各名門ブランド ピンボール・リスト

Bally/1994

ポパイ〜セーヴス・ジ・アース

原題Popeye Saves the Earth
製作年度1994年
ブランド名バリー
メーカーバリーミッドウェイ・アミューズメント・ゲームズ/ミッドウェイ・マニュファクチュアリング・カンパニー
スタッフ原案:パイソン・アンジェロ/デザイン:パイソン・アンジェロ、バリー・オースラー/美術:パット・マクマホン/メカニクス:ゾフィア・ビル/音楽:ポール・ヒッチ/ソフトウェア:マイク・ブーン/その他サポート:ジョン・ユッシー、ユージーン・ギーア、リンダ・ディール、スコット・マトリクス、パム・エリックソン、マーガレット・ハドソン/バックグラス画:パイソン・アンジェロ、ジョン・ユッシー
標準リプレイ点数2億5千万点
備考製造台数:4,217台/米リプレイマガジン誌ピンボールランキング'94年4月号8位の1ヶ月のみランクイン
▲ポパイのバックボックス。ポパイ、ブルートの他オリーブ、赤ちゃんスウィーピー、ハンバーガー好きウィンピー、犬のジープが描かれている ▲バイレベル構造が煩わしいプレイフィールド上部。一見賑々しいが重要なボールアクションが高架下の陰になっていて非常にやり辛い
▲フィールド下部。大海に浮かぶ船に見立てた強引なデザインで、名前は“Popeye's Ark”ポパイの箱舟号。ポパイは地球環境を浄化し、動物たちを救い出す ▲フィールド下部右端E-Y-E3枚バンク。反対側にもう3枚P-O-Pがある。完成させるとどこかにスピニッチ缶ライトが点く
▲ブルートの口を象ったスクープ型ロックホール。両脇のJABターゲット完成でロックリット。しかしこれがフィールド中心での大きな障害物となり、圧迫感を出してしまった ▲バイレベル上段には窓があり、トップレーンぐらいはどうにか目視できるものの、バンパー、左右ホール、左右ループが陰になって見えない
▲バイレベル上段では一対ショートフリッパーで赤ちゃんスロープ,アニマルランプ,2枚バンク,ウィンピーランプを狙う。但し打ち心地は悪い ▲ブルートの口でもあるロックホールのアップ。左右JABターゲットへのヒットの際はアウトレーンへのバッドバウンスにご注意
▲フィールド下部の各ライトはウィザードへの里程標に。イルカが囚われている海域については“SUSHI-SEA”と表記。つまり日本で寿司にされるイルカを助け出せ!という話 ▲スウィーピースロープ。各入口シュートで左折・直進・右折させ、ディスプレイでの迷路を脱出する。入っても跳ね返るわスピンして隣りのスイッチ踏んじまうわ、散々な出来
▲ホワイトウッドの段階では海底を模した地下フィールドまであってそこにボールを行き来させる、ゴットリーブの「ホーンテッドハウス」のような構造まであったそうだ ▲バックグラスのアップ。スケッチドローは元ディズニースタジオアニメーターのパイソン・アンジェロで、それを起案にジョン・ユッシーが筆を入れている

― COMMENTS ―
WMSバリー'94年製「ポパイ〜セーヴス・ジ・アース」はウィリアムスにとっては勿論、
 『これこそピンボール市場全体が瓦解し始めた悪夢のとば口である』
 ……と未だにマニアたちに囁かれ続ける、呪われた一作です。

 そのあまりに鈍麻な出来の悪さから、台のセールスもロケでのインカムも極めて低迷。

 業界誌のピンボールランキングではリリース月に一ヶ月だけ8位にランクインしたきり……という、まだ好景気の名残のあった時節のWMS製品とは思えない程の低順位に喘いでいます。

 最低数の買い取り義務及びダンピング不可という規約の上でウィリアムス社と契約していた当時の販売代理店各社は、ただでさえ通常より高価なポパイの過剰在庫に悲鳴を上げ、この圧迫に懲りた各社はWMSとのディストリ契約を次々と打ち切ってゆきます。

