各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2013

マスタング(プロバージョン)

原題Mustang(Pro)
製作年度2014年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフデザイン:ジョン・トルデオー/美術:カミーロ・パルドー、ジョン・ユッシー、グレッグ・フレーレス/ドットアニメ:マーク・ガルヴェス、マーク・カイズヴァート/メカニクス:ジョン・ロザーメル、マイク・リドブル、ロブ・ブレイクマン/音楽:デヴィッド・シール、マイク・カイズヴァート/ソフトウェア:ロニー・D・ロップ、タニオ・クライス、ジャック・ベンソン、マイク・カイズヴァート、ウェイスン・チャン
標準リプレイ点数2億
備考
▲Jトルデオーのフィールドデザインが公になるのは、家庭用ピンボール「ヴァケーションアメリカ('03)」以来、11年ぶり。おかえり、トルデオ。 ▲バックグラスのアートワークは綺麗でも地味な印象を受けるのは、あちら側GTデザイン界権威の美術さんに描いてもらった為。ピンボール専門の絵描きさんではない
▲フィールド下部。「インディー500」もそうだったが、兎にも角にもボールの球威が半端ない。マニアプレイヤーでも目視が追いつかないくらい ▲5枚バンクのドロップターゲットを堂々中央に持ってくるあたり、トルデオらしいデザイン。このドロップを繰り返し倒してシフトギア・マルチボールに突入
▲フィールド各所に点在する黄色いアローライトは、マスタングイベントで全部狙う必要がある重要箇所。咄嗟にでも確実にしとめるよう体得しておかねば ▲フィールド中部右端3枚バンクRPMターゲット。グレードアップの一翼を担っている他、カウントダウンボーナスがかかることもあり
▲シフトギアマルチは勿論、各年代のマスタングコレクトが非常に面白い!役の完成で次の展開、次の展開…とぐいぐい引き込まれるぞ ▲フィールド上部。トップレーンとバンパー、ドロップターゲットといった往年のパーツとエリアを重点に置いた、ある意味オールドスタイルのデザインだ
▲初の愛車がマスタングで、是非ともデザインを担当したかったはずのジョージ・ゴメスは今回公式動画のコメンテーターとして情熱を語っていた ▲まだ解析し切れてないが、トップレーンとバンパーにもかなり需要な役割がいくつも持たせてあるようだ。レーンチェンジ可/不可の2段構成が渋い

― COMMENTS ―
スターンピンボール社から2014年に発表された「マスタング」は、フォード社の名モデル マスタング50周年記念として発売された意欲作です。

 近年社内機密の厳守が進み、次回作のモデル名を明かすことすらご法度のトップシークレットになってきているスターンが、2013年末のプロジェクト初期段階で早々と2015年発売予定のマスタングピンボールの制作を公式アナウンスしたのは異例のこと。
 カーマニアの購買意欲を大いに煽る50周年の時宜を読んだ、スターンの狡猾な戦略が垣間見えた一端と言えましょう。

 このスターンピンボールとの提携について、マスタング本家フォード社は、

 “我らマスタングが優れたピンボール職人と技術者達によって新たな製品へ生まれいずることにエキサイトしている。我々フォードモーター社と、スターンピンボール社。それぞれのジャンルでの世界的な2大カンパニーによる、この素晴らしい合同作業の機会が貰えたことに熱く感謝したい”

 ……と、今回の企画の快諾ぶりを朗々と声明しました。

 フォード社のウェブサイトでもピンボールの詳細が取り上げられ、完成品が世界初のお披露目となったニューオリンズのNADAモーターショーでもスターン台は歓待と共に迎え入れられています。
 その後地元シカゴのオートショーでは元WMSピンボール部門GMロジャー・シャープの息子でもあり、ピンボールチャンプでもあるザック・シャープ(当時広告代理店勤務・現スターン社マーケティング主事)が、マスタングでその腕前を記者たちにご披露する……なんてデモンストレーションの一幕も。

 因みにマスタングのピンボール化、実はコレが初めてではありません。
 1964年、スターン一族の先代サム・スターンとも縁があるシカゴコイン社が、初代マスタングをモチーフとしたピンボールを一度世に出しているんですね。
 つまり、ピンボールマスタングも50周年記念!この符節合わせにも感慨ひとしおです。

 日本では、プロ,リミテッド,プレミアムとリリースされた3ヴァージョンの内、プロ版が大阪心斎橋SBPへ入荷。
 際限なくギミックを搭載出来たから是非に!とデザイナーが太鼓判を押すリミテッド版/プレミアム版でないのは残念ですが、それでも十二分の完成度を誇る傑作とみなして良いほどの仕上がりで、個人的には「マスタング」こそ2010年代ピンボールのベスト1候補に押すべき傑作と豪語させて頂きましょう。とにかく面白いんだから!


