各名門ブランド ピンボール・リスト

Williams/1995

ジャック・ボット

原題Jack*Bot
製作年度1995年
ブランド名ウィリアムス
メーカーウィリアムス・エレクトロニクス・ゲームズ
スタッフ製作総指揮:ジム・パトラ/デザインチーフ:ラリー・エドワード・ディマー/ソフトウェア:ラリー・エドワード・ディマー、ルイス・コージャース/音楽:ジョン・ヘイ/メカニクス:ロバート.C.フリースル、ボブ・ブラウン、ブッチ・オルテガ/ゲームデザイン補助:ジム・シャード、テッド・エステス/プレイフィールド,プラスチックアート:ダグ・ワトソン/バックグラス,キャビネット画:ジョン・ユッシー/ドッツ:スコット・スロミアーニー/ドットアニメ:アダム・リーネ、ブライアン・モリス/その他サポート,協力:スティーヴ・コーデック、ジョン・クルッチ、ジョーゼ・デルガード/オリジナル・ピンボット・デザイナー:バリー・オースラー、クリス・グランナー
標準リプレイ点数20億点
備考製造台数:2,428台/国内販売:'95年タイトー/米リプレイマガジン誌ピンボールランキング4ヶ月ランクイン、初登場'95年12月号4位
▲プレイフィールドは完全にピンボットと同じ。しかし打ち心地はとてもスムージーになった ▲フィールド下部。タイトーは今作から日本語版インストラクションカード仕様を刷新。エプロン部分スペースいっぱいに丁寧な図入り解説を貼った
▲バックグラス。ピンボットはスロットマシンロボットと化し、スペースコロニーがルーレットになっている ▲このサイド5枚バンクに直接ヒットして、跳ね返った球がヴァイザー5バンクに当たって、ラバーバウンス経由でさらにもう一度サイド5バンクに当たるのが爽快
▲撮影したのはタイトーの直営店。内装に凝ってピンボールコーナーの上部壁にネオン装飾を施した結果、反射でプレイ上大きな差し障りに。実はこれピンボールあるあるなのだ ▲前作「ザ・マシーン」でブライドは口と目ン玉1コずつ組み込んで人間に化けてせせら笑うゲテモノキャラだったが、今作の方がよっぽどヒューマニズム感がある
▲下部左端3枚ドロップ。活躍はボーナスXとポーカーカード追加だけなのが惜しい。 ▲今のフィールドデザインの常識で言うと左ループやバンパー狭間ショットを作るのが定石なのだが、そうでなくとも楽しめるし、スペースを活用できている

― COMMENTS ―
ウィリアムス'95年製ピンボール「ジャック・ボット」は決してコインオペ市場での高セールスを獲得するまでには至りませんでしたが、ピンボットシリーズ三部作の掉尾を飾るのに相応しい、洗練性を持った心地よい佳品として、ピンボールファンに高く評価されている一台です。

 '80年代半ばの「ピンボット」も、'90年代初頭の「ザ・マシーン〜ブライドオブピンボット」も、どちらも大変にインパクトのあるメカニクスデザイン及びゲーム性で、それぞれの時節において大ヒットを記録しました。

 しかし'90年代半ばに入るとピンボール市場は急転直下の零落傾向を見せ、ウィリアムス側は商品企画の洗い直しを迫られます。

 ルールの把握し易さと、フィールドデザインのシンプル化。
 「ジャックボット」ではその傾向が顕著で、'86年の大ヒット作「ピンボット」のフィールドデザインの復刻に臨んでいます。
 しかしそれは単なる焼き直しではなく、ハードやゲーム性は非常に彫琢が重ねられていました。

 発売当時、市場悪化によりピンボールのディストリ業務をしぶっていたタイトーも食指が動いたようで、同社直営店に数多く上げてくれています。
 好きな駅前の、好きな店で、よりコンディションの良いジャックボットで遊べる……という、失われつつあった贅沢。当時の私にとってはまるで干天の慈雨で、とても有り難かったですね。

