Violet Waters の姿より美しいのは、たったひとつ、その歌声だけだと言われている。Watersの名にふさわしく、彼女の歌は、なめらかに流れる水のように響く。それはまるで、岸辺の岩にひそやかによせては、水面(みなも)をくぐってかえす、銀色のさざ波のようであった。岩にはね返されて、また寄せる波は、Violetの人生そのものと言ってよいだろう。しかし、どのような岩も、彼女にとっては乗り越えるべきものでしかなかった。なぜならVioletは夢と、そして世界中の人々への贈り物となる才能を持っていた。
彼女は動乱の20年代のまっただなかに生まれた。黒人向けの一流校 Central State College の文学の教授であった父によって、Violetは古風に育てられた。彼女の生活は、赤ん坊のころから音楽で満たされていた。祖母がひく教会のオルガンにあわせて、聖歌隊員である母が歌っていた。(彼女の母親は、起きている間はいつも歌っているような人であった。)家族がVioletに与えた教育のうちで最も重視されたのは、高潔であれということであった。いかなる場合でも自分自身に対して正直であるようにと、彼女は教えられた。
運命に導かれるようにシカゴへと旅立ったVioletを見送る家族の心境は、複雑であった。まもなくシカゴのジャズクラブで歌うようになった彼女は、熱狂をもって迎えられる。Violetの優れた才能についての噂は、瞬く間にジャズ界を走り抜けた。全国を縦断し、ヨーロッパでも開かれた演奏会によって、彼女はジャズ・シンガーとして、スターの地位を獲得した。
しかし、ハリウッドの舞台裏では事情がちがった。いくつもの大きな映画会社が、Violetと契約しようとしたが、どの映画でも彼女の役は、召使いか、南部の浮気なショーガールといったものにすぎなかった。彼女は、その全部を断った。彼女の家族がいつも言っていたように、Violetは自身の天分に対して正直であることを選んだ。
そして突然、ひとりのファンであり友人である女性が、VioletとMonolithic映画社のなかを取り持つ。ハリウッドとジャズを結ぶ歴史が、誕生したのである!
【 VioletにMonolithic映画社を紹介したのは、Geneだという設定になっている】
"Violet Waters" (dollに同梱される小冊子)より