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ー 日刊アジアのエネルギー最前線 2008年11月23日分 ー ベトナムの開発に何か変化が ー

2008年11月23日分 ーベトナムの開発に何か変化が ー

私の郷里は兵庫県の但馬だが,郷里の近くの豊岡市が,数年前に大洪水の被害を受け,全市が水没するという悲惨な災害を味わった。国道を走っていた自動車が水没して逃げられなかった話もあった。良くあの辺りを車で走る機会があるが,まさに70年以上の私の見聞の中でも,豊岡市が水没した,なんて言う話は聞いたことがなかったので驚いた。

学校の友人で,かって建設省の要職にあった友人と話をする機会があり,「豊岡市を水没させるなんてとんでもない,一体円山川の治水をどう考えていたのか」,とやや詰問気味に聞いたことがある。彼は,うーんと唸りながら,実は円山川には,ダムサイトの適当な地形がなかったんだよ,と言っていた。確かに,生野峠から発する円山川,我々はあそこに小さい奥多々良木ダムを造ったが,治水ダムはどこか,と聞かれれば唸らざるを得ない。その様な場所はない。

今,琵琶湖の大戸川ダムで大いに議論が沸き上がっている。計画上の実情は私も分からないが,もし円山川に治水ダムを造ると言えば,多くの人が反対するだろう。豊岡市の水没などというのは,まさに100年か200年に一度,あるかないかの確率だから,誰も深刻には考えないし,ダムには反対する人が多数と考えられる。国土交通省が,本当に洪水への対策として考えているならば,3人の知事にも分かるように,身を犠牲にしても,大阪を救うために,説得する義務があろう。多数決の問題ではない。

メコン河には,知事がいない。まさに近畿の3県の知事に当たるのは,ラオス,タイ,ベトナム,カンボジアの首脳達だろう。全く近畿でないところ,福井県当たりにダムを造って,下流を心配させているのは,中国である。タイもラオスもカンボジアも,中国にはお世話になっているから,上流の中国のダムに正面切って,議論を持ちかける首脳はいない。ところが,ベトナムは別である。

今日の記事は,先日の2008年9月5日付本欄(注1)に,第13回メコン河委員会総会で,メコン河委員会ベトナム国内委員会次長ダオチョントウ氏(注3)が,メコン上流でのダム開発が,下流ベトナムの漁業や農業に,マイナスの影響をもたらしている,と発言したのである。ベトナムと言えばダムが好きで,水力発電所を造りすぎて渇水に見舞われるなど,ダムがとても好きな国であり,今や発展途上で,日本がダムを必要としていた昭和40年代に似ている。

そのベトナムが,中国がオブザーバーとして出席しているメコン総会で,明確に上流ダムへの懸念を示したのである。私も,前に見たときに,あれっという思いに駆られたが,その後,ベトナムの姿勢を窺っていると,何か変化が起こっている,という感じがしてきている。前に副首相が,電力公社などに,余り外国に出て関係ない仕事をするな,と警告したし,先日の記事で,良く読んでいないが,もうベトナムの水力開発は終わりに近づいた,と言う表題があった。今回の発言も,トップの了解なしには出来ないだろう。

中国が,ラオス,ミャンマーまでの進出は良いとしても,昨今のニュースのように,ベトナムの庭先であるカンボジアまでダム開発に出てきてしまうと,カンボジアのポルポトを,世界的な制裁を受けながら大きな犠牲を払って政権を倒したベトナムとしては,黙ってみておれないのではないか。しかも,もし中国がカンボジアの天然ガスを持って帰る,なんて言う事態になると,地域のエネルギーバランスが壊れてしまいかねない。今しばらく,ベトナムの動きを注視したい。

国際河川の水争いは,もっと深刻なのがインダス川である。今日のパキスタン側の主張を読むと,国内唯一の水源が,インドに握られている,と言う実態に,どうしようもない地理的なパキスタンの立場を思ってしまう。パキスタンは,基本的にインダス水条約の改訂を考えているのだが,一旦手にしたインド有利の水の権利は,容易には解決しないだろう。インドだって,ブラマプトラ川,ひいてはガンジス川の水を中国に握られていて,時々このHPにも,将来の水争いの気配を感じているこのごろだから。