 世界観の方も述べておきますと、ピンボールロボット略してピンボットと、そのパートナーであるブライドが、大宇宙カジノへギャンブルアドベンチャーに繰り出す……という、随分気の緩むようなストーリーライン。

 しかし想像以上のスケール感と思わぬヒューマニズム、そして細部まで練られたゲーム性により、必ずやピンボーラーを虜にしてくれることでしょう。


※この機種ではジャックポットのことを“ジャックボット”と呼称。

【メガジャックボット】――――――最高15億点。今機種最大のビッグポイント。マルチボール中に発令。
 左リフトスロープに掛かる。前段階のスーパージャックボットを獲得すると再度ヴァイザーが開くので奥のホールにボールをロック。するとメガジャックボットがリーチに。

【スーパージャックボット】――――――7億5千万点。マルチボール中に発令。
 ボールロックの手順のひとつだった縦横5×5の5色チェストライトをマルチボール中に再度全て完成(25回ヒット)させると、閉じていたヴァイザーが再開錠。この時即金でスーパージャックボット獲得。
 尚5×5チェストライトは5色の5枚バンクターゲットへのダイレクトヒットで進捗。

【ジャックボット】――――――初期値5千万点〜3億5千万点+α。マルチボール中にわんさか掛かる。
 マルチボール開始と共に、両眼アイロックホール、リフトスロープ高架下キャッシャーターゲット、下部右端ヒットミーターゲットの4か所で獲得。
 消灯したJB一斉再点灯はミニゲーム開始のトップホール。

【マルチボール】――――――2つあるゲーム上の大動脈のひとつ。初回2ボールマルチ。
 開いたヴァイザー奥にある左右アイロックホールにてボールロックを2か所共完成させると、マルチボールがスタートする。
 尚マルチ中のJB獲得制成績が悲惨だった場合、リスタートチャンス有り。

【ヴァイザーオープン/5枚バンク5色ターゲット】――――――5色ターゲットを打ちまくれ!マルチボールへの最初の道程。
 ボールロックするには5枚バンクの5色ターゲットを完成させてヴァイザーを開ければよい。ヴァイザーオープン時稼働のメカニクスが見もの。
 ご開陳には5色ターゲットへ最低5回のヒットが必要だが、一発オープンのスキルフィーチャーも有り。開始時に示唆のあるサイクルアローライトで察するべし。


【カジノラン/ウィザードモード】――――――もうひとつのビッグイベント。超巨額ボーナス、スペシャル、エキストラボールが束になって雪崩れ込む乾坤一擲のスロットマシンビッグゲーム!

 上部左奥ミニゲームホール/ゲームソーサーに掛かる。マルチではなく時間制シングルボール。
 4つのミニゲームを終えると発令。45秒間、ロックホールまたはゲームソーサーでスロットスピン開始。

 スロットスピンでは特大フィーチャーが次々出現して貯め込まれてゆく。スロットは時間内何度でも回せるが、続けるか?もうやめておくか?プレイヤーのセレクト判断へ。もしコレクト出来ずに時間切れとなったり、[爆弾]が出現したら全て没収!

 スロットスピンの主な出現項目は[ボーナス点(20M〜150M)]、[エキストラリット]、[スペシャル]、[爆弾]、[消化バケツ(爆弾1個回避アイテム)]、[時間延長]、[ジャックボット1回獲得]、[牛(コレクト関係無く1クレジット即金)]、[モータルコンバット隠し攻略ヒント(要・隠し操作)]、[ポーカーカード追加]、[ヴォルテックス値上昇]……等々。
 時間内はドレインしてもボールデッドとならず続けられるが、マイナス5秒のペナルティー。但しスキルショット成功で10秒追加のメリット有り。
 スロットスピンを重ねれば重ねるほど、爆弾出現の確立が上がってゆく。実力とランダム性のバランスが素晴らしい。

