American Pinball/2020ホットウィール | ||
原題 | Hot Wheels | |
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製作年度 | 2020年 | |
ブランド名 | アメリカン・ピンボール | |
メーカー | アメリカン・ピンボール・インク | |
スタッフ | プレイフィールドデザイン: ジョー・バルサー/美術:ジェフ・ブッシュ/LCDアニメーション:イッシュ・レニジス/音楽:マット・カーン/ソフトウェア:ジョッシュ・クグラー、ジョー・スコーバー | |
標準リプレイ点数 | デフォルトリプレイ無し/スコアエキストラボール有り | |
備考 | ― |
▲バックボックス。あえて左寄りに設え、アートやブランドロゴと巧くバランスを執っている。 | ▲フィールド上部。回転アームのホットウィールカーはRPM数値上昇により高速化。しかしプレイ中その演出は全く目立たず、接着ミニカーがふっとぶトラブルもあり |
▲難しそうなB-A-T-T-L-E6枚バンクターゲット。でも初回,2回目完成ではどこを当てても進捗OK。3回目以降はヒット箇所厳守だがスピナーで明滅箇所をサイクルチェンジ可 | ▲ライセンス購入が難しいホットウィールだったが、元ウィリアムスピンボールGM ロジャー・シャープのコンサルティングにより、アメピは版権を獲得 |
▲IFPA会長ジョッシュ・シャープも今回ソフトウェアのコンサルティングを執り行っている。闇雲な開発を避けてプロの指導を仰ぐ指針を感じる | ▲フィールド下部。乳白色の柔和なライトフレームが、極彩色のLEDライトショウで照らされる。尚ハイスコア狙うならタコメーター値がとても重要。 |
▲実はどのポイントも狙い打ちがとても難しい!特に込み入った配置の右半分、高速キッカー、右ランプレーン、右ループはマニア泣かせだ。 | ▲公式YouTubeが出自のストップモーションアニメのモンスター達が大変可愛らしい。コブラ達は無邪気だし、トリケラ君は柴犬みたいだし。 |
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【1st.インプレッション&雑感】 往年データイーストピンボール社叩き上げエンジニア ジョー・バルサーと、インド資本のPCB製造会社エイムトロン社ダーヴァル・ヴァサーニが率いる、ピンボール産業期待の新鋭アメリカンピンボール社製ピンボール、待望の第3号機の登場だ。 同社初の本格ライセンス商品で、天下のマテル社伝統のミニカー“ホットウィール”を大々的なテーマとしている。 ストーリーラインはこう! ここは皆が車を愛する街ホットウィールシティ。その平和を脅かそうと目論む悪党 ドレーヴェンにより街が紊乱されようとしている。奴に立ち向かうのは無鉄砲兄弟のチェイスとエリオット、命知らずの保安官、血気盛んな女流ニュースキャスター。 ドレーヴェンが操るモンスター達と戦いながらトラックビルディングレースに勝利し、全てのレジェンドカーコレクションを完遂せよ。 目指すはホットウィールレジェンド・ファイナルウィザード。ホットウィールシティを守り抜いてレジェンドヒーローになるのは君だ! ―――ご覧の通り、透徹してホットウィールの世界観を題材とし、ピンボールのアートとゲーム性を手塩にかけて醸造している。 尚“ホットウィールシティ”とはストップモーションアニメを配信するマテル社公式YouTubeチャンネルだ。 ピンボール産業とマテル社の提携は以前、ウィリアムスの「デモリションマン('93)」でマテルのミニカーを使用したことはあったが、部分的ではなく、ここまでがっぷり四つに組んだ商品開発は初めての事。 アメピ社スタッフからは生半可なくホットウィール界への忠誠と敬愛が感じられる。 プレイフィールドを撮要すると、連続叩き返しが爽快なループレーンとテンポ良くボールリターンするランプレーンを多用。 ミニカーとサーキットトラックの疾走感を巧みなレーン構成で体現させてくれる一方、大掛かりなガジェットは避け、オペレーターのメンテナンス軽減にも目配せしている。 ゲーム内容の方も、豊富かつ斬新なフィーチャーの連綿を無限の組み合わせへと縫い合わせており、ピンボールマニアも舌を巻く構成だ。 【マルチボール】 何はともあれ目指すはコレ! [トラックビルダーマルチボール]――――――ロックホールを遮るドロップターゲットへ1回ヒットする度にLCDでサーキット場が完成してゆくのが楽しい!