各名門ブランド ピンボール・リスト

American Pinball/2017

フーディーニ マスター・オブ・ミステリー

原題Houdini Master of Mystery
製作年度2017年
ブランド名アメリカン・ピンボール
メーカーアメリカン・ピンボール・インク
スタッフプレイフィールドデザイン: ジョー・バルサー/ゲームデザイン:ジョー・バルサー、ジョッシュ・クグラー/メカニクス:ジョー・バルサー/エンジニアリング:ジム・ソーントン/ソフトウェア:ジョッシュ・クグラー/美術:ジェフ・ブッシュ/LCDアニメーション:ジェフ・ブッシュ、イッシュ・レニジス/スカルプチャー:マット・ステイラー/音楽:マット・カーン/バックグラス画:ジェフ・ブッシュ
標準リプレイ点数
備考

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【1st.インプレッション&雑感】

アメリカンピンボール社とは、2016年に突然姿を現した少壮気鋭のピンボールメーカー。
 第一号機「フーディーニ マスター・オブ・ミステリー」を完成させ、2017年のテキサスピンボールフェスティヴァルで初披露した。

 “フーディーニ”とは伝説の奇術師ハリー・フーディーニ(1874〜1926)のことで、脱出王としてもその名を世界的に知らしめていた。

 現在の日本ではやや風化してしまっているが、20世紀前半のアメリカではその名を知らぬ者はいないほど一世風靡した人物。
 コナン・ドイルとも交誼を結び、心霊研究の真贋にも造詣が深い。壁抜け、手錠抜け、水槽脱出などの脱出術を得意とし、初代引田天功にも強い影響を与えた稀代のマジシャンである。
 「ザ・マスター・ミステリー(未1918)」「ザ・グリム・ゲーム(未1919)」「恐怖島(1920)」「氷原より激流へ(1922)」等、何本ものサイレント映画にも出演。「ハルデーン・オブ・ザ・シークレットサーヴィス(未1923)」では監督も手掛けている。

 洋画好きや海外TVドラマファンなら何度かニアミスしているとは思うが、意外にも彼を直接的な主役に据えて映像化される好機にはあまり恵まれていない為、全貌を知る機会は少ない。
 勿論、ピンボール化なんて初めての事。この着眼は果たして鬼が出るか蛇が出るか。


 日本では今のところ(休業時を除いて)大阪心斎橋《SilverBallPlanet》で稼働台をプレイすることができるものの、ウィザード到達までじっくり吟味したとしても、その評価は5段階評価で2点ぐらい。

 大手コインオペ/アーケードゲームメーカーの後ろ盾が一切ない新参メーカーがファクトリーを立ち上げ、各国代理店と契約を結んで商品をきちっと形にして世に送り出したことは、それだけでも百点満点に値するかも知れない。

 しかしゲームとしてプレイしてみると爽快さや伸びやかさに欠け、終始理不尽な窮屈感に苛まれてしまう苦しい仕上がりであった。

 殊に、プレイフィールドデザインの随所に難あり。

 例えばボールロックへのレーン入口が球ひとつの幅ギリギリ。ダイレクトシュートコースの無理筋も甚だしい。
 こういう場合はレーン入口両脇のポストorスタンダップ設置の位置を左と右で前後させ、少しでも受け入れる範囲を広くするのだが、そういった配慮が無い。
 バックハンドの鬼を自負する私でも、確実に決めるのはなかなか難しい。

 “バンパー地帯の狭間貫通ラインショット”は他機種でも難易度が高くて上級者すら悩ませるものだが、誂え方によっては大変面白いコースショットとなるのは確か。
 しかしこのテの設計もフーディーニでは無理があり、バンパー一帯にダイレクトショット&カーブレーン迂回ショットの、2か所もの無理な開通を敢行している。こちらもレーン幅の狭さたるや、2本ともかなり厳しい。
 というか、バンパーの存在意義自体が希薄になっているのでは?バンパーアクション直撃投下コースが存在しない。

 他、ミニゲーム開始のシアターホールやミルク缶ホースシューも常識的に得心のゆくような位置やコースに設えられておらず、マニアックとか上級者向け以前に、凝り過ぎて考え過ぎた果ての迷走の一途で設計されたようなフィールドデザインなのだ。

 加えるに、日本のような低電圧国稼働で起きる機能性低下への対策が無い
 ボールの蹴り出しがしんどそうなVUKや、か弱いバンパーアクションの頼りなさ、そして何よりもフリッパー打力不足は致命的であり、ゲーム性を損ない、爽快度を喪失。ランプレーンショットは殆ど諦めなければならないほど。

 但し、刮目すべき見どころもいくつか。

 遠くのトランクに球をブン投げて放り込み、プレイヤーをあっと言わせるボールロックカタパルト稼働のメカニクスは確かに驚いた。
 たまにトランクシュートを外すのだが、失敗時はすぐに計算してカタパルト射出の機微を修正するプログラムにより精度を上げている。

 また、フィールド上で戦況を教示する小型LCD、及びそのたもとで開閉するシャッター付きミニゲームホールは劇場のオープンを示唆しており、ここに入れれば何かが始まる!と感興をそそられる。