 日本のタイトーもその中の一社で、契約期間内におけるWMSバリーとのディストリ破棄が規約上難しいことから、次作「ワールドカップサッカー」以降の販売契約譲渡をテクモ社へ強引に持ちかけています。


 日本におけるポパイのプレイヤー評価も散々でした。

 筆者主催サークルでの'94年度ピンボール人気投票では、ワースト2の「レスキュー911」を大きく突き放してワースト1の汚名にまみれる悪評ぶり。

 しかも、レスキュー911は“ヘリコプターの装置が活躍不足でルールの偏りが酷い”等々、投票した皆が具体的な問題点を理知的にきちんと挙げて不評を下しているのに対し、ポパイへのコメントは

 “つまらない”“つまらないっす”“クサイ”“全然面白くない”“スカスカ”

 ……と、ダイレクトな直情的悪評が集中していたのも特徴的。

 実際にはポパイの打ち心地はどうかというと、ボールアクションもフリッパーショットも、大変に煩わしいフィールドデザイン

 大海を往く船の甲板に見立てた豪勢なバイレベル構造が完全に裏目に出てしまっており、陰になったフィールド高架下における球の挙動と軌道が把握できず、何がどうなってるのか認識できない。
 打ち返したボールが常に見えない位置から跳ね返ってくる、その気持ちの悪さと煩わしさたるや。

 一方バイレベル上段は位置が高過ぎて成人男性の身長でも見えにくくもどかしい上、メインのフィーチャーとなる赤ちゃん迷路脱出スロープは元来のコンセプト自体が良くないばかりか、仕掛けとしてチープ過ぎて全く盛り上がらない。
 またカチャカチャ動かして球をのっそり押し込むアニマルレスキューランプレーンの特殊キッカーが、ちっとも気持ちよくない。

 まるでスタッフ達が景気の良さに飽かしてピンボールの基本を放棄、高額ライセンスによるキャラクターグッズまがいの製品開発に腐心し尽くしたかのよう。
 そのプレイフィールドはゲーム性を高めるのではなく、高価なモールド,割高なメカニクス,巨額な使用許諾で予算をひたすら蕩尽する、やりたい放題の無法地帯と化しています。

 '60年代TVアニメのサウンドトラックをそのままサンプリングし、クリア且つスムースに再生した音楽は、'94年の技術としては大変に高いはずなのに、むしろ安っぽいイメージを前面させる結果を招きました。

 ポパイが汚染された環境を美しく清浄し、動物愛護に奔走、悪の権化ブルートを倒して地球を救う……という空々しいテーマ性も、毛嫌いされた理由のひとつ。
 加えるに、ボールロックスクープ内スイッチ及びキッカー関連の故障が多く、真面目に対峙しようとした一部のマニアプレイヤーですら音をあげてしまいました。


 WMSバリーはこの後、次々作「コルヴェット」ではセールスが最盛期の三分の一に下がり、更に翌年の平均セールスは四分の一末期'98年度の「チャンピオンパブ」「カクタスキャニオン」に至っては、なんと十分の一にまで急落してゆきます。

 勿論、この凋落は「ポパイ」だけが原因ではなく、「インディジョーンズ('93)」「スタートレック('93)」等の高セールス製品の頃から既に指摘されていた諸問題が溢れ出した結果であり、飽く迄ポパイは積もった火薬を破裂させる引き金となったに過ぎません。

 しかし、「ポパイ〜セーヴス・ジ・アース」は元ウィリアムス関係者にとっては痛々しい脛の傷であり、ピンボール産業全体に暗い影を落とした凶変であることは確かなのです。



【スキルショット】
 9つのホールから成る回転車輪にボールを放り込むタイミングスキルショット。オートシューター。
 10万、200万、1000万のダイレクトなスコアボーナスもあるが、オススメはライトロック、スピニッチリット、アニマル獲得、アイテム獲得あたり。
 尚このスキルショットのホイールヴァリュー。ボールロックの際にも毎度有効だし、バイレベル上段ウィンピーランプレーンからでも何度も落とせるので、活用しない手は無い。

