Stern Pinball/2001モノポリー | ||
原題 | Monopoly | |
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製作年度 | 2001年 | |
ブランド名 | スターン・ピンボール | |
メーカー | スターン・ピンボール・インコーポレイテッド | |
スタッフ | デザイン:パット・ローラー/美術:ジョン・ユッシー/ドットアニメ:カート・アンダーセン/メカニクス:ジョン・クルッチ/音楽:クリス・グランナー/ソフトウェア:ルイス・コージャース、グレッグ・ダンラップ | |
標準リプレイ点数 | 1,500万点 | |
備考 | 製造台数:3,640台 |
▲バックボックス。今と違って景気が非常に悪い時期だったので、筐体全体が飾り気無く黒一色。でもジョンユッシーのアートで全て挽回。 | ▲活躍不足のトップレーン。そもそもPローラーのフィールドデザインでトップレーンの存在は珍しい |
▲ワールウィンドの頃を思い出す、スクープとバンパーの編成。汽車ワイヤーレーンもそうだが、ファンからすればこの辺はもっと面白くして欲しかった | ▲バックグラスアートの出来は素晴らしい!本家でもこんなにチャーミングな作画とダイナミックな構図は見たことが無い。 |
▲バックグラス左下部分のクローズアップ。モノポリーもピンボールも1930年代に生まれた。 | ▲ショートフリッパーパーツの妙な使い方で失笑を誘うウォーターワークゾーン。スキルショットで狙おう |
▲当時のスターンで汎用されたLEDドットディスプレイはスターン社前々作「ハイローラーカジノ」で開発されたもの。今見ると必死のドット主張が可愛い | ▲プレイフィールド上部。巧みなボールフローの開通はさすが |
▲“わしの所有する各不動産の権利書じゃ。この通りに家賃を支払いたまえ”と言ってるのだろうか。Mr.モノポリーことリッチアンクルペニーバッグス | ▲面白いのはウォーターワークスが実は裏技レーンになっていること。一か八かで狙うと、対角側の電力会社サイドホールに決まることがある |
▲プレイフィールド下部。やはりジョンユッシーとパットローラーのアートは楽しいですな | ▲ポリスの1枚ドロップ。ぴぴぴっぴー!というホイッスルは可愛いけど、まぁ邪魔するんですよコイツが |
●見て下さいよ。このチャーミングなカラーリングとアートワーク。 かの世界一有名なボードゲーム「モノポリー」のピンボール化! まだまだピンボールは死んじゃいませんよ。さぁさぁとくとご堪能あれ! 2001年発表のスターンピンボール「モノポリー」は1999年に閉鎖された元ウィリアムスのピンボールスタッフがゲームデザインを手掛け、当時唯一の生き残りピン・ファクトリーだったスターンピンボールインクが製造・発売した、当時話題沸騰の注目作。 残念ながら日本でもピンボールの市場と販路は壊滅状態。 タイトーもピンボールの取り扱いを終了し、データイースト社は会社自体が破産段階。 日本でピンボール筐体購入の全てを手配するのは、大変骨が折れる業務となっていました。 しかし有志各位が個人輸入でモノポリーピンボールを確保、日本国内では《オモロン西新小岩店》にも《Bee池袋》にも設置されていたというから驚きです。 そのぴかぴかで新品のピンボール筐体の、誇らしげな雄姿の眩しいことと言ったら。 勿論、ピンボールの大恐慌に沈痛していた本場のプレイヤーにとっても、モノポリーピンボールの登場は大ニュース。 折しもスターンがニュースレター、いわゆるメルマガ配信を開始した第一号のトップニュースが、このパット・ローラーによるモノポリー製作決定の発表でした。 かの「ワールウィンド」「ファンハウス」「アダムスファミリー」「トワイライトゾーン」のレジェンドデザイナー パット・ローラーの新機種がスターンで拝める! しかもメカ屋はジョン・クルッチ、プログラマーはルイス・コージャース、音楽家はクリス・グランナー、そして絵描き屋はジョン・ユッシー。 みんな元ウィリアムスの精鋭達ではありませんか。 この新展開は、世界中のプレイヤー達にとって暗澹とした世界の終わりに一筋の光明が差したようなもの。 