各名門ブランド ピンボール・リスト

Gottlieb Pinball/1993

ティード・オフ

原題Tee'd Off
製作年度1993年
ブランド名ゴットリーブ
メーカープリミア・テクノロジー
スタッフデザイン:レイ・タンザー、ジョン・ノリス/美術:コンスタンティーノ・ミッチェル、デヴィッドムーア、ジャニーヌ・ミッチェル
標準リプレイ点数
備考製造台数:3,500台/リプレイマガジンピンボールランキング7か月ランクイン、初登場1993年8月号3位
※ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲バックグラス。やはりゴットリーブの美術班はマリオやストUの絵を描かされるより、こういう伝統的カートゥーン調アートのお仕事の方がよっぽど筆が活きる ▲フィールド下部。ワイヤーランプからのフローだとあえてリターンレーンセンサーを通らない作り。全体的にアートの温かなコミカルさが楽しい。
▲フィールド上部。デザインが「ハリウッドヒート」や「ロック」と酷似しているが、これは同じホワイトウッドをベースとした為 ▲5つのゴルフボールのオブジェは、5つのミニゲームイベントの指標となっており、その下にはキャプティヴボールとそのバンパーゾーンが設えてある
▲一見意味の乏しい3色3枚バンクのスポットターゲットだが、ダブルユアスコア挑戦ではココがカギになることもあり、打ち落としに慣れてないと後で泣くハメに ▲バックボックストッパーに鎮座する、害獣ホリネズミ・ガンサー君。中で揺れながらプレイヤーを嘲笑う。プレイ中は意外と目立たないのが残念
▲トップホール。通常ではミステリーがかかり、ミニゲーム中ではホールインワン数Adv.が得られる。なかなかおいしいポイント ▲何と盤面下にルーレットホイール装置有り!但し同構造の台は「モンテカルロ('87)」「スピークイージー('82)」「ファンタスティク('72)」と言った先達有り
▲中央付近からボールヴューで1枚。ココナツターゲット全バンクリセット中に隙間を狙ってシュートを決めるとインスタントホールインワン!というご褒美あり ▲なぜかゴルフ場の池にサメが生息するユーモアが楽しい。因みに四角いスライスターゲットにはハリーアップEx.がかかる
▲ショートフリッパーで狙えるジャンプ台スロープ。但しジャンプが決まってもトップホールin率が低く、右ループから狙った方が効率良かった ▲しかしピンボールのオリジナルアートって、憐とした少年主人公は一切見当たらず、こういうオヤジばかり描かれるのはなぜなのか……

― COMMENTS ―
●1993年、日本国内で太東貿易時代から永らくゴットリーブ台の輸入販売代理を務めていたタイトー社が、「ストリートファイターUピンボール」の販売を最後に、ディストリ権をサミー工業社(現サミー株式会社)へ譲渡

 一説によるとウィリアムス、バリー、ゴットリーブといった3社同時のディストリを抱えていたタイトーにとっては業務の負担が大きく、輸入を見合わせれる機種も多くなっていた同社は、ゴットリーブ台販売権をサミー社に、バリー台をテクモ社に譲渡した……とも言われていますが定かではありません。

 当時コインオペ・アーケードに再参入したばかりだったサミー工業は、淡彩ながら成熟感があり、且つ適度に小洒落たゴットリーブピンボールが社風にマッチすると判断、プリミアの日本ディストリとしてマシンの輸入を懇切丁寧に遂行し始めます。
 日本の法律上(電気用品取締法/現:電気用品安全法)では販売がやっかいな機能も削除せず、海外と同じ稼働が出来るよう届出と登録に1年かける生真面目さは、当時のピンボール通を感心させました。
 時には「グラディエイターズ('93)」を実験的なメダルゲーム仕様に改造した筐体をロケテストに出し、プレイヤーを驚かせたことも。

