各名門ブランド ピンボール・リスト

Sega Pinball/1995

アポロ 13

原題Apollo 13
製作年度1995年
ブランド名セガ・ピンボール
メーカーセガ・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフデザイン:ジョー・カミンコウ、ジョー・バルサー/美術:マーク・レニージス、ジェフ・ブッシュ/ドットアニメ:ジャック・リッドン、カート・アンダーセン/メカニクス:ジョー・バルサー、ジョン・ボーグ、ロブ・ハータード/音楽:ブライアン・シュミット/ソフトウェア:ロニーD.ロップ、オリン・デイ
標準リプレイ点数60億
備考米ピンボールマガジン誌ピンボールランキング10か月ランクイン、初登場'96年1月号1位、2ヶ月連続トップ1
▲プレイフィールド上部。実働するサターンXロケットと月のミニチュアの存在感が抜群で、ロケ―ションでのプレイを訴求している ▲バックグラス。ケヴィンベーコンといいゲイリーシニーズといいビルパクストンといいエドハリスといい、コクのある名俳優ばかり!都合によりトムハンクスはバイザー着用
▲マグネットキャプチャが稼働する月の模型。BLASTOFFレター進捗時やスーパージャックポット獲得時に発動! ▲4枚バンクのスタンダップ。左からの順列ヒットによる完成で右ランプにムーンハリーアップが掛かる
▲中部左端にあるD-O-C-Kターゲット4枚バンク。通常での役割はミステリーリットだが、ミニゲームMissionでは4回ヒット完遂でEx.のご褒美が! ▲バンパー地帯とトップホール。JPヴァリュー上昇はバンパーヒットに掛かっているので結構重要。因みにホールにはミステリーが掛かる
▲エド・ハリスとゲイリー・シニーズが描かれるバックグラス左下クローズアップ。二人とも顔が怖い俳優さんだがピンボール文化にはご理解をお持ちです ▲フィールド下部。ピンボールには宇宙のアートが良く似合う。尚両フリッパー間にはアップポストが設えられている。

― COMMENTS ―
セガピンボール社1995年発表「アポロ13」は、トム・ハンクス主演,ロン・ハワード監督同年同名の映画がモチーフ。
 同時期ピンボール市場低迷の時節においては十分な佳作に数えられる一機種です。

 当時のピンボール産業は迷走する各社が駄作を連発。
 オペレーターからも消費者側からも急速に見放されつつありましたが、「アポロ13」は米リプレイマガジン誌ピンボールランキングで二ヶ月連続トップ1という、意外な好成績を打ち立てます。
 更に'95年度は勿論'96年度をも含め、セガピンボール製品の中ではナンバーワンのセールスを誇るモデルとなりました。
 また、受賞は逃したものの、同年AMOAの最優秀ピンボール賞においては選考にノミネートされ、かの「アタックフロムマーズ」「シアターオブマジック」と轡を並べるという健闘まで果たしています。

 実際にフィールドを覗いてみると、リフトスロープを降ろしてボールフローをディヴァートするループショット、自転する月の模型が重力の如くボールを捉えるマグネットキャプチャー、実働で稼働するサターンXロケットへのボールショット……等々、打ち応えのあるフィールド構成とギミックが随所に用意されています。
 しかし何と言っても、初心者プレイでも突如起こり得る狂乱的13ボールマルチの実現には誰もが驚嘆させられました。

 日本でもディストリのデコからまとまった数をセガが買い取ってくれた為、アーケードにおけるピンボール自体の株が急落していた時期にもかかわらず、当時の《セガワールド》《ギーゴ》と言ったロケーションでアポロ13の雄姿を見かけることができたのです。

 当時筆者も、地元のロケーションに足しげく通って打ちに行っておりました。
 若干13ボールマルチ関連のトラブルが時折見られ、店のメカニックさんと相談しながら調整してもらうこともあったものの、《セガワールド知立店》や《セガワールド安城店》に昂然と足を運んだのを懐かしく思い出します。

 粗いサウンドやグラフィック、頼りないメカニクスのぎこちない稼働もご愛嬌。
 ウィリアムスの「スペースミッション('76)」といい「スペースシャトル('84)」といい、宇宙開発テーマはピンボールと相性がいいようですよ。



【スーパージャックポット】
 右ランプレーンにジャックポット4回分が総額となるスーパージャックポットが掛かる。大体2億ぐらい。時間制。
 スーパーJPを点けるには、左右ループ、スピナー、右ホールに点く一千万点×マルチボール個数額のジャックポットを全て獲得すればOK。尚ジャックポットを点けるはマルチボールを開始させるべし。

