各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2019

エルヴァイラズ・ハウス・オブ・ホラーズ(プレミアム版)

原題Elvira's House of Horrors(Premium Edition)
製作年度2019年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフデザイン:デニス・ノードマン/ソフトウェア:ライマン・シェイツ/美術:グレッグ・フレーレス/グラフィック:チャック・アーンスト/メカニクス:トム・コペラ/音楽:ジェリー・ソンプソン/ヴォイススピーチ:カサンドラ・ピーターソン、ティム・キッツロウ/バックグラス画:グレッグ・フレーレス
標準リプレイ点数
備考

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【1st.インプレッション&雑感】

 一時はどうなってしまうのか……とプレイヤーを永らくやきもきさせていたエルヴァイラピンボールの第三弾「エルヴァイラ〜ハウス・オブ・ホラーズ」が、2019年9月に無事スターンピンボール社から発売された。

 エルヴァイラ、及び彼女とピンボールの関係性について撮要を済ましておくと。
 日本で言うなら“女デーモン小暮風メイク”をした“LiLiCoのようなマシンガンハイテンション解説者”が、
 その強烈なパーソナリティで“古びた三流ホラー映画”の番組途中から盛んに茶々を入れ、
 その安っぽさと退屈さを豪快に笑い飛ばす芸風で人気を得た“映画コメンテーター”
 ……と言えばいいだろう。

 '80年代の第1期ブーム時には日本へ人気の波及があり、来日の際には日本テレビの「金曜ロードショー」で故・水野晴郎と共演を果たした。
 但し現在の世代間では双方の知名度は下がりつつある。

 一方本国では2010年代以降にも再びエルヴァイラの冠番組が複数放映され、当人の容色とトークの凄味は全く衰えることなく、今も人気は根強い。

 勿論ピンボール化された製品の人気も芳しい。

 過去WMSバリー製2機種「エルヴァイラwithパーティーモンスターズ('89)」「スケアードスティッフ('96)」は製造台数云々より、プレイヤー評判と作り手側の熱意がすこぶる高いのだ。
 荒ぶるランプレーンボールフロー。モンスター達のフィギュアのギミック。随所で弾ける出落ちギャグや一発ギャグ。妖艶で快活、尚且つ毒気たっぷりな快活ヴォイススピーチ。
 音楽やサウンドも、ゴシック調オルガンフーガにロックンロールの彩りを添える作曲手法で1作目,2作目共に絶好調。
 どちらも買って損は無いコレクターズアイテムとなっている。

 そんな伝説のエルヴァイラピンボールが、2010年代後半のピンボールブームに乗って再々降臨。しかも今回は今や最大手のスターン製。愛好家も関係者も感無量だ。
 スタジオ収録とアニメーション全開のLCD演出、まばゆいLEDイルミネーション、クリアな音響等々、最新技術も大車輪。


 今般のメインテーマは『ムービー・マカブレ』
 舞台は[For Sale]と掲げられたエルヴァイラの幽霊屋敷。映画に巣食っていた悪霊達が、屋敷が売り飛ばされるのを知って怒り狂い、エルヴァイラとプレイヤーへの復讐に乗り出すのだった!
 ……という一応のプロットが据えられているが、元々は彼女がホステスを勤める映画放映番組がバックボーンだ。

 放映プログラムのラインナップはこう!

「マノス〜ザ・ハンズ・オブ・フェイト(未'66)」/ホーントモードの一編/言いたいことが全然伝わってこない作品
「ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド(未'68)」/ホーントモードの一編/皆が知ってる名作はコレくらいか
「ティーネイジャーズ・フロム・アウタースペース(未'59)」/ホーントモードの一編/巨大ザリガニとガイコツ化レーザー銃が楽しい
「ザ・ブレイン・ザット・ウドゥントゥー・ダイ('62)」/ホーントモードの一編/夫の狂気的医療で生き続ける生首婦人の話
「双頭の殺人鬼('59)」/ホーントモードの一編/実は日本映画
「ザ・ワーウルフ・オブ・ワシントン(未'73)」/ホーントモードの一編/最後の最後でアメリカのVIPが人狼化するという、ハウリングを先取りした内容で結構面白い
「アタック・オブ・ザ・ジャイアント・リーチス(未'59)」/隠しホーントモードの一編
「サンタクロース・コンクアーズ・ザ・マーシアンズ('64)」/隠しホーントモードの一編
「ザ・ワイルドウーマン・オブ・ウォンゴ(未'58)」/レギュラーマルチボールの一編
「大巨獣ガッパ('67)」/日活の怪獣映画がウィザードのひとつ[ガッパアングリー]で大々的に引用