 また、国内データイースト独自の政策であったプレイヤー向けピンボールプレイングマニュアル発行、という促進手段も踏襲。
 サミー側は複雑な詳細を省いてより簡素にまとめたマニュアルを作成し、ロケーションで無料配布するようオペレーターに取り計らった他、【↓ココを狙えばハイスコア確実!】と筐体に取り付けるポップまで創案。インカム及び販売促進に尽力していました。

 このサミー販売のゴットリーブ台の出回り方が東京都心部で苦戦する一方、地方郊外型店舗では一定の支持を得たのも興味深く、当時地方のショッピングモールのゲームコーナーを覗いてみるとティードオフ、ワイプアウト、グラディエイターズ……と設置のラインナップが3台とも全部サミーのディストリ台だった……なんてことも。
 また瞬時に販売と出荷が終わるタイトーやデータイーストと異なり、数か月に亘る販売期間の長さも販路の余裕と根気の良さを感じました。

 その後ピンボール市場の急失速により、「スターゲイト」(筐体には'94年と打たれているが本国リリースは'95年で国内販売は更に遅れて'96年)がサミーディストリの最後のピンボールとなりましたが、全8作ものゴットリーブマシンが日本でプレイできたことは、ピンボーラーにとっては幸甚としか言えず、深謝に堪えません。

 特にワールドカップの時勢に乗った「ワールドチャレンジサッカー('94)」、日本でのスノボブームを1年先取りした「ワイプアウト('93)」は佳作としてマニア/一般プレイヤー評価もまずまず。
 当時のピンボーラーにとってはあだ花ながら、ちょっとした狂い咲きとして心に刻まれています。


 そんなサミー工業社のゴットリーブディストリ台第1弾が、今作「ティード・オフ」
 サミーとセガが親密になり始めた時期だったこともあり、セガ系列のロケーションで当時よくみかけた一機種。

 近くの火山が噴火するわ、池にはサメが出るわの破天荒なゴルフ場で、巨乳美女のキャディーさんへのセクハラやインチキプレイまでしでかす冴えない中年ゴルファーが、ゴルフ場を荒らす狡猾ホリネズミ“ガンサー”君相手に悪戦苦闘。
 果てに待つのは破産か栄光か。どうやらそれはピンボーラーの腕に掛かっているようですよ。



【スキルショット/トップホール】
 トップホールではミステリーとホールインワン数Adv.がかかる。
 ミステリーの項目はハリーアップEx.、ハリーアップ二千万、GOPHERレター完成、ココナッツボーナス上昇、SKINS!レターAdv.、など。
 そのままフルプランジでトップホールへ自然と入る台の方が多いので、プランジャーは普通に打てばOK。

【マルチボール/ジャックポット】
 左奥火山型VUKホールにマルチボールがかかる。
 点け方は、キックアウトホールやランプレーンなどフィールド各所に点在する@〜HのホールをすべてクリアすればOK。
 マルチボール中は500万点以上のジャックポット取りまくり!各レーン・各ホール・各ターゲット・ランプレーン等ライトフラッシュ箇所が有効。全ポイントクリアでスーパージャックポット獲得。
 JPヴァリューはキャプティヴボール・ココナッツバンパーで急上昇するので、先ずはソコを狙うと良い。

【パーティーマルチボール/GOPHERルーレット】
 中央ドロップターゲット3枚+1枚バンクの奥にある中央VUKホールにかかる。
 同ポイントへのシュートが決まる度に盤面ルーレットが稼働。G-O-P-H-E-Rレターを完成させればマルチスタート。
 パーティーマルチ中は中央VUK及び左奥火山VUKにて二千万点取り放題。

【ホールインワン数/トップホール】
 ホールインワン数を重ねてゆくと大きなメリットが盛りだくさん。毎度ナインホールAdv.があるし、Ex.だって点くし、Sp.もあるし、セレクトフィーチャーやウィザード的なマルチボールも。
 ホールインワンは主にトップホールで得られる他、ミステリーやアウトレーン、バンクリセット中の中央VUKでも獲得可能。

