DRM(Digital Radio Mondiale)放送の愉しみ
2015 年12月28日 加筆

 DRM放送とはDigital Radio Mondialeの略。中波や短波にデジタル信号を乗せて、高品質の音声放送を広範囲に届けることができる方式で す。

 私が大学生 の頃、R.Netherlandがパソコ ンのデジタル信号を短波に乗せて実験を行ったことがありました。デジタル信号を短波で送ることができ ると言う事実を、あの時現実のものとして感じました。そのうち放送もデジタル信号化して、それが短波の電波に乗るこ ともあるんだろうか、などと考えたりも しました。

 あれから 20年以上経ったころ、デジタル音声信号を短波 (中波)に乗せて聴くDRMが登場。ガキンチョの頃の想像が現実になりました。
 DRM放送は短波や中波を使っ て行われ、欧州を中心 に少しずつ広がりを見せていました。アジア地域でもDRM放送が比較的安定して受信できました。2008年の北京オリンピックにあわせ て、中国が大々的にDRM放送を開始するという噂が流れました。インドは国内の放送網にDRMを採用することにして おり、実用化に向けた取り組みが続いています。

 
しかし残念 なことに、DRM放送を聴くための受信機 がいまだに普及しておらず、現状では受信機(ラジオ)はもっぱら海外から輸入することになります。価格もそれほど安いわけではなく、中国やインドが安価な DRMラジ オを開発・販売するようになるかどうかが、DRMの普及を占う上で重要なファクターになりそうです。

 世界的に見ると、 BBCやDWが短波国際放送の削減、中止を決めて以降、世界各局のDRM放送の総放送時間が年々減少しており、2009 年ごろには一日およそ800時間だったものが、2013年1月現在1日あたり271時間、2014年10月には1日あた り76時間へと、10分の1以下にまで縮小し てしまっています。技術先行でマーケットがついていかなかったことが最大の問題です。普及のタイミングが完全に失われて しまった感があります。優れた技術なのに大変残念なことです。

 とはいえ、日本でも電波を受信 さえできれ ば、DRM放送を聴くことができます。短波DRM放送なら、伝播状態さえよければ欧州からの電波も受信できます。現 在は、インド、ニュージーランド、ルーマニアといった国々の 放送が受信可能です。

 メリットは、とにかく音質がよ いことです。音楽放送 もFM並みに聴けます。ただ、デメリットは微弱な電波では実用にならないこと。デジタルなのでAll or nothing。さらに、アナログ短波(中波)のように、遠くから飛んでくる微弱な電波を捕まえる醍醐味には欠けま す。そうはいうものの、一度DRM放送 を聴くとその魅力に驚かないではいられません。それほどインパクトが強いのです。

 一方日本で はDRMではないデジタルラジオ方式(ワ ンセグの仲間)が実験を行い、その後の方針はまだはっきりしないもののDRMが普及する環境は整っていません。FM放送で十分だという声も日本だけでなく 他の国でも聞かれているようです。いずれにしても日本のリ スナーは、もっぱら海外のDRM放送を楽しむことになります。


★★★★

 能書きはこのぐらいにして、DRM 放送を実際に聞く方法について我々のような「文系のリスナー」がどうすればよいかをご紹介しましょう。
 DRM放送を楽しむためにはいくつ かの方法がありま す。

1.   短波受信機から455kHzのIF信号を取り出し、それを12kHzにコンバートした上で、Dreamなどのパソコンソフト に信号を流し込んでデコードし て聴く方法。
2.  パソコンに接続できるDRM受信用モジュールを使って聴く方法。
3.  DRM受信が可能なポータブル受信機を購入して聴く方法。
4.  12kHz信号を直接取り出すことができるラジオを購入し、Dreamなどのパソコンソフトで音声をデコードする方法。

 ここでは1、2、4の方法は他の HPに説明を譲り、文系リスナーがもっとも活用するであろう3の方法について説明します。

   「ラジオ型」のDRMレシーバーはこれまで少なくとも5つのモデルが発売されてきました。下に示した順に、Mophy Richards社の受信機、もうひとつは香港のHimalaya社から発売されているDRM2009という受信機で す。さらに2008年秋にドイツの TechniSat社からMultyradioという大型のDRMラジオが発売になっています。フランスのUniWave社から発売されたDi- Wave100というラジオもあります。いずれの受信機(ラジオ)も、 AM、FM、DRM、 DABが受信できるようになっています。