(注) (1) http://my.reset.jp/~adachihayao/index3news0809.htm,080905A,(2) ‘Thanh Nien’ newspaper,(3) deputy secretary general of the Vietnam National Mekong Committee (VNMC), Dao Trong Tu,(4) Nguyen Van Trong, deputy director of the state-run Research Institute for Agriculture,(5) Mekong Delta,(6) Can Tho,(7) Nguyen Tu Be,(8) Hau River,(9) Shutchi and pagasius catfish,(10) Tonle Sap,(11) Nguyen Tan, an agriculture expert at Can Tho’s Department of Agriculture and Rural Development.,(12) Mekong River, (13) Tibet,(14) South China Sea,(15) Lancang river, (16) "environmentally sustainable development",(17) Mekong River Commission,(18) Don Sahong dam,(19) Phnom Penh,(20) Kratie province,(21) Xekamen River,(22) Xekamen 1 dam, (23) Xekamen 3 dam,(24) Luang Prabang,(25) A memorandum of understanding,(26) PetroVietnam Power Co,(27) Vietnam National Mekong Committee,(28) Pham Khoi Nguyen, Minister of Natural Resources and Environment,(29)

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本文

●最近のベトナムのダム批判は,どうしたことか

2008年9月5日付本欄(注1)に,第13回メコン河委員会総会の状況を報告しているが,その時私も,ハッとしてベトナム代表の発言に目が停まっていた。ベトナム代表は,メコン上流でのダム開発が,下流ベトナムの漁業や農業に,マイナスの影響をもたらしている,と発言したのである。ベトナムもメコン河のダム開発の重要な一員ではないか,それもNGOならともかく,政府代表の発言だから,私の記事を読む眼が一瞬そこで揺らいだのである。そのままにしていたけれども,今日の記事で,再び思い出すことになった。

メコン河の本流支流でのダム開発に伴う議論が続く中,最近時々,ベトナムの政府系のメディアもこの議論に出てき来ている。ベトナム政府官僚そのものがこの数ヶ月,非常に開放的な発言を繰り返している。2008年9月末,タンニエン紙(注2)は,メコン河委員会ベトナム国内委員会次長ダオチョントウ氏(注3)の談話を載せている。「メコン河及びその支流での水力発電用のダム開発が,例えばベトナムのような国に,予測できないマイナスの結果をもたらす可能性がある。」。

また,第13回メコン河委員会総会(注1)の席上で,ベトナム政府の農業研究所グエンバンチョン次長(注4)は,「ダム建設によって,メコンデルタ(注5)の2,000万人の,漁業と灌漑に依存しているベトナム人が,マイナスの影響を受けている。」,と発言している。このような言葉が,メコン河とその支流でダム建設に重要な役割を持っているベトナムから出てきている。事実ベトナム企業は,多くのダム建設や計画に参画している。

ベトナム南部のカントー(注6)の45歳の漁業に従事するグエントウベさん(注7)は,「ベトナムのお役人が,水力ダムが漁業を駄目にしている,と言うことを声高に発言するのは初めてで,それを聞いて私は大変嬉しい。」,と語っている。グエントウベさん(注7)は若いときからメコン河支流のハウ川(注8)で漁業に従事しているが,この2,3年,目立って漁獲高が減少しているとして,「人々は,上流のダムが,魚たちのベトナムへの旅を阻害しているのだ,と言っている。」,と。

数年前までは,容易に数トンのナマズ類(注9)を捕獲できたが,それは乾期にベトナムの支流に逃げ込んできていたからだ。かって漁業者は,籠の中でナマズを産卵させ育てて輸出する養殖業者に,最良の母親ナマズを売って生活してきた。このような健康な母親ナマズは,今ではベトナム領内の川では捕獲困難で,カンボジアのトンレサップ(注10)まで追いやられたナマズを追っかけている。しかし,トンレサップ(注10)も最近は状況が良くない。カンボジアについては,単に漁獲高が減っている,と言うだけではなくて,漁業の方法そのものにまで変化が起きてきて,網でとるので魚は小さく高値の魚はなくなった。

