Bally/1992アダムス・ファミリー | ||
原題 | The Addams Family | |
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製作年度 | 1992年 | |
ブランド名 | バリー | |
メーカー | バリー・ミッドウェイ・アミューズメント・ゲームズ/WMSインダストリーズ | |
スタッフ | 原案:パット・ローラー/デザイン:パット・ローラー、ラリー・エドワード・ディマー/ソフトウェア:マイク・ブーン/メカニクス:ジョン・クルッチ/音楽:クリス・グランナー/美術:ジョン・ユッシー | |
標準リプレイ点数 | 9千万点 | |
備考 | 製造台数:20,270台/ようつべに動画あるよ!⇒GO! |
▲プレイフィールド上部。左半分がバンパー地帯やらスクープやらで狭い分、右半分はなるべく広々と打てるよう配分されている | ▲バックグラス。ご覧の通りいにしえのTV版ではなく、'91年公開の映画版からのアートワーク |
▲パットローラー初のドットマトリクスディスプレイ!俳優の風貌の実写スキャンなどはなく、コミカルなドットアニメやゴシック体巨大ロゴのフラッシュ表示に重きを置いていた | ▲フィールド下部。マンションミニヴァリューの項目がびっしり。前作ファンハウスと比べてミニゲームの比重が一挙に肥大化した |
▲キックアウトスクープの上に設えた電気椅子のミニチュア。ここがミニゲームのスタートポイントとなっている | ▲バックボックス上部にはタイトルオブジェあり |
▲これがハンド君のボールキャッチだ!背後の赤いボックスからにゅーっと手が出て…… | ▲かように磁力で掴んでボールを内部に取り込んでしまうのだった。ボールロック完了! |
●ウィリアムス/WMSが発表した1992年製「ジ・アダムス・ファミリー」とは、20,270台!という、ピンボール史上最高の製造ユニット数を記録した、今なお語り継がれる伝説のバリーネームモデルです。 キッス、ファイヤーパワー、フラッシュ、プレイボーイですら越えられなかった2万台の壁。 唯一、バリー'77年製「エイトボール」による20,230台の記録こそ、不動の製造数レコードとして永遠に守られるものかと思われましたが、僅か40台ながらアダムスがこの数字を上まわりました。 '80年代半ばのビデオゲームたちを向こうに回して17,080台を世に放った「ハイ・スピード('85)」もてぇしたモンですが、'90年代という混迷の時代且つ格闘ゲームブーム勃興の最中に、この歴史的新記録を打ち立てた「アダムスファミリー」の偉業は、それこそ筆舌に尽くし難いものがあります。 “'80年代半ばからピンボールは復活した、なーんていうけど、こんなもん'70年代黄金期の比じゃないんだよねぇ〜ニタニタ” などと当時いちいちメンド臭かった'70年代中年プレイヤーの鼻っ柱をへし折る、この前人未到の記録を打ち立ててくれたのはこの人。かねてから「バンザイラン」「アースシェイカー!」「ファンハウス」等々で破天荒且つ精巧なマシンを発表し続けていたパット・ローラー。 一方、原案とプレイフィールドデザインを手がけたローラーの功績もさることながら、大量のフィーチャーと複雑な処理をバグひとつ無くスムースにまとめ上げたラリー・エドワード・ディマーの、そのソフトウェア技術力の高さにも注目が集まりました。 彼は過去に「ブラックナイト('80)」「スペースシャトル('83)」「ハイ・スピード('85)」といった歴史的新機軸モデルのスタッフとしてもその名を連ねています。 しかし、永遠の金字塔とか、歴史的ランドマークとか、全ての機種のフラッグシップとか……。そういった栄光や礼賛に浴す側面のみならず、実はピンボールビジネス凋落の端緒となり、業界に大きな影を落としたモデルとしても知られ、哀歓を併せ持った重たいニュアンスを帯び続ける1作でもあるのです。 