荒木英仁(通称・アラジン)先生の主催で組写真専門のセミナーが開催されるから参加してはどうかというメールが届いた。誰あろう心の師、k-oka先生からだった。どんな生徒が集まるのか、はたして私くらいの腕前で参加して講義に追いついていけるのか?
 二、三日じっくり考えてから、とにかく飛び込んでみることにした。tentenファームという名は、プロ野球の二軍をファームと呼ぶことに倣ったという噂だが、一軍ではないのだから、飛び込んでなんとか泳いでいけるだろうと考えての結論だった。
 最初に参加したとき意外に思ったのは、いっさい撮り方を教えないこと。生徒に5分ずつ個人撮影をさせるのだが、モデルの立ち位置やレフの当て方などすべてを生徒が決め、講師であるk-oka先生は口を出さない。また、他の生徒にも口を出させない。
 その5分間は移動やフィルム交換も含めてのことで、この位置でこう撮ったあと何処に動いてどう撮るか、誰からも助言は出ない。当然ながらじっくり周囲を見渡したり考えたりする時間的余裕はない。平素から様々なパターンを撮りわけられる人でなければ良い写真は撮れない。その5分が午前と午後に2回ずつ与えられる。あとは他の生徒が撮っているとき脇から撮ることが出来る。つまり、その5分の間にしかモデルさんの目線はもらえないのでカメラ目線なしの脇から撮ったカットも使わないことには組むのに必要な枚数に達しない。
 実際にやってみて、慣れないうちは5分の間に使えるカットを1枚撮るのがやっとだった。自分の持ち時間は4回あるので4カットは目線ありが確保できるとしても、10枚で組むにはあと6枚を脇から撮ったカットから拾うことになる。実は撮り終えた後こそtentenファームの山場となるのだった。
 私の場合ファームでは脇から撮ったものも含め全部で150枚から200枚くらいになる。そのなかからマシなのを15枚から20枚ほど選び出し、自分なりに順番を決めて10枚の組写真にする。そしてそれをプリントして白板に貼り、アラジン・k-oka両先生から御指導を賜る。その際、他の生徒に意見を聞くこともある。
 組写真には始まりがあって、盛り上がりがあって、終わりがある。そうした3拍子のほかに起承転結の4拍子を用いても良い。だが、それは簡単なことではない。はじめて参加する生徒は、自分の撮った写真が変化に乏しいことを痛切に感じるものだ。よくあるパターンは10枚のなかにモデルさんの全身を写したものが一枚もない組み方だ。アップを狙うだけに夢中になっているのが知れてしまう。寄って、引いて、横長の構図も撮って、写真に変化をつけていく方法を考えるべきであることを、ここで学ぶのだ。構図がどうとか露出がどうとかといった話題に及ぶのは、写真を組んでみてからのことだ。その方が、自分にとって何が足りないか明らかになる。
 いや、俺は一枚良いのが撮れれば……などと逃げ口上を吐く生徒もいたが、それならば参加するセミナーを選びなおした方が良い。人物を多角的に捉え、表現の幅を広げたいと考えるならば、このセミナーは理想的だろう。
 私はファームが始まって以来10回連続して参加したことで皆勤賞を頂戴した。参加した回数に見合うだけ巧くなっているかどうかはともかくとして、写真の楽しみ方が増えたのは確かなことだ。
 余談ながらファームがあるなら一軍もあるのかというと、アラジン先生は「これから作る」と仰っておられる。私の勝手な推測だが、プロの世界に足を踏み入れたばかりの人とか、セミプロと呼ばれるような人たちで構成されることになるのだろうか? いや、「ふれあい」をテーマとするアラジン先生のことだから、技術で選ぶことはしないかもしれないし、やはり私などが憶測すべきではないだろう。
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