カントー(注6)市当局農業部門専門家のグエンタン氏(注11)は,「多くの人が,この2,3年,カンボジア,ラオス,ベトナムで洪水期に多くの土地が浸水したのは,メコン川上流の中国のダムの影響だ,と信じている。」,と前提して,「私の関心は,メコンの流砂だ。」,と言っている。「本来は肥沃な土壌を伴って洪水時に下流に栄養を供給していたが,それが今はダムにため込まれている。その結果,農民は汚染の可能性のある化学肥料を使わなければならなくなる。」,と懸念している。

沿岸におよそ6,000万人が生活する4,800km長さのメコン河(注12)は,チベット(注13)に水源を発して,ミャンマー,タイ,カンボジア,ベトナムを経て,南シナ海(注14)に注ぐが,その間,人々は,舟運,食糧,穀物への水,などの恩恵に依存してきた。特に大きな論争は本流沿いのダム開発で,中国のランサン川(注15)を初め,ラオス,カンボジア,タイでの本流ダム計画が,その論争の対象である。

1955年に下流4カ国,カンボジア,ラオス,タイ,ベトナムで,「環境的に持続的な開発(注16)」を目指して,メコン委員会MRC(注17)を発足させ,本流上のダム開発計画は周辺国への通知が必要,との合意書を交わしている。特にメコン流域外への乾期の分流は,全メンバーの同意を必要としている。中国とミャンマーは,メコン委員会MRC(注17)はオブザーバーとして参加しているが,中国は上流ダムはメコンデルタ(注5)の雨期の洪水を軽減して下流に貢献している,と主張している。

最近のエネルギー高騰で,各国はメコン流域内の水力開発に努力している。いろいろな調査があるが,80のプロジェクトが下流域内で動いている,と言われている。そのうち8地点は,本流上の計画で,ラオス内5地点,タイが2地点,カンボジアが1地点である。もっとも論争が激しいのは,コーンの滝(注18)のドンサホンダム(注18)である。このコーンの滝(注18)は,狭い流路の複合体をなして,そのまま国境を越えてカンボジアに流れ込む。ドンサホンダム(注18)はもっとも深い流路を塞ぐが,乾期の4月から5月には,一種類の魚類だけが,この滝を通過する。このため,ドンサホンダム(注18)は,繁殖区域であるトンレサップ(注10)と上流のラオスやタイ領域を,完全に遮断してしまう。

プノンペン(注19)政府も,本流にダム計画を進めようとしている。カンボジア中央のクラティエ(注20)地点で,中国企業が調査を行っている。環境グループは,メコン委員会MRC(注17)自体が,水力開発推進派で占められている,と非難してきた。2007年,175の環境及び市民運動グループが共同で,メコン委員会MRC(注17)に手紙を書き,「メコン下流域でのダム開発が深刻な環境及び経済的な影響を与えているのに,メコン委員会MRC(注17)は沈黙しているだけだ。」,と攻撃している。3月には,事務局に押しかけている。

ベトナムであるが,確実な経済成長で電力需要が増大している。中国とラオスから電力を輸入しているが,国内でも多くの水力を開発しており,ラオスやカンボジアのプロジェクトにも参入している。メコン支流のセカマン川(注21)でセカマン第1ダム(注22),セカマン第3ダム(注23)を建設中である。また,2007年10月中に覚書(注25)が交わされたルワンプラバン(注24)近傍の1410MW規模の発電ダムには,ペトロベトナム(注26)が参加している。

メコン河委員会ベトナム国内委員会次長ダオチョントウ氏(注3)は,「中国がメコン委員会MRC(注17)に加盟していないので,今のところ我々は,中国の発電ダムとの戦いには成功していない。しかし,メコン川本流で多くのダム計画が動いているが,VNMC(注27)は大規模ダムのもたらす悪影響に警報を鳴らす権利を確保している。上下流の大規模ダムが多すぎると,ベトナムの漁業や農業が打撃を受けることは明白である。」,と明確に述べている。

2008年9月のVNMC(注27)創立30周年式典で,ファムコイグエン水資源環境大臣(注28)は,次のように演説している。「VNMC(注27)の役割とは,ベトナムの権利と受けるべき便益を確保し,メコン上流で実施さっる開発事業のマイナス影響を減ずる努力にある。」。

