各名門ブランド ピンボール・リスト

Gottlieb Pinball/1990

シルヴァー・スラッガー

原題Silver Slugger
製作年度1990年
ブランド名ゴットリーブ
メーカープリミア・テクノロジー
スタッフデザイン:ジョン・トルデオー/美術:デヴィッド・ムーア、コンスタンティーノ・ミッチェル、ジャニーヌ・ミッチェル
標準リプレイ点数
備考製造台数:2,100台
※ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲バックグラスのタイトルロゴアップ。往年の台よろしく、野球スコアをプレイヤーごとにデジタル表示してホームインを点数加算。これがアウトホールボーナスに ▲プレイフィールド下部。実は野球のルールが全然分からないという筆者の醜態はご容赦を
▲ヴァリターゲットの写真をボールビューで1枚。確認し切れなかったがマルチ時のショットはグランドスラムとなるようだ ▲中部右端スポットターゲット3バンク。ハリーアップがかかる
▲中部左端スポットT3バンク。 ▲プレイフィールド上部。どのレーンもすいすいと通し易かった
▲アルファニューメリックディスプレイのアップ。ジャックポットは簡単過ぎたかな ▲キャビネットフロント。ネーム入力専用ボタン有り。
▲プレイフィールド上部。因みにトップレーンW-A-L-K完成でミステリー点灯 ▲バックボックス。ヒットやホームランの度、電球表示でボールの軌道と出塁が表現される

― COMMENTS ―
●スペースシャトル、ハイスピード、ピンボット、トムキャットのメガヒットによるブームも過ぎ去って一段落した'90年代初頭頃。
 「ワールウィンド」「ローラーゲームズ」「ドクターデュード」「ロボコップ」「ザ・シンプソンズ」等々他社から端正なゲーム性を誇る秀作がリリースされつつも、そろそろ新機軸ピンボールの出現が待ち焦がれ始めたこの時節。
 なんとプリミアはランプレーンもバイレベルもデザインから一切省いた平面フィールド台“ストリートレベルシリーズ”への方向転換を業界に示します。

 立体通路なし、勾配なし、2階建てや地下フィールドなし。さらに盤面下の地下道レーンやVUKすら排斥したシンプルなプレイフィールドデザインを設えた上で、馴染みのあるポピュラーゲームやスポーツをテーマとしたストレートなゲーム性。しかも故障が少なく、通常モデルより小ぶりで手軽な発売価格!
 煮詰まり気味だったその年の業界において、(由緒はあるものの)業績が後塵していたメーカーによるトレンドへの反旗に対し、歯牙にもかけず一笑に付す者もいれば、それなりに注目を注ぐ者たちも。
 WMSは正直感心したようで、不発台によっては赤字が出ることもあった同社は翌年それに習うかのように、試験的な平面フィールド作「ハーレーダヴィッドソン('91)」をバリーネームで発表しています。

 ただこのストリートレベルシリーズ。伝統的ゴットリーブの衣鉢を継ぐプリミアとして、複雑化する世のゲーム性に一家言モノ申す!……なんて御大層な話ではなく、ランプレーン1本搭載につき10万円原価が上がるマシン製作のコストを引き締め、予算不足をやりくりしたいだけだった……というのが、実のところ本音だったようです。


 さて、ストリートレベル第1作目「シルヴァースラッガー」は、ゴットリーブがこれまでも幾多と送り出してきたベースボールテーマのマシン。
 同プラントによる同テーマのモデルとして、'70年代前半には「プレイボール」「グランドスラム」「ビッグヒット」等々多くの名デザインの台がありますし、彼らが'85年にアルファニューメリックシステムを初搭載する節にも「シカゴカブス・トリプルプレイ」としてベースボールのテーマを選択しています。

 そんな伝統への深いトリビュートを感じる機構やフィーチャーが、プレイフィールドやバックボックスに至るまで、随所に感じられる一作。
 特にヴァリターゲットの登用や、通常アルファニューメとは別に用意したバックグラスの球場スコアボード
 さらに、ボールヒットや出塁を、なんと往年のエレメカのようにバックボックスで電球表示。打てば打つほど選手が出塁してスコアボードが加算されてゆきます。

 プレイフィールドデザインもシングルレベルの狭隘さを感じさせないよう工夫があり、左スピナーレーンを突き通せばトップホールに決まって打ち心地スカッ!右スピナー&ホールもバンパー地帯にキックアウトされてドカドカ。フィーチャー上でホームランを打ったときの“カーン!”とジャストミートした時の硬球音も気持いいです。
 さらに右ループではジャックポットもリットしてくれて、ぐるっと大ホースシューしてJP獲得、ノッカーが響いてプレイヤーはニンマリ。
 マルチボール(2マルチ)は勿論のこと、プリミア発祥のハリーアップボーナスミステリーボーナスも配剤。同社から後に続く「ヴェガス」「タイトルファイト」「カーホップ」等々ストリートレベル台の中では第1作目のこれが一番完成度が高かったのではないでしょうか。