「ア・バケット・オブ・ブラッド('59)」/ロジャー・コーマン監督作
「ビースト・フロム・ホーンテッド・ケーヴ(未'59)」
「ドント・ルック・イン・ザ・ベースメント(未'73)」
「イーガー(未'62)」
「ヘラクレス・アンド・ザ・キャプティヴ・ウーマン(未'63)」
「アイ・イート・ユア・スキン('64)」
「ジェシー・ジェームズ・ミーツ・フランケンシュタインズ・ドーター(未'65)」
「レディー・フランケンシュタイン(未'71)」
「スケアード・トゥー・デス('47)」/ベラ・ルゴシ主演
「ザ・ジャイアント・ギラ・モンスター(未'59)」
「ザ・キラー・シュルーズ(未'59)」
「新ドラキュラ悪魔の儀式('73)」/由緒正しいハマー映画
「古城の亡霊('63)」/ジャック・ニコルソン,ボリス・カーロフ主演作
「蜂女の実験室(未'60)」
「トーメンテッド(未'60)」
「アンテイムド・ウーマン(未'52)」


 中には巨匠のデビュー作や著名監督,著名人出演によるムード満点の怪奇映画も散見されるものの、その殆どは、笑われても仕方がない古びた低予算映画ばかり。

 映画制作者や関係者の多くは鬼籍に入り、権利もとっくにパブリックドメイン。
 そんな'40〜'70年代の三流SFやホラー作ばかり槍玉に挙げ、やいのやいのいじくりまわす楽しさたるや。

 エルヴァイラのお屋敷に突入する度、映画放映とエルヴァイラの解説が始まり、時間制で点滅ショットをこなし、お粗末なハイライトをクリアしてゆく。

 『ジャ、ジャ、ジャーン!THE END...』としょぼいエンディングが流れると共にエルヴァイラも“まぁ〜〜散々だったわー”とこきおろし、その《クズフィルム》はポイっとゴミ箱に投げ込まれる。

 このラストのプリント放擲に加えてハサミマークの点いた左右ランプレーンを通しておけば、しっかり切り刻んでから無事に処分が出来たということで、カウントダウンボーナスで稼いだ額が2Xになるご褒美有り。ひでぇもんですな。

 ただ、不思議と作品への侮辱や蹂躙はあまり感じられない。むしろ映画愛と人類愛に溢れるエルヴァイラ様のお人柄や温かみの方が伝わって来るのだ。

 20世紀半ばにはハリウッド映画製作システムが転換期を迎え、ドライブインシアターや2本立て深夜興行が流行り、これは儲かるぞ!と素人がこぞってSF/恐怖映画制作に手を出した。
 その結果、気付けば誰も顧みない、うんざりするような古びたC級映画の山積が後世に出来上がってしまった訳だが、それに対し新たな史料価値と笑いの要素を見出せる唯一無二の才媛。それがエルヴァイラなのだ。
 当時の映画情勢と時代風俗を偲ぶことが出来る機会を与えてくれた彼女に、改めて感謝したい。


 一方、レギュラーマルチボールは2種あって、お屋敷左脇の墓石を突破して3ボールロックマルチと、左ランプレーン下り途中で木箱が開く2ボールロックのマルチボール
 ジャックポット赤ライトがわんさか点くし、お屋敷のホーントモードと重ねる戦略もてきめん。3マルチ「ワイルドウーマン」のLCDデモもかなり楽しい。
 因みに、マルチのボール個数がきちんとポケットに貯め込まれてからリリースされる実働ボールロック方式。
 ロックもスキルプランジも省いて大量マルチが唐突に発射される近代スタイルが気に喰わないこだわりのご貴兄には嬉しい施し。

 他、納骨堂に巣食う口やかましいデッドヘッズ一族の悪霊退治、左右ランプレーンで開始されるミッドナイト乾杯パーティー、左右ループで始まるクラシックカーの爆走、禍々しくも気のいい奴らな二対ガーゴイルが「ジャンプ・ジャイヴ・アン・ウェイル」に乗ってダンスタイムを繰り広げるプチボーナスタイム……等々、役の完成で様々なビッグポイントが望める中。