 黄色いアローライトをしとめてM-U-S-T-A-N-Gレター完成で始められる[マスタング・マルチボール]や、キャプティヴの役完成で点灯&バンパーヒットで高額JPを繰り返し再点灯させる[バーンナウトマルチボール]、車のアップグレード方法のヒントにもなっている[アップグレードスコアリング・マルチボール]……等々。
 目まぐるしくも盛りだくさんのマルチ各種フィーチャーも相当いいけれど、最も痺れたのが、各ボールプランジ時やスクープシュート時に選択・各年代のマスタングモデル毎に割り振られた課役をクリアする、“MUSTANGイベント”。現時点で当方が分かっている限り詳細を叙述すると……

【1965年式 コンバーチブルマスタング/クルージング】
 オープンカーのマスタングの助手席に彼女を乗せてクルージング。メジャーショットである8か所の黄色いアローライト点灯ショットで街から街へ。
 ショット成功で通常は80万程度だけど、一か所だけの点滅箇所を狙うとヴァリューは倍。2回目・3回目……と成功の度に有効アローライトが減って難易度は上がり、終いにはライト点滅が移動を始めてちゃかちゃかレーンを勝手に走り始めるからさあ大変。
 BGMはエドガー・ウィンターの「フリーライド」。軽妙なギターサウンドがご機嫌。

【1969年式 boss302/ロードコース】
 boss302で挑むのはファニーな輩ばかりが参加するロードレース。制限時間を気にしながら並み居る強敵を点滅アローショットで1台、また1台とかわすべし。
 時間制限がシビア!失敗するとまたやり直しで、“あなた3位〜!また頑張ってね”“また戻って来たのか〜い”と嘲笑うメッセージに、プレイヤーは思わず歯ぎしり千万。
 コンプリート終了だと400万の追加ボーナスで、トータルは1500万程。

【2000年式 SVTコブラR/ポリスパースート】
 アローライトを一か所一か所丁寧にやっつけてシグナルを赤に変えた後は左右ループに直行!信号無視容疑で追ってくるパトカーを右ループ連続ショットで振り切っちまえ!
 あれ、アニメーションデモで描かれるコブラマスタングに乗ってるこのオヤジって確か……ピンボール好きならすぐ誰だか分かりますね。フィーチャー自体もそのお方へのオマージュが捧げられているのは自明の理。

【1968年式ファストバック/スタントドライバー】
 “Lights,Camera,Action!”の掛け声とともに、マスタングファストバックではカーチェイスのスタント撮影に挑戦だ。アローライトショット成功の度、カーアクションや銃撃戦などスリリングなヴィジョンが描出。
 もたもたしてると“カーット!テイクツー!……カトカトカーット!! テイクスリー!”と監督の怒号が飛んで来て撮影にどんどん置いてかれるぞ。
 R&Bタッチのミュージックには嫌でも血が騒ぐこと請け合い。

【1970年式 マッハ1/ドラッグレース】
 ジャン&ディーン「ドラッグシティー」の爽快なBGMと共に始まるドラッグレース。G-E-A-R-S5枚バンクドロップターゲットを全部倒すと2ボールマルチが即スタート。
 マルチ中のJPはドロップT。ヴァリューは40万。スーパーJPは左ランプと右キャプティヴにて100万。
 JPヴァリューは低いけど、テンポが良くて楽しいフィーチャーだ。

【2011年式 GT/ラリーレース】
 マスタングGTで荒野を疾駆。地図通りにショットを決めれば左スロープ最上段が稼働。近道を駆け抜けてフィニッシュを決めるべし。時間内コンボのシビアなルールが心地よい。
 BGMはモーターヘッドの「エースオブスペーズ」。ハスキーでシャウトなヴォーカルも熱い!