【ミニゲーム/ゲームソーサー】――――――上部左奥トップホールに掛かるミニゲーム4項目。
 内容は、ヒットミーターゲットシュートの都度配られるカードが勝敗の行方を握る[ピンボットポーカー]、ミステリーボーナス[スロットマシン]、バンパーヒット数値×ふられたサイコロの乗数が貰える[ロールザダイス]、5×5チェストライト25箇所で6か所ランダムで振られた当たり箇所で配当が決まる[キーノ]
 各ミニゲーム終了後にはプレイヤーへダブルアップ挑戦を問う。時間内にキャッシャーターゲットヒットで倍額獲得となるが、勿論失敗は没収。
 尚、ミニゲーム再点灯はリストスロープ。

【ヴォルテックス/プランジャースキルショット】――――――成功ヴァリューは一千万点から(コリントフィールド滞留時間でヴァリュー上昇)
 渦巻き型のスキルショットランプレーンの3つのホールの内、2番目の穴へ巧く加減して放り込むスキルショットボーナス。シューターゲージを活用すべし。
 このスキルショットはボールロックの都度にも有効だし、3ボールマルチ開始時には[ジャックボット獲得]が掛かったり、カジノランの最中には[時間延長]に……と、成功ヴァリューが自在に変通するのが非常に面白い。

【左リフトスロープ/コリントゲーム式ミニフィールド】――――――ピンが並んだミニフィールドには3つの当たりフィーチャーが用意。
 左リフトスロープが降りている際にシュートすると、ボールはフィールド中部右端上段のコリントフィールドへ。ボールがバンパー地帯の落とし穴に落ちるとキャッシャーターゲットで[ソーラージェッツ]のタイムボーナスに挑戦、プランジャーレーンへ流れ落ちたらスキルショット挑戦(ボーナス値の+α有り)、右リターンレーンに降りた場合は更に4つのサイクルヴァリュー(含Ex.リット)獲得のチャンス。

【ヒットミーターゲット/ドロップターゲット3枚バンク】――――――カードが貰えるブラックジャックフィーチャー。
 カードの合計が20になると三千五百万点、21だと五千万点。
 但しヒットミーもドロップもフィールド端の低い位置にあるので、シングルボール時のダイレクトヒットはリスク高し。
 ヒットミーには時間制ボーナス、ドロップへはボーナスXの利点もあるものの、通常は無理して狙わない方が良い。

【バイインボタン/イカサマボタン】――――――いわゆるワンボールコンティニュープレイボタン。
 
キャビネットプランジャーノブのすぐ下に設置。
 1クレジットで1ボールだけコンティニューできる[バイインプレイ]。'90年代半ばのウィリアムス台によく搭載されたフィーチャー。
 実はプレイ中、このボタンが盛んにフラッシュすることがある。押すとディスプレイがシェイクし、ゲームに“イカサマ”が施され、多少有利に戦況が運ぶことがある。ワイズクラックの効いたデモにも刮目。



 本機種「ジャック・ボット」発表当時、新機種入荷に飢えていたプレイヤーの多くはプレス発表のプレイフィールド写真を見て
 “なぜ今更こんなものを!?しかもピンボットのボールロックルールを流用した「ドクターフー」がほんの3年前不評だったのに!”
 と嫌悪に近いくらいの否定的な声も上がりましたが、いざプレイしてみると新鮮な感動の連続で、忽ち皆がピンボットワールドの虜となりました。

 「ハイスピード」と比肩の傑作「ピンボット」の生来的なフィールドデザインとゲーム性の美点を、多段フェーズマルチボールとウィザードスタイルによって超進化。

 また、ざらざらな音質だった音声合成に代わって、ヴォイスピーチやレコーディング音楽をクリア且つ自由自在に再生する“DCSサウンドシステム”をウィリアムス社は既に開発しており、ジャズとテクノポップをキュートに融合させたジョン・ヘイのコンポージングも、抜群の効果を上げていて実に心地よく響いています。
 特にピンボットオリジナルサウンドを疾走感いっぱいにアレンジしたマルチボール時の音楽は傑出!