日本のピンボーラー界隈でもこの話題で皆が湧き上がってました。みんなして発表された写真や画像を見て、 “間違いなくパットローラーのデザインしたフィールドだ、いいねいいね〜!” と期待に胸を膨らませていましたね。 この頃のスターンと言えば「ストライカーエクストリーム」だの「シャーキーズシュートアウト」だの「ハイローラーカジノ」だの、通好みではあるものの、アルヴィンGかカプコン末期を思わす企画力の薄い台が続いていた時節。 みんなもうピンボールは終わったと思ってたんです。暁鐘響き渡る、まさに福音。 フィーチャーもウィリアムス往年の名機そのままのような編成です。 【ジャックポット】 サイドランプレーンに掛かる。一発100万点。マルチボール中に点灯。再点灯させるには汽車ワイヤーランプレーンへ通す。 尚、難しいが同時にダブルジャックポット200万が[電力会社サイドホール]に掛かっている。 【マルチボール】 3ボールの定番マルチ。リリースは右ランプレーンに掛かる。マルチリーチにさせるには2回ボールロックすべし。ボールロックは中央ランプレーンに掛かる。 【ボールロック】 フィールド下部に描かれるモノポリーボード升を1周するとロックリット。中央ランプレーンに通すとボールは下部左下ポケットに蓄えられてボールロックが無事完了。2個ロックしてマルチへ急ごう。 尚ボードの周回は中央ランプレーンだと2升、サイドランプは3升、左右ループは2升、バンパー3回ヒットにつき1升進捗。また“プロペティー”でサイコロを振れば駒は一挙に進捗する。 【キャッシュグラブ】 メジャーショットでドル袋つかみ放題、ランプレーンもループレーンも初回25万点+エヴリ5万点が取り放題に。15秒間のボーナスタイム。 銀行扉BANKに当ててB-A-N-Kレターを完成させるとスタート。 このBANK扉、開いてるときより閉じている時にヒットするのに意義があるというフィーチャー。開きっ放しの扉を閉じたい時は、サイドランプレーンを通せば良い。 【プロペティー/ミニゲーム】 中央ミニループ経由⇒右上キックアウトホールに掛かる。普段は升を進めても何も起きないが、サイコロを振ると止まった升でのイベントが開始。 いわゆる時間制ミニゲーム。プロペティー消灯時は右ランプレーンで再点灯。 [ネイビー]―――バンパーヴァリューがMAXに [ラベンダー]―――ワン公とのカーレース [ホットピンク]―――BANK扉に3回ヒットして高額配当 [ゴールド]―――BANK扉で50万点からのカウントダウンボーナス取り放題 [レッド]―――お巡りさんドロップターゲットor右ランプレーン脇スタンダップで25万点以上のボーナス取り放題 [イエロー]―――バンパー一発1万点タイム [グリーン]―――ミリオン単位高額ボーナス点の即金 [ブルー]―――エキストラボールリットorスペシャルリット 尚、サイコロの出目は必ず未着物件に止まれるよう操作されている。よって、この色になかなかとまれない!なんてことはない。 別言すればいきなりスペシャル+ウィザード開始に偶然止まれて超ラッキー!なんて強運もあり得ない。 【ランドグラブ/ウィザードモード】 エヴリシングリット+35秒間マキシマム4ボールマルチ。 全プロペティーと鉄道マルチ完了後に中央ミニループに掛かる。サイドランプレーンシュートで時間延長。 ビッグバンドジャズ風の軽快なBGMと共に、シュート成功で家もホテルもぐんぐん立ち並ぶデモが楽しい。 【チャンスカード/ミステリーボーナス】 下部左端スクープで得られるミステリーフィーチャー。ボーナス点やフィーチャーの獲得、ロックリット、ミニゲーム即スタートなど。Ex.やSp.点灯も期待できる。 尚再点灯はサイドランプ“フリーパーキング”へのショットでOK。 【鉄道2ボールマルチ/レイルロード】 左下ワイヤーランプレーンを通すと次の鉄道マスまで進出。4つ進出すると2ボールマルチのご褒美有り。マルチ時はワイヤーランプがワンショット25万点。 鉄道マルチはプロペティー内の項目ではないがウィザード必須項目。鉄道ライトが消えている場合の再点灯は左右ループショットでOK。 他、別脈2ボールマルチとして[フリーパーキング]や[ジェイルブレイク]、[リップオフ]もあるが、大して稼げず他の役との併用も出来ず、どれも内容も薄いのが残念。 