【マルチボール/ジャックポット】
 左ランプレーンジャックポットが掛かる。1回目3000万、2回目6000万、3回目以降9000万。何度でも獲れる。
 ジャックポットを点けるにはマルチボールを開始すれば良い。尚JP再点灯はロックホール。
 ボールロックの箇所はブルートの口を象った中央スクープ。ロックを点けるには、そのスクープ両脇の赤いスポットターゲット2枚を完成させれば良い。
 但しこの赤ターゲットはアウトレーンへの跳ね返りが危ない位置なので、ロックライトはスキルショットのホイールで付けた方が無難。
 尚、このマルチボールはウィザード条件の必須項目である。

【ファイトブルート/ミニゲーム】
 時間制ミニゲーム[ファイトブルート]は右奥ホールで開始。全部で4項目。勝ち負け判定があり、負けるとやり直しとなる。
 ミニゲームのルールは、各位点滅ライトへのショットを間断無く続けることでポパイが優勢となり、もたもたしてるとブルートに押し負けられて敗退……という塩梅。
 ファイトの内容は、ブルートが海へプルトニウムを廃棄するのを防ぐ[プルトニウムウェイスト]、互いに相手の小部屋に足元から溢れてくるオイルを送り込み合う[スピルオイル]、次々燃やされる森林に対抗して気を植える[ネヴァーグリーンロッギング]……等々。
 尚一度消灯したファイトブルートのライトはトップレーン完成で再点灯。
 ファイトブルート全4項目のクリアはウィザードへの必須条件。

【アニマルジャックポット】
 サイ,パンダ,ヒョウ,タカ,イルカ計5種の動物全て救出すると、左ランプレーンに4000万点からのアニマルカウントダウン・ジャックポットボーナスがかかる。
 独特のモールド装置を割り当てた動物救出方法であるレギュラールールの説明は省略。実はアニマル救出の代用リット方法が2つあり、スキルショットホイールや点灯スピニッチショットで完成させた方が早い。
 全アニマル救出はウィザード必修項目。

【インスタントマルチボール/コレクトアイテム】
 アイテムを4つ集める左奥ホールにインスタントマルチボールが掛かる。4ボールマルチ
 アイテムの獲得は左ランプレーンに掛かる。アイテムライトを点けるレギュラールールは左右ループ入口脇にあるSEE-HAGターゲットの完成だが、スキルショットのホイールで付けた方が安全。
 尚4ボールマルチ中はアイテムジャックポットが望める。課役は4か所。中央スクープ脇ジャブターゲット、フィールド両端ポパイターゲット、バイレベル上段赤ちゃんスロープ、バイレベル上段ウィンピーランプレーン制覇せよ(1か所ワンショットでOK)。何度でも獲れる。
 このインスタントマルチはウィザード必修項目である。

【左ランプレーン/ループ数】
 左ランプへはショット回数到達によって獲得ヴァリュー有り。
 4,50でアウトレーンEx.点灯。8,12,16,20(エヴリ4ショット)でスピニッチ点灯。10でアニマル点灯。

【スピニッチ】
 左右ループ、左ランプ、左右ホール計5ヵ所あるほうれん草ライトが点灯していると、そこの獲得ヴァリューは2倍。点数は勿論、アイテム数やアニマル数も該当。左ランプでスピニッチリットした際でジャックポットが2倍で取れるのがデカい。
 尚「エアロスミス」や「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」等今のスターン台でも良く似た2Xフィーチャーがある。

【ループボーナス】
 左右ループレーン連続叩き返しフィーチャー。
 ループ成功1回目200万、2連続400万、3連続800万、4連続1600万、そして5連続以降は上限の3200万点。
 但し、ワンウェイゲート稼働でループが有効になるのは左右リターンレーン・レーンチェンジの[ライトループ]を通した時のみ。通常左右ループレーンへのショットはトップレーンリエントリとなる。