ボールロックと共に電光石火の“ホットウィールレース/2ボールマルチ”がスタート!初心者でも楽しめるのがいいし先鋭なCGも素晴らしい。 [ループクラッシュマルチボール]――――――ループレーン課役の完成で点灯。マルチ時JPリーチになるとトップマグナにボールが電磁石キャプチャーされっ放しに。カウントダウン中にコレへおはじきの如くアナザーボールを左外ループ経由で思い切りぶつけてスーパージャックポット。ヴァリュー上昇に粘りに粘った末、フィールド倍率が掛かっていると額面が億単位になっててビックリする。 [ヴィクトリーラップマルチボール]――――――12th〜2ndまでのチェックポイントを“順番通りに”通し、仕上げにチェッカーフラッグ/左外ループへショットを決めればヴィクトリーラップマルチがスタート。マルチ中は各ランプ/左右内外ループがJPだが、決め手はスーパージャックポット回収が掛かる高速キッカー。 他、[カーカオスマルチボール] [レッドラインマニアマルチボール]などのプレウィザードとしてのマルチボール有り。ファビュラスなLCD演出や荘厳なライトショウも素晴らしいので、苦心惨憺の上やっと到達した時は感無量だ。 【バトルモード】 ドレーヴェンの操るモンスター達を捕まえろ! 60秒間(残り燃料)の時間制シングルボールで戦う難儀なフィーチャー。しかし成功報酬が高額でとても面白い! 開始条件はB-A-T-T-L-Eターゲット完成+点滅キックアウトホール。課役クリア後のフィニッシュとしてロックホールでとどめを刺し、残り燃料がボーナスとなるのが慣例。 真っ向から挑んで高額ボーナスを仕留めるもよし、苦手ならマルチボール併発で対処するもよし。 [T−REX]――――――弱点は右ランプレーンとスピナー。地響き轟く雄叫びデモや、車をバリバリ食べちゃうやんちゃティラノの描写が楽しい。 [巨大ゴリラ]――――――カースタンダップ3枚⇒左外ループ/右ランプレーンが弱点。スタンダップ撃破後は逃げ出して、ホットウィールカーでローラースケートしちゃうのが可愛い。 [コブラの大群]――――――右ランプ,右ループ,左内/外ループの4か所が弱点だが、一度捕まえても時間制で逃げ出すのが厄介。全部捕まえた後、高速回転ホイール内でコブラ達がおしおきされているのが微笑ましい。 [トリケラトプス]――――――高速キッカー,右ランプ,右ループの3ショットが弱点。柴犬みたいなトリケラ君の動作がキュート。マルチボールを併発させるより、シングルで3コンボを手早く決めるのが吉。 [ドレーヴェン博士]――――――ラスボス。1枚ドロップ、BATTLE6枚バンク、カースタンダップ……と倒す行程もやっかい。マルチ併発不可。今回のみ失敗するとモード再点灯からやり直し。 他にも気になるフィーチャーが目白押し。 左右リターン/アウトレーンのE-P-I-Cレターを揃えてランプ,ループ,バンパー,カースタンダップが高額ボーナスリーチとなる[エピックフィーチャー]。 バンパーヒットノルマをこなすと、何と高速キッカーに15秒間フィールド10Xが掛かる[ターボエンジン]。 地味なR-P-Mターゲット完成でフィールド倍率上昇という侮れない報酬がある[タコメーター]。 カースタンダップへのヒットで総計450種以上のホットウィールカーを収集、ミステリーやEx.、カーカオスマルチボールウィザードへの足掛かりとなる[カーコレクト]。 カースタンダップにはどれかひとつにお宝が潜む[トレジャーハント]なんてのも。 本当はね、[スキルショット]の時に隠し操作してからスキルプランジを成功させると、積まれるエンジンが変わってフィールド倍率の底上げがあるんだけどコレは内緒だぞ! そしてそして大団円、5つのヒーローカーを全て集め終えると突入出来るのがファイナルウィザード[レジェンドマルチボール]なのだが、豪壮なアニメーションやトータライズを期待したのに、お粗末なデモとシンプルなマルチボールルールで拍子抜け。 ただ、JPヴァリューは高額なので、トータル10億以上の莫大スコアの叩き出しが期待できる。 凄いぞアメピ、本国のすれっからしなプレイヤーからも絶賛の嵐じゃないか! “レイアウトもスピード感もカラフルなライトショウも素晴らしい。アメピの最高傑作が登場した” “同社前2作よりシンプルな作りにみえるようで、ゲーム性と奥行きは最も進化している。YouTubeのアニメ流用とオリジナルCGのブレンドが意想外に奏功している” “単なる個人所有向けではなくアーケードロケーションへの土壌も耕そうとしている。