誠に複雑極まるベトナムの立場であるが,私は最近,ベトナムに何か変化が起こっているという予感はある。副首相が,余り外国の関係のないダムプロジェクトに手を出すな,とはやるEVNなどにブレーキをかけているし,つい先日は,ベトナムのダム開発は殆ど終わった,と宣言しているし,また今日の記事にもあるとおり,はっきりとメコン下流国の立場から,上流のダム開発に警告を鳴らしている。私は中国が,前後の見境なく,ミャンマー,ラオス,更にはカンボジアまでダム造りに出かけてくることに,反発をするための下準備ではないか,と感じている。

(注) (1) http://my.reset.jp/~adachihayao/index3news0809.htm,080905A,(2) ‘Thanh Nien’ newspaper,(3) deputy secretary general of the Vietnam National Mekong Committee (VNMC), Dao Trong Tu,(4) Nguyen Van Trong, deputy director of the state-run Research Institute for Agriculture,(5) Mekong Delta,(6) Can Tho,(7) Nguyen Tu Be,(8) Hau River,(9) Shutchi and pagasius catfish,(10) Tonle Sap,(11) Nguyen Tan, an agriculture expert at Can Tho’s Department of Agriculture and Rural Development.,(12) Mekong River, (13) Tibet,(14) South China Sea,(15) Lancang river, (16) "environmentally sustainable development",(17) Mekong River Commission,(18) Don Sahong dam,(19) Phnom Penh,(20) Kratie province,(21) Xekamen River,(22) Xekamen 1 dam, (23) Xekamen 3 dam,(24) Luang Prabang,(25) A memorandum of understanding,(26) PetroVietnam Power Co,(27) Vietnam National Mekong Committee,(28) Pham Khoi Nguyen, Minister of Natural Resources and Environment,(29)

●インドの2012年までの電源開発目標は,92,000MW

インドの第11次五カ年計画(注29)の中の新規電源開発量が変更されている,と言う情報があったが,これが報道としては正式なものだ。従来の,新規電源,78,577MWも,まさしく絵に描いた餅,と言われ,電力大臣が何度も国会に呼び出されて,出来るわけがない,と追求されているのに,これを増やして,92,000MWにすると言う。言い分を聞いてみよう。

インド政府は,2007〜2012年の第11次五カ年計画(注29)で,国全体の需要の伸びに併せて,78,530MWの新規電源を開発する,として,途中でこれを,78,577MWに変更している。今回,再度これを修正し,92,000MWとすると発表した。この内訳は,水力が,16,553MW,火力が,58,644MW,原子力が,3,380MWである。電力セクターを調整するCEA(注30)によると,第11次五カ年計画(注29)分として,2009年8月までに,11,404MWが運転開始するという。その内訳は,火力,8472MW,水力,2,712MW,原子力,220MWである。

現時点に於ける全国の発電設備は,145,554MWで,92,892MWが火力,36,347MWが水力,4,120MWが原子力,11,194MWが再生可能エネルギーである。最初の五カ年計画の78,557MWのうち,10,760MWが民間資本,27,952MWが州政府,39865MWがCEA(注30),即ち中央機関,という計画であった。2008〜2009年の新規電源は,7,530MWと推定されていた。このうち,2,141MWは既に完成しており,残りの5,389MWは,2009年3月までに完成する。

現在工事中でこの財政年度末(2009年3月か)までに完成するプロジェクトは次の通り。NTPC(注31)のカハルガオン(注32)の500MW火力,トレント(注32)のグジャラート州(注33),スゲン(注34)の752MW火力,オークウエル(注35)によるアンデラプラデッシュ州(注36),コナシーマ(注37)の445MW火力,ガウタミ(注38)によるアンデラプラデッシュ州(注36)の464MW火力,原子力公団(注39)によるラジャスタン州(注41)の第5,6号機とカルナタカ州(注40)のカイガ(注42)の第4号機,各原子力である。

