私の愛機もそうだが、たいていのカメラにモードセレクターがついていてポートレートモードを選択できるようになっている。これを使うとカメラは自動的にレンズの絞りを開放にし、それに見合ったシャッター速度を設定、さあどうぞ撮りなさいと言ってくれる。そうすると誰でも被写界深度が浅くモデルさんの手前や後ろをぼかした写真を撮ることができる。
 しかしながら、わが愛機の固定式ズームレンズは実焦点距離が7ミリから70ミリなので広角側では開放でもパンフォーカスになってしまい、手前も後ろもくっきりと写る。望遠側で撮れば背景がぼけるが、画角が狭くなってせいぜい半身アップまでしか撮れない。全身を入れて後ろをぼかそうなどと考えたら、声が届かないほど距離をとらなければならない。
 さあ、どうする? 要は好みの問題であり考え方である。後ろがぼけないカメラなんか要らないと考える人も多いだろう。そういう人は買い換えればいい。私は背景を積極的に撮り込むことを考えた。
 カメラ雑誌のグラビアには、ありがたいことに撮影データがついている。それを見ていくと、プロの作例には開放で撮った写真が案外と少なかった。300ミリ開放f2.8のレンズを使った作例でも、絞り値はf5.6とかf11まで絞っていたりする。
 望遠レンズを開放にして撮ると、背景は大きくぼけ、反射光がきらきらと光の珠のようになって、それはそれは美しい写真が出来る。しかし、プロは敢えて絞って撮るようにしているらしい。
 開放で撮った写真が美しいのは確かだが、同じような写真ばかりを撮っていてはつまらない。むしろ開放で撮るのは必殺技で、組写真の中に一枚だけあれば良いのではないか? あたっているかどうかわからないが、私なりに考えてみたのは、そういうことだった。
 最近、私は絞り値をf5.6くらいにして撮ることが多くなった。背景をくっきりさせ、モデルさんと調和させることを考えながら撮っている。その結果は実際に見ていただくとして、「後ろがぼけてないから下手」だとか、「カメラを買い換えた方がいい」などと言われないような写真を撮ることがとりあえずの目標だ。
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