 それはそうと、プリミア社にとってこのストリートレベルの顛末についてですが、シリーズ後半は“全く売れなかった”という、何とも酷薄な業績結果が待ち受けていました。

 同社当時のデザイナーのジョン・ノリスは、自分がプリミア社へ貢献できた10年間はとても充実した幸せな時間だった……と同社への感謝の意を前置きしたうえで、この時のストリートレベルシリーズという会社の指針については「決して良く思っていなかった」ことを、その後述懐しています。

 彼は1990年度のリリースに向けて「ヘルファイター」という題の、フルランプ・フルフィーチャーを搭載した、従来トレンドに沿った新作をレイ・タンザーと共に開発中でした。

 そんな矢先、突然同社から彼らにシングルレベル台のみを開発するよう御沙汰が打たれます。

 同社在籍のジョン・トルデオーは職人肌デザイナーの彼らしく、粛々と「シルヴァースラッガー」を完成させましたが、ノリスとタンザーはこの上層部の急な舵切りに対して反対を直訴。平面シリーズとは別のラインで自分たちにフルフィールドの「ヘルファイター」を開発させるよう切望しますが、マネージメントからは“NO”の峻厳な返答。

 ピンボールデザイナーとして不本意ながらもノリスは「ヴェガス」を、タンザーは「タイトルファイト」を開発。
 その後も何作か平面デザイン製品が同社からは続くものの、ある日突然ノリスたちへ
 “今すぐ平面台は止めてランプレーンもVUKも搭載した従来のフルデザインの台を開発しろ”
 と、戸板返しの御神託が下ります。しかも現行プロジェクトを没にした上で、納期はケツかっちん。

 ノリスとタンザーはこの上層の朝令暮改に歯ぎしりしながらも大急ぎで発売にこじつけなければならず、過去に製品化されずに眠っていた倉庫のホワイトウッドを流用。
 ノリスはレインハード・バンガーター氏が残したフィールドを「カクタスジャックス」に、タンザーは1986年頃に1年間だけ同社にアシスタントとして在籍していたジョー・カミンコウの置き土産「ポルシェ911(レスキューじゃないですよ)」を、全く違うテーマ性の「クラスオブ1812」へと製品化。
 結果として、ストリートレベルシリーズにより製造ユニット数が千台を切っていた同社セールスは、二千台前後までに回復
 現にシングルフィールド廃止直後のプリミアピンボールの完成度の高さはどれも粒揃いで、優秀デザイナーたちは会社側の失策に翻弄され、疲弊だけ被ったことに。

 以降、ストリートレベルシリーズは完全凍結されることとなりました。


 当時リアルタイムでピンボールに飢えていた筆者は、同社「サーフィン・サファリ('91)」のフィーチャーの奥行とデザイン性の高さから、“そら見なさいヴェガスよりも圧倒的に面白いじゃないの”と我が意を得たりとほくそ笑んでいました。
 ところがその後、ワイドキャビネット・映画コピライト・ミニゲーム肥大化の迷走の果てに凋落していったピンボール業界の目を覆うような混乱をまのあたりにして今に至る現在、プリミアのこのシリーズこそ、危機回避し損ねた業界の分岐点だったように思えてなりません。

 ジョン・ノリスは平面シリーズの終焉に関しては“それ一辺倒で忽ち飽和して飽きられたからだ”などとニベも有りませんでしたが、何よりストリートレベルの失敗は、原点へ戻ったのは良いものの、その後はひとつおぼえの同じ手法ばかりで、新機軸的発展が乏しかったから。

 例えばベースボールがテーマなら、'80年代から永らく問題となっているスペシャルやリプレイのクレジット代替えとして、アメリカリーグに昔っからある野球選手カードをチーム毎に発行してリデンプションするとか(個人的にはレアカード商法は大嫌いだが)。地方ごとの差し替えトランスライトとかも用意したりしてね。
 エプロン部分には当時既にゲームボーイ等で珍しくなかったモノクロ液晶をつけてプレイフィールド図のフィーチャー解説やメッセージを要所要所で表示させたり、バックボックスにはリールドラムをこれみよがしに設えて今の技術ならではの眩くトリッキーな稼動をさせる……等々。アイディアの湧出も、色々な立場から様々に提案できたはず。

 スマート且つファッショナブルで、低価格で故障が少なく、オペレーターの負担も軽減。そういったこのシリーズの利点を活かし切れず、同社と同業界は、ピンボール産業において永年鬱積し続けていた諸問題を解決する、最後の機会をここで逃してしまいました。

▲左スピナーのアップ。ホームランライトは常に点滅、通した時のカーン!という硬球音がまた気持ちが良い ▲プレイフィールド全景。ホースシューをやスピナーを活用し、伸び伸びと打てるデザインに務めたことが伺える ▲フィールド右奥ディテール。実在の解説者かどなたかを描いたかは不明
▲左アウトレーンにはキックバック有り。再点灯はドロップ完成 ▲右スピナーレーン。カーブ経由でキックアウトホール。やったことないけどエイリアンスターを髣髴 ▲右リターンレーン近辺。Ex.ライトはレーンチェンジ式

(2014年7月16日)