【1枚ドロップ/警官ターゲット】 プロペティー開始の中央ミニループを遮る位置に立ち上がる、邪魔なポリ公ターゲット。但しヴァリュー初期値12万5千点で、エヴリ+2万5千点、マックス25万点となっていてそれなりの額。 一度倒しても、うっかりサイドターゲットに触れると復活するのでご注意。 【電力会社サイドホール/電圧メーター】 サイドランプすぐ下にあるサイドホールにて電力メーターが5%上昇。バンパーヒットでも少しずつ上昇。 30%まで上げるとEx.リット、100%でSp.リット。15%,60%で即プロペティー開始という施しも。フィールド内のミニドットディスプレイでその数値が表示されている。 【ボーナスX/エキストラボール】 壮年ウィリアムスのピンボールではお馴染み、リターンレーン⇒対角ループショットで上昇するボーナスマルチプライア。MAXの6倍到達Ex.リットも、その箇所がトップホールというのも定石。 【スキルショット/水道供給】 中部右端にある水道管“ウォーターワークス”の緩い穴に上手く入れると初期値5万点のウォーターワークスボーナス×成功回数のボーナス点が得られる。 プランジャースキルショットで狙うべし。ウォーターヴァリューはバンパーヒットで上昇。最高倍率は7X。 この水道管ホールを妨害する回転ショートフリッパー。マルチボール時にはダンスの様なパフォーマンスを見せるのが面白い。 アートやサウンド、モノポリーおじさんのキャラクターなど、非常にチャーミングなピンボール。 底を打ったピンボール産業もスターンピンボールもゆっくり地歩を固め、復興の2010年代を迎え撃つ訳ですが…… このモノポリー。いざ発売されてみると、肩透かしを感じたマニアプレイヤーも少なくなかったようです。 どうも本家ボードゲームの面白みがあまり活かされていない気がする。 サイコロを振って出た目だけ進む演出もあるがそれは表面上だけで、次に始まるミニゲームも出る目も、実は振る前から決まっている。ホテルや家を建てる、お金を貯めたり売却したりするモノポリーゲームの実感が乏しい。 ピンボール従来のゲーム性でこそ、その本領を発揮して欲しいのに、味気なく“段階が進む”だけで、ボードゲームやカードゲーム的コンゲーム戦略の丁々発止がいまひとつ感じられない。 壮年のウィリアムスピンボール的定番ルールは施してあるのですが、アダムスやトワイライトの頃からこれといった進展は無し。 [リップオフ]、[フリーパーキング]など、ウィザード包摂下に無い2ボールマルチが冗長で退屈なのが辛い。段階フェーズも無いし完勝コンプのアイテムご褒美もなし。スタイルが古い時代のまま。 ルールやプレイフィールドは「ワールウィンド」に似ているけど、あの終始引き締まった緊張感は失われている。 ひょっとしてパットローラーは駄作「ノーグッドゴーファーズ」の頃からのスランプが未だ続いてるのでは? ウィリアムス晩年の名機バッシュ,マーズ,メディーヴァルを社内設置の上、ジョン・ボーグ達のチームがゲーム性を徹底研究して開発した同社同時期「オースティンパワーズ」の方がルールセットの完成度は高い。 そんな印象をプレイヤーサイドにもたらしてしまいました。 いや、決してモノポリーの出来は悪くはない!滋味深い!やればやる程味わいが出る! ……確かにそう思うし、楽しめるし、悪くはないのだけど、フィーチャー編成が旧態スタイルのままなので、どうしてもクリシェ化の印象は拭えません。 この後パットローラーは契約先のスターンの依頼どおりに「ローラーコースタータイクーン(2002)」「うそ?ホント?リプリーの大発見!(2004)」「グランプリ/ナスカー(2005)」「ファミリーガイ(2007)」「CSI(2008)」「シュレック(2008)」といった版権中心の佳品機種をデザインしますが、口さがないマニア達から才能の枯渇を揶揄されながらも自分のスタイルを頑なに曲げようとせず、一作ごとに出涸らしが進んでゆきます。 進歩の無い版権テーマの繰り返しに疲弊が進んだパットは精神が不安定となり、 “リーマンショック以前から既にアーケードゲーム産業は崩壊していた” “スターン社は堅調な製造数を出すことはあっても、偉大な作品を作る気がない” “ピンボールという文化は、これからゆっくり、確実に死んでゆく” と、極めてネガティヴな発言と共に、一旦はピンボール界隈から去ってしまうこととなりました。 