【ティー・ミニゲーム】
 5種の時間制イベントが火山VUKor右ランプでスタート。
 内容は、カップインの邪魔をする悪戯ホリネズミ・ガンサー君との攻防が最高五千万点ヴァリューで中央VUKにて展開する[ティードオフ]、4箇所ライトフラッシュするどこかに隠れたガンサーを見つけ出して三千万点を確保する[キャッチザゴーファー]、右下キックアウトホールとココナツバンパーが荒稼ぎの鍵となる[ピッチンパット]、ダブルユアスコア挑戦ステージとなるS-K-I-N-S-!レターが進められる[スペルスキンズ]、そして[ハリーアップエキストラ]
 尚、全ミニゲーム完成後のウィザードは一千万点単位のビッグポイントが取り放題となる[ビッグスコアターゲット]の点灯。マルチウィザードじゃないのが渋い。

【キャッツ&ドッグス マルチボール】
 点滅箇所2500万点取り放題のプレウィザードマルチ。
 もう1周ナインホールをクリアするとボールロックがかかる。
 尚ココでのキャッツ&ドッグスとは“どしゃぶり”の意。

【エニシングゴーズ マルチボール】
 点滅箇所5000万点取り放題ウィザードマルチボール。
 キャッツ&ドッグス終了後、さらにナインホールもう1周クリアすると通常マルチで、また更にもう1周クリアの4巡目到達でボールロックがかかる。
 わくわくするようなご機嫌なBGMが秀逸。



 本機種フィールドデザインのベースは、既にプリミアを去っているジョン・トルデオーが同社設立初期にカッティングしたホワイドウッド。
 それに「モンテカルロ('87)」のイクイプメントだったルーレット装置をレイ・タンザーが新たにリワークして構築、そしてルールはジョン・ノリスがブラッシュアップ……という、正にプリミア黄金メンバーの才気が結実した快作です。

 VUKの汎用により、ボールフロー及びボールアクションも良好。
 狙い目だってたっぷりあって、正攻にナインホールマルチを狙うか?ミニゲームに集中するか?はたまた通しやすい中央VUKからGOPHERルーレットの完成一本槍でひたすら狙ってもいい。
 そしてそれぞれ並行してホールインワン数も進めてスペシャルまで獲得範疇!

 個人的に面白かったのが、S-K-I-N-S-!完成時のダブルユアスコア挑戦ステージ

 Yes/No選択で辞退すると“コケー!くぉっくぉっ”とニワトリに笑われてチキンボーナス1千万点、けれどチャレンジして成功するとその場で自分のスコアが倍額!但し失敗すると全額没収の0点へ。

 実はその時の持ち点が多ければ多いほど難しい課役が出るように設定。
 時間切れで失敗すると、ゴルファーのおやじが道具一式を崖から海へ投げ捨ててガックリ膝をつくドットアニメ演出が何とも可笑しい!

 マニアもノーヴィスも楽しめるルール作りを常日頃念頭に置いていたというジョン・ノリスがフィーチャーをサポートしただけあって難易度もあまり高くなく、且つ上級者も決して退屈しないゲーム編成。
 個人的にはマリオやストUなんかは勿論、キューボールウィザードよりも完成度は尚も上……としたい程、'90年代ゴットリーブのさじ加減と滋味深さが上手く滲み出た、心地よい一機種でした。


 プリミア社プレジデントだったギル・ポロックは、乾坤一擲なここぞという局面では、老若男女問わず皆に親しまれやすいスポーツまたはポピュラーゲームをテーマに選ぶようにしている……と言明しています。

 同社創立後初のプロジェクトであった「タッチダウン('84)」ではフットボールテーマを選択。
 業界初のアルファニューメリックディスプレイ導入時には野球ネタ「シカゴカブス・トリプルプレイ('85)」と、プロレスネタの「タッグチーム・ピンボール('85)」をリリース。
 決死のシングルレベルフィールド企画第1弾「シルヴァー・スラッガー('90)」ではベースボール、第2弾「ヴェガス('90)」ではカジノゲームを。
 そしてドットマトリクス導入時期にはやはり「キューボールウィザード」「ティードオフ」「ワイプアウト」といった、ポピュラーゲームとスポーツゲームのテーマを選択しています。