 特筆すべきは難易度を適度に抑えたウィザードルール[カジノラン]での、勝敗をもたらすギャンブル性
 中級者、いや初級者でも到達チャンスがあり、尚且つ欲張る上級者には手痛い落とし穴も用意してある絶妙な構成。マルチボールでは無く終始シングルボールで仕上げたのも渋い。

 元祖ピンボットからそのまま受け継いだマルチボールも分かり易く簡明。しかもマルチを耐え抜き15回のジャックボット獲得後は再度ヴァイザーが閉じ、もう一度5×5のチェスト完成を課させて再開錠、更に再ボールロック、そしてついぞ降りたリフトスロープにて元祖ピンボットソーラーパワーボーナスの準えとなる、メガジャックボット15億点の授与!
 この奥行きと絶妙な難易度や、一作目へのトリビュート、内輪受け,マニア受けの強い各メッセージ性には、すれっからしのピンボーラーをも大いに唸らせました。

 更に微笑ましいのが、ロボットなのに琴瑟相和すが如く仲睦まじい、ピンボットとブライドのダイアローグ。
 “Look,Over,There!” “Where…?” “You Che〜at!”
 などと仲睦まじくゲームを楽しむヒューマニズム感が、無機質なテーマとは思えぬ温かみをゲーム全体にもたらしています。

 また、10億だの20億だの。こういった天文学的スコア配分のインフレーションがピンボールのゲーム性の障害になっている……という批判が既に集まっていましたが、今作に限っては“ロボット夫婦による大宇宙ギャンブルアドベンチャー”というタガの外れた世界観にインフレ数量が見合っているような気もしてくるので、これはこれで効果的かも……と、妙に皆納得しておりました。

 ただひとつ残念だったのが、アイロックホールのボールガイド破損
 発売半年ほどでボールガイドのワイヤーが吹っ飛んで奥にボールが迷入するボールスタックが各ロケーションで頻発。コレは困りました。

 '86年版フィールドから改善したボールガイドのお陰でスムースにロック出来るよう心をくばせたはずがそれが仇になるという、ウィリアムスらしからぬまさかの初歩的な設計ミス。

 リワークの名作になれるはずが、このトラブルでジャックボットがオペレーターに嫌われてしまったのは誠に残念でした。


 さて、ウィリアムスが冠する伝統シリーズである一方、イメージ画もモックアップもホワイトウッドも既存。過去の名作フィールドをリワークする……という同社異例制作となったジャックボット。

 この商品が生まれる端緒は、ウィリアムス社内に置いてあった改造ピンボット

 これは社内のとあるメカニックが、2台のピンボットを解体してドライバーボードシステムを配線し直し、新システムでヴァイザーメカニクスを稼働させて耐久性の向上を図った、社内用資材でした。
 これがまた名作ピンボットだけあって、やればやるほど面白い。じゃあもうルールを刷新して新機種を作ろう!ということに。

 『ピンボットとブライドがギャンブルを嗜みながらウィットな会話を交わす。しかもイカサマを発揮して暴利を稼ぐってのは、まさしくギャンブラーの夢だね。このゲームはプレイヤーにそれを体験させるんだ』

 『だからバイインボタンのイカサマフィーチャーを導入したのさ。トップホールでギャンブルフィーチャーが始まったらすぐにバイインボタンを押す。すると“あっ見て!あそこにルディー君がいる!”とピンボットが出まかせを言ってブライドの気をそらせ、そのスキにダイスの目を変えちゃったりするんだ』


 そう解説するのは、ピンボール業界きっての才人プログラマーで、今作デザインチーフ ラリー・ディマー
 スティーヴ・リッチーの御手によりが世界が変わった「ブラックナイト」と「ハイスピード」2機種における、もう一人の立役者。
 今日では当たり前となったをいくつもの重要なシステムや装置を考案して定着させた、ピンボール産業最大功労者の一人です。