 Mophy Richards社のモデルは、数年前まで通販でドイツのサイトから入手できました。27,000円ほどで売られていました。この受信機、とにかくデカ い。多分心臓部は小さいのでしょうけれど、スピーカーがやたらと大きいので、結果としてかなり大型の受信機に仕上がって いま す。ソニーのICF-6800の3分 の2ぐらいの大きさでしょうか。その割に重くはありません。中身がスカスカだからでしょう 笑。


Morphy Richards社のDRMラジオ

 この受信機ですが、最初に発売され たときには外部ア ンテナ端子がついておらず、もっぱら欧州域内での利用を考えて作られていたようです。のちに改良型が 出て、外部アンテナの接続が可能となり、バッテリー駆動もできるようになったのですが、使い勝手はあまりいいとはいえま せん。特に感度不足と、チューニン グノブのつくりの弱さが不満です。チューニングノブが最初からグラグラしていて、いつ壊れても不思議じゃない状態なので す。
 欧州などでは自動スキャンをかけれ ば次々にDRMラ ジオ放送が受信でき、プリセットも容易なのでしょうけれど、日本では目的の放送に周波数を合わせて聴 くことが多いので、チューニングノブが壊れやすいというのは致命傷になりかねませんね。

 これに対してHimalaya社の DRM2009 は、受信部の基本的なファンクションはMophy Richardの受信機とよく似ているのですが、とにかく小さくて軽いことがメリットです。外部アンテナ端子(ミニ ジャック)が装備されていて、ソニーの AN-1なんかも繋ぐことができます。但し、アンテナによって相性があるようです。AN-1などのアクティブアンテナよ りもパッシブアンテナのほうがノイ ズ が少ないため、快適に動作します。今 のところ、この受信機と一番相性がい いアンテナは AOR社のSA7000です。DRMの受信につ いては、アンテナによってかなり状態が 左右されるので、受信機との相性などを 試しながら最良のカップリングを探すことになります。
 デジタル信号出力端子(光デジタル 端子はついてません)がついているので、ステレオ音楽放送などは そのままデジタル信号をステレオアンプに送り、音楽番組を大スピーカーで聴くこともできます。音声のデジタルコピーが可能なので、様々な活用法がありま す。
 スピーカーは左右に一つずつ。ステ レオ放送を手軽に 楽しめます。但し、FMの周波数は海外仕様なので日本では一部 の放送しか聴くことができません。


Himalaya社のDRM2009

 上記2機種のうち、感度、操作性の 点では、DRM2009が上回っています。音も硬くも無く柔らかすぎもせずで、聴きやすい部類に入るのではないかと思い ます。国内中波局、アナログ短波放送を聞く際も、普通のリスニング程度なら感度の点でさほど不自由することもありませ ん。

 TechniSat社の MultyRadioは、黒 と銀を基調としたデザインが高級オーディオのような雰囲気で、おそらく欧州の家庭で使うには雰囲気がピッタリなのでしょ う。基本的な構造・ファンクション はMorphy RicardsやHimalayahと同じですが、チューニングダイヤルが大型化して、しかもはずみ車が入っているらし く、チューニングするときの手触り がとてもよくなっています。AM、FM(欧州バンド)、DRM、DABが受信できます。


TechniSat社のMultyRadio

 ただ、難点はデカイこと。重さはさ ほどではないもの の、とにかく大きすぎ。しかも、外部アンテナ端子が背面についているにもかかわらず、ラジオを据え置 きスタンドに乗せて使おうとすると外部アンテナ端子がカバーされてしまってうまく使えない。硬い同軸ケーブルのとり回し が厄介です。これはかなりの減点です。それでも音質は最高。欧州ではFMも十分な音質で楽しむことができると思います。

 Morphy RichardsもDRM2009、そしてMultyradioも、放送録音用(DRMとDABのみ動作)にSDカード スロットがついています。メーカー 側は録音フォーマットはMP3だと 言っていますが、パソコンで拡張子を見ると.drmとなっています。ファイルには音声だけでなく、局名等の情報(ニュー スヘッドラインなどは含まれず)が 入っていますので、普通のMP3ではないのでしょう。


 上記のHimalaya社の DRM2009、TechniSat社のMultyradioは、残念ながらもう入手できないようです。通販サイトに よってはまだ在庫を持っているところもあるかもしれません。検索してみると良いと思います。ただ、海外 (EU域外やアメリカl国外)への発送を行っていないと ころも結構ありますので、あらかじめウエブ上で購入条件等を調べておくといいでしょう。

