モデルさんがニコニコしたところをパチリとやるのをニコパチと言って、工夫のない撮り方の典型だとされている。モデルさんの顔を画面の真ん中に置くのを日の丸構図と言って、これも工夫のない撮り方の典型と言われる。両者が合わさると「日の丸ニコパチ」となり、まったく工夫がない写真だと言われてしまう。
 かく申す私も、日の丸ニコパチから脱却するまでに相当な期間を費やしてしまい、やっと日の丸構図ではない写真を撮ろうと考えるだけ余裕みたいなものを得ることが出来た。ただ、ニコパチってそんなにいけないものなのかといった気分は残っている。
 笑った顔が似合う人を撮るなら、ためらうことなくニコパチでいいとさえ私は思っている。ただ、プロのモデルさんならともかく、素人さんを相手に
「笑ってください」では、それこそ工夫がないと思う。
 プロのモデルさんは、カメラを構えたオヤジを相手にわけもなくニコニコ出来る。それは職業としての特殊技能だろう。素人さんに「笑って」などと言ったところで同じように出来るわけがない。
 私は撮りながら相手に話しかけるようにしている。
「昨日の晩飯は何を食べましたか?」
「好きなお菓子はどんなのですか?」
 そんな話題を振ることが多い。そうすると愛想笑いくらいはしてくれる。そして、その笑顔を撮る。だから相手が何を答えたかなんて覚えてないし、同じことを二度言ってしまうこともあるが、そのときはそのときで
「それ、さっきも言いましたよ」
 と言いながら笑ってもらえるから、それでいい。
 しかし、この手が通用しない相手もいる。真顔で答えを返してくるようなタイプで、さっちんがそうなのだ。さっちんを笑わせるときは特別な秘技を用いているのだが、その内容は企業秘密で御座る。
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