 『でも僕にとっては最後のあがきになりそうだなぁ。このゲームを手掛けている最中にエンジニアリング部長へ昇進が決まっちゃってね。ジャックボットが直々に手を下せる最後のゲームになりそうなんだ。有終の美を飾るべく何度も会議を重ねて話し合ったよ』

 『ここ3,4年ほどピンボール業界には変革がなく、堂々巡りで商品を退行させてしまっている。そこで、過去に大成した規範的なフィールドデザインを再度用いて、全く新しいゲームを生み出す方向に活路を開こうと思った。タイトルひとつを決めるにもとても時間が掛かったよ』


 と、完成直後に語っていたディマーですが、その機種名の採決についてはもうひとりのプログラマー ルイス・コージャースも難儀したひとり。

 「ジャック・ボット」の呼称は最初から誰かが言ってたんだが、ただの駄洒落であって、これが正式な商品名ってこっちゃなかったぜ。当初は皆「ラッキー・スター」って呼んでたな。俺は甘美に「ハネムーン・イン・ヴィーナス」にしようって言ったんだけど、そりゃヒドイと却下されて、更に誰かが「ピンボット・デラックス」って提案した。けどこれも没。実はもっと痛ましい候補がぎょうさん出てたんだけど、皆がジャックボット!ジャックボット!って言い出して、結局ソレが本決まりになっちまったのさ』

 『既存プレイフィールドからゲーム性を磨き上げるって工程は決して手抜きじゃないぜ。普段のようにランプレーンやターゲットの配置を一切変更できないデメリットがあるんだ。リテーマともカスタマイズとも違う。かなりの冒険で、初めての挑戦だったな』

 『でも初号台をウィリアムス社の外部へ初めて持ち出し、ロケテストを兼ねたピンボール大会を催したところ、もう滅茶苦茶に盛り上がったぜ。スコアが2位だったプレイヤーがカジノランに到達!高額スロットバンクを次々叩き出しやがって、これは大逆転だとギャラリーは歓声の渦。ところが欲をかいてそいつが爆弾だしちまってね。会場は阿鼻叫喚の大爆笑だぜ!』

 でしょうね!あの[カジノラン]の運と実力の好バランスのスリルこそ、ピンボールの醍醐味ですものね。
 「まだ消化バケツあるし、あと1回は大丈夫だろう……」と再スロットしたら、何と爆弾が2個出現したりする意地悪さ。あの大逆転の目論見を釣る扇動と自爆のバランスは実に巧妙でした。

 それに比べて、あの恥臭い日本製パチスロの延々ダラダラひっぱる演出の何と陳腐なこと。
 あんなプレイヤーを馬鹿にしてからかうような施し、みんなよく許し続けるなぁ……と自国の文化ながら片腹痛く思えてきますわ。


 最後に、スタッフクレジットを総浚いしておきましょう。

 今回、ピンボットシリーズの生みの親パイソン・アンジェロは既にウィリアムスを去ってカプコンコインオップ社へ移籍。そのせいか仕上がりに毒気が抜けたアートワークになりました。

 オリジナルフィールドデザインのバリー・オースラーも「ダーティー・ハリー」の総仕上げと次作「フーダニット」のプランニングに取り組んでおり、本機種での役割はアドヴァイザーという立場に留めています。

 シリーズ2作目「ザ・マシーン ブライド・オブ・ピンボット」を手掛けたジョン・トルデオーは今回ノータッチで、製作期間に1年半が費やされた苦心作「コンゴ」に奮闘の真っ最中。

 代わって今作のプロジェクトリーダーは元祖プレイボーイを手掛けたバリーのベテラン ジム・パトラが総指揮を執っています。
 ゲームデザインチーフは既述のようにラリー・ディマー、プログラマーはパット・ローラーの片腕でディマーの後輩ルイス・コージャース。