【マルチボール/ジャックポット】
 初回は3ボールマルチ。マルチボールリーチはサターンXロケットに掛かる。リーチにするには繰り返しサターンXに打ち込み続ければOK。ロケットレーン袂の盤面デジタル電光表示が残りのショット必要回数。
 尚マルチ中は上述のジャックポットボーナスの他、サターンXでもボーナス有り。ヴァリューはロケットたもとのデジタル数字×百万。
 ところでマルチボール開始時、アポロ13号発射のカウントダウンのデモンストレーションがあるが、この時シューターのハンドルを捻って発射を中止できる。今の状況でマルチを消費したくない時に便利。

【13ボールマルチボール】
 ボール総計13個のマルチボール。本当に13個のボールがフィールドへいちどきに射出される。
 バックボックス下部パネル部分のバックライトB-L-A-S-T-O-F-Fのレターが完成している状態で、通常のマルチボールをスタートさせると13マルチボール突入。13マルチ中はロケットにボールの個数×一千万+全スイッチ毎100万のロケットジャックポットが掛かる。
 更にロケットJPを5回獲得するとムーンスーパージャックポットが右ランプレーンに。ヴァリューはロケットJP全5回分の総額+一千万。
 BLASTOFFレターの進め方は、ゲームスタート及び各ボールスタート時に進む以外ではランプレーン・ループレーンのコンボで進捗。

【最終ウィザード/時間制5ボールマルチ/マスターアラーム】
 右ランプレーンにウィザードヴァリューが掛かり続ける時間制5ボールマルチ。額は一千万+エヴリスイッチ百万点。他のマルチもそうだが、スイッチ数が重要なのがミソ。
 ウィザードを行うには9つのミッションを全て終了させること。

【ミニゲーム/ミッション】
 右端下部キックアウトホールで9つのミニゲームに挑める(再点灯作業の必要は無し)。
 内容はランプショットやループショット、ターゲットヒットを時間内に課すミニゲームスタイルだが、フィールド構成が良い上に映画場面に絡めたデモ描写が機知に富んでおり、なかなか楽しめる。
 今のスターン台のようなコンプリート制ではないが、ミッションによっては粘ると4億5億稼ぐことも可能なので袖には出来ない。
 コンプリート終了でEx.のご褒美がある[Docking]や、気楽な2ボールマルチ[Rocket2-Ball]、なんてのも。勿論通常のエキストラリットも有り。

【オービットフィーチャー】
 左右ループショットで盤面下部に描かれた、月を軌道するスペースシップを規定位置へ進捗させる度に順列で得られるイベント。
 A段階目で[VideoMode]リット(タイトーの「ルナレスキュー」みたいで結構面白い)、D段階目で[PowerDown](全メジャーショットレーンに高額アローライトが時間制で点灯)、G段階目[PowerUp](一か所点灯のアローライトに従って高額ショットを次々決める)K段階目[SplashDown](左右ループが高額化する5ボールマルチ)で完遂。

【ミステリー】
 トップホールに点くランダムボーナス。下部左端D-O-C-K4枚バンク完成で点灯。
 内容はボーナス点、ボーナスホールド、BLASTOFFレター進捗、スペースシップ進捗、マルチボールリーチ、Ex.リット、Sp.リット、13ボールマルチ突然スタート!なんてのも。
 [ミステリーマルチボール]が現出することもあり。スピナーに2千万〜9千万のミステリーが掛かるかなり有益な3ボールマルチなのだが、なぜか筆者には一度も出たことが無い。一般プレイヤーが出してしまったのを後ろで二度も見たことがあるだけに謎である。



 『13ボールマルチがおバカで楽しい!』
 『13マルチが一見ゲテモノのようでミニゲームとプレイフィールドのバランスがいい』
 『ロケットや月によるマグネットキャプチャやカウントダウンの演出が効果的』


 ……と、当時のプレイヤー達による評価は上々。

 時折起きた13マルチ関連のメカトラブルや、作動が心許なくキレが悪いディヴァーター、粗いサウンドとドットアニメなど、相変わらず生硬なセガピンボール台の品質水準の域からは出ていないものの、左奥ランプレーンにストックされた8個のボールが一斉に放たれる13マルチの極北的演出は前例が無く、各ロケーションで強烈なインパクトを残しました。
 しかも13マルチが決してコケ脅しに終わらず、ロケットと右ランプレーンにきちんと稼ぎ処を用意してあるのにも快哉。

 ただ13マルチにおけるスコア配分が大き過ぎるので、もしBLASTOFFのレター進捗がしょっちゅう進まず且つプレイごとにシビアにリセットされ、ランプレーンのみで進められる難易度にすれば、オービットフィーチャー進捗とも上手く噛み合い、13マルチの巨額ジャックポット配分はかなりいい感じの得点バランスになりそう!

