Stern Pinball/2024ジ・アンキャニー・X−メン(Pro版) | ![]() | |
原題 | The Uncanny X-Men(Pro) | |
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製作年度 | 2024年 | |
ブランド名 | スターン・ピンボール | |
メーカー | スターン・ピンボール・インコーポレイテッド | |
スタッフ | プレイフィールドデザインチーフ:ジャック・デンジャー/ソフトウェアエンジニア:ウェイスン・チェン、マイク・カイズヴァート/エレクトロニクス:チャーリー・ラニンガー、ジム・シャード/メカニクス:ケヴィン・コロージェイ/ルール:マイク・ヴィニコー/美術班チーフ:ジェレミー・パッカー(ゾンビ・イエテイ)/音楽:ジェリー・トンプソン、チャーリー・ベナンテ/プロデューサー:ケヴィン・ラースン | |
標準リプレイ点数 | ― | |
備考 | ― |
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【1st.インプレッション&雑感】 ●スターンピンボールの超問題作「ジ・アンキャニーX-MEN」が2024年9月にリリースとなった。Pro版6,999$、プレミアム版9,699$、限定版12,999$。デザイナーは「フーファイターズ」のジャック・デンジャー、美術はゾンビ・イエテイことジェレミー・パッカー。音楽は何とジョンウィックPINに続いてチャーリー・ベナンテが続投。またひとり高名バンドマンがピンボール産業の一員へと伍した。尚ジェリー・トンプソンがそれら音楽,サウンド,効果音をまとめあげている。 ●この度のテーマは過去のスターン作でも度々採用されているマーベル及びX-MENフランチャイズなのだが、本作は1981年出版のコミック版「デイズ・オブ・フューチャーパスト」が原案。ウルヴァリン、プロフェッサーX、マグニートー、サイクロプス、ストーム、コロッサス、ビースト、ローグ、ガンビット、セレブロ、センチネル、ミスティークらが登用されている。また実写映画でも同じ原作がバックボーンとなった「X-MEN:フューチャー&パスト」が2014年に公開されているが、そちらからの許諾及び関連は無し。 ●尚“アンキャニー”なる副題は1963年発行及び創刊の“The X-MEN”の後日改題が“Uncanny X-MEN”なのだそうだ。X−メンはフランチャイズが厖大過ぎて把握が追いつかないが、歴史あるコミック版への敬意が払われたタイトルである模様。一方本家マーベルは2024年8月7日に発行で、アンキャニーを冠するコミックを再始動させている。登場キャラはウルヴァリン、ガンビット、ジュビリー、ローグ、ナイトクローラーがメイン。本機種はこのムーヴメントに合わせたピンボールである。 ●しかし、評価は批難囂々。スターンは終わった、大きな間違いを犯した、致命的失敗作である……等々、巷間の口さがない。まるで'90年代にピンボール産業を潰した「ポパイ」や[PINBALL2000]が再来したかの如く戦々恐々。殊に同機種を複数台購入してしまった結果、ひとつ残らず問題が起きたというオペレーターによる憤激の投稿は辛辣。これで二度とスターン台を買うことはない―――とまで怒りを露わにしている。 ●何が問題なのかと言うと、警抜なプレイフィールド設計を強行したことによるボールスタック、跳ね上がり、ランプレーン逸脱等々のトラブルの数々だ。アクロバティックなランプレーンボールフローで華麗なウルトラCを決めるはずが、着地に失敗して再起不能の大怪我を負った、と例えればいいだろう。あっちこっち急カーブや急オービット、急クロスループで旋回したボールコースから、球はまさかのヴェクトルで待ち構えるランプレーン入口に乗り上がり、そのランプレーンも更なる連結連絡へと強引につなげている。シュートが通れば驚異的だが、この常用と濫用は無茶だ。