 最も印象的なのは[フリークフライヤー/ガッパアングリー]

 大掛かりなウィザードのひとつで、スイッチ数で上昇する“フリークフライヤーギガワッツレベル”がMAXに届くと、お屋敷突入でボールロック賞に特化したフリークフライヤーモードへ。
 随所にボールロックする度にレベルが上がり、上限6個ロックまで完了すると[ガッパアングリー]開始!
 ……熱海のホテル街にガッパ襲撃!壊される温泉旅館!浴衣姿で逃げ回る観光客!あぁっガッパの卵が大変だー!
 とLCDで挿入されるデモの強烈さをよそに、6ボールマルチウィザードで荒稼ぎだ。

 尚、ガッパアングリー完勝に届かなくともご安心を。ボールロック1個で力尽きると[プールパーティー]、2個で終わると[ダンスフィーバー]等々、スコアヴァリューは小粒になるがどれも楽しいウィザードが用意されている。

 個人的に一番気に入ってるウィザードは[ディレクターズカット]
 ホーントモードでフイルム処分までコンプ終了すると“Bレストレーター”レベルが上昇。レベル4到達+お屋敷突入で超高額コンボショット・シングルボールウィザードが開始。
 優雅なラウンジミュージックとは裏腹に、危なっかしい連続ショット工程ばかりプレイヤーに課す、そのシビアさには大いに腕が鳴った。


 さて、ゲーム性に対する巧拙評価は、減点したり、酌んだり、指弾したり、欲目で見たりしてあれこれ差引の末、結局は5段階評価で3点ぐらいにしておきたい。

 演出やキャラクターの楽しさ、テーマ性の良質さを考えると、もっと面白くならなければならないはずでは?
 前作、前々作と比べてLCDとサウンドのデモのスケールアップは当たり前として、プレイフィールドのトイギミックが随分と寂しくないか?
 デッドヘッズも、ホーントウィザードデモも、トランクのアイテムも、全部コードが未完成だって!?
 しかも後追いコードアップデートも異常に遅い。発売からもう1年過ぎているのにどうなってるんだ?

 ……等々、今や殿堂入りを果たしたエルヴァイラピンボールの満を持した3作目にしては、仕上がりに未消化な箇所が目立ちすぎる。

 殺伐とした映画やテーマ性の割にハピネスに満ちた演出ばかりで楽しいし、「シャウト」をBGMに初心者でも達成可能な6ボールマルチウィザード[ハウスパーティー]はフィールドXやガーゴイルダンス、マルチボールエクステンドまで次々連鎖して大いに盛り上がる。

 前述のように6回ものボールロックを慎重に積み重ねて長丁場の精神力が試される[ガッパアングリー]の達成感も万感格別だし、失敗しても他に5つもウィザードルールがあてがわれるという興趣に富んだ凝りようも舌を巻く。
 遊園地のように次々とアトラクティヴなイベントが生起して全く飽きさせない。

 虚心坦懐に言えばゲーム自体は良質である。

 しかし100点満点判定で120点は行かないと納得できない。80点では溜飲が下がらない。

 “エルヴァイラ”とは、それほど素晴らしい素材なのだ
 プレイヤーにとって心残りに後ろ髪が引かれるような、魅力的な失敗作……と真贋を下させて頂きたい。


 さて、“プレイフィールドがシンプル過ぎて物足りない”“発売が遅れた上にコード更新も遅い”等、かように指摘されるの欠点の数々には、実はのっぴきならぬ制作側の事情があった。

 この機種は元々スターン社側の発起ではなく、エルヴァイラピンボールシリーズの生みの親デニス・ノードマングレッグ・フレーレス2人のユニットと言えるウィズバン社スタジオによる持ち込み企画だったのだ。

 「エルヴァイラV」のピンボール制作の噂は、ピンボール産業活況の再起動が始まった2010年代前半から既にくすぶりの煙が立っている。
 ジャージージャック社創立コンサルティング時代からデニスにはその構想があったという。

 しかしウィズバン社、カサンドラ“エルヴァイラご当人”ピーターソン、スターン社、三者が提携する今回の企画自体が本決まりとなったのは2016年の春頃から。

 そしてその進捗がプレス発表されたのは、2017年4月のテキサスピンボールフェスティバルでのこと。
 デニス・ノードマンとグレッグ・フレーレス、更にスペシャルゲストのカサンドラ・ピーターソンと共に、エルヴァイラピンボール第3弾を制作中であることをイベントの壇上で発表した。