 次は、すでに発売中止になっている機種です。上記3機種に先立ち、ドイツのMayah Communications 社からDRM2010というラジオが発売され ていました。テンキーによる周波数 入力が可能で、見た目はBCLラジオ風。上述の3つのDRMラジオに比べるとチューニングの煩わしさがない分、使い勝手がよいように思われるの ですが、内蔵のチップがワンチップ 化されていないとのことで、実は性能は劣悪。実用的ではない代物です。


Mayah社のDRM2010

 アジア向けのDRM放送でチェック してみましたが、 信号が強いDWのDRM放送ですら、局名表示こそ出るものの音声のデコードができない状態でした。正 直なところここまで性能が悪いかなぁ とガッカリさせられるラジオです。発売されていた頃には送料込みの価格が日本円で およそ13万円もしました。万が一このラジオがどこかで入手できるとしても、絶対に手を出さないことが賢明です。

 さらにもう一機種、2009年3月上旬ごろ、フランスのUniWave社が小型のDRMラジオDi-Wave100を 発売しまし た。製造は中国です。大きさはICF-7600をひとまわり分厚くしてサイズを若干大きくした程度で す。
 このラジオは、DRMのほかDAB、AM(長波、中波、短波)、FMに対応しています。約4インチのカ ラー液晶を備えていて、DRMラジオ放送で伝送される文字情報はもとより、カラー写真などの映像を映し出すことができる ほか、MP4映像のファイル再生機能を備えているので、様々な使い方ができます。外部アンテナ端子も備えていて、遠距離 短波DRM放送の受信にも備えたつくりになっています。
 周波数入力はテンキー方式やダイヤル式ではなく、ボタンで周波数をアップダウンして選択する方式なので、やはり チューニングにおいて使い勝手が悪いことは否めませんが、上記3機種と比較すると、多機能であり、また性能も高いので入手のチャンスがあれば検討してみら れてはどうでしょうか。

 ただ、我が家のDi−Wave100は、残念なことに先日壊れてしまいました。使用していない間もACアダプタを差 しっぱなしにしていたのが悪かったのか、まったく立ち上がってくれません。修理のあてもないので、ゴミ箱行きです… 海 外からの輸入となると、万一のときにはなかなか厳しいものがあります。そのあたりのリスクも勘案の上、購入を検討される のがよいと思います。


UniWave社のDi-Wave100

 DRM放送の普及を推進してきた DRMコンソーシアムからの情報によると、最近、インドでDRMラジオが製造され、近々発売になるそうです。販売価格は 日本円で2万円強程度だとか。インドで普通のラジオのようにDRMラジオが普及するにはかなり高めの価格となっています が、さて、どのようなラジオなのか。万一入手できたらまたこのHPでご紹介します。

【インド製 DRMラジオ AV-DR-1401を購入してみました】

 ということで、ついに思い切ってインドからDRMラジオを輸入してみました。
 注文をかけてから2週間弱(インドのメーカーが発送の通知をくれて6日)で商品が届きました。

   

 箱の中身は、受信機本体と取扱説明 書(保証書兼)、リモコン2つ、ACアダプターです。
 ラジオの大きさは、ICF-2001Dとほぼ同じぐらいですが、軽いです。2Kgありません。全体がプラスチック製な ので、写真で見るよりも実物はかなり安っぽいです。本体にはプラスチック製のキャリングハンドル、ロッドアンテナがつい ています。どちらもとても危なっかしい感じで、特にロッドアンテナは強く伸ばすと、ポコっと抜けてしまいます。おそらく 毎日使っていたらすぐにダメになってしまうのではないかと思います。そのぐらいFragileな感じで、このあたりは 「さすがインド!!」と言いたくなるほどです。ロッドアンテナはとても長いです。きちんと寸法を測ったわけではありませ んが、おそらく1メートル少しはありそうです。見た目がとてもシンプルなので、実物を手にすると思った以上に「へ?!」 という感じです。昔乗っていたVolkswagen Golfの内装を思い出してしまいました(笑)

 ラジオの操作は付属のリモコン(なぜか2台が標準!)で行います。リモコンの反応はまずまずで、使い勝手も思ったほど 悪くはありません。ラジオがシンプルなだけに、このリモコンの役割はとても大きいのです。説明書の中にいろいろなファン クションについて書かれています。

  