ロケで今後5年摩耗したら、日々全箇所マメに調節していかない限り、ひとつも通らなくなるのではないか?「ハイスピード」のプランジャー⇒サイドランプがそうだった様に。いやそれどころか各オーナーはアンボクシング直後はボールフローが開通せず、微調整に苦労させられたはずだ。 ●フィールドデザインに関してはまだもうひとつ問題がある。アンチイタリアンボトムの蛮勇だ。フィールド下部のフリッパー×スリング×リターン×アウトレーンが左右対称で、尚且つ中央に定立されているノーマルな作りをイタリアンボトムと呼んでいるが(なぜそう呼ぶのかは諸説あるが割愛)、その常識を捨て、奇形的な作りへと勝負に出ている。左アウトレーンが無い代わりに、左脇に独立したショートフリッパー付きミニフィールド[デインジャールーム]が設けられ、ルール上ここへの入室は必定。通常フィールドへ脱出,復帰できずに落とせばドレイン。また、右アウトレーンはプランジャーレーン兼用というイレギュラーだ。加えるに、左スリングがなく、何と単品バンパーが設えられている。「リック&モーティー」や「ゴールドウィングス」の様に。 ●その結果、デザイナーは左ランプレーンに通すと左フリッパーリターンさせる想定で設計したはずが、購入者に届いた台ではボールが吹っ飛んでデンジャールームをも飛び越え、アウトホールへ転落する!―――と言う、看過できない致命的欠陥が生じた。これじゃフィーチャーが先に進まない……いやゲームにすらならないだろ。 ●欠陥はこれだけではない。 ・センチネルヘッド左右ミニオービットランプレーンはどうにかギリギリ実現はしているが、それでも球が跳ね上がる脱線が起きがちである。 ・きつきつ設計ボールガイド,ボールシールドによりスタックが各所で頻発。 ・まるで'80年代の欠陥台の様に、左フリッパー根本で球が跳ねる。 ・右アウトレーンとプランジャーレーンを兼用した結果、オートシューターコイル熱ダレ時にマルチボール開始すると団子現象により、底抜けアウトレーンへ全滅(これは酷い!)。 ・フルプランジしても連絡先ランプレーンにきちんと乗らないこともある。途中で別パートのレーンを色々と兼用し過ぎているせいである。 ●プレイフィールドの構造も煩わしい。スカッと通りさえすれば爽快なアクロバットでランプレーンからフリッパーにリターンするのだが、しそこねて逆走でも起こしてみなさい。『逆走?ど真ん中なんてまかしとけぇ!』と上級者が構えようとも、無理筋フィールド構造上アッチコッチの出っ張り箇所が!忌まわしい単品バンパーが!バウンスボールを遠慮仮借なく張り倒しまくって暴れまわること弾けまわること。コレを捕まえるのに毎回どれだけ苦労することか。これをスリリングで面白い、と抱きしめるべきか、理不尽な駄作、と突き放すべきか……。 ●かように惨憺たる仕上がりなのだが、フィーチャー及び演出は大変に洗練されている。8つのバトルモードミッションでは各X-MEN達の活躍を成功に導くのが使命。森の中でバイクをかっとばすウルヴァリンにセイバートゥースが急襲!とか。パイロが街で大暴れ、ストームが凍らせてお仕置き!とか。か弱き人外少年がレイシストに囲まれリンチに、助けてビショップ!……等々。各バトル失敗だとやり直し。完遂すると高額ボーナスのみならずただちに荒廃した未来へタイムスリップ。今度は投獄されているX-MEN達をキティプライドが救出するという二重構造。成功するとデンジャールームボールセーヴ保証やアッドモアタイム等々のメリットが貰えるので、何が何でも成功させたくなる。メインのマルチボールもセンチネルヘッドに当てまくれば作動、というシンプルさが良い。「ジョーズ」や「ジェームズボンド」のマルチボールルールが分かりにくかった反省か。 ●結果的に「ジ・アンキャンニーX-MEN」は欠陥台であり、失敗作ではあるのだが、なら筆者が『「アベンジャーズIQ」や「フーファイターズ」と比べてどちらが好きか?』と問われたならば、即答でアンキャニーXだと胸を張る。