上がSHMそのまま、下が調整後、
真ん中の青はSHMそのまま、赤が調整後
カタカナは105%拡大、音引きは90%縮小、そして
「バ」の濁点の位置が微妙に違う事がおわかりいただけると思います。

さて、なぜ、「バ」の濁点の位置を変えるなどというテクニックを使うのでしょうか?
これは、一部の写植オペレーターのなかでは知られたテクニックでした。

「本づくり大全」(美術出版社・1999年発行)という書籍の
42ページに、「デザイナー御用達 7人の文字組名人」という記事があります。
その中で、写植オペレーターの小野禎一氏の作例が紹介されています。
「パリのこども」という文字列の、濁点を左斜め下にずらすという
非常に手間のかかる組版です。
なぜそうするのか、との記述はなく、「微妙な美しさの差を感じてほしい」と
書いてあるだけですが、そのようなテクニックが生み出された裏には、
やはり当時、きつく詰める詰め打ちが流行っていたという背景があるでしょう。
きつく詰めると、濁点の位置が開いて見えます。よって、そこを詰め、
それによって更に全体が詰められる、というわけです。
しかしながら、きつく詰める必要がなければ、
不要なテクニックかも知れません。

このウェブサイトをここまで読んでいただいた皆様に、
このようなことを書くのは恐縮なのですが、手動写植のそのような
テクニックは、やはりいささか、過剰品質であったのではないかと思います。
私自身も、常に全ての仕事の組版でこのような微調整を行っているわけではなく、
またこの組版が素晴らしいと主張するつもりもありません。
ただ、もうすでにほとんどの写植屋さんは廃業しており、このようなテクニックが
あったことすら忘れられようとしているので、写植屋出身のデザイナーの立場から、
ここに記録を残しておきます。

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