そもそも、本来パット・ローラーが軽蔑する程の怨敵であったスターン社。 「アダムスファミリー」を真似た「ジュラシックパーク」を例にとるまでもなく、自分らが苦労して仕上げたウィリアムス製品を、臆面無きコピーキャットな粗悪品にされ、小賢しい版権路線で売り捌く面の皮千枚張りの領袖こそ、かのゲイリー・スターン当人ですからね。無理も有りません。 自分がスターンに入社したり、試作機を売り込みにいくことは絶対にありえなかったそうです。 そんな水火の間柄であるはずのパットとゲイリー・スターンたちに、まさかの良縁が持ち上がった経緯を探ってみると―――。 1999年末、WMSがピンボール産業から撤退、つまり最大手ウィリアムス社終焉の時。 当時パット・ローラーは、大本営発表では大成功と言い張っていた[PINBALL2000]仕様の「ウィザードブロックス」を制作中。 しかし腹の中ではウィリアムス社の指針や動向に対して既に辟易していたようです。 彼はゲーム産業においてオールラウンドの天才であるものの、疲れ果てた末に職を失ったパットは、すっかり疲弊した心身を癒すべく業界から距離を置くことに。 暫くは奥さんの会社“ハイパースティッチ”で、Tシャツのシルクスクリーン印刷という、何とも長閑な作業に勤しんでいました。いい気分転換だったそうです。 しかし間もなくパットは動き出します。 盟友ジョン・クルッチとルイス・コージャースを誘い、それなりの資金で自分の新会社を設立。PLD/パット・ローラー・デザイン社が立ち上がります。 “とにかく1年は頑張ってみよう。ダメだったら、またTシャツ屋に戻ればいいじゃないか。” そう自分に言い聞かせながら決して気負わず、のちのモノポリーの原盤を制作。2000年秋のトレードショーに出品。 フライス盤、旋盤、(削る方の)ルーターも、試作基板も、プレイフィールドも、パットローラーの自宅兼工房で、自分たちの手で作ったものでした。 そのPLD社ブースへやってきたのがスターン社社長ゲイリー・スターン。 彼は“ぜひ話がしたい。いつでも電話してくれよ”と名刺を置いていきます。 翌週早速ゲイリー自らパットに電話を入れ、君を外部のデザイナーとして契約したい、一度弊社でじっくり話が出来ないか……と随分と早急に話を進めたがっていました。 なぜならこの時節のスターン社は、ジョン・ボーグ、ジョー・バルサー等強力な社内専属デザイナーらの雇用が続けられなくなる、極めてのっぴきならない状況にあった為。 腕利きスタッフ不足に焦るゲイリーはパットらに対して三顧の礼を尽くしながら、 “プレイフィールド設計もゲームデザインも貴社PLDに一任する。弊社のファクトリーでそのまま製造させてくれ” と、非常に前のめりな姿勢で好条件を示して来ます。 しかしこれに対しパット側は悠揚迫らぬ物腰で対応。 『きちんと進捗状況を共有した上で、ものごとを進めてくれ。そちら側がある程度管掌した中で制作出来た方が安心だ。』 2000年11月1日。こうしてモノポリーピンボールの制作がスタート。 薄々プレイヤーも気付いていた事ですが、元々モノポリーのピンボール化は、WMSであった企画。 '94年にライセンスものとして作るはずでしたがウィリアムス側が難色を示し、内容もテーマも不本意に変えられた上、「セイフクラッカー」という、自分らが仕上げたいものとは全く別物のピンボールとなってしまった。評判も散々な結果に。 しかし今回はライセンシングの意見がスターン社側とも一致。ゲイリーも気に入ってくれて、彼自らライセンサーのハズブロ社に訪問し、ピンボール化版権購入の手続きを進めてくれました。 ゲイリーはのちの完成品とは異なるアイディア候補を2つ提示してきたものの、それ以上賢しら(さかしら)に差し出口を挟まず、“君たちは君たちのベストを尽してくれ”と、最終的にパット達にゲーム制作の裁量を委ねてくれることに。 プロトタイプ設計,アッセンブル,試作をパットローラーの工房で行い、量産はスターン社のファクトリーで行う。 実はこれ、双方ともに初めての試み。