現時点コードではウィザードなどがまだ入っていないが、プレイフィールドの欠陥はともかくゲーム性は上述の様にとても良く出来ており、ジャックデンジャー前作の「フーファイターズ」より更なる進化を遂げている。登場人物全員に感情移入できる作劇と描出もテンポよく爽快で、血の通ったストーリーが皆無の「アベンジャーズIQ」よりドラマツルギーは優秀だ。プレイフィールドが堅調過ぎて演出も平淡なスターンの前作「ジョンウィック」の評判も良くないが、そのジョンウィックとアンキャニXとでは長所と短所がまるっきり正反対なのが非常に興味深い。 ●しかし筆者がいくらアンキャニXの秀でている面を見出そうとも欠陥台であることに変わりはない。殆ど迫害の様な悪評と個人攻撃を受け続けた果て、スターン社は2025年7月に“ジャックデンジャーはコミュニティー部長へ就任した”と発表。つまり彼はデザイン部門を退任する形で責任を取らされたことになる。元々デンジャーはプレイ動画などのストリーミングチャンネルが突出して好評だった方。今後はスターン広告塔としてライヴ配信に勤しんでゆく……とのこと。尚、ジャックデンジャーが既に取り組んでいた次作は何と「ポケットモンスター」ピンボールで、それをキースエルウィンが引き継いだ……との噂あり。 ●一方、ピンボールアーティストとして絶好調のジェレミー・パッカーは2025年4月14日付でスターンの美術部長へ就任している。ジェレミーは2016年来“ゾンビイエテイ”の二つ名で「ゴーストバスターズ」を皮切りに、いたずらっけたっぷりな、尚且つ目の覚めるような鮮烈なアートワークを手掛けつつも、当初7年もの間、ずっと外部の請負という立場が続いた。彼がプロジェクトアーティストの肩書きでスターンの正社員となったのは、2023年の2月になってから。この度の就任により、レジェンドのピンボール絵描き屋グレッグ・フレーレスが引退した空位がやっと埋まることとなった。 ●今作において、デザインチーフのJデンジャーに比肩する程の功労を果たしたのがソフトウェアチーフのウェイスン・チェン。“僕はピンボール産業におけるX−MEN専門家”と言い切る程、その造詣を自負。'92〜'97年までのX−メンコミックを4箱分所有しているという。尚「ブラックナイト〜ソードオブレイジ」の脚本の大部分を書いたのも、今作のシノプシスをまとめたのもウェイスンである。『センチネルが世界を支配し、ミュータントも人間も操られ、世界が混乱。過去に戻って、些細な事と思えた出来事が未来を変えて、世界を救う。そんなクールな「デイズ・オブ・フューチャーパスト」のコンセプトはピンボールにぴったりだと思って書き始めたんだ。』更に、LCDに映る映像は、全て一からスタッフらが作成したもの。提出した0号資料を精査したマーベル側のスタッフは、脚本,サウンドの出来の良さにとても驚いていたという。“これ……プロの脚本家や、クリエイターを雇ったんですか?” ●ジャック、ジェレミー、マーク、ゴメズ、ジェリー。スターン社にはX−メン好きが大勢いる。だからスターンピンボールではいつになってもマーベルキャラが幾度もライセンシングされるのだという。特にデザイン部長のGゴメズはX−メン愛好家としても年季が入っている。Jデンジャーはご自分のTシャツ、部屋のカーテン、ベッドのシーツまでがX−メングッズだ。Jパッカーも、“X−MEN嫌いな奴なんていないだろ、もしそんな奴いたら嘘つきだぜ!”と啖呵を切る。筆者も、X−メンに興味ないといいつつ、ピンボールを打っていくうちに情が移ってきたキャラが何体かいる。確かに。 ●今回の論点のひとつでもある、単品バンパー及びデンジャールームミニフィールドによる反イタリアンボトム。企画案の段階ではやはり(デザイン部門部長の)ゴメズに渋い顔をされたが、デンジャーの熱意に押され、“分かった。そこまでやりたいなら、プロトタイプを作って(会長の)ゲイリーに見せてやるといい”とGOサインが出た。 ●また、あの極北的なクロスオーバー・オービットランプ。