)出来るもので,他にはメコン河流域内でこの代わりをする地点はない,それと同時に,約15万平方kmの流砂を殆ど留めてしまって,下流に問題を起こす可能性がある,からである。
この話を受けたJICA及び開発調査担当の外務省と通産省が動いた。外務省は,メコン河の開発にとって,上流の中国のランチャン川開発計画が,インドシナの外交上極めて微妙な問題を包含していることには,既にカンボディアの再加盟問題で揺れるメコン委員会の実情を見てきているだけに,極めて敏感であった。円借款への要請は正式外交文書でなされていたので,外務省は大使館を通じて,JICAが開発調査に協力するとの点について,下流関係国の了解を得られたし,との照会を行った。これに対しては,結局ナシのつぶてとなり,中国側からは,今に至っても返答はない。
その後,何度か中国の電力セクターと接触する機会があり,非公式に先方の意向を打診してみたが,この段階での下流国との協議,と言う問題には,中国側は積極的でなく,最近に至っては,円借款は期待出来ず中国独自の資金で開発を行う,との決定の元,着々と準備が進んでいるようである。ある食事の席上では,「小湾は中国領内にあり,中国政府が開発するつもりならいつでも出来る」と強硬論を吐く人がいると,横でこれを制して,「中国は国際河川であることを十分承知している,開発に当たっては,下流国と相談するのは当然ですよ」となだめる人がいる。中国政府内あるいは雲南省当局の中でどのような議論が行われているか,これらの言動から推し量ることが出来る。最近の雲南省との接触の結果では,「汎メコン圏構想の中での閣僚会議でも,ランチャン川の開発計画については十分に説明してあり,下流国の協議は進んでいる,あるいは了解されているものと考えている」との発言もある。
いずれにしても,小湾計画は,メコン流域に住んでその資源の開発から恩恵を受ける人々にとっては,実に貴重なプロジェクトであり,下流国政府もおそらく反対の立場をとることはないのであろう。マイナス面を言う人もあるが,マイナス面よりもプラスの面が多く,中国が開発することの決定をしている時点では,その開発方法や完成後の運用について,大いに議論を戦わせる場が欲しいものである。私自身は,1993年の時点からその開発を強く主張し,出来るならば日本政府の何らかの介在が重要,との意見を述べてきたが,今にいたって,このランチャン川に足を踏み入れる機会がなかった。
昆明より祥雲インターまで
2001年12月7日,朝北京をでて空路昆明に到着,花の万博を経た昆明の変貌に驚く。
写真101 12月7日夕方4時,陸橋から見た昆明の大通り,左はホテル昆明飯店
翌12月8日,昆明設計院の李鳴さんに,12時間かかるぞ,と脅かされて,昆明のホテルを8時15分出発,
写真102 2時間経った10時頃,西の大里へ向かう高速(ここは途切れている)
写真103 10時55分,高速を一路西へ,南華まで4kmの標識,大里まではまだ140km
写真104 11時07分(約3時間経過),沙橋のインターを通過
写真105 11時38分,大里に向かい走る,まもなくドライブインが見えて来る
写真106 11時51分,立派な昼食にありつける,中部電力のサムライ達
写真107 地図,この指さした地点が昼食のレストラン,大里は目の前
写真108 12時49分,祥雲のインターチェンジで高速に分かれ,南下する
結局,昆明のホテルを出てから昼食を含めて4時間半で高速を降りる。昆明から一路西の大里を目指してきたわけであるが,殆どは標高2000mを越す山岳地帯で,大部分がベトナムに流れ込む紅川の上流となる。これから入るランチャン川を含めて,この海抜2000m付近から,一挙にインドシナやミャンマーを目指して,1500mから2000m,多くの有名な川が流れ下るのである。昆明から送った市街の写真をベトナムで見たJICAの要田専門員は,「このハノイの上流に,こんなに栄えた大都市があるのか!」と驚いてメールを返してきた。
