また一つ、雫がどこかで落ちた。
その振動は波紋のように広間に広がり、天井の隅にだけ、わずかに残る遠い昔の城の記憶を、一筋の光の中へと放射した。
小さなざわめきとしか聞こえぬそれも、本来一つ一つが意味ある言葉だったが、
今はもう、それを聞き取れる者はなく、訪れることもない。

誰かが策謀を巡らせていたかもしれない。
誰かが無心で何かに取り組んでいたかもしれない。
あるいは神に祈りを捧げていたのかもしれない。
小さな子供が、恋人たちが、家族が、はにかみ、笑いあっていたかもしれない。

けれど、どんなことがあろうと、それは遠い昔の話。
記録にも残っていない、遠い遠い昔の。

またひとつ雫が落ちたとき、ふと私の心も震えたように思えたのは、
変化の激しいこの世界では、ほんの少しの未来でさえ、
私と、私の知っていたものを覚えているものはきっとないことを知ったからかもしれない。