 “この素敵にクラシカルなゴルフテーマのピンボールは、私ども地元ベンセンビルにて8週間のロケテストを行いましたの。最初はティーン層に大変人気でございましたが、後半はやがて彼らの親世代にあたるシニア層のプレイヤーが漸増あそばしまして。ゲーム愛好家ご子息ご令嬢とそのご両親が一緒に楽しくコイン投入できる素晴らしいピンボールに仕上がった……と、私どもは自負しておりますのよ”

 と、当時ピンボール業界随一の美貌を誇ったプリミア社マーケティング主事L.J.グリーン嬢は発売当時のプレスにて、自信に満ちた声明を行っていました。


 同社の風向きが変わってくるのは、急激な市場悪化に万策尽きたのか、突然柄でもないテレビや映画のコピライト作「レスキュー911('94)」「フレディ('94)」「スターゲイト('95)」を発表したあたりから。

 “ピンボールを媒体として格安で御社商品を宣伝できますよ”ゲイリー・スターンが自ら小賢しく営業に走り回るすばしこいデータイーストならともかく、頑迷不霊なプリミアにとっては『らしくない』商品戦略を選んでしまい、浪費と疲弊が鬱積していったのは想像に難くありません。

 プリミア社は'96年に倒産し、プレジデントのギル・ポロックも破産してしまいましたが、同社及び彼の采配によるピンボール産業への貢献と存在感は今も甚大。

 アルファニューメリック(14セグメント)ディスプレイの導入。
 重くて危険なガラス製だったバックグラスをフィルム状のプラスチック製に進化させたトランスライトの発明
 モデルとスタジオ撮影を導入した都会的でスタイリッシュな実写アートの導入。
 元々ピンボールマニアの写真家だったジョン・ノリスや、今やスターン社マニュファクチュアリングVPのレイ・タンザー……といった埋もれた才能への発掘と知遇。

 そして何より半世紀以上もの歴史あるゴットリーブ・ファクトリーの衣鉢を継ぐべく、所有していた会社を投じてまでプリミアを創立した英断には、深い私淑と敬意を表したいです。


 元々ポロックは'70年代のゴットリーブ社において人事部からキャリアをスタート。
 劣悪な労働環境と女性差別が深刻だった同社が政府機関から改善要求を受けた際に奔走し、同社の負担や損失を大幅に防いだことが社内で高く評価されます。

 “実地で労働を知らねばマネージメントなど出来ない”
 という高邁な自論により、エド・クリンスキウェイン・ナイアンズに従事した程の現場主義により、ゴットリーブ時代から既に人望は高かったようです。


 ピンボール撤退から20年余。

 今もヒュー・ヘフナーに負けないくらいセクシー親父な美形ぶりのギル・ポロック氏は現在、医療機器メーカーのプレジデントとイベント会社の取締役を兼任し、その辣腕ぶりは健在。

 たまにピンボールエキスポにもゲスト出演、今も変わらぬチャーミングぶりで、ピンボールという古巣に時折顔を見せてくれています。


▲フィールド上部左。火山VUKは非常に入れやすく、連続ループシュートも容易い ▲フィールド全景。エプロン部分にレター表示があるのがいかにもゴットリーブらしい ▲フィールド右上付近。今で言うグランドウィザードに該当する[エニシングゴーズ]へは数えるほどしか到達したことが無い
▲フィールド中部左端。ロールオーバーにスペシャルライトがあるぜ ▲柱が林立する場所に無理やり押し込まれたティードオフとその他ピンボール達。案の定この店は3ヶ月ほどで潰れた ▲プリミアの最盛期は'86〜'87年で、暫く低迷して'91〜'93年にまた黄金期を迎える。ティードオフはその盛りの一台。

(2017年12月16日)