各名門ブランド ピンボール・リスト

WILLIAMS/1985

ハイ・スピード

原題HIGH SPEED
製作年度1985年
ブランド名ウィリアムス
メーカーウィリアムス・エレクトロニクス・ゲームズ/ウィリアムス
スタッフ原案・デザイン:スティーヴ・リッチー/美術:マーク・スプレンガー、パイソン・アンジェロ/音楽:スティーヴ・リッチー、ビル・パロッド/ソフトウェア:ラリー・ディマー
標準リプレイ点数120万点
備考製造台数17,080台/ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲バックグラス。絵記号が走り回るデジタルディスプレイのデモも非常に面白い。アートワークも渋い。 ▲フィールド上部。古い慣習であるトップレーン構成をとっぱらった大胆さ。サイドランプレーンから枝分かれするワイヤーランプのしなやかさ。全てが豪胆で精緻なゲームだった
▲フィールド下部。そういえば左アウトにキックバックを搭載するのがこれ以降しばらく流行っていたわね(但し初搭載ではない)。 ▲こ、この陰鬱でイナタい店……。“全台オール五千円”とラクガキされた哀れな張り紙。筐体下にチェアを詰め込むしまりのない管理。何もかも哀切に溢れ、今となってはとても愛苦しい。

― COMMENTS ―
●今回用いる「ハイ・スピード」の写真についてですが、PIN専門リース業者によってピカピカに手入れされた台の写真資料もあるにはあるのですが、'95年頃、“天然”なお店で“現役”で放置されていた同機種の方の撮影分をあえてスキャンしてみました。
 盤面の汚れが顕著で痛々しい様相ですが、今やこちらの方が資料的に感慨深さがひとしおの万感があります。
 因みにそのお店、今では流石に残っていませんが、雰囲気的には'70年代末頃のインベーダーブームに雀荘or喫茶店からゲームセンターに鞍替えしたような感じの店舗でした。
 古びた両替機。薄暗い店内。全く行き届かないメンテナンス。無人ゲームコーナーなのだけど、一箇所設けられた見張り用のぞき窓の気色悪さは最強でした。おそらく店自体が経営者の自宅なのでしょう。

 さて、ピンボールの歴史や発展に大きく貢献したこの機種「ハイ・スピード」の史実についても軽めになぞっておきますと、その後常識となったピンボールのフィーチャーやゲーム性、新機能のほとんどは、全てここから始まっています。
 信号が青から赤に変わり(赤青黄ターゲット完成)、スピード狂のドライバーが信号無視を犯し(信号機ミニチュア付きサイドランプレーン通過)、パトカーの追跡(マルチボール)から逃れて、隠れ家(ランプレーン経由のポケット)に逃げ込んだらジャックポット獲得!という、劇的ストーリーラインとゲーム性を合致させたフィーチャーは、ピンボール業界に新たな新天地への開墾を広げました。

 プレイフィールドデザインも誠に斬新で、シューターレーンからのボールプランジはサイドランプレーンに直結。ボールロックが点いていればインスタントロックもOK。ワイヤーレーンを通ってポケットに連続ロックされる興奮は、マルチボールスタートで沸点に達す!
 左右ループの爽快さも特筆的。思いっきりシュートが決まると、そのまんまのスピードで逆側レーンにぐるっとユーターンして返ってくるホースシューの大胆さも痛快。連続たたき返しが決まるとクセになりそう。
 一発逆転ビッグポイントやマルチボールで高得点というのは以前にもありましたが、“ジャックポット”としてここまで明確なゲーム性へ打ち出したのは、この「ハイ・スピード」が初めて。
 リプレイやジャクポ獲得時にズンドコビカビカ大騒ぎする音楽とイルミネーションとディスプレイの演出も、以前からもウィリアムス台で片鱗的には見られたものの、完全確立はこの機種。
 フリッパーボタン片っぱ押しっぱでEX数や各ヴァリューなどが表示されるステイタスリポート機能だって、ピンボールのハイスコアネーム入力機能だって、ブックキーピング機能もこの台から。
 これらの発案・アイデア・発明の数々は、「ブラックナイト('80)」でも旋風を巻き起こし喝采を浴びた、デザイナースティーヴ・リッチーの創作力もさることながら、名プログラマーラリー・ディマーの才覚にもゆえんのあるところ。バグがひとつも見つからないのはもちろん、寸分の狂いのないストロボやイルミネーション稼動の緻密さ、サウンドと一緒に正確に舞い踊るデモの鮮烈さは、彼ならではの技巧。むしろ抜きでは語れないのは彼の存在のほうかも知れません。

 ビデオゲームが全盛だった当時の日本でも、大型店から小さな個人経営店まで、非常に多く店舗でハイスピードの雄志を見かけました。タイトーのみならず、セガも同機種のディストリビュートを請けていたそうで。

 余談。このマシンのストーリーコンセプトは、なんとリッチー氏の実体験。ポルシェ運転中にパトカーに追跡され、アクセル全開で振り切った経験があるとか。若かったのね。

▲フィールド左上部。 ▲フィールド全景。ワイヤーからのリリースはリターンレーンではなく、ぽいとフリッパーに向けて放られるが、これはこれでワイルド。 ▲フィールド右側上部。サイドフリッパーの用途が重要。ボールフローも熟考されてる。
▲サイドランプレーン入り口。信号機が(青)で1個目ボールロック、(黄)で2個目ロック、そして(赤)で通せばマルチボール!そしてマルチ中さらに通すと…… ▲中部左端ロックポケット。フィールド空中にうねるように張られたワイヤー内をボールがすいすい走る姿を初めて見た時はエラく感動したものじゃのう。 ▲回転灯も搭載するバックボックス。よくポップが無傷で残っていたなコンな店で。

(2009年11月27日)