現在の世界金融危機も,プロジェクトの資金調達に影響を与えているが,インド政府は,資金調達を終えたものについては,政府保証を与える方向で検討しているが,上に示したプロジェクトは順調に進んでいる。常設連携委員会(注43)は,2012年までに完成する予定の35,000MWについて,最近,石炭供給連携を承認した。計画中の全部が完成した暁には,2012年に於ける全国設備は,237,554MWに達するはずである。

この92,000MW新規開発案は,意欲的なもので,2002〜2007年の第10次五カ年計画(注44)での実績の4倍で,この第10次五カ年計画(注44)で達成されなかった分は,2007〜2012年の第11次五カ年計画(注29)に引き継がれている。政府の,電力需給を満たす構想は,まさにインドの成長の重要な媒体となるだろう。この記事は,IIR(注44)によって書かれたものである。

随分国会で電力大臣が追及されていたが,国会も最近は,見守るしかない,ということなのか,静かである。実際,過去の実績の4倍の速度で電源を開発して行くことは,非常に難しい目標であることは,全人が分かっているはずだ。まだ,石炭火力の大気汚染も余り問題になっていないし,ダムの環境問題も,全体的には静かである。でもこの5年間のインド国民の意識は,ドラスティックに変わる可能性があるし,ADBが指摘しているように資金調達の問題があるし,それと機器製造能力の問題もある。また,米印原子力協定の結果は反映されていないだろう。

(注) (29) Eleventh Five-Year Plan (2007-12),(30) Central Electricity Authority,(31) NTPC, (32) Kahalgaon,(32) Torrent Power Limited,(33) Gujarat,(34) Sugen,(35) Oakwell Power Limited,(36) Andhra Pradesh,(37) Konaseema,(38) Gautami Power Private Limited,(39) Nuclear Power Corporation of India Limited,(40) Karnataka,(41) Rajasthan,(42) Kaiga,(43) Standing Linkage Committee of the Indian government,(44) Industrial Info Resources,(45)


●パキスタン,インダスの水問題,シェナブ川の実情を反映せよ

インダス川の水争いについては,相当前から関心を持ってきた。1998年ぐらいに書いた私のメモも本HPに残っている(注46)。実際に,機会があって,パキスタンのインダス川の畔にも立って見たし,パキスタン側の重要な構造物であるタルベラダムも訪ねる機会があった。また,ペシャワールから北に入り込んで,英国植民地時代の実に立派な灌漑システムを見てきた。今日は,パキスタンが,インダスの水に関して,思いの丈を記事ぶっつけている。特に,ザルダニ大統領になってから,パキスタンの姿勢が強硬になってきた。

1947年に,インドとパキスタンの分割が行われた直後,水問題に関してインドとパキスタンは厳しい緊張状態に入った。インドは,パキスタンの主要な農地の広がるパンジャブ(注47)平野に対して,東の三つの支流,ラビ川(注48),ビース川(注49),ステルジュ川(注50)の水を止めると脅かした。この脅迫は,農業経済に依存するパキスタンを窒息させることを意味した。インドは事実それを実効することが可能であった。何となれば,インダス源流の五つの川,ジェルム川(注51),シェナブ川(注52),ラビ川(注48),ビース川(注49),ステルジュ川(注50)が,すべてインド占領カシミールIOK(注53)に入っていたからである。

数十年の論争の後,世界銀行が中に入って,チームを組み,インドとパキスタン両国に納得できる解決方法を探った。非常に困難な仕事であったが,その後,紛争の度に持ち出される有名なインダス水条約(注54)が,1960年に成立した。合意の基礎は,インドはラビ川(注48),ビース川(注49),ステルジュ川(注50)を自由にコントロールし,パキスタンは,インダス本流とジェルム川(注51),シェナブ川(注52)の権利を持つ,というものであった。

ところが,これにパキスタン側で火がついた。それは,パキスタン側に属する水は75%を占めるが,灌漑面積はパキスタン側が90%だと言うことだ。これが現在も尾を引いていて,バギリハールダム(注55),サラールダム(注56),ニールム-ジェルム水力(注57)の紛争の種となっているのである。もっとも深刻なのは,シェナブ川(注52)のバギリハールダム(注55)である。最初は,バギリハールダム(注55)は流れ込み式(注57)とインド側は言って,2008年10月10日に,インド占領カシミールIOK(注53)のジャム(注59)から150kmのシェナブ川(注52)に,バギリハール水力発電所(注60)が完成した。