初期のデータイーストでソフトウェアを外注した時代もありましたが、一式全ての一任は例がありません。 衝突やトラブルが起きかねない制作スタイルですが、ゲイリー社長とその部下たちがPLD側と定期的にミーティングを開いて情報共有。 行き違いが起きないようパット達に心を砕いてくれました。 『音楽はウィリアムス時代の盟友クリス・グランナーを起用したい』 そうパットが希望すれば、スターン側も対応。 ゲイリーはクリスが当時在籍中のインクディブルテクノロジー社とわざわざ契約を交わし、希望通りの采配を実現させています。 またそのクリスが“スターン現行のサウンドボードに問題あり”と指摘すれば、スターン社は彼の指導の通りに電気的数値やバランスを改善。 同じくセガピンボール時代から進歩がないフリッパーのメカニクスと電気的な問題も、パット側の希望通りに修正。 まるで憑き物が落ちたようにフリッパーの感触が良くなった!―――と、プレイヤーサイドの評判も良好。 ……これはけだしその通り。「ツイスター」や「バットマンフォーエヴァー」の、あの扱い辛いフリッパーと比べて本当に打ち易くなりました。 ついでに操作性がガタガタだったハイスコアネーム入力も、パット達がちょっといじっただけで滑らかなものに。 良かった〜〜助かる助かる。セガ時代から色々と鬱陶しかったんだよねスターンの台。 “存外なほど制作はスムースだった。スターン社のスタッフは、こちらが思っていたよりずっと優秀な人たちだったんだ” 互いに角を突き合わせていた'90年代はもう過去のこと。ピンボール産業どころか文化そのものが消滅する危機に立ち向かう意思と気概と情熱は、パット達もスターン社も同じでした。 主要メンバーも制作環境も仕様も整い、モノポリーのゲーム内容と性能は更に研磨されて行きます。 移動した駒が止まった升によって様々なイベントやフィーチャーが巻き起こるゲーム構成。 しかしモノポリーボードの升の全てを再現するのは無理が出てきた為、違和感無きよう40升を32升へ巧みに簡略。 32マス内に入りきらなかった[水道会社]はスキルショットボーナス、[刑務所]はボールロック、[共同基金]はスクープのミステリーフィーチャー……等々、別ポイントの仕掛けとして発動。 特に水道会社スキルショットの、あのうねうね〜と妙なフェイント回転で翻弄するショートフリッパーは特筆。 アダムスでいうと墓石/スワンプホールに該当するフィーチャーですがそれ以上にトリッキー。どんなに正確にプランジしても結果はきまぐれ。 尚且つプレイ中偶然ポロっと入って棚ぼたボーナスが得られるラッキーさも楽しめる、なかなかいい塩梅です。 尚、この[ウォーターワークス]の仕掛けを見て、当時日本でも国内販売があったハリーウィリアムスat旧スターン社「ホットハンド('79)」を思い出した人はかなりの通。 ウォーターワークスはあのホットハンドの不気味な回転フリッパーへのオマージュである……とパットは語っています。 また当時スターンに籍を置いていたキース.P.ジョンソンが「ハイローラーカジノ」で開発したミニLEDドットディスプレイが、フィールド内でプレイヤーにわちゃわちゃとメッセージを送ってきます。 これはソフトウェア担当ルイス・コージャースをサポートする2nd.プログラマーのグレッグ・ダンラップの発案。 スターン社へ打ち合わせに行った時にこの装置を見つけて、“これ電力会社の看板に丁度いい!”と閃いたのだそう。 その電力会社看板のたもとのサイドホールはVUK+ワイヤーレーン構造でリターンレーンへ飛んでくる作りでしたが、寸前でバンパー地帯接続キックアウトに変更。 うん、その方がいい。プレイヤーサイドもうなずける判断です。 ゲーム性やサウンドと同時に、とてもチャーミングな印象を与えるアートワークも、やはりウィリアムスで盛名を馳せたジョン・ユッシーの筆によるもの。パットのご指名で一番最後に決まったフリーランスのチームメンバーでした。 それまでモノポリー及びMr.モノポリーのアート表現にはハズブロ社による制限が多かったのですが、ジョンユッシーはその制約を際どく守りながら、アングルもポーズも大胆にアレンジ。 特に、ボード上でお金も家もホテルも威勢よく巻き上げながら、権利書を突き出し、威風堂々と見得を切るモノポリーおじさんの雄姿は傑作! ライセンサーであるのハブロス社側は“ウチの商品をここまで見事に描いたアートワークは今まで見たことが無い!”