 しかしそれ以上に気圧(けお)されてしまうのが、フーディーニが世を幻惑させていた当時の時代の空気を再現した、匂い立つほど独特の禍々しさだろう。

 マルチボール時に交霊術で降臨する老人の亡霊。モールス信号で伝達されるコンボショットミッション。コンプライアンス的に危なっかしい人食い人種の襲撃。ケタケタと暴走して無表情のまま人を襲うブリキのロボット。発火フィルムが映像を燃え尽くしてゆく時間切れの合図……。
 それらが醸し出すケッタイ極まりない奇怪千万の妖しさと言ったら。

 科学とオカルトとマジックが混濁した20世紀初頭の無秩序による秩序を、サウンドとアートとボールアクションで体現させようとするその姿勢は、ある意味貫徹していると言えるだろう。

 押したら下がり!?放したら上がる!?…というフリッパーのアップダウン操作逆転を選ぶとJPヴァリューが3倍になるマルチボールイベントがあったり。
 フリッパーボタン操作30回以内で全ターゲットレター完成せよ!……なんて、ピンボールの常識を超えた異様過ぎるボールセーヴフィーチャーも散見。

 他社では味わえない独自の路線と作風を早々に編み出し、確立した……という点では、アメリカンピンボール社を称賛すべきだろう。

 馴染みの無いテーマ性や状態の悪さなどもあって日本のプレイヤーからは戸惑いの評価を隠せないが、海外では新規メーカーの立ち上げ成功及び新星発見への喜びが強いようだ。

 ハリー・フーディーニには子孫がいない為肖像権もライセンス費用も不要だし、彼の映画もとうに著作権が切れており、どう使おうとパブリックドメインだ。
 次作「オクトーバーフェスト」も同じく“疑似ライセンス”的テーマ路線。これら狡猾な政策も頼もしい。


 こうして「フーディーニ マスターオブミステリー」の完成により、ピンボール産業という海原へ無事着水したアメリカンピンボール社。

 しかしそもそもの始まりは、インド資本のPCB製造業エイムトロン社のファクトリーが、かのジョン・ポパデュークのゲームデザイン会社ジッドウェア社と同じ、イリノイ州クック群ストリームウッド地区にあった……という奇妙な地縁が発端となっている。

 インド支社、中国支社、そして本土アメリカに本社を持つエイムトロン社オーナーの一族であるヴァサーニファミリーの一人ダーヴァル・ヴァサーニは、ジッドウェア社デザインの「マジックガール」製造の為の下請け工場として、ピンボールファクトリーを立ち上げた。

 「ワールドカップサッカー('94)」「シアターオブマジック('95)」「スターウォーズエピソード1('99)」等々。
 元ウィリアムスピンボールのデザイナーとしてキャリアがある上、「フーディーニ マスターミステリー(旧タイトル)」の商品化プランとその試作フィールドを献呈し、誠意を見せたポパデュークをすっかり信頼したヴァサーニは、彼に「マジックガール」の設計・製造監督を一任。

 20台のマジックガールがアッセンブルされ、ジッドウェア社が何年も前に募っていたデポジット購入者へ、満を持して届けられた。
 更に「フーディーニ マスターミステリー」のプロトタイプも完成。2016年9月のラスベガスのゲームショーでの発表・展示も行われた。

 ところが、これらマジックの種明かしはあっけなく露呈する。

 ポパデュークが試作した「フーディーニ」のプレイフィールドデザインには欠陥があったばかりか、法律的に商品化が不可能という致命的な不備が判明。
 更に、彼の設計通りに製造したはずの20台の「マジックガール」も未完成の粗悪台だったことが明らかに。

 実は過去ウィリアムス時代にもポパデュークは毎回欠陥台を作り、その都度他のスタッフや先輩デザイナーに修正を施された上で、どうにか商品化していたのだった。
 彼の才能は有名無実だったのである。

 呆れたヴァサーニはピンボールファクトリーのプロジェクトからポパデュークを外し、「フーディーニ」のピンボール化プランを新たなデザイナーを迎えて続行することとなった。

 それが本機種のチーフデザイナー ジョー・バルサーだった。

 バルサーはデータイースト/セガピンボール/スターンピンボール在籍時代に「スターシップトゥルーパーズ('97)」「ゴジラ('98)」「サウスパーク('99)」「ストライカーエクストリーム(2000)」等々のフィールドデザインやメカニクスを担ってきた人物。
 ジャージージャック社移籍後は「オズの魔法使い(2013)」「ホビット(2016)」をも手掛けている。

 彼は夢想家のポパデュークとは対照的な、リアリストの職人肌。
 既存フィールドホワイトウッドやメカを巧みに使い回し、異なる機種やライセンステーマへ換骨奪胎させて短期間で手早く商品化する手腕を、かつてのスターンピンボールやジャージージャック等の仕事場で修得していた。

 ヴァサーニからデザインチーフを任命され、制作クルー人員選抜の裁量をも与えられたバルサーは、その豊潤な人脈から“予てからピンボール業界に復帰したがっていた精鋭”や“腕を発揮したがっていた新鋭”達に次々と声をかけた。

