各名門ブランド ピンボール・リスト

Gottlieb Pinball/1992

キュー・ボール・ウィザード

原題Cue Ball Wizard
製作年度1992年
ブランド名ゴットリーブ
メーカープリミア・テクノロジー
スタッフデザイン:ジョン・ノリス/美術:デヴィッド・ムーア、コンスタンティーノ・ミッチェル、ジャニーヌ・ミッチェル
標準リプレイ点数不明
備考製造台数:5,700台
※ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲これがビリヤード・キューボール装置。このキューが稼働して的球をショット!(写真では的球と手球が逆の配置だが、その方が本来のビリヤードルールの理にかなっている) ▲フィールド下部。アメリカ南部の田舎町のビリヤードホールの雰囲気を醸すアートと色使いが渋い
▲プレイフィールドの一番奥。トップホールもスタンダップもドロップターゲットも、このゲームでは左右一対にデザインされている ▲エイトボールデラックスオマージュ全開バックグラス。美術班DムーアさんCミッチェルさん前作は屈辱のスーパーマリオ作画お疲れ様でした。やっぱりPINアートはこうでなくちゃ
▲ずらっと並んだドロップターゲット7バンク。反対側にも同ユニット有り。スイッチ系統の故障も少なくて有り難かった ▲プレイフィールド上部。上段黄色・青色・赤色スタンダップをビリヤードボールでショット、ジャックポットを頂き。

― COMMENTS ―
●ビリヤードホールにバーカウンター、そして脇に置かれるピンボールマシン。
 これらは切っても切れないノスタルジック・アメリカンカルチャーのワンセットの景観ですが、そんな連想の腐れ縁もあって、“ビリヤード”は幾度となくピンボールゲームのアートやテーマ性に用いられてきました。
 そのテのビリヤードPINのお決まりフィーチャーは、番号を振ったドロップターゲットやブルズアイターゲットを的球に見立てているものが殆どで、ポケットビリヤードのルールを再現することに専心しているのが定石のゲーム性。

 一方、いっそのこと本物のビリヤードボールがプレイフィールドに放たれているデザインや、実物大キューが突けるピンボールを作っちまえないか。そんな台を誰もが空想しますが、現実性が乏しいため、実際に世へ送られることは無いだろうと思われてきました。
 過去にバリーミッドウェイがキャプティヴされた本物ビリヤードボールをショットする「ホットショッツ('85)」を試作しましたが、製品化するには遠い仕上がりだったようです。

 しかし1992年のこと。本当に本物のビリヤードボールの手球・的球をプレイフィールド上に投入し、単なる飾りでは無く、実質的に盛んなアクションを起こさせる主軸フィーチャーとして組み込んでしまった!……という、比類のないビリヤード・ピンボールが登場、業界及びプレイヤーを仰天せました。
 「キュー・ボール・ウィザード」は、そんな今まで誰もできなかった横紙破りを無理なく実現させ、きっちりゲームを成立させた、プリミア/ゴットリーブ会心の代表作です。



【実物大キュー&ボール】何とプレイフィールド上段・下段にビリヤードの本物サイズキューとボールが設置!上段の台座ごと勝手にゆらゆらモータースウィングして角度が変化。キューを稼働させて3色ターゲットを狙い、ボーナス点やジャックポットを仕留めるという、超アヴァンギャルドギミック。
 下段でもフィールド目いっぱい横切る鈍角のVの字状に張られたワイヤーにビリヤードボールが乗っかっているので、ソレに通常のボールを当て、ビリヤードボールでしか接触出来ない位置のターゲットに間接ヒット。これに反応して上段キューが稼働、上段ビリヤードボールが突かれる仕掛け。スキルショットやマルチボール時に活躍。

【プランジャースキルショット】成功で500万点獲得。スウィング稼動する上段キューボールがプランジャースキルのタイミングで反応。角度を見定めて上段青ターゲットをキューボールで狙う。

【ボールロック】右ランプレーンにかかる。たもとの緑色のロックライト点滅が合図。点け方は、左or右7バンクドロップターゲットの全完成後、付近がフラッシュする下段ビリヤードボールを打ち当てて間接ターゲットをしとめる。

【マルチボール】2ボールマルチ。ボールロック後、アナザーボールを打ち出して即スタート。マルチ中は上段キュー台座スウィングが延々稼働。
 尚、マルチを1度も果たせずラストボールで後がないプレイヤーでも、3ボール目プランジャーショットで強制インスタントボールロック。2ボールマルチが必ず遊べる施しがある。

【ジャックポット】上段3色ターゲット黄・青・赤にそれぞれ500万点以上のジャックポットがかかる。2マルチ中に振り子稼動するキューで狙う。尚JPヴァリューはドロップTで上昇。

