Williams/1996テールズ・オブ・ジ・アラビアン・ナイツ | ||
原題 | Tales of the Arabian Nights | |
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製作年度 | 1996年 | |
ブランド名 | ウィリアムス | |
メーカー | ウィリアムス・エレクトロニクス・ゲームズ | |
スタッフ | プレイフィールドデザイン:ジョン・ポパデュークJr./美術:パット・マクマホン/メカニクス:ジャック・スカロン、アーニーピザーロ、ジョー・ラヴデイ/ソフトウェア:ルイス・コージャース/ドットアニメ:アダム・リーネ、ブライアン・モリス/音楽:Dr.デイヴ・ザブリスキー/バックグラス画:パット・マクマホン | |
標準リプレイ点数 | 800万点 | |
備考 | 製造台数:3,128台/国内販売:タイトー/ようつべに動画あるよ!⇒GO! |
▲アラビアンナイツのバックグラス。これだけ濃密かつ重厚なアートワークがこなせる絵描き、ピンボール業界内でもそういない | ▲渦巻くランプレーン部分のアップ。連続シュートによるファイヤーボールボーナスヴァリューのカウントアップが快感だった |
▲狙い目として分かり易いジニーのトイオブジェ。ミニゲームスタート、マルチスタート、ジャックポットなど重要なフィーチャー全てが関連する | ▲フィールド下部のアップ。ジュエル獲得数やアウトホールボーナス進捗のライト表示の色合いも実に美しい |
▲フリーウィーリングディスクwith魔法のランプ。思い切りボールシュートをぶっつけてグルグル回しまくると気持ちがいい | ▲プランジャーレーンをよく見ると剣のフォルムで出来ていた!実にカッコイイ。 |
▲バックグラスのクローズアップ。美術班パット・マクマホンはこの腕を買われ、ピンボール部門廃止後もWMSカジノ部門に移り、その辣腕を振るった | ▲フィールド上部。このおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさ。どこを狙っても必ず何かが巻き起こってくれる頼もしさがある |
●1996年製ピンボール「テールズ・オブ・ジ・アラビアン・ナイツ」は、国内外であらゆる物議をかもしたウィリアムスの問題作です。 デザイナーはカナダ出身で、1980年のバリー入社からキャリアをスタートさせながらも、一時期業界から離れていたジョン・ポパデューク。彼にとっては3作目のディレクト作品となります。 WMS内全ての現役デザイナーから断られたために仕方なくロジャー・シャープがお鉢を回した企画を見事な出来でスマッシュヒットとさせたデビュー作「ワールド・カップ・サッカー('94)」、そして迷走するPIN業界が軌道修正すべき方向性の木鐸となった名モデル「シアター・オブ・マジック('95)」を経て、今作「アラビアンナイツ」は'96年の2月にライン製造がスタート、同年5月に本国発売。 実はこれ、ウィリアムス社第1号機ピンボール「サスペンス」がラインに乗った1946年2月から、丁度50年の節目にあたる時節。 つまりアラビアンナイツは、'44年設立のウィリアムスが、数作の戦時リヴァンプ台を経て、初めてオリジナルピンボールマシンを自社プラントでユニット製造してからの、50周年記念作品にあたるのです。 因みにリヴァンプ台とはウォータイムコンヴァート台とも呼ばれ、ピンボール製造禁止令が下った戦時中、バリーやゴットリーブの工場が手榴弾やパラシュートの留め金を作らされていた頃、ハリー・ウィリアムスは他社の旧作を作り変えて新台として遊べるように仕上げたモデルをロケーションに供給、戦時中の娯楽需要に応えていました。それがウォータイム・リヴァンプ台。 ハリーはそんな時勢の真っ只中に自社を創設していたのです。 ピンボールの歴史家でもあるJポパデュークは、己の人生と仕事に縁のあるこの符号の一致に、実に感慨深いものがあったそうです。 アラビアンナイツにとってもうひとつの節目と言える注目点は、数十億単位に厖大していたビッグポイントの采配をおよそ100万点単位にまで下げ、リプレイ点数を800万点に設定。 プレイヤーにとって外延を認識しやすいスコア配分にする点数デフレーションが、ようやく敢行されたこと。 '90年代初頭から半ばまでのピンボールの点数配分と言えば、 『一千万点ボーナス有り』 『今度は1億点ボーナス登場!』 『いやいや、最終ゲームクリアでワンビリオンだ!!』 ……などとビッグポイントを無下にエスカレートさせていった成れの果て、当然リプレイ設定額も高騰。 「ジャック・ボット」のリプレイ点が20億、「JM」が25億、「ベイウォッチ」50億、「アポロ13」60億……などという、'95年頃の時節に至っては、かようなナンセンスな設定値の機種が濫造される混乱にまで陥りました。 勿論、それぞれ数億点単位のビッグポイントが配分されているので突破は可能なのですが、ゲーム性の全貌が把握しにくく、散漫で冗長な巨額ボーナスの氾濫及び馬鹿げた天文学的数字によるこの時期のスコア急騰に、当時のプレイヤーは “おいおい、誰か注意する人はいないのか” と、鼻白みと呆れ顔を隠せませんでした。 その後、アラビアンナイツに続いての発表となった「スケアード・スティッフ」のリプレイは800万、「NBAファーストブレイク」100pts.、「ジャンク・ヤード」2,000万、「ノー・グッド・ゴーファーズ」1,500万……と、他のデザインチーム達も軌道修正に追従。 この時点でようやくなんとかなった訳です。 一方、肝心のアラビアンナイツのゲーム内容についてですが、タイトルが示す通り、世界的に馴染みの深いアラビアの歴史的説話集「千夜一夜物語」がテーマ。 WMSセールスVPのジョー・ディロンは、 『貴方を謎と陰謀渦巻く古代バグダッドへとお連れしよう。魔法のランプに隠れたジニーと戦い、かどわかされたプリンセスを救出したまえ。アラジンと魔法のランプ、シェヘラザード、キャメルレース、天翔ける馬、空飛ぶ絨毯、アリババと40人の盗賊、そしてサイクロプス。それら7つのストーリーを完遂し、7つの宝石を全て集めれば道は開けよう!』 ……と、同機種の幻想性に満ちたダイナミックなスケール感を滔々と強調。 またデザイナーのポパデューク本人からも、千夜一夜物語は国籍問わず老若男女に知れ渡る魅力のある物語である……と、商品に対する自信に満ちた声明が伺えました。 “僕の前作「シアターオブマジック」の成功要因は、ファンタジー、イリュージョン、美貌のヒロイン…といった魅惑的な要素で満たされていたからだと思っている。どれも非日常の世界だ。プレイヤーはピンボールを通じて自分を夢想空間へ解き放ち、没我に酩酊することを求めている。これぞピンボールのあるべき姿なんだ。” 一方、彼は千夜一夜物語はピンボールの歴史上の俯瞰からすれば、結構出がらしのテーマであり、ウィリアムス'52年製「キャラヴァン」、ゴットリーブ'53年製「アラビアンナイツ」、同社'78年製「シンバッド」など、過去に何度も手垢がついている原案であることも承知しています。 だからこそ、リールドラム時代に流行ったフリーウィーリングディスクを魔法のランプに見立てたり、ライティングロールオーヴァーボタンを多用したり。 旧機構を換骨奪胎の上で導入、斬新でありながらどこかノスタルジックな味わいをも帯びるマシンにしたかった……とも述べています。 加えて、「ローラーゲームズ」「フィッシュテールズ」の美術担当パット・マクマホンの筆によるアートワークの、その息を飲む流麗な重厚さと言ったら! ジニーの人形や魔法のランプなどのトイオブジェも含め、アラビアンナイトの世界観が、荒ぶるように逆巻くランプレーンの輝きを帯びながら、見るものを圧倒させる、筆舌に尽くし難い凄みすら効いていました。 ところがいざ蓋を開けてみると、筐体本体のセールスは他のヒット機種の半分にも満たない三千台強という規模に留まってしまい、当時のプレイヤー評価は怒りにも似た酷評に次ぐ酷評で溢れ返ることに。 どうにか業界誌インカムランキングでは連続18か月ほど圏内に留まったものの下位のランキングが続き、ポパデューク前作のシアターや他機種ヒット作「アタック・フロム・マーズ('95)」とはとても比肩出来るような成果は収められていません。 とかく日本での評判は思わしくなく、ロケテストにたかったマニア連中の鼻持ちならぬアンチ吹聴の悪影響もあったのか、国内ディストリのタイトーはコンテナ輸入出荷規模を最少数にまで下げた上、数少ない入荷ロケーションでもアラビアンナイツは半年か1年程度で早々に下げられることに。 傑作を期待されていたはずの同機種は、巷から忽ち姿を消してしまいました。一体どういうことだったのでしょうか。 【ボールロック】マルチへのボールロックは左右ループレーンにかかる。LOCKライト点滅時、マグネット稼働でボールが捉えられ、ロックポケットにストンと収められる魅惑的なアクション有り。 ロックライトはG-E-N-I-Eレターの完成で点滅。このスペルはジニー人形へのヒットで進捗。 【マルチボール】マルチスタートは、ボール2個ロック完了後のジニー人形にかかる。