各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2019

ブラック・ナイト ソード・オブ・レイジ(Pro版)

原題Black Knight Sword of Rage(Pro)
製作年度2019年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフデザイン:スティーヴ・リッチー/ソフトウェア:ティム・セクストン/美術:ジョッシュ・クレイ、ケヴィン・オコンナー/サウンド:ジェリー・トンプソン/音楽:スコット・イアン(アンスラックスのギタリスト)/ヴォイススピーチ:スティーヴ・リッチー、エド・ロバートソン他/バックグラス画:ケヴィン・オコンナー
標準リプレイ点数
備考

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【1st.インプレッション&雑感】

 前作から30年ぶり。まさか本当に出るとは思わなかった……!!

 2019年3月、スターンピンボール社から“ブラックナイト”シリーズの第3弾、「ブラック・ナイト ソード・オブ・レイジ」が満を持して登場した。

 ブラックナイトは言わずと知れたスティーヴ・リッチーが生んだウィリアムス社ピンボール永遠のアンチヒーローで、尚且つ名機の代名詞。

 第一作目「ブラック・ナイト('80)」はあの2段構えバイレベルフィールド初採用機種で、尚且つ「ファイヤーパワー」以上にマルチボールを戦略の基軸に据えた驚愕の傑作。
 禍々しいヴォイススピーチや鮮烈なディスプレイデモを印象的に登用し、パックマン一色に染めあげようとしていた当時のロケーションに痛棒を食らわした、コインオップ業界のちょっとしたカウンターカルチャーとなった。

 第二作目「ブラック・ナイト 2000('89)」はメカニクス及びソフトウェアの技術とゲーム性の洗練が格段に進歩した、当時のピンボールトレンドを世に示した秀作。
 ドローブリッヂと呼ばれるドロッピングターゲットがゆっくり盤面下に降りて城門が開き、ボールをロック出来る機構も凄いが、バイレベル高架下ホールから上段へ瞬時に打ち上げるVUK(ヴァーティカルアップキッカー)にもあっと驚かされた。原基的ではあるがウィザードルール初採用機種であることも特筆したい。
 緊迫感のあるビートに音声合成音でコーラスやヴォーカルをフィーチュアしたミュージックは、今も尚凄味を失っていない。

 しかし1999年にウィリアムス社がピンボール事業から撤退。ブラックナイトブランドのピンボールは二度と日の目を見ないと思われていた。

 しかし、奇跡は起きた。
 前作から30年の時を経て、スターンピンボールがかつてのウィリアムス親会社WMSからブラックナイトのライセンスを購入。3作目「ソードオブレイジ」を完成させたのである。甦れブラックナイト伝説!

 デザイナーは勿論、前2作の生みの親スティーヴ・リッチー。古豪ながら今も「スタートレック」「スターウォーズ」などを精力的に開発するスターン専属のピンボールデザイナーだ。

 尚、美術担当は1作目ではトニー・ラムンニ、二作目はダグ・ワトソンだったが、重厚なアートワーク技術が名高いのは勿論、一目瞭然な戦況の教示も卓越なケヴィン・オコンナーが今作で筆を取っている。
 オコンナーといえばバリーやデータイースト,ウィリアムス等数々のピンボールアートを手掛け、現在ではフリーランスとしてあまたのスターン作品を引き受けている老練のアーテイスト。最近では荒ぶるような「キッス」の筆勢が記憶に新しい。
 この人選はブラックナイトブランドにとってもオコンナー当人にとっても不足無し!

 2019年6月には日本のピンボールの聖地《SilverBallPlanet》にPro版が入荷している(リミテッド版orプレミアム版でないのが非常に残念!)。


 プレイしてみると、賢者が一気呵成に揮毫を滑らせたようなレーン構成が実に伸びやかで達筆。

 中央には黒騎士のトイオブジェが鎮座し、センターランプ入口でフレール(連接棍)を振り回してプレイヤーのボールを弾き飛ばし、ロックホールはがっちり盾で防御している。
 胴体の袂にある1枚スタンダップにヒットして一撃くらわすことも出来るが、忽ちアウトレーンへ跳ね返らす手強い剛の者だ。
 右アウトレーンに名物のマグナーセーヴもあるが、まぁ前2作へのセルフオマージュであり、実用は余興程度。実際には左アウトのソフトウェアボールセーヴの方が有用。

 またLCDアニメーションのデモが非常にクール。
 3回の擬制ボールロックで稲光と共に黒騎士が3人揃う[ブラックナイトチャレンジ]マルチボール開始時のグラフィックの威厳性には目を見張るし、掌に目の生えた悪魔[ヘルハンド]、溶岩と火山弾の化身[マグマビースト]、ヤマタノオロチならぬ五岐大蛇のような大ウミヘビ[ハイドラ]、凍てついた氷雪の墓守り邪神[リッチローズ]、映画トレマーズのように巨大ヤスデが砂漠の砂を打ち上げて暴れまわる[サンドワーム]……などなど。
 次々と立ちはだかるモンスター達との戦いも、いちいちカッコイイしとても楽しい。

 因みに掌の悪魔ヘルハンドが倒されるとうるうる落涙したり、大ウミヘビはスライスカットな切り身になったり……等。ちょっとしたギャグのさじ加減も絶妙。

 全モンスターを倒した後は、己のあるじである黒騎士への弑逆へ挑む[ブラックキャッスル]が山場。
 手強いフレール,盾,黒騎士本体スタンダップへのショットをシングルボールで繰り返し何度も決める……という難度の高い課役だが、奴を倒した後に見られるゾクゾクするようなデモとウィザードマルチボールの感動は激越的だ。