祥雲からランチャン川流域まで
さて,12時49分に昆明・大里間の高速を祥雲インターで降り,いよいよこれより南を目指して下って行く。おそらく最後の市街となるであろう南潤の町を通過する。
写真109 午後2時31分,南潤の町をすぎて峠よりその町並みを見下ろす,紅川の最上流だ
写真110 午後3時14分,南潤から約1時間,途中の町で,賑やかな市に出会う
写真111 午後4時7分,蛾蛾たる山並み,最後の峠超え,厳しい山岳道路が続く
写真112 その眼下にには,段々畑に囲まれた平和な農家の一群が見える
写真114 午後4時14分,山岳道路の一角で一休み,桜が中腹で満開である
ここで昆明を出てから8時間,案内の李鳴さんは,「全行程は12時間だ!」と言っていたが,どうせ脅かしだろう,と皆一行は考えていた。もうすぐランチャン川にはいるはずだから,後せいぜい1,2時間ぐらいで,と考えたいたのである。ここで李鳴さんが「後4時間!」と叫んだときは,「マタマタ」と皆で冷やかしていた。ここからの難行苦行を今考えると,これはまさしくそう簡単には行けない貴重な旅だったのである。結局我々は,最後までランチャン川のなんたるかを知らなかったことになる。
写真115 午後4時53分,遂にランチャン川本流を眼にして,上流に漫湾ダムを見る
写真116 午後5時1分,漫湾鎮の本流を横切る橋を下流から,この上流がダム
ここで私も気がついたが,ランチャン川というのは,そう簡単に人を寄せ付けるような穏やかな川ではない,その急流のに沿って道路があるなど考えられないことで,なぜ漫湾が最初に着工されたのか,やっと今ここに達して分かったような次第で,全く情けない。唯一,本流に国道が接しているのが漫湾鎮であったのである。だからこのすぐ下流に目的の大朝山ダムがある,と考えたのが大きな間違いで,これから大きく本流右岸を迂回して,更に2時間後に,暗やみに包まれた大朝山プロジェクトの合宿所に到着したのである。李鳴さんの言うとおり,まさに11時間の全行程であった。
大朝山プロジェクト
写真117 翌12月9日朝8時半,宿舎から大朝山プロジェクト村を眺める,ゲストハウスは工事中
以下,海電調へ提出した報告書の抜粋(大朝山について)
写真118 廊下に展示してあった説明図より,ダム付近の平面図
写真119 館内展示の模型,ダム貯水池内より下流を眺めた模型
「調査団は,12月9日,朝8時半より先方の概略説明,続いて現場視察(ダム及び地下発電所),午後より2時間ほど,当方の質疑応答を含めて討議が行われた。2日後に,政府等の高官を迎えての運転開始式典等行事が行われるところ,多忙の中を世話を願ったわけで,対応は,このプロジェクトの設計施工管理を担当している北京設計院のデン氏が対応してくれた。公式の運転開始前とあって,準備中の資料等は提供されないと言う,厳しい状態であったが,デン氏は,海電調のセミナーを通じて日本の技術を高く評価している,との発言もあって,彼としては出来る範囲内で最大の協力をしてくれたものである。
大朝山プロジェクトは,プレFSが1987年開始,続いてFSが1990年開始,これに続いて1993年に本工事の入札が行われ着工したもので,今回の第1号機運転開始まで,約7年が経過している。ランサン川中流部,万湾より下流約84kmの地点に,高さ115mのRCC型コンクリートダムを建設し,9.4億トンの池容量で,ダム直下右岸に地下発電所を設けて,6機合計135万KWを発電する,放水路は約900m下流まで延長して,本流下流に放流している。地下発電所と約60m離れたところに主変圧器室を地下に設けている。ダムは,中央部に5門のテンターゲートを設け,更に中間部に3門のゲート,下部に排砂門を設けている。上部のテンターゲートはまだ据え付けられておらず,坊主堰堤のまま,その水位(満水位より約14m低い)で第1号機の運転に踏み切ったようである。この貯水池周辺には完全水没の84人を含め約6000人が住んでいたようであるが,農地が水没するために,基本的に全員移住の方針ながら,うち2000人が既存の住所から動きたがらず,4000人が近傍の地域に移住したようだ。年間発生電力量は54億KWh,総工事費は74億元,コントラクターやマニファクチャラーはいずれも国内企業である。