開始時ジニーの魔術でボールが消え去る見事な演出も有り! 【ジャックポット】マルチ中のジニー人形にかかる。JPヴァリューは100万点から。獲得時はジニーに槍が突き刺さるドットアニメデモも迫力。JP再点灯は左右ループショットへ。 【7つのテールズ/7つのジュエル/ミニゲーム】ウィザードに必要なジュエル獲得はランプレーンにかかる。 ジュエルのライトを点けるには、[アリババ]や[空飛ぶ絨毯]などの7つの物語のミニゲームを完遂させねばならない。 その物語のスタートはジニー人形へのヒットで開始。物語の進捗はゴールデンシンボル(黄色い円形のライト)の点滅に従うとよい。 また、これらミニゲームは時間制では無い。ジュエル獲得完了まで、他のフィーチャーと絡め、じっくり攻略できるのが特徴。 【ジニーバトル/最終ゲーム】ボールマキシマムのバトルマルチ。ジニーとの最終決戦に勝利してプリンセスを救出、5000万点をしとめよ! 宝石をすべて集めてから改めてジニーヒットすると、ジニーバトルモードスタート。先ずシングルボールで骸骨騎士を全員倒し(ゴールデンシンボルライトへシュート)、ジニーのえじきになろうとしているプリンセスを、ひたすらボールをセルフプランジマルチボールで打ち出してはショットを重ね、多量のスイッチ反応を畳み掛けよ。打ち負けるとプリンセスはジニーのえじきに。成功だとハッピーエンドで五千万点獲得。 勝利後、主人公がプリンセスと共に空飛ぶ絨毯でバグダッドの上空を去りゆくデモも素晴らしい(但し主人公がおっとりアラジンなのか血気盛んなシンバッドなのか、どっちなのかよく判らない……)。 【魔法のランプ/ウィーリングディスク】魔法のランプに見立てたウィーリングディスクをボールショットでぐるぐる回し、青色三角ヴァリューライトをげしげし進めるべし。 この進展具合により、セレクトフィーチャー点灯や、魔法ランプ1回転につき10万点取り放題モード開始、アウトホールボーナス進捗……などの数々の利点有り。 【ランプレーン&左右ループレーン】ランプとループはそれぞれ入口は一つなのに、道ほどは途中3か所に枝分かれしている。ゲームの展開と状況によってディヴァーターやマグネットが稼働してフローを振り分け、ゲームの展開を分かり易くしている。 【シューティングスター】ビックリするようなアウトレーンのボールセーヴ。リターンレーン入口で盤面からスパイクが飛び出し、ボールをアウトレーンへ向かうのを防いでくれるという特殊ボールセーヴ。赤ターゲットの完成により稼働。 球威が速過ぎるとスパイクが間に合わずにドレインすることも多いが、その際はソフトウェア的にボールセーヴ判定が出る。 わくわくするような仕掛けが盛りだくさんのフィールドデザインや、ゾクゾクするような演出で大いに楽しめるはずのマシンでしたが、前述のようにセールスもプレイヤー評価も芳しくありませんでした。 最大の問題点は、杜撰なバグの発生。 デモ中、耳を覆いたくなるような不快音が各スピーカーから突如鳴り響くという酷い誤作動が頻発。ゲーム内容以前の問題で、忽ちオペレーターから辟易されました。 これはプログラムデータが音声としてそのまま再生されるという滅茶苦茶な誤作動で、このありえないバグを犯したルイス・コージャースは「ノーグッドゴーファーズ」でもゲーム展開に差し障るバグを残しています(なぜかパット・ローラーは彼がお気に入りのようで「モノポリー」をスターンで制作する際もゲイリー・スターンにわざわざ彼を起用するよう指名している)。 もうひとつ、ランプレーンディヴァーターの装置が例外なく稼働不良を起こしました。 ジュエル獲得やファイヤーボールボーナスが絡んだ重要な箇所で、しかもこのディヴァーターの機構が特殊仕様だったため代替えが効かず、ウィリアムスの直裁ケアが働く本国はともかく日本のオペレーターにとってやっかいな調整不良を巻き起こすこととなり、メンテナンスが放棄されるロケーションが多発。 結果早々にプレイヤー離れを招いてしまいました。 それに加え、アウトレーンに落ちそうになるボールを救うはずのスパイク仕掛けボールセーヴの稼働が間に合わず、助かるどころかリターンしてくれるヴェクトルの球までアウトレーンに蹴り落とす確率の方が多いという、プレイヤーの心情に関わるゆゆしき事態まで発生。 ソフトウェア的な判定でなんとか修正しようとしていますが、マルチボール時は全く役に立たないというていたらくにより、プレイヤーを倦厭させる悲しい結果になりました。 