【エスカレーターポケット/セレクトフィーチャー】
 バイレベル上段へとキックアウトされるフィールド中部右端エスカレーターポケット。ここには常時セレクトフィーチャーが掛かっている。
 セレクトの項目はボーナス点の他、トップレーン点灯、アニマル点灯、Exリット、スペシャルリット、ライトロック等々。
 左右フリッパーボタンで選択出来るのだが、時間制限が短い上に“逆送り”不可の為、瞬時の判断力が問われる。
 エキストラボールリットが非常に重要。

【バイレベル上段/赤ちゃん迷路脱出/スウィーピースロープ】
 ポパイの赤ん坊を迷路から脱出させると5000万点獲得。
 迷路脱出の操作は、バイレベル上段のトップにある、3つの入口の赤ちゃんスロープ。スロープ左穴が左折、スロープ中央穴が直進、スロープ右穴が右折。
 結構理不尽な操作性とゲーム性である上、必修項目ではないので、無視した方が無難。フィーチャーとしてもつまらない。
 球がバイレベルに上がったら、ウィンピーランプレーンを狙うのが吉。
 もっと迷路に隠しEx.の部屋とか隠しマルチ部屋とか色々あったらまだ良かったのにね。

【セーヴオリーブ/6ボールマルチウィザードモード】
 2億点のスーパージャックポット+スペシャルが掛かったウィザードモード。
 前述の必修項目であるマルチボール,全アニマル救出,全アイテム獲得,ファイトブルート全勝を全てこなすとBGMが変わってスクープが激しくフラッシュ。そこへシュートすれば最終決戦6ボールマルチが開始。
 マルチ中の課役は全5ヵ所のスピニッチライト。全て仕留めて再びスクープホールに入れればポパイの勝利。ブルートを倒してスーパージャックポット&1クレジット獲得。

【削除されたプレウィザード/スピニッチ5ボールマルチ】
 サンプル台にはファイトブルート全勝で点灯する[スピニッチ5ボールマルチ]というのがあったようだ。
 しかし製品版、少なくとも国内タイトー販売版ではそのようなウィザードは削除されている。
 WMS社のポパイプロモーション動画ではその存在が示されているのだが、筆者実地の知見では未確認である。



 歴史的駄作として語り草にすらなった、この「ポパイ」が生まれたいきさつを辿ってみると。

 チーフデザイナーは「コメット('84)」「ピンボット('86)」「サイクロン('87)」「ファイヤー!('87)」「ジョーカーズ!('88)」等々、数々の名モデルを生み出して'80年代のウィリアムスを支えたはずのバリー・オースラー

 一方、企画立案はディズニーアニメーションスタジオの元スタッフという出自を持つ個性派プランナー、パイソン・アンジェロ
 遊園地経営に重心を置いてアニメ制作をなおざりにしていた映画低迷期のディズニー社に見切りをつけ、パイソンは'80年代初頭にウィリアムスへと入社。
 数々のピンボール企画の原案やアートワーク、モールドやメカニクスの設計、各パーツの継手やメカニクスのエンジニアリングを担っています。

 パイソン・アンジェロはアニメーター出身だけあって大のカートゥーン好き。更に動物愛護と環境問題に心酔していたパイソンは、自分にとって幼い頃から憧れのキャラクターだったポパイが、地球環境を浄化して危機に瀕する動物を救出する……という、夢にまで見たピンボール製品を立案します。

 漢方薬にされるサイ、マニアに売り飛ばされるパンダ、毛皮にされるヒョウ、乱獲されるタカ、そして日本で寿司にされそうになっているイルカを救出し、5つ全てのアニマルレスキューを完遂させると左ランプレーンに4000万点からのカウントダウン・ジャックポットボーナスが掛かる……などという薄ら寒いシノプシスは、そのパイソン・アンジェロ個人の思想に依拠しています。

 アダムスファミリー2万台越えセールスの大ヒットに沸くピンボールバブル景気の中、どんなハイコストの企画であろうと容易く通る気運と勢いにまかせ、彼は奇っ怪千万なバイレベルフィールドデザインスケッチの起案を叩き台とし、高額過ぎる「ポパイ」のプランニングを札片を切るように通してしまいます。