このプロジェクトの特徴として,ダムのRCCの設計について相当の工夫がなされているようで,セメント量は僅か単位67Kg,これに対して大里火力のフライアッシュの他,近傍の製鉄工場の鉱滓や特殊の添加剤が使われたようで,この内容については,既に成都で過去に開催された国際セミナーで報告済みとしている。基礎処理は,最大深さ45mのカーテングラウト,9mのコンソリデーションを実施したとされている。ゲートの構造やサイズは相当大規模で,クレストゲートの高さは14mに達している。これらの放流実験は,北京に於けるモデル実験で確認が行われたようで,流水を意識的に収束させて減殺するなど,特徴のある工夫が見られる。
地下発電所関係は,堅硬な玄武岩の中で,NATM方式とも喚ぶべき吹きつけ工法で統一しており,空洞の幅も比較的小さく(26m),天井クレーンのガーターの支持をアンカーボルトで留めるなど,経済性を重視して,最大の努力が行われている印象である。」
写真120 ダム左岸の展望台より見たダムの頂部,中央のゲートはまだ据え付けていない
写真121 ダム頂部,左岸より右岸を望む,まだレールの据え付けなど大忙しの工事中
写真122 ダム左岸上部よりRCC施工部分の下流部斜面を見下ろす,階段状の施工
写真123 ダム底部排砂ゲートより放流中,出口に特別な形状を持たせている
写真124 ダム頂部より主洪水吐ゲート部を覗く,水流が互いに交差するよう設計されている
写真125 ダム下流面,放流中,次の乾期に主ゲートを据え付けることとなる
写真126 地下発電所,幅が僅かに26m,NATM方式で,クレーン基礎はアンカーで
以下は,海電調に報告した,大朝山を見ての私の感想である。
「大朝山プロジェクトでの特徴的なことは,初めての中国国産の民間開発であり,世銀や円借款が入っていないことによって,中国がのびのびと自分たちの創意工夫の中で,経済的な発電所の建設に取り組んでいることだ。それが故に,中国人の技術に関する考え方が純粋に表現されているということができる。RCCダムの考え方がその一つ。単位セメント量を僅かに67KGと言う貧配合とし,残りの成分を昆明で得られる製鉄の鉱滓や大里火力発電所のフライアッシュを利用して,所定の強度を得ている。これほど自由な設計は,世界銀行などの公的金融の元では,一朝一夕には実現しなかったであろう。おそらく,その地域で得られる材料を使う,と言う精神は,他の地域でのRCCダムにも,個別に検討されるのだろう。地下発電所の掘削ズリを骨材に使う,環境面での配慮もさることながら,採算を考えた場合,工程上の問題が出てきて,外国資金を使った場合には議論百出だろう。これを日本のダム技術者が出ていって,日本のRCDはこうだ,と言ってみても,互いの理解の溝は全然埋まらない。われわれの役目は,日本の技術の移転という視点の他に,この相互理解が重要である。今回のテーマーであったダムの堆砂問題についても,両者の自然特性の違い,と言う点で更に理解を深める必要があるであろう。」
以下の写真数枚は,夕方散歩に出て,段々畑で家族総出で苗代の準備をする人々,日本の懐かしい情景と重なる。
写真127 夕日に影を打つ段々畑の畝,立ちこめる野焼きの煙,対岸の険しい山
写真128 一つ一つの段々畑の田圃,それぞれの区画に牛を入れてから人が入る