【2012年式 boss302/ドリフトレース】
 '65年式〜'11年式マスタング全到達で初めて挑めるプレウィザード。
 映画「ワイルドスピード」世界観そのまんまのゲーム性で、時間制限を気にしながら数百万の高額ボーナスがかかる連続左ループをひたすら決めて猛スピードのドリフトドライヴを繰り返せ!一度消えたドリフトループは他のアローライトで再点灯。
 刻一刻と迫るタイムアウトをドリフト成功で更に時間延長、再点灯・また再点灯でぐいぐい伸し上がる高額ヴァリュー、緊張感溢れるエッジの効いたBGM、“It's Cooool!”と艶めかしく響くドリフトガールの嬌声!
 ピリピリしたタイトな昂揚とスピード感は一級品。

【2015年式 最新型mustangモデル/シルヴァーボールスタンピード】
 全マスタングイベントに勝利を収めてから始められる最終ウィザード。
 3ボールマルチスタートと共に並み居る6人の強豪ドライバーと対決。一人倒すごとにアドアボール有り。
 ……意外と地味なマルチボールで、ウィザードとしてはちょっと肩透かしだったかな。


 そして最たる白眉は、メインのマルチボールである[シフトギア・マルチボール]
 5枚バンクのG-E-A-R-Sドロップターゲットを倒してシフトギア段階を上昇させればスクープでマルチが始められるのだけど、マルチ開始の閾値であるシフトギア3で始めた時と6まで伸し上げて開始した時ではマルチボールの戦況もJPヴァリューも桁違い(咄嗟にボースフリッパー操作2回でマルチボールキャンセル可)。
 ギアMAXの6まで根気よく上昇させるか、ギア3でお手軽に始めるかはプレイヤー次第。
 因みにギア6ではマキシマム6ボールマルチ&スーパーJPヴァリューは五千万点。これに最強アップグレードをしとめてプレイフィールド2Xに突入していれば、一挙1億SPJPの暴利をアンリミテッドで荒稼ぎ!プレイヤーの血液もニトロエンジン噴出状態に!!

 つまり、初心者や一般プレイヤーも簡単にマルチボールが楽しめて盛り上るけど、本気で稼ぎたいなら前もってギアとグレードアップの役を丁寧にこつこつ組み立てる戦略と、マルチボール実戦における精神の粘り強さが必須となってくるのです。腕が鳴る鳴る!

 一方で、シフトギアをMAXに上げたりしないで、面倒でやっかいな各年代マスタングイベントをマルチ併発で一瀉千里に片を付ける作戦を主軸とし、低ギアシフトマルチでマスタングの新車コレクトをさくさく進めるのも楽しい。

 プレイすればプレイするほど多種多様な切り口と戦略が幾重にも展開。
 たった1本のレーンに降ろされる2段階登坂スロープから何通りものランプレーンへ枝分かれさせて戦況を認識し易くする一方で、その分広々としたシングルレベルのループを左右共に開通。
 カーレースのスピード感とゲーム性を創出させることに成功しています。

 加えるに、贅沢なミュージックのフィーチュアと洗練された都会的な演出の素晴らしいこと。ファニーなキャラクター達による出オチなど、時折盛り込まれたギャグセンスもイイ隠し味に。

 熱いカーマニアの打成一片な一途さが筐体から全身にビリビリ伝わってくるような、ゲーム性に熱波を感じる傑作です。プレイすればするほど、体の芯まで情熱に痺れました。


 さて、このフォード社マスタングなる優れたモチーフを得て傑作を生み出してくれたゲームデザインクルーに目を向けますと、先ずバックグラスのアートワークに関してスターンは、あちら側GTデザイン界に敬意を表したのか、権威者であるカミーロ・パルドーに描いてもらったものの、言っちゃあ悪いがディーラーパンフみたいに上品且つ綺麗過ぎる仕上がり。
 下品で猥雑な我らピンボールアートのスタンスで言うと、やや物足りない出来なんですよね。

 一方プレイフィールドはジョン・ユッシー、サイドバックボックスはグレッグ・フレーレス……と、頼もしいピンボール絵描き屋のお二人が、いつものように健筆を豪快に滑らせてくれていて、こちらは流石の完成度で重厚な質感。

 それはともかく最も重要なのはフィールドデザイン。
 車好きで知られるスターン社デザインチームVPジョージ・ゴメスは、WMS時代にバリー台「コルヴェット('94)」を手掛け、しかも自身が初めて購入した想い出の車が1970年製マスタングときたもんですから、今回デザインチーフに是が非でも就任したかったはず。

 しかしこのたび本機種デザイナーとして白羽の矢が立ったのは、なんとジョン・トルデオー!