同社は一層地歩を固めた” と、異口同音の称賛に浴している。かく言う私も、傑作の烙印を惜しまない。 チェックポイントを順に通すもの、ドロップターゲットを繰り返しぶち破ってロックホールへ突破するもの、ループの課役を積み立てるもの……等々。 各マルチボール開始条件のゲーム性が多様で、他のフィーチャーとの戦略も無限に構築が可能。 マルチ開始後のルールの中では[ループクラッシュ・スーパージャックポット]が傑出。 ヴァリューを目一杯あげて閾値を満たしてから磁力に捉えられたボールにアナザーボールをクラッシュ!この痛快な手応えは特筆。 何なら、ループクラッシュマルチとヴィクトリーマルチを意図的に併発させれば、爆発的な6ボールマルチが炸裂。こうなればレッドラインマニア突破も射程圏内。アドレナリンも全開だ。 また、際やかなLCDデモ、ライトショウの鮮烈さも抜きん出ている。 T-REXやトリケラ君、いたずらコブラ達や暴れん坊ゴリラ。そしてヴィラン役ドレーヴェンの愛嬌たっぷりのバトルモードのストップモーションアニメの出来が素晴らしく、ピンボールと相性抜群の効果をあげている。 RPM数値がマックス突破直前になると赤いLEDライトアップが煌々と燃えるように湧きあがる緊張感なんかも傑出だ。 興味深いのは、キャラ造形や動きは瑞々しくともムービーとしては生硬だったストップモーションアニメが、ハイエンドなピンボールスタジオの手によって一級品の映像作品にグレードアップしたこと。 陳腐な科白回しによるお粗末なアテレコ、平凡なフリー素材音楽など、オフィシャルアニメ元来の仕上がりは、素人の手作り枠に甘んじた惜しい仕上がりだったことは否定できない。 それがどうだろう。その動画素材を真心こめて料理された結果をとんと見るがいい! 本業声優による朗々とした熱血ヴォイススピーチ。ピンボール音楽専門の作曲家によるコンポース。ホットウィールが疾走するクールなデモを大量に追加したCGアニメーション。 それらに加え、演出どおり計算し尽くした派手やかで眩いLEDイルミネーションの百花繚乱。モンスター達が大暴れする度に激震駆動する体感シェイカーモーターも逆巻くが如し! プロフェッショナルとしての自覚を持つアメリカンピンボール社の精鋭たちが、まるで見違えるような映像コンテンツに仕上げ直してしまったのだ。 公式マテル社の面々やミニカー好きに恥じない及第点を修めるどころか、堂々と自慢できる程の完成度を誇っている。 ……但し、まだまだ難点も多い。 アーケードロケーションでの設置を前提にトラブルを避けたデザインのはずが、あっちこっちで止まったり引っ掛かったり。 正確にシュートしたはずなのにホールから跳ね返ってきたりコースアウトしたり。 殊更に初歩的なボールスタック箇所が多過ぎる。ファクトリー検品の甘さも考えられるが、ここまで各所に頻発するなら設計にも問題があるのだろう。 ソフトウェア面においても、進行上は害さなくても気に障るバグが多い。いや進行をしっかり害するバグや、フリーズ再起動まで起こる。 上げ下げフリッピングの角度や球質の軽重も含め、最大手スターンのそれと比べてフリッパーが御し辛い。 そういった間然する箇所はまだまだ少なく無いのだが、5点満点審査ならもう一流メーカー仲間入りの4点を付けてもいいだろう。 既にアメリカンピンボール社は、スターン社に次ぐ、ピンボールメーカーの一大手なのだ。 そんなアメピの急進を物語る業界人事シフトが、既に陸続と相次いでいる。 同社は2020年11月、米エレメカゲーム会社の雄ICE社出身のデヴィッド・フィックスをオペレーション/マーケティング部長として迎え入れた。 米でもゲームセンターの減少は深刻だが、大人向けアーケードバーが増加傾向にある。同社のロケーションピンボール復権の野望は本気だ。 更にテクニカルサービス部長としてTurbografx7のハンドル名で名を馳せる名プレイヤー デーヴ・ブレンナンを起用。 2020年12月に入ると、3人の新人デザイナーとデニス・ノードマンを正規雇用し、2021年1月にはウィリアムス出身且つ業界ではご無音だった凄腕女流メカニック ゾフィア・ビル・ライアンを起用。 同年2月にはこちらも御無沙汰 ジャック.E.ヒーガーを美術班に招聘した。 過去ウィリアムスのビデオゲーム「NARC」を開発したクルーの一人で、ウィリアムスやアルヴィン製ピンボールアートの下支えもしている。 怪気炎すら感じるアメピ怒涛の引き抜き人事。同社はそれまで日和見で参画していたピンボール部門に、今後本腰を入れて永年経営する展望を公言した。 