 右下ホールへのワンショット一発だけで始まってくれるミッションと、ループショットの成功で開始できるスペースシャトルアウォード。この両輪の構成で楽しめるミニゲームも興趣に富んでいます。
 完遂でEx.のご褒美あり、カウントダウンボーナスショットでヴァリュー固定+メジャーショット通しまくりあり、数億点規模の稼ぎ処あり、しょうもないようで意外と熱くなるビデオモードあり……と、映画場面に因みながら確実にスコアを伸ばし、最終ウィザードを目指して歩を進めてゆく到達の満足感があります。

 個人的に気に入っているのが、マルチボールで月のマグネットを稼働させて得られるスーパージャックポット獲得後の壮大な音楽。
 荘厳な交響曲が粛々と奏でられるそのひとときは、何だか胸を打つほど感動させられそう。

 同時期のウィリアムス社がレコーディング音源を高音質でそのまま再生する自社サウンドシステムを開発していたのと比べると音響は格段と悪いのに、こちらの方がピンボールミュージックらしくて好感がもててしまうから不思議。映画の雰囲気が満点で、より満足度を昂揚させてくれます。

 セガピンボールはこの後、習作と良作の織り成しを繰り返して重心をぐらつかせながらも、「ツイスター」「インデペンデンスデイ」「ゴジラ」等で迷走期におけるゲーム性を徐々に軌道修正。そして「サウスパーク」のヒットにより自恃を持ち直した同社はセガ系列から独立。スターンピンボールインクへと刷新することになります。

 それまでの「バットマンフォーエヴァー」や「フランケンシュタイン」など、目を覆うような駄作が続いていたセガピンボールのダークホース的な佳作となった本機種。
 アポロ13号はその後の新生スターンの方向性を導き出す布石のひとつとなりました。


 ところで、このアポロ13の白眉である13ボールマルチ

 実を言うとデータイースト時代のスタッフが以前、「ジュラシック・パーク('92)」で一度商品化に失敗した装置でした。

 当時他社が開発中の「トワイライトゾーン」が6ボールマルチを搭載していることを察知したデータイーストが、その対抗策として自社製ジュラシックパークピンボールにおいて12ボールマルチを考案したものの、ボール処理の構造が実現化し切れず断念。
 そのメカニクスは同社の棚に眠ったままとなっていました。

 それが今回日の目を見ることになったのですが、言い出しっぺはプログラマーのオリン・デイ
 “アポロ13号なんだから13ボールマルチにしようぜ!”

 チーフデザイナーのジョー・カミンコウはお蔵入りとなっていた12個マルチボールメカを3年ぶりに引っ張り出し、それを主軸にゲームルールとプレイフィールドを練り上げてゆくことになりました。

 それに伴って大変な苦心惨憺を担わされたのがメカニクス担当のジョー・バルサー

 “全13ボールのコントロールを安定させるのが大変だった。いちどきにボール13個をプレイフィールドに放つ機構を実現化するなんて狂気の沙汰だよ!”
 “そこで考案したのが特製メンブレインスイッチ。通常のエプロン下のトラフに5個、トップのトラフ収納ボール個数を8個に分け、トップ側にはそれぞれメンブレインスイッチパッドを八つ分あてがって、どうにか実現した。”
 “心配だったのはファクトリー行程で、この8個のスイッチを製造し、組み立て、更にトラフに組み込んで調節する複雑なアッセンブル作業が不可避になる。誤作動や不良品が出ないよう細心の注意を払う必要があった。でも結果的にこの選択は正解で、故障や不良も少なく予算も抑えられ、且つメンテナンスも行いやすい、理想の仕上がりになったんだ。”


 しかしまだ問題は残っていました。映画主演であるトム・ハンクスの肖像権。この点で苦労させられたのが美術担当のジェフ・ブッシュ

 アポロ13号制作途中、チーフデザイナーのジョー・カミンコウは次作「007ゴールデンアイ」のピンボール化ライセンス取得の為にロンドンへ渡英。制作の指揮はジョー・バルサーロニーDロップに任されることに。

 ところがその間、ロンドンのカミンコウから“主演のトム・ハンクスがピンボールのアートワークに自分の肖像を描かれることを拒絶した”という旨の手痛い連絡が入ります。

 慌てたブッシュは既に出来ていた草案及び素描を一旦没にし、ハンクスが登場しないアートワークに急いで練り直す必要性に迫られてしまいます。

 そこで彼は2枚のバックグラスアートを試作。
 ひとつは削除するトム・ハンクスの代わりに中央に爆炎を揚げて飛び立つサターンXを描き、その周りに他の俳優たちを描いたもの。
 もうひとつは、トム・ハンクス扮する宇宙服姿(で顔が見えない)ジム・ラヴェル船長のバイザーに、まばゆく差し込む太陽と地球が反射している!……というもの。