バギリハール水力発電所(注60)は,設備出力900MW,工事費10億ドルであるが,パキスタン側の拒否の理由は,シェナブ川(注52)がパキスタンの権利であるにもかかわらず,インドが流れ込み式と称して,インダス水条約(注54)を無視したこと,設計がインドが水を自由に出来るようになって約束に手ぬるいこと,パキスタンとの間でことあるときはインドが自由に裁量できること,地滑りの頻発でダムが不安定なこと,ちっきが地震地帯であること,560万エーカーの水を取り上げたこと,の6点である。

今回の事態は,1960年以前にパキスタンが苦境に陥った時を思い出させる。インドはインダス水条約(注54)に違反して,シェナブ川(注52)の水をバギリハールダム(注55)によって自由にし,パキスタンを食糧不足に陥らせる可能性を秘めている。パキスタンの立場は,ピーク時に,シアルコット(注61)付近のマララ堰(注62)において,毎秒55,000トンの水を確保することだが,今年,2008年は,毎秒22,000トンしかなく,収穫に影響を与えた。

パキスタンのインダス委員会首席アリシャー氏(注62)の要求は簡単で,不足分の被害を補償してくれというものだが,インドのインダス委員会首席アランナタン氏(注63)は,このバギリハールダム(注55)湛水中の不足に対しての補償要求を拒否している。パキスタンは,収支を図るため海外資金を76億ドル借り入れする状況で,農民は水不足で困窮している。もうこれ以上,パキスタンは水で我慢は出来ない。2025年までには食糧カットが必要になってきている。パキスタンの水問題は,次の諸点だ。

世界でももっとも水不足が激しく,1960年には一人当たり年間5,650トンあったものが,2006年時点では1,200トンに激減している。パキスタンはインダス以外に水源はない,2100万エーカーが未灌漑である。インダスの水量,土砂,塩害に対して,防御の手がない。インダス水条約(注54)の結果,パキスタンは水インフラに莫大な投資を強いられた。毎年,1,500万トンもの塩が蓄積される。気候変動の影響,氷河融解,モンスーンなど,90%の水が影響を受ける。

多くの科学者が,水問題を示唆している。パキスタンは全力で戦っている。有名な科学者ピアス氏(注64)の,「川が干上がるとき」(注65)は,パキスタンの将来を暗示している。パキスタンは,将来,西の水源に依存する必要があるが,莫大なインフラ投資が必要である。またこのような分流は,パキスタンの文化を破壊することにも繋がる。インドとパキスタンの緊張は,日に日に高まっているが,数年前のCBM(注66)に希望を持っている。パキスタンが受けた被害への補償については,国連などの仲介が必要だろう。

インダス水条約(注54)の見直しに当たっては,条約後に建設されたダムなどの問題,ストレジ渓谷(注67)の洪水の問題,シェナブ川(注52)の渇水問題,インダスデルタ(注68)の渇水による荒廃の問題,などを考慮する必要がある。インドは,広域な環境を考慮して,インダスデルタ(注68)へ水を供給する必要がある。インドとパキスタンは,過去に,シルクリーク問題(注69)で希望を得たように,新しい条約の改定に,共同して前向きに対処できるだろう。

それにしても,激しい記事で,改めてインドとパキスタンの,インダス川の水争いの深刻さを実感する。パキスタンに新しい政権が誕生したことも,一つの緊迫の原因かと思う。インド側は,穏やかにことを運ぼうとしている,これはインドのシン首相の人柄とも思うが,私は,パキスタンの新任,ザルダニ大統領が,インドとの間のある程度の緊張を保持したい,と思っていると思う。それは,今難しい国内を統一して行かなければならないし,また今回は厳しい金融危機の煽りを受けている。

