各名門ブランド ピンボール・リスト

Williams/1980

ブラック・ナイト

原題Black Knight
製作年度1980年
ブランド名ウィリアムス
メーカーウィリアムス・エレクトロニクス・インコーポレイテッド
スタッフプレイフィールドデザイン:スティーヴ・リッチー/美術:トニー・ラマンニ/ソフトウェア:ラリー・ディマー/サウンド:ジョン・コトラリーク
標準リプレイ点数1st.:200万点/2nd.:300万点
備考製造台数:13,075台/ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲バックグラス。'50年代に一度流行ったことがある鏡のアクセントを再登用。以来、'80年代ウィリアムスアートの常套としてミラーバックグラスが用いられるようになった ▲3枚バンクドロップの奥に、マルチボールリリースのキックアウトホールが。
▲上段フィールドでのフリッパーは勿論、バンパーアクションが素晴らしい。連続パンチでドロップなぎ倒しのみならず、ロックポケット放り込みも期待できる ▲バイレベル上段フィールド。プランジ加減と左フリッパーパス&右フリッパーヒットでボールロックを狙え
▲ドロップターゲットがいっぱい。マグナセーヴやEx.も点けられるのでどんどん打ち落とそう ▲厳然と立ちはだかる黒騎士様のアップ。中世イングランドの騎士やアーサー王の騎士がモデルとも聞く
▲キャビネットフロント。こちらも黒・赤・黄色カラーリングで統一 ▲下段プレイフィールド。アウトホールボーナスのキレキレなカウントも痺れるぞ

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●ウィリアムス製ピンボール「ブラック・ナイト」が発売された1980年。

 当時アメリカ本国では日本製ビデオゲームが海外・欧米アーケード市場を席捲していたどころか、安価で高性能な日本車の進出と圧倒的セールスの急伸に対し、アメリカの自動車産業がなすすべなく戦々恐々と脅かされていたことが今も強烈に印象に残っているそうです。

 失業者達が日本車を破壊しながら日の丸国旗を燃やす“日本叩き”なんてパフォーマンスも、この頃盛んに取り沙汰されていたのを思い起こしますね。

 一方、我らがピンボール市場。

 ソリッドステイトの台頭、コピライト台の常套化、確実にピンボールのシェアを侵してゆくビデオゲームの脅威……。

 戦場の如く怒涛の転換期を迎えていたコインオペ・アーケード界に新機軸を投下すべく、ピンボール産業の橋頭堡として発表されたのが、今や老巧となった名匠スティーヴ・リッチーの手による「ブラックナイト」でした。

 見栄えのインパクトが絶大な2段構えのバイレヴェル・プレイフィールド。橋渡しを担う金属製ランプレーン
 素早く連続で倒さないとはやるサウンドの警告と共にばっさりリセットされる、シビアでスリリングなタイマー・ドロップターゲット
 もう一対用意されているボタン操作で磁力が稼働、ボールを捕らえて左右アウトレーンからのドレインを防ぐことが出来るマグナセーヴ
 咄嗟にディスプレイに表示されるスコアヴァリューやマルチ時の洒落たデモンストレーション。
 赤と黄色の圧迫感に満ちたアートワークにより、立ちはだかるように描かれた騎乗戦士の権高な威厳性。地の底から響くような、その魁偉なる黒騎士のヴォイススピーチ
 そしてワンボールロック、ツーボールロック、リリースの多段階を経て炸裂するマルチボールプレイの激越感!

 特にバイレヴェルの圧倒感と、マルチボール中には2倍・3倍のスコア倍率がかかるという初めての試みによる戦略性の高さは、ビデオゲームへ離れていた多くプレイヤーを忽ち虜にしました。

 ロケーションにおける当時のピンボール筐体は左遷の如く店舗の隅へ追いやられていた訳で、そんな情勢における「ブラックナイト」は、パックマンやムーンクレスタ、クレイジークライマーと言ったテーブルゲーム達を傍から見下ろしながら、4分に1回作動するデモ設定により、

 “我が敵よ……貴様らを必ずや倒そうぞ!”