【スーパージャックポット】右ランプレーンにかかる1億点。マルチ中に3色のジャックポット全て仕留めた後にリット。
 尚、SpJp獲得後は再びジャックポット3色JPが有効となる。

【ワゴンホイール/ミニゲーム】シングルボール時に右ランプで得られる時間制ミニゲーム。
 ランプレーンにビッグポイントがかかるロウディーランプ、ホースシューにかかるハリアップエキストラ、ビリヤードボール間接ターゲットで一千万取り放題のサイドポケット、3段階カウントダウンボーナスコンボショット、左下キックアウトホールでD-O-U-B-L-Eレターが進捗するスペルダブル、の全6種。
 ミニゲーム再点灯は同じくランプレーンor左下ホール。ミニゲ項目は右下ターゲットでライトチェンジ可。

【プールボールマニア/プレウィザード】3ボールマルチ。ターゲット類全てがアンリミテッド500万。全6種ミニゲーム完了後の右ランプにかかる。

【9ボールプレイ/ウィザートモード】このゲーム最大の5億点ボーナス。プールボールマニア終了直後の右ランプでこのモードがスタート。
 左側ドロップ@〜Fをナンバー順に倒すと、右側ドロップのHに5億点ライトがフラッシュ!但し時間制。

【バンクショット/ミステリー】左右対の2つのトップホールで得られるビッグヴァリュー+ミステリー。1回目100万、2回目200万、3回目300万、4回目Ex.、5回目700万、6回目1000万、7回目1500万、8回目以降2000万点。
 同時にセットで得られるミステリーの内容はラック数上昇、ビデオモード、ミニゲームスタート、ハリーアップ、エキストラボール、スペシャル、DOUBLEレター進捗、WIZARDレター進捗、など。

【ビデオモード】ランプレーンにかかる簡単なビデオゲーム。ディスプレイでポケットをスクロールさせてボールをキャッチするゲームと、3つの扉のどれかを選んでプールチャンプを引き当てるゲームの2種類。
 ビデオモードを点けるには左右リターン&アウトレーンのP-O-O-Lのライトを全て消す(点けるのではない)。レーンチェンジ可。

【スイートスポット五千万】バンパー地帯よりさらに奥にある2枚の白スタンダップで五千万点取り放題。P-O-O-L完成で有効に。

【白玉スクラッチボーナス】下段白玉(写真ではG番ボール)をヒットして間接ターゲットを繰り返し当てるとビッグポイント。3回目で一千万、8回目で三千万、15回目で六千万。

【WIZARDレター】W-I-Z-A-R-Dレター完成でスポットターゲットヴァリュー五百万取り放題。揃え方は白玉の向こう側で狙いにくいスタンダップ二枚を攻撃。完成後はスタンダップも一千万に。

【DOUBLEレター】プレイフィールド倍率2Xモード。D-O-U-B-L-Eレター完成でそのボール中有効。ExやSpの個数、ジャックポット、ナインボール5億点、全てにおいて有効。
 但し、開始直後あっけなく落としてもボールセーヴなどの救済措置は一切ないので悪しからず。



 ウィリアムスの「ホワイトウォーター」、デコの「スターウォーズ」という同時期他社の強敵を向こうに回し、キューボールウィザードは製造ユニット数5700台!という、同社の「スーパーマリオ〜」「ストUPIN」をも上回る好セールスを獲得。プリミア時代のゴットリーブにとって最大ヒット作となりました。

 ドットマトリクスディスプレイの処理がぎこちない、音源がチープ、得点バランス及びビッポイントが乱脈……といった難点は看過できないものの、何と言っても本物ビリヤードボールによるプレイフィールドアクションはインパクト爆裂で、通りかかる一般プレイヤーを立ち止まらせる訴求力は十二分でした。

 その一方で、
 “ビリヤードホールで威風堂々辣腕を振るうカウボーイハットのプールチャンプ。周りにはスカーフ姿のカウガールやカウボーイ達……”
 という、バリー永遠の名作「エイトボールデラックス('81)」へのオマージュが歴然なバックグラスアート。及びドロップターゲットを多用してナインボールのルールを再現する伝統的フィーチャーは、マニアを痺れさせました。

 このマシンのデザイナーであるジョン・ノリスは、プリミア時代における自身が手掛けたピンボールマシンの中で「ダイヤモンド・レディ('88)」と並んで最たるフェイヴァリットの一台だと、この「キューボールウィザード」を挙げています。
 無類の独創アイディアを製品化できたこと。そのガジェットを通常のマシンより半分の予算で実現化し、コストパフォーマンスもゲームの評判も上々、その上実質セールスも抜群だったこと。
 そして、自身が敬愛する「エイトボール」シリーズへのオマージュを全霊で表すことができたこと。
 ノリスにとって物心(ぶっしん)が共々に満たされる、大変満足の行く仕事をこなせた思い出深い1作となりました。