プレイフィールド及びそのボールフローはCADソフトでシミュレーションしてからホワイトウッドをカッティングするが、それでもうまく実現するのは8割、5割、酷いと3割程度。特に今回のボールフローは急旋回交差連絡が多段過ぎて不可能ではないか……と、ジャック以外のスタッフから懸念の声が上った。しかしホワイトウッドでのボールフローは全てスムースに実現し、完成品とも基本的には変わっていない。これらは設計が1ミリでも狂うと成立しない代物だが、これらはメカエンジニアのケヴィン・コロージェイの功労だと言う。 ●豪華版の見せ場であるセンチネルヘッド。あれは盤面内部からせりあがって登場するのみならず、顎が外れ、顔の表情が苦悶に怒り狂う精巧なメカニクスを搭載させようとしたが、見た目が随分悲惨なものとなった。また稼働の確実性を考慮した結果、結局完成品のものにとどめることとなった。他にも、鮫が球を食わないジョーズへの失望が騒がれていた時期だったため、センチネルの口をスクープにして、そこにボールが入ることも検討されたが、これも見合わせた。他、かのデンジャールームは上段か下段フィールドにすべきでは……とのありきたりな選択肢には、誰も賛成しなかった。大胆なアンチイタリアンボトムに挑戦することを皆が選んだのだ。 ●音楽はアンスラックスのチャーリー・ベナンテ。物語の舞台は'80年代だけあって、“俺の音楽性にも精神性にもぴったりの仕事だぜ!”と、その時代の要素をふんだんに盛り込んだ。『そう言われてみれば一部の曲はアンスラックスっぽいスラッシュメタルの雰囲気が出たな。つまり'80年代メタル,スタイルロック,ニューウェーブだ。当時感じていた未来への終末観であり、歪んだ過去の姿でもある。音楽もそれを反映しているのさ。よりダンス志向に傾いたサウンド。ピンボールではこの楽曲がプレイヤーを熱狂させる。プレイを始めると曲が流れ、音楽に没頭してゲームをしていることを忘れるほど流れに乗ってしまう。このゲームでの'80年代回帰は、サウンドとゲームの雰囲気にとって非常に重要だったのさ。』 ●同じベナンテによる作曲の仕事でも「ジョンウィック」とはデザインチーフの御手による配剤の差がくっきりと出ている。サウンドの鮮烈さが雲泥の差だ。尚、アンキャニX側の効果音担当はジェリー・トンプソン。彼の腕前の所以も大きいだろう。 ●誰もが呆れた左ランプレーン⇒デンジャールーム付近逸脱⇒転落ドレインのトラブルだが、プレイヤー側から防ぐ方法がある。左ランプレーンにボールが乗った瞬間に、筐体を超クイックリーに左右シェイクさせるべし!但しレグがスライドしない程度。そうすると球の球威が減速、脱線せずに左フリッパーに無事リターンしてくれるのだ。これは普段上級者がリターンレーンから流れてくる球を減速させる技として使う揺らし技なのだが、その応用である。他、ランプレーン逆走球の暴れまわりに関しては、要所要所で縦横ナッジ,及び球威を殺す逆ナッジ(ボールがぶつかってゆく方角と同じ方向にナッジ、柔道でいう受け身の技で衝撃を吸収)で対処。『そっち行くな!こっち!こっち!』とボールを安全圏へ誘導すると良い。途端にプレイ時間もスコアも伸びるはずだ。 ●最後に、[This week in Pinball]へ投稿された、アンキャニーX−メンを高く評価するコメントの抄訳を掲載させて頂きたい。 『X−メンのレイアウトは大変挑戦的で、近年作の中では最も躍動感に満ち満ちている。現代のピンボールには、こういった私達の世代に合わせたテーマが必要だ』 『昨夜「アンキャニーX−メン」をプレイしたが、とてもエキサイティング!至妙極まれり。プレイヤーを大変奮起させるものを感じた。やりがいがある。素晴らしい!』 アンキャニXへの評価は、プレイヤーそれぞれが実際にプレイした上で真贋を下して頂きたい。 (2025/10/5) |
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