 言わずと知れたカルト作「クリーチャー・フロム・ザ・ブラック・ラグーン('93)」のデザイナーじゃないですか。
 ゲームプラン社1981年製「グローバル・ウォーフェア」の美術担当としてキャリアをスタート(初ソリステ量産メーカーとして知られるアライドレジャー社に在籍していた…という言説はデマだそうな)。

 プリミア時代には「ハリウッド・ヒート('86)」「ジェネシス('86)」といった骨太作で同社を支え、WMSに移籍した後はウィリアムス台「ザ・マシーン('91)」とバリー台「バッグス・バニー('91)」を同時進行で仕上げて他のスタッフを驚かせた早業師としても名を馳せることに。その後「クリーチャー〜」のヒットに恵まれるものの、やがて失敗作が続いてWMSを解雇。

 2000年代は他社でリデンプション筐体を手掛けたり、イギリスの新進気鋭ピンボールメーカーでコンサルタントを務めたり等々に活路を見出そうとしたものの、デザイナーとしてのキャリアは実質停滞状態に。
 加えるに、2010年代に入って高血圧と心臓疾患の大病に苦しめられ、長期入院の上に大掛かりなバイパス手術を受ける試練の日々を送っていました。

 しかし2013年春、トルデオ生還!

 彼と契約を交わしたスターン社は、キャリア歴30年以上・手掛けた台60作越えのベテラン ジョン・トルデオーを専属デザイナーとして迎え入れたことを発表しました。

 しかしキャリア大御所と言えどスターンでは新米。会社の嘱望に応え、必ずや結果を出さねばならない……とトルデオ入社当初はプレッシャーを気負っていたそうです。

 しかしレイ・タンザー、ジョージ・ゴメス、ジョン・ボーグ。かつてのゴットリーブ、かつてのウィリアムス/バリーのエンジニア仲間たちが久方ぶりに同僚となって和気藹々と交歓して勇気づけてくれたそうで、中でもスティーヴ・リッチーが近寄ってきて耳打ち一声。

 “あのな、ココは仕事も環境も最悪の地獄だぜ……!? でもその地獄こそが最強なんだ。ここではやるべきことをやり、やれること凡てをやろう。ベストを尽くそうぜ!”

 こうして極上のプレイフィールドデザイン作「マスタング」を完成させたトルデオは次作「レッスルマニア('15)」、次々作は「ゴーストバスターズ('16)」……と年に1作のペースでハイアヴェレージな新台を発表。
 特にゴーストバスターズに至っては殺到するオーダー数相手に捌き切れず、製造・出荷が数か月待ちになるという、スターンにとっては出涸らしだった映画ライセンス台の新たな可能性を見出す契機となったくらい。


 そんなトルデオもスターンも前途洋々と思われた矢先の、2017年夏のこと。

 非常に残念ながら、69歳のトルデオの私生活が招いた大きなトラブルにより、恐らく彼の新作は二度と楽しめない事態へと陥ってしまいました。

 冒頭で名前の挙がったザック・シャープスターン社マーケティング主事に初就任した時節であり、悲しいことに彼の初仕事は、心から尊敬するデザイナーであるトルデオの起した不祥事の釈明アナウンスだったなんて。やるせなさでこちらまで胸が潰されそう。

 既にスターン社を解雇となり、拓落失路の憂き目に遭ったジョン・トルデオーですが、そんな汚れた晩節を過ごす彼であろうと、私にとっての憧れの存在であることには変わりありません。
 「ブラックローズ」「マスタング」は、筆者生涯のフェイヴァリット台だし、既に高齢だった彼のデザインがスターンの新台として3作も世に出てきたことに、心から感謝申し上げたいです。

 Thank You very much, Mr.John Trudeau!



▲スロープの上にまたスロープ。左ループは3通りのコースに枝分かれ。LE/プレミアム版は更にもう1本分岐があるそうだ ▲マニア泣かせの込み入った右上キツキツレーン編成。どの箇所も非常に重要で、確実なショットを決める必要がある ▲トップレーン右脇にはスキルショットレーン有り。但し成功回数×100万点で、それ以上魅力的な役の進展は確認していない
▲ダイレクトに狙うと結構危ない左端スタンダップ達。テンパるとEx.へのショットが決まらない決まらない ▲ヴォイススピーチ担当はプロフェッショナルドライバー兼名司会者のタナー・ファウスト。 ▲マスタング50年の歴史においてヨーロッパでは正規販売されていなかったそうで、2015年モデルでようやくオフィシャル輸出となった
▲マスタングにはシェイカーモーター機能があるものの、別売りオプションであるとのこと ▲トルデオはプリミア時代にバリーミッドウェイへ会社訪問したことがあるものの移籍は留まったという ▲トルデオには絵心があり、絵描き屋としてデビューしていたとは意外。今大変な時期だけどピンボール界隈できっとまたいつか!

(2018年1月10日)