いやいやそういうことなら、過去にバリーとゴットリーブがコピライトばかりに拘泥して低迷期を招いた'80年代初頭の失策構造と、映画ネタのアダムスも同じ轍を踏んだだけだったのでは? いいえ。「アダムスファミリー」のギガヒットは、もっと深刻で、絶望的な病巣を孕んでいました。 さて、複雑で大量に仕掛けられたこのゲームのフィーチャー群。特徴的な部分だけを簡易的にまとめます。 【スキルショット】プランジャーを加減してスキルショットボーナスを狙う。かかるポイントはロックホールで、スキル成功で同時ロックも可能。さらに面白いのは、このホールはEx.もクイックマルチもハンド君ボーナスも関連した箇所。よって全部役が揃っていたならスキル1発でみんないっぺんに取れてしまう。 また、思いっきりプランジするとボールはバンパー地帯に、弱すぎると別の利点のあるスワンプホールへ運ばれる。プランジ冒頭からの戦略の幅広さには舌を巻く。 【ハンド君の自動フリップ】勝手にサイドミニフリッパーが稼動して逆側サイドホールを狙ってボーナス点を射とめてしまうアイディアフィーチャー。 左外側リターン経由で中央ランプレーンを通すとディヴァーターが稼働、ミニフリッパーへボールが運ばれ、プレイヤーの意思を無視して“ハンド君”が勝手にフリップ。高確率でスワンプホールへシュートが決まり、ご褒美としてスワンプヴァリューの5倍を獲得。 【ハンド君のボールキャッチ】フィールド右奥の赤い箱から“ハンド君”がにゅーっと登場、磁石仕掛けでボールをキャッチ、マシン内部に取り込んでしまうギミック。ボールロック時やTHINGボーナス獲得時に稼動。 【ザ・パワー・マグネット】超常現象の如くフィールド下部で稼働する磁石妨害。マルチリーチ、マルチボール時、セイアーンス交霊術タイムに作動し、ボールをあらぬ方向へ飛ばして行方をトリッキーにする、スリリングなギミック。 【GREEDボールロック】1段階目のボールロック。右上青色ブックケースへのヒットでG-R-E-E-Dレターが完成、サイレンが鳴り響いてブックケースが回転。ロックホールが現れる。 尚ボールロックは中央奥のスロープホール経由からでもロックOK。だからEx.やTHINGがかかってたらそっちから狙った方が有益。こういった兼ね合わせがこの台では無限通りで、とても面白い。 【マルチボール/ジャックポット】3個目のボールロック成功でマルチボール開始。ジャックポットはサイドレーン、ダブルジャックポットはサイドランプレーン、再点灯はブックケースホール。 【マンションツアー】全12種類のミニゲーム/ミニヴァリュー。フィールド下部左の電気椅子スクープでスタート。内容はボーナス点、時間制各所ボーナス点摂取、クイックマルチ点灯、Ex.リット、ヴァリュー上昇など。映画になぞった場面やキャラクターの登場でディスプレイのドットアニメが盛り上がる。 【ウィザードモード】ミニゲーム全12種完成+再度シュートで得られる最終ビッグゲーム。先ず五千万点獲得+スペシャルリット+Ex.リット+各ヴァリューマックスが得られ、全てのミニゲームが順序リスタートする。 このマシンが世界中のロケーション及び幅広いプレイヤーたちに受け入れられたのはキャラクターコピライト台の性質も少なからずあるものの、豊富なギミックとボールアクションの元、全フィールドに散在した豊富なフィーチャーが全て端々で細かに組み合わさり、毎度異なる戦略と展開を幾通りも無限に練られる高度なゲーム性だった所以に他なりません。 例えばボールプランジだけでも初心者は思いっきり放ってバンパーアクションを楽しんでもいいし、上級者は前もって点けておいたEx.とクイックマルチとハンド君のボーナスをスキル成功1発で全部しとめてほくそ笑んだってイイ。 