 そのモンスターバトル&ブラックキャッスルウィザードを縦糸とするなら、K-N-I-G-H-Tレターマルチボールは横糸のウィザード。
 モンスター討伐コンプ、ハリアップコンプ、三騎士マルチボールでのスーパーJP獲得により進捗するKNIGHTレターの完成でトップホールにKNIGHTウィザードマルチが点灯!
 一週目は初代80、二週目は二代目2000に因んだウィザードマルチが待っている。
 オールドファンはサウンドとデモによる各時代へのセルフオマージュに存分に痺れて貰いたい。


 総評として五段階評価で4とか付けたいのだが、実は我々が気軽にプレイ出来るビッグステップ設置のPro版ではバイレベルフィールドとその実働ボールロック機構、及び関連するマルチボールフィーチャーが丸々ひとつ、ごっそり取り除かれている
 バイレベルのボールロックマルチボールと言えばブラックナイトピンボールの伝統だ。これを抜きにしてこのゲームの評価は下せない。
 返す返す、日本国内でプレミアム版・リミテッド版がプレイ出来ないのが残念。

 尚、未だに日本でのスターン代理店を名乗り続けるトイサピエンス/ホットトイズ社だが、同社側もプレイヤー側もお互いに歯牙にもかけぬ不要の存在となっており、調べ物の検索ノイズにすらならない状況。いい昼行燈である。


 音楽についても触れておくと、プレイヤーに先鋭な衝撃を与えたブラックナイト2000のミュージックが、ウィザードマルチボール時にはハードロックプログレ調にアレンジされて奏でられている。
 それもそのはず、今作では米ヘヴィーメタルバンド アンスラックスの現役ギタリスト スコット・イアンが手掛けている
 完成度の高い新生ブラックナイトのテーマソングを社内で初めて演奏した時、エンジニアリングスタッフ全員が集まってきて驚嘆の声を上げたという逸話があるくらい。

 一方この伝説の名曲が元々一体誰の作曲なのか、永らく不明な点が多かった。

 ロマンチックながら緊迫感のあるコード進行とベースの躍動。清涼なコーラスハーモニーに突き刺さるようなビート。鼓舞するようなリードヴォーカル。

 わくわくと勇躍するようなベースラインの曲調は「バンザイラン」でも聞き覚えのあるブライアン・シュミットの指遣いだが、手を触れると稲光りに火傷する如く先鋭な全体のサウンドタッチは「ローラーゲームズ」でもキレキレな音楽編成を見せたダン・フォーデンの作風だ。

 ブラックナイト2000発表当時の一味連判では、音楽担当の1st.ビリングはシュミットで、2nd.がフォーデンと記されている。結局作曲者は誰なのだろう。

 しかしその謎については公のインタヴューでスティーヴ・リッチーが明かしてくれている。

 “俺がBGMの殆どの原曲を書いたんだ。音楽のコード進行を作成して、次に主旋律とリフレインを追加した。他のゲーム機が犇めいていて騒がしいロケーションでもサウンドでインパクトが出るようヴォーカルコーラスを導入するよう提案もした。”

 “次にブライアン・シュミットがベースラインを敷いて音楽を変革してくれて、そして全ての主旋律やアレンジ、ギターサウンドの電子的音源への変換、サウンドエフェクト、ソフトウェア的設計の全てをダン・フォーデンが担ってくれた。音楽監督として俺のヴォイススピーチレコーディングのエンジニアリングを勤めたのも彼で、このブラックナイト2000の音楽の最大の功労者はダン・フォーデンなのさ。”


 つまり、未だに語り継がれるあの名曲は3人の合作であったということ。

 音楽の原基的な素材はバンド経験もあるスティーヴ・リッチー当人で、デコへの移籍直前の時節だったブライアン・シュミットの手に一旦渡ったのち、完璧な作品及び商品として完成させたのはダン・フォーデンだったのだ。

 尚、スティーヴ・リッチーはかつてウィリアムス社内でロックバンドを組んでいた

 レコードデビューはおろかクラブなどの公の場でのライヴもついぞ叶わなかったが、結成は'80年代初頭頃。
 仕事の時間外にウィリアムス社ファクトリーの空きスペースで練習を重ね、'90年代初頭頃まで活動は続いている。よく同社のパーティーでその成果を披露していたそうだ。

 スティーヴがギター担当で、弟マークがベース担当。そしてプログラマーのユージーン・ジャーヴィスがキーボード兼ヴォーカル担当。

 そのパフォーマンスは'80年代ヒットポップスやハードロックのカバーが中心だったが、オリジナル曲も出来たそうで、破裂してしまった“嫁”の悲劇を唄った、その名も“Love Doll”。
 それってまるで[Whole Lotta Rosie]じゃないか。30年後にスティーヴが手掛けるAC/DCピンボールへの符節合わせのよう!

 一方、ピンボールマニアのみならず他方購買層へのアピールに長けたスターン陣容は、サンディエゴ開催のコミコンに自社を出展。
 ソードオブレイジのオリジナルサウンドトラックを限定100枚のLPレコード盤としてブース販売。マニアに行列を作らせ忽ち完売させるという賑わいを演出した。
 このLPレコードはジャケットのヴァージョンを変えて今後もイベントの度に限定販売を行うとのこと!

 現在は不可能だが今後実現したてみたい装置は何か、と聞かれると、スティーヴは
 “ボールを盤面から1インチ以上空中へ浮遊させてコントロール出来る装置を実現してみたい”
 と答えている。

 1950年生まれのスティーヴだが、現役ピンボールデザイナーとしての彼のキャリアは今後もまだまだ続きそうである。

(2019/11/5)





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