と手放しで絶賛してくれました。 こんな筐体を娯楽室や地下室に置いたら、それだけで部屋全体の空気がパーッと明るくまろやかになりそう。 ホーム需要で売れたというのも納得の仕上がりです。 以降、ピンボール以外のモノポリーライセンシングアートは表現が一段と豊かで伸びやかとなりましたが、その殻を破った功労がジョンユッシーとパットローラーにあることは論を俟たないでしょう。 2005年発表のセガ製モノポリーメダル筐体など、スターンピンボールの二番煎じに過ぎないのです。 『ウィリアムスでやったモノポリー企画は変節し、失敗作が出来上がったが、スターンで本当に作りたいものが完成させられてとても満足している。むしろ当時迷走期のウィリアムスでややこしい機種をこしらえず、スターンでこれだけスマートなモノポリーが作れて良かったとすら思っている。5年前のウィリアムスで作りたかったものは、正にこれなんだ。』 『ゲイリーは強く出れる立場なのに口出しはせず“君達は君達のベストを尽せ”と言って自由にやらせてくれた。やはりピンボールの仕事はいいね。またスターンで仕事をしたい』 ……とは、ユッシー自身のコメント。 さぁいよいよモノポリーの試作台が出来上って来る訳ですが、かつてのウィリアムスのように大きな会社内のカフェテリアにプロトタイプを置き、社員の皆がテストプレイを重ねた時とは勝手が違います。 よって今回は、シカゴ郊外ストリームウッドのスポーツバー《シーズンチケット》でロケテストが行われました。 その時の様子を、生粋のモノポリーボードゲームファン、尚且つピンボールプレイヤーでもあるジム・ヒックス氏が、PinGameJournal誌でこう評しています。 “楽しいゲームだ。モノポリーというテーマが、つつがなくピンボールへと換骨奪胎されている。見事なものだ。ボードを巡って全てを所有するあのゲーム性がきちんと再現されている。” “全てのマスを隈なく暗記している私は、一目見て所得税、贅沢税、公共事業、そしてチャンスと共同募金のスペースが省略されていることに気付いたが、削除したイベントもきちんとゲーム内に組み込まれている。鉄道ワイヤーランプ、水道スキルショットの表現も素晴らしい。” “本家ボードゲームモノポリー通からすればパークプレイスの役が無いのは惜しまれるが、ピンボーラーならエキストラボールとスペシャルにあてがわれていることはすぐ察せられる。ただトークンの選択が無い、もっとトイギミックやスカルプチャが欲しい……等々思うところはある。しかし、モノポリーテーマのピンボールとしては最良の匙加減である。” “ロケテストの台をわいわいやってると、ピンボールは眼中に無いと言っていたビデオゲーマーの奴もそそられるものがあったたらしく、遂にプレイしていた” ……しかも、氏と連れのアランが2人してその店で何時間もモノポリーピンボールに齧りついていたところ、 “なんか今、随分と気合の入った奴が店に来てるぜ?” と、店長さんがパットローラーデザイン社に電話連絡。 なんと2nd.プログラマーのグレッグ・ダンラップが飛んできて、出来たばかりのver1.1を投入してくれたではありませんか。その場でピンボールや会社について聞いたり聞かれたりできたそうで、羨ましい話。 “モノポリーチーム発足は2000年11月だけど、俺は2001年2月にチームに入ったんだ。内側リターンレーンやドロップバンク、VUKがあったけど、結局は省いてアッセンブル節約したな。何よりスターンのハードとソフトの変更を進言してフリッパーとサウンドボードが改善されたのは俺たちのお陰だぜ?” “でもスターン社から得られる恩沢も多かったな。ルイス・コージャースはスターン社でオペレーティングシステムを学んだし、ジュン・ユッシーとカート・アンダーセンはスターンから版権アートのサポートを受けた。双方、ともに相手側へ敬意を払って仕事をこなし、任せ合ったゆえ、衝突やトラブルは無かった。そしてゲイリー・スターンは元々弁護士。ピンボール業界全体の負債を、身命を賭して片付けてくれた破産管財人なのさ” ……とは、ダンラップの談。彼がチームメンバーともスターン社とも良好な信頼関係を築けていた様子が伺えます。 