写真129 振り向きもせず,一心に鍬をふるう女性,土塊を細かくしている
写真130 作業を終わって憩う家族,子供もその輪の中に入っての一家団欒
帰路,大朝山より南潤まで(ランチャン川流域寸描)
昆明まで11時間かかることが認識できたので,12月10日,やや早めの朝7時半に大朝山の宿舎を出発,霧に包まれて殆ど最初は写真の撮影が不可能,
写真131 午前8時2分,やっと朝日がさしはじめる,背中にかごを背負うおばさん
この山の段切りは,どうも段々畑とは違う,テレビで見たことがあるが,植林をするために人海戦術で山の段切りを行ったのではないか,それも文化大革命の時で,殆どの段切り部分では植林がうまくいっているとは思えない。
写真132 朝8時15分,村落を通過,道に不似合いなトレーラーと居並ぶ中学生
写真133 朝8時20分,村を通過したところでランチャン川の支流,砂礫の堆砂
写真134 朝9時07分,漫湾鎮に近くなり本流に右岸から流れ込む支流で霧に包まれる
写真135 朝9時33分,支流に沿って北上する,これがメコンの源流だ,と言いたい
大朝山を出てから2時間,再び,漫湾鎮に接近,ここは唯一ランチャン本流をまたぐ橋があり,印象的な地点である。
写真136 朝9時40分,漫湾鎮の近くの村で,朝早い市が立ち,人が集まっている
写真137 朝9時59分,これがランチャン川本流,下流を望む,右が漫湾鎮の町並み
写真138 朝10時6分,漫湾の手前,雲南省漫湾鎮の立派な標識
写真139 朝10時10分,再び漫湾のダムを見ながら,いよいよランチャンに別れを告げる
これより,ランチャン本流に別れを告げて,山岳道路にかかる,
写真140 朝10時15分,山にさしかかると同時に,再び濃い霧に覆われる
写真141 朝10時41分,険しい山岳道路,これで標高を上げて,紅川流域へ
写真142 朝11時13分,紅川流域に入っても依然険しい山越えが続く
写真143 朝11時24分,緑豊かな雲南の山々,あくまで高く段々畑が続く
写真144 朝11時26分,これが典型的な雲南の段々畑,という感じ
写真145 朝11時27分,緑の段々畑の中,一条の谷川の流れ,源流
写真146 朝11時32分,断層のような深い谷にも怖じず,耕し続ける
写真147 朝11時34分,雲南の典型的な農家,屋根の形が反っている
出発から5時間かかって,やっと紅川最上流の都市南潤に達する。ここにはこぎれいなホテルと思しき建物もあり,ここで食事をする。もし,再び大朝山などへたびする人がいれば,大里かこの南潤に一泊するのも,一つの方法かもしれない。
写真148 朝11時51分,南潤手前の町,市が立っている
写真149 午後0時23分,南潤到着,広い交差点
写真150 午後0時25分,南潤の商店街,この通りが賑やかであった
エンディング
今回の旅で,今後の中国についていろいろと思いを巡らした。もし日本のODAに係わっている人たち中で,まだ中国への援助を日本が続けているという意識を持った人がいれば,それは少し古いのではないか,と言い返したくなる。ODAと言っても,その対象国によって全く意味が違っているとの感覚が必要だろう。中国へのODA予算は,日本人が今後中国とどのように付き合って行くかを学ぶための日本人の授業料のようなものだ。あれほど日本の公的資金を必要とした中国の電力開発も,もう円借款は殆どその開発に大きな影響を与えない,それは三峡であり,大朝山であり,小湾であり,世界の金融の中で発展を続ける中国にとっては,どこからでも調達できる金額である。日本としては,このODAをどのように日本人が中国とのつきあいの中で活かして行くか,発想の転換が求められる時代である。
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