 このラジオ、面白いことに、リチウムバッ テリーが内蔵されていて、ACラインから専用のアダプタを使って充電してラジオを聞くことができます。乾電池ボック スは設けられていません。我が家に届いたときには満充電の状態でした。ACアダプターは、欧州規格のプラグなの で、旅行用のプラグアダプタを使っています。アダプター自体は100〜240Vに対応しているので、日本でも使用可 能です。取扱説明書には、DRM放送を聴くときにはACアダプタを外すようにと書かれています。アダプタが、携帯電 話用のようなノイズを発散させるタイプなので、アダプタのノイズでDRM放送が聴けなくなるから… なのではないか と思っています。説明書には"It might cause network accessibility related errors"とだけ記載がありますが。一旦フルに充電すると、連続使用でも10時間もつとされています。実際にバッテリーの減りは、DRM放送を受信し ていてもかなりゆっくりだと感じます。以前使用していたHimalayaのDRM2009は、単一乾電池が数時間し か持ちこたえなかったので、その差は歴然です。
 
 では、実際にこのラジオを使ってみた感想ですが…

 まず、中波、短波については、まぁ、普通のトランジスタラジオ並みという感じです。内臓のバーアンテナのおかげで、外 部アンテナをつながなくてもNHK東京第一放送は普通に聴くことができます。810kHzのAFNも安定しています。短 波については、
外部アンテナをつないで使用しています。 やはりロッドアンテナだけではDRM短波放送は感度不足です。外部アンテナ の接続はミニジャックで行います。このアンテナのインピーダンスがうまく合っていないと十分な感度が出ないことにな りますので要注意です。ミニジャック型の外部アンテナ端子には、 SONY ICF-2001DやDEGEN DE1103で使用しているアンテナをつないでみました。

 FMは、というと、このラジオは海外のFMバンド用ですので、在京FM局はINTER FM(89.7MHz)以外は聴けませんが、ありがたいことに先般放送を開始した在京中波局の「ワイドFM放送」が受信可能です。ただ、感度は正直いって かなり悪いです。当地(スカイツリーから直線距離で約70km)ではロッドアンテナだけでは感度が足りず、外部アンテナ をつながなければなりません。外部アンテナは、DRMとFMが同じ端子を使用する(そして1箇所しかない)ために、差し 替えて使わなければなりません。このあたり、不便です。しかも、このラジオはせっかく左右にスピーカーがついていて、 Micro SDカードを差し込んでMP3の音楽ファイルを聴けるのに、FM放送はステレオ対応ではないということがわかり、がっかり…

  

 そして、本命のDRM放送ですが、DRM放送自体がこのところ激減してきているので、日本で狙えるのはインドとニュージーランドからの放送あたりです。

 
インドの国際放送All India  RadioのDRM放送は、日本でも比較的良好に受信できます。日本時間20時45分から始まる北ア ジア向けの中国語放送を15040kHzで聴いてみました。わがHPで何度も紹介している通り、インドは国内放送・国際 放送のDRM化を進めている世界で数少ない国の一つです。このところ(2015年12月下旬現在)空中状態が完全に冬 モードなので、日没後はハイバンドの伝播状態が極端に悪化します。つい一ヶ月前まではとても強力だった放送が、すっかり 弱くなってしまいましたが、それでもかなり音になってくれるのには本当に驚いてしまいました。 AR7030Plus+Dreamでは音にならないぐらいの電波で、しかもノイズレベルが高い当地でも十分に働いてくれ ます。
 
 一方、Radio New Zealand Internationalのほうも、意外なほど音になってくれるので驚きました。JST0245からの11690kHzと日本時間の午前中を中心に出て いる17675kHzは、ともにまずまずの状態で聞けました。ニュージーランドの放送は南半球の島嶼国向けなので、周波 数が夏モードとなっていて、日本で受信するにはやや高すぎる傾向があります。それでも、時折音声が断するものの十分実用 になる程度で聞けています。

 その結果をこ こにアップしておきます。電波状態が悪い中で、これだけ聞こえてくれれば十分というぐらい聞こえています。

 インド製のラジオというのは未知の 世界だったので、果たして輸入したものかどうかと悩んで購入したAV-DR-1401でしたが、結果は予想を上回る満足 感を与えてくれるラジオです。価格が送料込みで3万円ほどになってしまいます(送料がFedexだったので7000円ほ どかかった)が、それでもいいと思う方は買ってみてもよろしいかと思います。ただし、受信できる局の数がいまはとても少 ないので、その点は覚悟が必要です。よく検討されることをお勧めします。

 AV-DR-1401についての質問(文系の質問なら可)、輸入のご相談などがありましたら、店主までメールをお送り ください。回答できる範囲でお答えいたします。なお、わたくしはDRMコンソーシアム関係の人間でも、またDRMラジオ メーカーの関係者でもありませんので、その点はご承知おき願います。

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