一方、モノポリーと同時期製造の「オースティンパワーズ」でも手ごたえを感じたスターン社。ファクトリーは1日75台の製造ペースまで復調させます。 ディストリやオペレーターが大量にピンボールを買い付ける時代が終わったと言われる中、販売店からはこの2作への問い合わせや買い付けが再燃していたのです。 結果、一機種の売り上げが千台前後で瀕死状況だったセガ/スターンピンボールの製造数は、今作モノポリーにより3,600台以上へと回復。 以降スターン社はモノポリーを一里塚とし、ジョージ・ゴメスの「プレイボーイ(2002)」、スティーヴ・リッチーの「ターミネーター3(2003)」、デニス・ノードマンの「パイレーツ・オブ・カリビアン(2006)」などなど、かつてのWMSデザイナーを外部起用した新機種を続々と発表。 この先まだまだ苦しい時節はしばらく続きましたが、良質ライセンシング路線及び外部のデザイナーに委託設計……という、2000年代のスターンピンボールの路線は今回のプロジェクトで定まったと言えましょう。 このあと、一時期スターンを去っていたジョン・ボーグとレイ・タンザーが同社へ帰ってきます。 更に外部デザイナーとして出入りしていたジョージ・ゴメスがデザイン部門チーフへと就任。 そしてスティーヴ・リッチーまでが専属デザイナーとしてスターンと契約を結ぶことに。 パット・ローラーも新興ジャージージャック社で業界カンバック。 ピンボール産業は新時代を迎え、悠然たる2010年代の復興期へと向かってゆくのでした。 モノポリーピンボールは大傑作―――とまではなりませんでしたが、ピンボール産業とスターンピンボールインクの“軌道修正”という視座から鑑みれば、十分意義深かったのではないでしょうか。 そう言えば、本家ボードゲームのモノポリーが世に生まれて広まった時代背景といきさつは、ピンボールのそれと驚くほどよく似ています。 20世紀初頭に原型が生まれ、それなりに好評を博して遊ばれていたが、1930年代の大恐慌時に別の人物がブラッシュアップ。それを自宅工房での手作りを続けた結果、国中に広まって皆を虜にしてしまった。まるで「ログキャビン」や「ホイッフル」「バッフルボール」の様に。 大手企業がモノポリーの原型「ランドローズゲーム」とモノポリー両方の権利を買い取り、のちに亜流商品への裁判を起こした騒動まで、ピンボール史上の事件と軌を一にしています。 ピンボールもモノポリーも、両方とも1930年代のアメリカにおける、象徴的,文化的アイコンだった。 その2つがマリアージュし、世紀をまたいでもう一度ピンボール産業復興の道しるべを築いた。 ピンボールとモノポリーは、出逢うべくして出逢い、まさにこの時、生まれかわるべき作品だったのかも知れません。 |
▲マルチ時サイドランプレーンJP百万点は低すぎる。但し後年verだとミリオンプラス制になったようだ | ▲フィールド全景。フリッパーも完全にウィリアムス仕様になった気がする | ▲プロトタイプのショートフリッパーは確か、えぇ感じの水色だったんだけどな。まぁ汎用パーツの方が不便しなくていいか |
▲マニア泣かせ、バンパー狭間ループショット。でも決まるとやっぱり気持ちがいい | ▲あまり有用性がないが、右ランプレーン脇にちょっとしたヴァリューが掛かるスタンダップがある | ▲開閉するBANK扉の仕掛けはやや裏目に出ている。へろへろとぶらついてショット上煩わしいのだ |
▲中央ミニループ。サイコロ振れるしエキストラボール点くし。サイドフリッパーへのボールフローとしても要衝となっている | ▲巧くフィールドの盤面で表現出来たと思う。しかしピンボールのゲーム性として思ったほど奏功せず、むしろ分かにくくなった | ▲右ランプレーン。リーチ状態のマルチボール開始、ダイスロール再点灯の他、右フリッパーへのリターンとして有用。 |
▲左リターンレーン近辺。左アウトレーンの更に左列にはロックポケットが。“刑務所”だが、入ってボールロックするのに意義がある | ▲BANK扉が開いた状態の中央ランプレーン。ペイバックタイム中はここに連続ショットを決めて暴利をむさぼろう | ▲最後は右リターンレーンのアップで。ご清読ありがとうございました。 |