 例えば、ピンボールのアマチュアガレージ製造の兵卒として界隈で名の知れるジョッシュ・クグラーが、バルサーの招集によりアメリカンピンボール社のプログラマーとして加入。
 更に美術班として加わったジェフ・ブッシュは、セガピンボール時代からバルサーと何度も仕事をこなしている。
 ブライアン・ハンセンはジャージージャック時代に交流があったし、音楽のマット・カーンもスターンピンボールでキャリアがある。

 『ピンボールを作る作ると宣言しておきながら、3年4年経っても1機種すら完成できなかった前例を知っている。そのような痴態は絶対に晒してはならない。必ず完成させる』

 そう誓ったバルサーは、僅か4か月後に迫るテキサス開催のピンボールショーでの完成披露を絶対的な目標に据え、新生フーディーニチームを率い始めた。

 “マルチモーフィック社のハードウェアP3ROCを使おう。新興企業が無理して一からシステムを構築しようとして疲弊するより、高性能な既存のシステムボードを購入した方が賢明だ”

 “スタンダップターゲットは既存の標準サイズより一回り小さく出来ないか。このままではレーン構成が厳し過ぎる”

 “ボールロックを2箇所設えた上、ロック直後瞬時にフィールドへ別ボールを蹴り出し、まるで瞬間移動したように演出したい”

 “ポップバンパー狭間ショットを2コース作ってみないか。クリーンヒットが決まった時は最高だ”

 “フィールド上の縦型LCDが思ったより視界の邪魔になっている。横型に変更すべきだ”

 “顧客の意見を取り入れよう。リミテッド版だのプレミアム版だの、高価なヴァージョン違いの濫造はやめるべきだ”

 “シェイカーモーター機能や照明反射防止ガラス、トッパーデコレートは名残惜しいが諦めよう。価格は1台7000$以内に収めないと”

 “ファクトリー製造の目標は週100台。初期のデータイーストがそうだったように、ピンボールの細かなアッセンブルは外注でまかない、ある程度出来上がった主要な部分は自社で組み立てる。フーディーニの製造台数は最低でも1000台はいこう!”



 ……かように、バルサーはクルー達へ、『必ずや完成品を引っ提げてみんなでテキサスへ行く』、という厳然たる目標を据え、確かな指導力と胆力と求心力により、本当に「フーディーニ マスターオブミステリー」を納期までに完成させたのである。

 この早業・離れ業にはすれっからしのピンボールコレクター達をあっと言わせた。

 現在既存大手のピンボール制作期間は企画書のプラン立ち上げから1年以上はかかる。もしそれが新興メーカーなら最低でも2年3年、下手すると4年もの時間がもどかしく費やされるはず。
 にもかかわらず、バルサー達はネットフォーラムなどでの嘲笑や懐疑の声をものともせず、僅か4ヶ月で成し遂げたのだった。

 流石はデータイーストピンボールの叩き上げ門下生である。

 その後アメリカンピンボール社は伝統のビール祭りを題材とした快作「オクトーバーフェスト(2019)」を第2号機として完成させ、翌年2020年にはピンボールと差別化したゲームブランド“アメリカンアーケード”名義のリデンプション大型筐体「フライングダッチマン」を発売する。

 更に現在、ピンボール3作目にして初のライセンス商品「ホットウィールズ」の仕上げに入り、疫病騒ぎが終息次第、生産と出荷が待ち望まれている。

 まだまだヴァサーニとバルサー達の快進撃は続く。

 アメリカンピンボール本社はイリノイ州クック群パラタインへと移転し、ファクトリー面積も旧ストリームウッド工場の15,000平方フィートから52,000平方フィートの広さへと拡充
 更にマネージメントとして、バリー製「プレイボーイ」「キッス」を生んだ伝説のデザイナー ジム・パトラが同社へ参画。
 加えてセールスマネージャー枠へ、マニアとしても高名なマイケル・グラントが加入。大会をにぎわす凄腕プレイヤーの一人だ。

 アメリカンピンボール社は既にジャージージャックやスプーキーと比肩する、21世紀以降のピンボールメーカー大手への仲間入りを果たしていると言っても過言ではない―――。そんなフェーズへと突入しているのだ。


 ところで、フーディーニピンボール化企画の言い出しっぺであるはずのお騒がせデザイナー ジョン・ポパデュークは今どうしているかというと。

 こちらも新興ピンボールメーカー ディープルート社に拾われ、最新作且つジッドウェア社デポジット制作プランのひとつだった「レトロ・アトミック・ゾンビ・アドヴェンチャーランド」の完成へと急いでいる。

 目論見としては当初「マジックガール」の同時発売を予定していたのに、どんなにフリッパーが強くてもランプレーンにのぼらないだのコードが入ってないだの、あまりに欠陥が多過ぎて結局全部一から作り直す羽目になっている。

 ディープルート社プレジデントのロバート・ミューラーによると、彼は才能はあるが問題児でもあることも承知しているので、十分な監督下において進行させている……とのこと。あらあら。







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