勿論サイドフリッパーやサイドランプ・ディヴァーターをも巧みに用いたボールフロー絶妙のフィールド構成、大量のミニゲームをひとつひとつクリアして最終ゲームを目指す奥行きの深さなど、その高い完成度には本国のみならず全世界のプレイヤーたちが熱狂。 映画コピライトだけあってピンボール業界の新兵器ドットマトリクスディスプレイも八面六臂!主演俳優ラウル・ジュリアとアンジェリカ・ヒューストンの2人も、アートワーク肖像は勿論ピンボールサウンドのヴォイスキャストまで快諾してくれています。 アダムスの更なる幸運は、前述のように確かなソフトウェアの所以でバグや誤作動がひとつも無く、故障が少なかったこと。 その後永らくロケーションで高インカムをはじき出し続け、他社も他機種も寄せ付けぬ怒涛のロングヒットに繋がりました。 米業界誌リプレイマガジンの売上集計一覧内“トップピンボールス/ベストピンボールマシーンズ”にて、何とリリース月の'92年3月号から2001年3月号まで108カ月連続ランクイン、その後一旦圏外に落ちながらも何度もランク内へ再浮上、2002年4月を最後に総計113回もランク入りし続けた……という、とんでもないバケモノマシンぶり。正にアダムスのお化け一家! 因みに「ターミネーター2」のトップピンボール集計ランクインは連続29カ月、合計34回で撃沈。ウィリアムスの一般的ヒット作でもランクインは1年〜1年半程度で、デコやプリミアのクソ台なんて半年もちゃしませんよ。 そんなアダムスの恩恵により、ピンボール業界全体の平均的マシン出荷数も、1990年前後の時節の一挙2倍〜3倍までにバンプアップ! 当時日本のアーケード業界全体の景気も快調で、特にカラオケやビリヤードフロアも備えたアミューズメントビル施設の建設ラッシュ真っ只中! ピンボールのような大型筐体を入荷・設置する余力をどこもかしこも持て余しており、アダムスのみならず同時期リリース「ザ・ゲッタウェイ」「リーサルウェポン3」「スーパーマリオブラザーズ」といった他社ピンボールまで誇らしげに軒を連ねていました。 これらアダムスバブリーにより、“やりたいマシンは遠くの店まで行かないと無い・なかなか見つからない”とこれまでの不遇を嘆いていたピンボーラーは、心底溜飲を下げながら束の間の黄金期を謳歌することとなりました。 ところが、この'92年の「アダムスファミリー」旋風を境に、ピンボールのゲーム性、ソフト、ハード等々のおおよその進化・発展は完全に頭打ちとなり、見る見るうちにピンビジネスのシェアが縮小してゆきます。 各社から発表されゆくどの台も、“誰でも楽しく打てなければならない”というプレイフィールドデザインの鉄則を忘れ、大量のミニゲームや複雑なプレイフィールドギミックをエスカレートさせたアダムス亜流台を濫作、マシンのテーマも映画コピライト一辺倒に偏重。当たるかも分からぬ公開前の映画を先行して製品化するなど、拙速的なコピライトの奪い合いへと発展してゆきます。 セールスに陰りが見え始めた'94年以降も、冗長で散漫な詰め込みミニフィーチャーの肥大化及びメカニクスの複雑化は更なる過剰を呈してゆきます。 特に“ワイドキャビネット”という、台の幅を一回り大きくしたサイズのピンボール筐体のレギュラー化はその迷走ぶりが顕著で、これにギュウギュウ詰めのメカフィールドを押し込んだ果て、業界の信頼性を失うようなゆゆしき初期故障や稼働不良が各社製品で頻発。 これら収拾のつかぬ混乱は'93年後半〜'96年前半まで続き、そのあまりの駄作の多さにマニアプレイヤーたちは眉をひそめながらも、結局手をこまねいている以外何もできず。私自身も臍を噛む程にもどかしかったことを覚えています。 故障の多さ、ルールの晦渋さ、メンテナンスの複雑さ、長時間プレイによる回転の悪化……等々、オペレーターサイドの負担増と初心者を無視した粗悪台の粗製乱造をひたすら繰り返し続けた果て。気づいた時には、もう手遅れでした。 '96年にはライバル他社であるプリミアとカプコンピンボールが業益不振で閉鎖。