 当時のウィリアムスには、古豪スティーヴ・コーデックや音楽家クリス・グランナーのように、デザインチーフでなくとも人望とリーダーシップと統率力のあるスタッフがクルーを率いることも日常的。
 コメット,ハイスピード,ピンボットのような燦然とした功績のあるパイソン・アンジェロもそのうちの一人でした。

 パイソンに誰も意見できないというより、今は作れば何でも売れるし彼になら全部任せても大丈夫だろう……という油断と慢心が社内に蔓延っていたのかも知れません。

 プレイフィールド設計及びゲームデザインのバリー・オースラーは、チーフの自分はフィールド設計に専心してゲームデザインを新人やパートナーなどに好き放題任せるタイプの職人気質。
 「ピンボット('86)」の時のパイソンは勿論、「スペースシャトル('84)」でのジョー・カミンコウ「ブラムストーカーズドラキュラ('93)」マーク・スプレンガー、中には「ドクターフー('92)」ビル・フッツェンローターといった怪作の例をも含め、過去彼の驥尾に付すことによって才能を開花させたデザイナーの例には枚挙にいとまがありません。

 しかしそんな長所であるはずのオースラーの気質が、今回パイソンの迷走により大きく裏目に出ることになりました。
 救いようが無い出来であることが分かった時点でプロジェクトを破棄する英断を下せず、発売に踏み切ってしまったマネージメント側の失策も痛い。

 結局大変なハイコスト商品として通常筐体より割高な価格設定となったポパイのセールスは償却に程遠く、ウィリアムス社の過去にも例が無いほどの損失となることに。
 その後のWMSの信頼失墜と凋落をも考慮すると、決して大袈裟でなく、'99年に起こったウィリアムス破滅への破れ目になってしまった、傷ましい機種だったのです。

 “「ポパイ〜セーヴス・ジ・アース」以降、自社のピンボールがちっとも売れなくなった――”
 と、WMS社内でも、このポパイという存在は蛇蝎の如く忌み嫌われるものになっていったのでした。


 さて、長々と近代ピンボール史における「ポパイ」の位置づけを、飽く迄客観的に述べて参りましたが。
 筆者個人のポパイへの思いと感想を申し上げますと。

 実は、一プレイヤーとして十分フェイヴァリットと言える一作でした。

 確かに、プレイフィールドデザインのあまりの打ち心地の悪さに、初めてプレイした時には大いに閉口しました。
 発売前に関東の店舗でロケテストを打ってきた人にポパイの感想を聞くと、しばらく返答に窮したかと思えば、絞り出すように『なんか……ヘンなピンボールなんだけど……』と心苦しそうにつぶやいた訳が、痛いほど分かりました。

 ところがフィーチャーを精査してゆくと、誠にバリー・オースラーらしい、ルール同士の連結と噛み合いが随所で味わいを出していることが分かってきました。

 最終ゲームのルールは、当時最たるトレンドだったミニゲーム偏重ウィザードではなく、各部門,各フィーチャーに割り当てて点綴されたトータルウィザード方式であることは注目に値すべきで、アダムスやトワイライトで指摘されていた、ちっちゃなミニゲームスクープショットをちまちま繰り返させる煩雑なアンバランスさを解決しようとしています。

 尚且つ6ボールウィザードのルールにおいては、「スタートレック」や「ジャッジドレッド」のような、ビッグポイントが全レーンに無制限で延々掛かりっ放しという締まりのないものではなく、
 “全メジャーショットのスピニッチをマルチ中に全てしとめる”
 という明確な目的と課役があり
、全部クリアすると一旦全ボールがリセット。同時に勝利のデモが描かれてスーパージャックポット獲得!
 今では当たり前であるこのウィザードスタイルを採用したのは、ニュアンスの近い先達として「インディジョーンズ」のウィザードビリオンが僅かに一日長じるものの、

 [非ミニゲーム偏重のトータルウィザード]⇒[6ボールマルチ]⇒[全メジャーショットレーンへの課役]⇒[完全勝利で一旦ボールリセット+ウィザードジャックポット]