 ところで'96年にノリスたちを襲ったプリミア社閉鎖という悲劇の後にも、彼は挫けることなくピンボール産業に従事することを決意。
 セガピンボール(現スターン)社へと移籍したのち、再びビリヤードテーマの自信作「ケリー・パッカーズ・ゴールデン・キュー('98)」を開発します。

 彼は以前からマニアとノーヴィスの点数や戦況の差を縮めるべく、キャッチアップ(複数同時プレイトップスコアと同じ額に点数が追い付くフィーチャー)やダブルorナッシング(成功で自分の現時点スコアが2倍、失敗で現スコア0点)等々、いきなり初心者が上級マニアのハイスコアを追い抜くような、一発大逆転フィーチャーを独自に考案してきました。
 そんな彼が「マリオ・アンドレッティ('96)」など晩節のプリミア台で試験的に導入していたのが、自動難易度調整プログラム。
 プレイヤーの細部に至る巧拙をマシン側が分析し、ボーナスラウンド制限時間の調節、ビッグゲーム到達へのハードルの難易、ボールセーヴの有無……等々相手の腕前に合わせてゲーム性全体を当意即妙に整えるというシステムでした。
 それを完全に実現化出来たのが、新天地セガピンで開発した「ゴールデンキュー」で、しかもノリスはこれが自分にとっての生涯の最高作であると豪語する程、その出来栄えには自信を誇っていたはずでした。

 ところがゴールデンキューのプロトタイプ完成直後、突然ノリスはスターンのオフィスを引き払い、製品版ゴールデンキューの微調整及び次作「ハイローラーカジノ」の2つのプロジェクトを放棄したまま、同社を立ち去ってしまいます

 ファンをも困惑させたノリスの突然の行状。

 当時、同じく閉鎖したプリミアからノリスと共にセガピンボールに移ってきた彼の同期デザイナーのレイ・タンザーが、同社では上役であるメカニカルエンジニアチーフに就任。
 立場を異にした途端、親しかったはずの彼との衝突が日々絶えなくなったことにノリスが苛まれていた側面も要因として伺えましたが、その遁走劇の内実は、誰もが聞いて呆気に取られる程、存外なトラブルへの逢着が原因でした。

 ピンボール産業のシェア下降が年々著しかったその時節、スターンはU.S.A.セガから会社を引き取る予算の捻出に迫られていました。
 禁煙ビルと喫煙ビルの2棟に分かれていたセガピンボール/スターン社のオフィスは、社長ゲイリー・スターンによる資本確保と経費削減令の元、片方を売却、1棟に統合することに。
 結果同社ビルは全館喫煙フリーになってしまい、宿痾のアレルギーを蔵するノリスは重篤症状を引き起こす身の危険を感じ、慌てて取り急ぎで出て行ってしまったのだそうです。

 事情を察したニール・ファルコナーはノリスを支援し、引き続き外部コンサルタントとして仕事を続けたいという彼の意志を支持しましたが、折り合い悪くその矢先、ファルコナーは退社を決めたジョー・カミンコウについてゆく形でIGT社へ移籍してしまいます。

 正式なサインアップもなく突如プロジェクトを放棄したノリスの素行に怒ったゲイリー・スターンは、ゴールデンキューを「シャーキーズシュートアウト」に改竄して製品化。いかにもノリスらしい企画だった「ハイローラーカジノ」も、キース・P・ジョンソンに継がせてプロジェクトを続行。その上ゲイリーはのちにノリスから求められたゴールデンキューのギャラ及び退職金の支払いをも拒否。

 デザイナーのジョン・ノリスは、スターンピンボール社から追放されました

 2014年に入り、スターン社の収益がここ2年ほど上昇傾向にあるのを見計らって、一時期ナムコアメリカへと離れていたレイ・タンザーは再びスターン社専属スタッフとして戻ってきたようですが、同社との間に深い遺恨が残ったノリスに限っては、少なくともスターンのピンボールで再び手並みを振るう日は、もう二度と来ないのかも知れません。

▲フィールド左上ドロップT7バンクユニット。各番号の的球オブジェが点滅で役の状況を掲示 ▲フィールド下部中央に揺らぐ的球(または手球)。高い位置にある緑色スポットTをこのビリヤードボールにおはじきしてヒットさせる ▲ランプレーン入口。ボールロックもミニゲームもかかる重要箇所。結構長距離勾配。
▲左下キックアウトホール。その向こうのスポットターゲットでは突然ハリアップスペシャルが始まることがあってビックリする ▲プレイフィールド全景。DOUBLEレターとWIZARDレターはわざわざエプロン部分に電球表示。こういう演出が心憎い ▲最後は右側的球オブジェ仰角アップの写真でもどうぞ

(2014年10月10日)