WMSも社内リストラを敢行し、8チームあったデザインクルーを5チームに削減。この時あのゲッタウェイのスティーヴ・リッチーやホワイトウォーターのデニス・ノードマン、ハリケーンのバリー・オースラーまでもが解雇されています。 その後も「シアター・オブ・マジック」「アタック・フロム・マーズ」など正気に返った良作が僅かに生まれるものの、スタート地点に戻れただけの延命に過ぎず。 WMSは'97年には300万ドル、'98年度に780万ドル、'99年度は700万ドル。当時日本円にして総計20億近い累積赤字を抱え、とうとう1999年10月25日、同社はピンボール部門であるウィリアムス/バリーの廃止を発表。 ピンボールラインの受け継ぎをミッドウェイ社に打診したものの、同社側はこれを拒否。PIN部門買収に興味を示した資産家もいたようですが最終的には実現せず。人員の解雇は勿論のこと、ウィリアムスの財産目録もパテントも、全て解体されることに。 1944年来、永らく愛され続けたWilliams/WMSの名門ピンボールの銘柄は、ここで最期を迎えました。 『僕らは1作ごとにピンボールというゲームを進化させてきた。スティーヴ・コーデックが毎年そうさせてきたように。だけど、もうこれ以上ピンボールのゲーム性を進化させるのは無理だ。でも終焉は迫っている。進化させなければならない。WMSピンボール内のひとチームのメインスタッフは僕を含めて6人だけど、ホワイドウッドを作成したりハーネスを張ったりするだけでも、社内のサポートは50人居る。WMS全体だとイリノイ州に1,600人もの雇用者がいる。みんなそれぞれ家庭を持って、子供を養っている。なのに、僕一人がしくじれば、彼ら全員が職を失うんだ。だから、四の五のこぼさず何としてでも新しい形の面白さを生み出さなければ。それで今、ピンボールのゲーム性及びストーリーラインをこれまでの2−Dから3−D的な表現の方向性に持ってゆく、新たな手法を模索中なんだ』 ……と、パット・ローラーは、何と早くも「トワイライトゾーン」発売後の'93年半ばの時点で、数年先の行きづまりを予見した内容の講演を、その年のピンボールショーでプレゼンしていました。 そのニュアンスからは、日々大変な重責を背負いながらプレッシャーと戦っていた述懐もしのばれます。 残念ながらピンボール産業は殆ど衰退してしまいました。業界全体の失策、自業自縛を糾弾する声も少なくありません。 ですが、ローラー氏は決して慢心して自滅していった訳でもなければ、変に気高く亡国と運命を共にする騎士気取りだった訳でもありません。 大勢の食い扶持を背負いながらも泥水をすするような満身創痍で、才能の枯渇を悟った負け戦からも決して逃げ出さず、そして敗れていたのです。 |
▲サイドランプレーン入口。マルチ時はここにスーパーJPが掛かる!尚シングル時に通すとミニフリッパーシュートのチャンス | ▲バックグラスのアップ。ラウル・ジュリアとアンジェリカ・ヒューストン。直後ラウルさんが亡くなられたニュースを聞いてとても驚いた | ▲ブックケース。G-R-E-E-D完成でこれが稼動、ロックホールが開く。因みにクイックマルチの際はここがビックポイントに。 |
▲スクープのアップ。実はバンパーの隙間が倍率アップのホースシューレーンになってるけど危なくて狙えない | ▲フィールド全景。フィールド間の顔のアップがジョンユッシーらしいセンス | ▲フィールド右上のサイドフリッパーの操作がゲーム上とっても重要。トレインレックとかサイドランプとか |
▲スロープホール(左)と中央ランプレーン。ココも意外と入れにくいもので、初ヤリの台だと結構苦労するのよね | ▲バンパー地帯。ゾンビが眠る墓場という設定 | ▲ReplayMagazine'99年12月号より引用。アダムスは未だ8位。シアターマーズも息長いけど時勢が違うよね |