 ……という現在の原型且つ完璧なウィザードスタイルを確立したのは、何とこのポパイが初めてです。

 個人的に最も気に入っているのが[インスタント4ボールマルチ]
 こまめに4つのアイテムを全部揃えてから左ホールにシュートを決めると、突如ポパイのサウンドトラックをアップテンポにアレンジした曲へとBGMが変わり、ホイール回転が掛かりっぱなしになって4ボールマルチがわーっと生起する。
 難しいバイレベル上段へのショットも含めた課役4か所へのシュートを決めると、オリーブ,スウィーピー,ウィンピー,ポパイの4人が揃って乾杯!アイテムジャックポット5000万点が華々しいファンファーレと共に授けられます。

 負けるともう一度やり直しになるという、まるで今のスターン台のフィーチャーのような4つのミニゲーム[ファイトブルート]や、十分ジャックポット額の配当が高い上にダブルに出来る戦略も楽しい3ボールマルチだって、なかなか玩味しながら打てる采配です。

 加えるに、コンポーザーのポール・ヒッチが、クラシカルなTV版オリジナルサウンドトラックに大分寄せてアレンジした、各オリジナルBGMにも大いにときめきました。
 特にウィザード勝利後、余韻に浸りながら聴けるスウィングジャズ調「ポパイ・ザ・セーラーマン」は、本気で一聴に値するキュートな出来。ネーム入力時にも聴けるぞ。

 地元で状態の良いロケーションでの設置に恵まれたこともあり、筆者にとって大学時代をめいっぱい捧げた、思い出深い一機種となっているのです。


 しかし2018年となった現在。
 見識とメンテナンスの腕に覚えのある有志達が日本各地でピンボールスポットを新たに構えていますが、発売当時プレイして以来20年余、私は二度とロケーションでポパイに出逢えてはいません。

 某社オペレーターに至っては、かつてポパイを2台も引き取ったものの、見たくもないので即解体してパーツ取りにあて、プレイフィールドやバックグラスなど他機種に使えないものは速やかに破棄したそうです。

 かのコインマシンの歴史家・故リチャード・ビュッシェル氏ですら、現代ピンボールのワーストワンは「ポパイ」であり、一時期これこそ世紀の駄作になると思われていたWMSバリー'91年製「バッグスバニーズバースデーボール」ですら、遥かにましな台に見える……と言及しています。

 ピンボールの歴史上、誰も思い出したくないし、見たくもなければ触りたくもない。誰もが外へ出したいと思わないし存在させたくもない。
 そんな憤慨を一身に受けたポパイは、数千台の製造ユニットで世に出されたにもかかわらず、プレイヤー達によって無かったかの如く葬られたような存在になってしまいました。

 私もこんな台は世に生まれない方が良かったと思う。それでも、今はこのマシンが恋しいです。


▲バイレベル上段の2枚バンク赤ターゲットを完成させるとアニマルレスキューヴァリューが2倍となる ▲ランプレーンのワイヤーが走る上部右奥。実はボールフローはあれこれ巧みにつながっている ▲左ループレーンと左ランプレーン。せっかくランプレーンでのJPは高額なのに、軌道が全然見えないので獲得時の爽快感がない
▲スキルショットのホイール。回転速度は一定なので、何度かプレイすれば好きなポイントへ確実に落とせるようになる ▲フィールド全景。理由は分からないが、国内タイトー販売版では左右アウトレーンのポストが両方とも引き抜かれていた ▲ボールを下段から上段へ一気に蹴り出すエスカレータースロープ。絵はなかなか可愛らしいのだけど。
▲アニマルランプレーン。各動物のポイントへキッカー操作でボールを押し込む。直後左右ループショットでアニマル救出成功。 ▲タイトーはポパイを最後にバリー台のディストリを打ち切る。その後立場が苦しくなったWMSは契約条件を緩和してタイトーと再契約 ▲しかし再契約後は最低限度数買取義務が廃止された為、タイトーは結局NBAとリヴェンジマーズしか日本にリリースしなかった

(2018年10月5日)