 プレイフィールドとプラスチックアートは「ブラックナイトト2000」のダグ・ワトソンですが、バックグラスとキャビネットはジョン・ユッシー
 彼は「ザ・マシーン」でもメインスタッフとして当時パイソン・アンジェロの意思とコンセプトを共有しており、3作目ジャックボットへの伝統の橋渡しを担う最たる人物と言えましょう。


 そして本機種はデモ中バイインボタンプッシュで表示される献辞の通り、故ジョセフ・ジュース.Jr.に捧げられています。

 ジョー・ジュース氏は派手なライムライトを好まぬ裏方タイプでしたが、ゲームデザイナー且つメカニカルエンジニアとしてピンボール産業に多くの功績を残しています。

 旧スターンになる前のシカゴコイン社から既にピンボール業界でのキャリアをスタート。

 サム・スターンの買収によりシカゴコインがスターンエレクトロニクスへと刷新されてからは数多くの機種でプレイフィールドデザインを担当。
 「クイックシルヴァー('80)」「ライトニング('81)」「カタコーム('81)」「ヴァイパー('81)」「ドラゴンフィスト('81)」「オービッター1('82)」等々、その通好みのラインナップには枚挙にいとまが有りません。

 ただ、余りにも独創過ぎるアイディアに満ち溢れた彼のデザインが商業的な成功を得ることは無く、自分はゲームデザインよりメカ専門のエンジニアリングに専心すべきである……という自己分析が、その後の彼の進退に繋がったようです。

 僅かな期間でしたがゲームプラン社にも在籍し、かのロジャー・シャープ「シャープ・シューター('79)」の共同設計及びエンジニアリングをもこなしました。

 ジュース氏が優秀なメカニカルエンジニアリングスタッフとしてウィリアムス社に移籍したのは1985年の12月。まさしく「ピンボット」が初仕事。
 戦況を里程する5×5マスの5色ライトは彼のアイディアで、モーター開閉のヴァイザーターゲットの特許も彼が取得しています。

 他にも彼の発明した「ビッグガンズ」でのカタパルト装置は、タクシー、フィッシュテールズ、ネクストジェネレーション、メディーヴァルで汎用されているし、「ブラックナイト2000」「ローラーゲームズ」でもその才覚と職能を発揮。

 1989年3月のバリーミッドウェイ吸収及び統合の時節に、ジュース氏はWMSピンボール部門のメカニカルエンジニアリング部長に昇進しています。

 「ジャックボット」制作開始直前の1994年。ジョー・ジュース.Jr.は誠に残念ながら病に倒れ、僅か56歳の若さで逝去しましたが、彼の功労はピンボットシリーズ及びピンボール産業で今も尚朗々と生き続けているのです。


▲トップホール/ゲームソーサー。カジノゲームが進められる重要ポイント ▲フィールド全景。今回は太陽系ではなく大宇宙カジノが舞台 ▲上段コリントフィールド。3通りの結果それぞれに楽しいメリットがあるが、極稀に下段フィールドに左横から零れて成果ゼロの時も
▲リフトスロープ。のぼってよしくぐってよし ▲ヴァイザー御開帳。元祖ピンボットの時は徐々に段差が発生してボールの跳ね上がりに困ったのを思い出す ▲ゲーム性の高さが感じられる4つのサイクルヴァリュー。Ex.リットが一番出にくいタイミングに設定してあるのが小憎い
▲この頃は2X〜5XはフィールドXではなくアウトホール倍率であるのが常識。今のピンボールのフィールドXルールの熱さは異常 ▲プランジャースキルショット専用のヴォルテックスランプレーン。ボールロックやプランジャーリターンの度毎回打てるのがよろしい ▲献辞が捧げられているジョー・ジュース.Jr.のパテントを適用したヴァイザーターゲット。但しメカニクスは大幅に改善されている

(2020年6月29日)