ピンボール市場は勿論、アメピ社がアーケード業界に決定打の楔を打ち込む日も、そう遠くはないかも知れない。 ところで、このホットウィールがテーマのピンボール。 またもや詰めの甘いディープルート社がピンボール製品化をし損ねて、やむなき退陣を喫している。 ……また? 過去にビートルズをスターンに獲られ、ポパデュークはKISSを獲られ。 Windows付属ソフト「スペースケデッド」実機化計画はライセンシング失敗。 なのに、またまた掻っ攫われちゃって恥の上塗り?何してんの。 現に2019年の時点でディープルートはホットウィールピンボールの製品化が本決まりとなっており、ジョン・ノリスをチーフデザイナーに、ライセンシング計画と同時進行で制作を進めていた。 一方アメリカンピンボール社は、同時期にかのロジャー・シャープによる版権ビジネスのコンサルティングを受けている。 その際ジョー・バルサーはロジャーから “以前ウィリアムスで立ち消えになったホットウィールのライセンシングを採ったらどうか” と提言を受け、ホットウィールピンボールのプランニングを開始。 ロジャーはマテル社の要職と知己があった為、彼の仲介によりあっさりマテル社のテーブルに着いたバルサーは、手際よくホットウィールとの契約をまとめてしまった。 知らぬ間に競り負けていたディープルートは、やむなく制作途中の機種を別のライセンステーマに塗り替えてプランを続行、完成へ急いでいるとのこと。 ジョン・ノリスは確かプリミア時代にも「ゼルダの伝説」「ヘルファイター」など、商品化を決めて苦労の末仕上げた台を別物に作り変える羽目を二度経験している。ご愁傷様としか言いようがない。 その一方で、アメピにとって「ホットウィール」お披露目の初舞台となるはずだった2020年3月末のテキサスピンボールフェスティバルが、世界的感染症瀰漫の災厄により、中止になってしまった。 企業がVIPの感染を懸念して欠席を表明、その上トランプ大統領が海外からの渡航を禁止。 イベント敢行が不可能となった。 同イベント内でアメピ社は大掛かりな催し物を準備万端に計画しており、口惜しさを察する。 同じくスターン社もタートルズピンボールのぶちあげイベントを企画していて、苦り切る思いをしたという。 どうにかニューオリンズでのマシンショーがホットウィールピンボールご披露の初舞台になったのが救いである。 また、2020年11月開催の公式カスタマイズ・コンペティション・イベント“ホットウィール・レジェンズ・ツアー・ヴァーチャル・カーショウ”では、アメリカンピンボール社がなんとスポンサーとして出資。 優勝者にはホットウィールピンボールが丸々一台プレゼントされた。羨ましい。 いや、でもこのホットウィールカーショウって、もうミニカーコレクターショーじゃなくて、どうみても本物スポーツカー愛好家によるイベント。 何とも贅沢なご趣味の面々がお揃いの模様。ピンボールコレクターもびっくりだせ! (2021/4/5) |
▲左スピナー/左外ループレーン。重要な箇所だけに、もっとすいすい通せるように作って欲しかった | ▲フィールド全景。ハーレーやマスタングに伍する、モーターファンに恥じない秀作ピンボールとして一押ししていい | ▲ロックホール手前には1枚ドロップターゲットが立ちはだかる。でも当て易いし跳ね返ってくる角度も安全で、何だか快適 |
▲ロックホールのアップ。レーンに打ち上げるVUKの構造も面白い。 | ▲フィールド下部の里程標各ライト。モンスターバトルやエピックフィーチャー、ヒーローカーコレクト進捗状況全てが分かる | ▲綺麗!レーストラックの曲線美を再現した原色カラーの透明ランプレーン。ただ、返す返すもっと上げ易く作って欲しかった |
▲ヴィランとモンスター達の暴れっぷりが楽し過ぎて、アニメ本編の主人公チェイスとエリオットの印象が全く残らない | ▲バンパー地帯。トップマグナ稼働によりトップレーンを排した構成はいいが、バンパーアクション自体に迫力が少ないのが惜しい | ▲一番の難関、右下キックアウトホール手前レーン。きちんと狙っても跳ね返ったり通り過ぎたりするのって、どうよ!? |
▲見たくない,思い出したくない程落ち易くてストレスフルな左アウトレーンアップ。但しボールセーヴフィーチャー有り。 | ▲今回ジム・パトラも制作陣に加わっているが、ホットウィールの仕事を終えた後は早くもジャージージャックへ移籍した | ▲こちらも十二分に落ち易い右アウトレーン。球が猛スピンしていたお陰でプランジャーレーンに戻るラッキーも有り。 |