(注) (45) http://my.reset.jp/~adachihayao/power.htm#power06,(47) Punjab,(48) Ravi river,(49) Beas river, (50) Sutlej river, (51) Jhelum river, (52) Chenab river, (53) Indian Occupied Kashmir,(54) Indus Water Treaty-1960 (IWT),(55) Baglihar dam,(56) Salal dam,(57) Neelum-Jhelum Hydropower Project,(58) run-of-the-water,(59) Jammu,(60) Baglihar hydro electric power project,(61) Sialkot,(62) Marala headwork,(62) Pakistan Indus water commissioner Mr Jamaat Ali Shah,(63) Indian water commissioner, Mr. G. Arangnathan,(64) Fred Pearce,(65) “When the Rivers Run Dry: Journeys into the Heart of the World’s Water Crisis”,(66) Confidence Building Measures (CBMs),(67) Sutlej valley,(68) Indus delta,(69) Sir Creek issue,(70)


Reference

Vietnam

●081122A Vietnam, psnews
最近のベトナムのダム批判は,どうしたことか
Rare Criticism of Dams Surface

http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=44797

Pakistan

●081123A Pakistan, pakobserver
インダスの水問題,シェナブ川の実情を反映せよ
Reflecting Chenab water issue

http://pakobserver.net/200811/23/Articles02.asp

India

●081122C India, pump-zone
インドの2012年までの電源開発目標は,92,000MW
India Targeting 92,000-MW Power Addition by 2012

http://www.pump-zone.com/global-news/global-news/india-targeting-92000-mw-power-addition-by-2012.html



過去のニュース

●インドネシアの石炭探査投資を (081122)
●中国雲南省がコルカタへ調査団 (081119)
●パキスタンのダムになお異論 (081118)
●ミャンマーは更にダム開発加速 (081117)
●インド北東地域の送電線計画 (081116)
●メコン洪水で再び中国ダム論争 (081115)
●金融危機とインドの電源開発 (081114)
●カンボジアのNGO天国終焉 (081113)
●インドの電力プール市場 (081111)
●フィリッピンのマイクロ水力 (081109)
●カンボジアの多彩な水力開発 (081108)
●IEAが原油動向で報告書 (081107)
●インドの大規模火力に資金難 (081106)
●中国の石炭に下降傾向 (081105)
●タイ首相ナムグムの水を東北タイへ (081104)
●タイの原子力地点決定は2009年末 (081103)
●イランのパイプラインとインドの優柔不断 (081102)
●ミャンマーでの中国のプレゼンス (081101)
●ベトナム油田へのロシアの参入 (081031)
マニラ配電の先行き見通し (081030)
カンボジアなどへの中国の進出 (081029)
中国の水力開発規模は世界一 (081028
インドネシアの 電気料金上げ (081027)
中国企業がアザドカシミールにダム投資 (081026)
中国広西とベトナムを結ぶ線 (081025)
丸紅のフィリッピンへの取り組み (081024)
インドネシアと中国のLNG契約 (081023)
ラオスの水力で住民補償が再燃 (081022)
世界で50カ国以上が原子力発電を計画 (081021)
世界金融情勢の変化の影響 (081020)
インドとパキスタン対立の悪夢 (081019)
パキスタン大統領の北京挑戦 (081018)
インド北辺水力開発に反旗 (081017)
米国がインドへ原子力通商使節団 (081016)
フィリッピンの天然ガスと電気料金 (081015)
フィリッピンの長期エネルギー計画 (081014)
インドの大規模石炭火力計画 (081013)
ミャンマーの水力への外国投資 (081012)
ダム建設を巡るカシミール問題 (081011)
フィリッピンの国産エネルギーへの拘り (081010)
バングラデシュとミャンマーの関係 (081009)
バングラデシュのエネルギー長期見通し (081008)
中国政府のチベット開発政策 (081007)
●ADBが初めてベトナム水力支援 (081006)
●知的送電線ネットワークの発想へ (081005)

中国とインドのエネルギー問題 (081004)
インドの原子力開発加速へ (081003)
アジア大陸の水源はチベット高原 (081002)
インドの配電組織改革 (081001)
フィリッピンの再生可能エネへの取組 (080930)
インドの地球温暖化との戦い (080929)
サルウイーン河のダム開発 (080927)
メコン流域会議開催と中国 (080926)
インド,25年までに6千万KW水力開発 (080925)

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