 御存じの通り、採用されたのは後者の方。
 トム・ハンクスの非協力的な姿勢を逆手に取ったJブッシュの閃きと功労により、荘厳で引き締まった雰囲気を醸し出すアートワークが生み出されることとなったのです。

 更に功績を評価されるべきなのが、実質カミンコウが抜けた後のデザインチームを率いることとなったジョー・バルサー

 “初号の試作台と製品版とでは大まかなルール変更は行ってないよ。試作の段階で既にとても良い出来だったからね。プレイフィールドの各メジャーショット、特にオービットレーンはこれまで手掛けたレイアウトには無いタイプで、とても出来がいいんだ。”
 “プレイフィールドで実働してボールを処理する月とサターンXを是非稼働させたかったんだけど、予算の問題で月のメカニクスは削除する検討が出た。しかし実際の仕上がりを見て、その抜群の演出効果と出来の良さから満場一致で採用することになったんだ。”
 “1分半のボールセーヴ保証が付くノーヴィスクラスを選択しても13ボールマルチゲットは可能だし、マルチ開始は最短45秒程度で辿りつける。ロケットショットが出来なくてもマルチにすることだって出来るようにした。このアポロ13のエキサイティングなマルチルールとガジェットは、初心者にも是非繰り返し楽しんで貰いたいからね。”


 ……と、彼の言葉からは仕事にも商品の出来にも十分満足している心持ちが窺えます。


 そして現在。お馴染の日本国内最大のピンボールスポットである大阪心斎橋ビッグステップ内《SILVERBALL PLANET》において、シューターの操作レバーがボタンにすげ替えられてはいるものの、アポロ13号は十分良好のコンディションで稼働中。
 大分お店の奥の方に置いてあるけれど、プレイの感触は誰にとってもここちよい台なので、未プレイの方は是非ご体験の程をどうぞ。


 そうそう、アポロ13のデモ中ディスプレイに、ロン・ハワード監督へは勿論ケヴィン・ベーコン、ビル・パクストン、ゲイリー・シニーズ、エド・ハリスら、肖像使用を快諾してくれた出演俳優さんたちの名前を出し、セガピンボールスタッフらは皆に謝辞を述べています。しかも個性派名優揃い!

 エド・ハリスに至っては、完成初披露となったマシンショーでセガピンボールのブースに顔まで出してくれており、カミンコウとバルサーの3ショットの記念写真では気さくな笑顔を見せてくれています。
 いいなぁ、セガピンボールブースや会場への関係者VIPパス。そして映画俳優と交流できるカミンコウたちも。両方が羨ましい!
 ピンボーラー側としては、俳優さんがたのこういう姿勢や心意気は嬉しい限りです。

 ……それを考えると、肝心のトム・ハンクスだけは何だか印象変わっちゃいましたね。
 ハンクス、役のイメージと違って本人の人柄も器も、大分ちっちぇー説。



▲フィールド左上付近。左ループ、スピナー、ロケットレーンと込み合っているが、意外と通ししにくくない ▲リフトスロープ付き左右ループを開通させた上でのトップレーン、バンパー、ターゲットバンクの配置もかなり凝っている ▲狙って通った時が嬉しい右ランプレーン。台にもよるが実はホールディングした右フリッパーからでも上げられる
▲左上奥ランプレーンは13マルチに備えた8個ボールストックするトラフの役割を果たしている。 ▲プレイフィールド全景。左右のどちらにも偏りや圧迫が無く、なかなか良い構成 ▲ランプレーン及びワイヤーレーン縦横無尽に走るフィールド右上付近。シューターレーン、ループ、ランプショットを導く
▲マルチボールを生起させるサターンXロケット。実はホールディングとデッドフリッパーバウンスを併用して狙い打つと攻略は簡単 ▲トップレーン及びトップホール付近。バンパーヒットをよりスリリングにする構成 ▲右下キックアウトホール。ミッションやエキストラ、ジャックポット、ビデオモードが関わる重要箇所だが、入れるのはちょっと難しい
▲マルチ開始時にはモーター稼働でゆっくり角度が擡げられるサターンXロケット。発射のカウントダウンにも緊迫 ▲この辺結構好き。ループもスピナーもスタンダップも、ヴァリューが掛かっている時に狙い打ちが決まるととても気持ちがいい ▲デザイナーの一人L.D.ロップは、シンプル且つエキサイティングな13マルチを実現させた一人として、とても自身を持っているという
▲フィールド下部左下付近。なぜかリターンレーンスイッチの位置がいつもと違う ▲唯一指弾すべき難点はこの頼りないランプレーンディヴァーター。ボールが突っ切ってしまい、捌く役割を果たしていない ▲最後はフィールド右下付近のショットで。ご清読誠にありがとうございました

(2019年1月28日)