元々ジョン・ポパデュークというデザイナーは、ゲーム性は勿論、オペレーターの負担にも気を配り、メンテナンスのし易さをも重視する作り手です。 アラビアンのプロトタイプでは、盤面下から浮上して出現する空飛ぶ絨毯型スウィンギングターゲットをモーター稼働で搭載していましたが、“これ以上店側の管理を複雑化させるべきではない”という理由により、製品版では削除しています。 そればかりか、各マグネットキャプチャーやスパイクボールセーヴァーなどの調整取扱説明書を、マニュアルブックとは別に1枚シートにして付属、分かり易く図解しています。 また同マシンのメンテナンスの重要性を説くべく、ポパデューク自ら業界誌に寄稿、「アラビアンナイツ」に関する上記のメカの手入れは勿論、清掃や電球交換の重要性をも懇々と説いています。 『盤面の清掃や切れた電球の交換は必ずまめに行ってください。目立った故障が無くともインカムが低下してしまうのは、フィールドの汚れ、電球切れや照明切れ、ストロボ不良などの重なり合いが原因だったということがよくあるのです』 『決して複雑な作業ではありません!ランプレーンの奥の裏側などは一見やっかいな場所と思われるかも知れませんが、プレイフィールドを引き上げて反転させ、裏から簡単に交換が出来るように施されています。ライトの点滅・点灯はルールの里程標で、大事なゲームの一部なのです』 『煩雑でやっかいそうなランプレーンも、実は2・3本の留めネジを外し、穴を通して送られたケーブルを分ければ、存外にたやすく取り外せるように作ってあります。定期的な清掃、ワックスがけも必ず行って頂くようお願いします』 『また、どうしてもうまく調整できない場合、電話または電子メールで問い合わせ、私やエンジニアたちに直接問い合わせることも可能ですよ』 誌面からはポパデュークの想いと熱意が切々と伝わるようでしたが、同作は何千回ものプレイを重ねてからようやく発覚する故障や誤作動、自分の直裁では及ばないトラブルに見舞われることとなり、最終的に「アラビアンナイツ」は製品としては失敗作という結末を迎えました。 しかし、それらの瑕疵を全て差し引いたとしても無視すべきでない功績は多く、前述のようにピンボールが追及すべき元来の方向性への牽引、正気に戻った点数配分のデフレーション、そしていかにも何かが起きそうなポイントにシュートが決まれば必ず何かが巻き起こり、次々とフィーチャーが組み合わさってゆく。 そのゲーム性そのものの高さと演出の壮麗さに、うっとり酔いしれぬ手は無いというものではありませんか。 デイヴ・ザブリスキーによるシンフォニックなサウンドも誠に幻惑的で、特にアウトホールボーナス取得時、魔法のランプのヴァリューのカウント表示と共に奏でられる、あでやかなシタールの調べのなんと優艶なこと。 そして最終バトルスタート時、ボールがマグネットに捕らえられてパッと消え去るアクションに併せ、ディスプレイではプリンセスがガラスの小瓶の中から助けを求める劇的クライマックスの演出には、背筋をゾクゾクとさせられました。 私にとってこのマシンが秀作としてきちんと世に席巻されなかったことが、20年近く経った今でさえ、一プレイヤーとして今も胸のわだかまりのように閊えたままです。 |
▲因みにアウトホールボーナスの満額は119万×12倍で、14,280,000点。このカウントは絶対クセになる | ▲ランプレーン入口及びジニーマグネットのクローズアップ | ▲ランダムボーナスであるのバザールスクープのアップ。セレクトフィーチャーもここにかかる |
▲こちらはハビトレイルと呼ばれるマグネット稼働のリング型ディヴァーター。ファイヤーボールのエネルギーを満タンにすると発動 | ▲キャプティヴボール。キクロプスのミニゲームで活躍 | ▲蛇遣いのカゴに見立てたスキルショットレーン。大掛かりなのに残念ながらコレだけは面白みに欠けていた |
▲ボールスタックが起きないためのシールド&ピンを設置するついでに、恐怖の串刺し白骨死体アートワークが | ▲プレイフィールド全景。ランプレーンの入口は一本だけど出口は3本。バンパー落下ホールも含めると4つ出口があることになる | ▲魔法のランプとスクープの間にあるロックポケット通路のアップ。直に入れるもよし左右ループマグネット経由で落とすもよし |
▲左アウトレーン近辺のアップ。リターン入口に盤面スパイクが潜んでるのが分かるだろうか | ▲ジニーヒットで手前のマグネットにボールが捉えられ、盤面下にぱっと消し去る鮮やかな演出が素晴らしかった | ▲右アウトアップ。アウトレーンスペシャルはプリンセスの救出により点灯。ロールオーヴァーボタンの使い方も面白い |