1943年。楽屋のドアにもたれかかったViolet Watersの耳には、まだ観衆の声援がなり響いている。ビバリーヒルズの小さなジャズクラブでのデビュー公演は、ジャズ界に嵐を巻き起こしているヴォーカリストの声を聞こうとつめかけた熱心なジャズファンであふれていた。（自分の才能にプライドを持ち、しかも、ためらうことなくそれを明言する、この率直な若い女性を、ひとめ見たいというファンも少なくなかった。）
ドアをノックする音にVioletは一瞬おどろいたが、振り向くと「どうぞ」と声をかけた。舞台と逆方向のドアから、クラブオーナーの声が聞こえた。彼女がドアを開けると、クローゼットより少し広いだけの楽屋にオーナーが飛び込んできて、「Violet、すごいぞ！あんた、ここで歌った中じゃ最高にクールだ！ロングランまちがいなしだぜ」と叫んだ。「ああ、それから、お客からメモを渡すように頼まれたよ。」
オーナーはVioletにメモを手渡すと、ちょっと抱きしめてから部屋を出ていった。彼女はふるえる指で、折りたたまれたナプキンを開く。それはGene Marshallからのメモだった。
「彼女が観客のなかにいるのは知ってたわ」とVioletは考える。メモには「あなたにお会いしたいという映画関係者たちがおります」と書かれていた。「映画関係者？ これこそ私が待っていたチャンスよ！」
髪にかざったランの花をととのえ、光沢のあるドレスのしわを手でのばし、深呼吸をひとつして、Violetは部屋を出た。Gene MarshallとMonolithic映画社の人々と、そして彼女自身の未来に出会うために。
【このページの画像は、コレクションを撮影したものです。】
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