 ウィズバン社設計のピンボールがスターン社のファクトリーで製造される成功例は「ビッグジューシーメロンズ(2015)」で立証済みの為、多くのピンボールファンが沸き立つ朗報となった。

 これなら2017年下半期にはもう新作エルヴァイラが拝めるはずだ……と皆が今か今かと待ちわびていたものの、デニス当人らからの続報や進捗状況の知らせはその後ぱったりと途絶えてしまう

 エルヴァイラ当人であるピーターソンは、
 “既に映像素材やヴォイススピーチは収録済みで、アートワークは豪華で素晴らしい”
 と、公の場でコメント。

 制作の遅延に対し、スターン側からは、
 “既にデニスらによる実地的なワークは完了しているが、プログラムが入っていない”
 “2019年のハロウィンシーズンに合わせて発売したい”
 と、どこか奥歯に物が挟まったような場繋ぎなコメントが続いた。


 一体何が起きていたかというと、デニス・ノードマンはスターン社とはフリーランス契約して仕事を進めていたものの、制作途中で契約期間が終了。にもかかわらずスターン側がデニスとの契約更新をしぶった

 ノードマンは満了後も二度ほどスターン社へ赴いて手弁当で作業したが、会社側が再契約に応じなかった為、以後ピンボールの制作に手をつけることを断念

 「ハウスオブホラーズ」は未完成のまま、制作が宙に浮いてしまった。

 デニスはまだプレイフィールドにギミックをもうひとつ加えるアイディアがあったもののそれをあきらめ、テキサスの新興会社ディープルート社と専属契約を結んで損切りを決めた。

 スターン側は引き継ぐスタッフクルーを他のプロジェクトの片手間に再編成してゲームを練ることになり、ジョージ・ゴメスやライマン・シェイツらが手分けして同作の制作を引き継いた。

 これがエルヴァイラVの制作が2年も遅延を起こした、事の顛末だった。

 「パーティーモンスターズ」制作中にはデニスがバイク事故で大怪我。
 「スケアードステイッフ」ではデニスが制作途中でリストラ解雇。
 そして「ハウスオブホラーズ」では、相変わらず吝嗇家なゲイリーのせいで途中降板。

 のちに、これらの事象は“エルヴァイラの呪いトリロジー”と言われるようになった。


 尚“呪い”とは別の話として、デニス・ノードマンは前にも後にも降板事件に巻き込まれている

 破産したイギリスのハイウェイピンボール社で2014年に映画ライセンス作「エイリアン」を手掛けたことになっているが、同機種はデポジット制で募った購入者に対し、不履行を働いたままハイウェイ社がバンクラプト。

 兼ねてからエイリアンはデニスの企画作だと触れ回りたがるハイウェイ社とは裏腹に、
 “原基的な図面を引いて4つのギミックのアイディアを捻出したのは事実だが、商品化したものとは違う。エイリアンは私の作品では無い”
 と、会社側とは食い違う発言を続けている。
 まるで「エイリアン」との関わりを出来る限り否定したいような姿勢を見せていた。

 また、ハウスオブホラーズ降板直後に専属契約を結んだディープルート社も、結局2020年の早春に退社している

 理由は同社メカニクス部門エンジニアリングの力量不足。

 WMSバリー時代には、デニスが引いた図面をメカニクス部門に持っていくと、翌日には早速試作品が出来上がっており、フィールド設計が捗った。
 しかし規模も環境も幼弱な新興会社ではそうもいかず、苛立ちを募らせたデニスはディープルートも同様に見限ってしまった。

 その後、ピンボールを一機種手掛ける契約でシカゴゲーミング社とフリーランス契約するが、感染症騒動による自宅作業とリモートワークに退屈したワークホリックのデニスは、双方に許可を得たうえで、急成長中のアメリカンピンボール社と二股フルタイム契約。

 “メカニカルエンジニアリングの環境を盤石にしろ”
 と強弁するデニスの条件を飲んだアメリカン社は、ウィリアムス出身の凄腕女流メカニック ゾフィア・ビル・ライアンを招聘した。

 ハイウェイ退社直後にはギズモ・ゲーム・デザイン社に居たし、確か'80年代前半にはゴットリーブにもいたんだっけ。

 一体いくつ会社を巡れば気が済むんだデニス!

(2021/2/16)





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