 ……と、奥底から響き渡るようなヴォイスで呪詛を放っていたのです。

 プレイヤーとこの黒騎士が対決するストーリーのはずが、当時の情勢からしてそんなアイロニーで妙な暗喩が浮かびあがらんとするこの音声合成に扮したのは、スティーヴ・リッチーご当人です。


 結局、このマシンは今も傑作の呼び声の高いピンボールの名機種となりました。

 セールスは'70年代後半や'90年代前半の黄金期を彷彿させる1万3千台ものユニット数を突破。
 当時珍しかった同機種のリミテッドイディション再発も翌年に取り組まれる程の高インカムを記録。
 新勢力のビデオゲーム帝国軍に一矢報いた、まさに黒騎士の英雄となりました。

 コインオペ業界においても、「ブラックナイト」こそピンボール産業がようやくIC化の技術をいかんなく使いこなせた初めての一機種として礼賛に浴します。
 1981年のAMOAマシンショーでは、カルチャー的にもアート的にも上質、且つ世界に通じる優れたゲームマシンに贈られる“ホワイトホープ賞”を受賞しています。

 バイレヴェルとマルチボールという新たな薫風を巻き起こしたブラックナイト的コンセプトへ、その後同社は勿論他社もこぞって追従。

 ウィリアムス「ジャングルロード('81)」「ファラオ('81)」といった二の矢三の矢の同路線を放ち、ゴットリーブからは「ブラックホール('82)」「ホーンテッドハウス('82)」バリーでは「フラッシュゴードン('81)」と言った豪勢な多段階フィールドのヒット作が陸続と登場。

 結局一、二年程度ですぐに飽和して収益が逆戻りしたものの、お先真っ暗だったピンボール市場で突如派手目の狂い咲きが巻き起こることとなったのです。

 またブラックナイト熱の波及はパソコン界にも及び、盤面のフィールドデザインを真似たゲームソフト「ミッドナイトマジック」が登場、NECのPCシリーズ付属のビデオピンボールとして幅広く遊ばれることに。

 まだ8ビットスペックだった家庭用パソコンだろうと、あの熱いスリルをどうにかして家で再現して遊びたい……というプレイヤーの心情は、とてもよく分かりますね。

 更に数年後、本国と冷戦状態だったソビエト連邦の外務大臣アンドレイ・グロムイコは、アメリカ合衆国のことをニックネームで“黒騎士”と公に呼んでいましたが、これは同名マーベルコミックから取ったのではなく、グロムイコ氏がピンボール好きで、お気に入りの機種が「ブラックナイト」だったから!?……という挿話まであるそうです。ホントかしら。


 そんなピンボール・エポック・メイキングの寵児となったデザイナーのスティーヴ・リッチー

 アタリ時代の「スーパーマン('79)」ウィリアムス時代の「フラッシュ('79)」「ハイスピード('85)」
 そしてスターンの近年作「AC/DC('12)」「スタートレック('13)」といった、骨太且つ先鋭なプレイフィールド・ゲームデザインで今も気炎万丈な彼の沿革や功績に関してはフラッシュ解説ページでも触れたので割愛しますが、せっかくなので'74〜'79年まで在籍していたアタリ時代のエピソードをひとつ。

 アタリ入社間もない当時はラインワーカーだったスティーヴが工場で勤しんでいると、彼の頭上をかすめてゴム製のピザがくるくる飛ばされている。
 またしばらくするとメカニカルな鳥形ロボットが工場の上空を器用に滑空しているではないか。
 誰だよ!人がまじめに働いてる時にこんなふざけた悪戯する奴!と思って見渡すと、なんとソレで遊んでいたのはノラン・ブッシュネルだったそうな。

 1996年、WMSにおけるピンボール部門縮小を機にウィリアムスを去り、ビデオゲーム・プロデューサーの肩書きで10数年ぶりのアタリ社へ足を踏み入れたところ、工場が2棟増えてた割に顔ぶれがあまり変わってなくて、非常に懐かしく、仕事がやり易かった……とのこと。


 しかしそんなSリッチーの功績もさることながら、彼のクリエイトによる極めて豪傑で画期性の伴うプレイフィールドとゲームデザイン、アイディアひとつひとつを、バグひとつなく庖丁解牛の如く完璧に繋ぎあわせたラリー・エドワード・ディマーの不世出なソフトウェア技術は特筆中の特筆に値します。

 時間制ドロップ、マルチボール、マグナセーヴ稼働ひとつひとつの処理の素早さと信頼性の高さ。
 威圧感と威厳性に満ちた15種類ものヴォイススピーチ。
 聴く者を酩酊させるような、アルペジオフレーズを繰り返す緊迫感たっぷりのBGM。
 ミステリーポイント獲得時には一桁ずつ爆音とともにディスプレイ表示する斬新なスコアヴァリュー。
 そして、まるでピアノのグリッサンドの如くジャラッ!と掻き毟るような盤面ライト連続明滅を寸分たがわずカウントする、あの目の覚めるようなアウトホールボーナスの鮮烈さ!

 永久パターンの穴を突かれて単調作業で延々稼がれたり、バグ技発見でプレイヤー連中にいいように弄ばれていた日本製ビデオゲームのプログラマー達が裸足で逃げ出すような、この研磨されたソフトウェアの無謬性を見るがいい!

 当時マサチューセッツ工科大学を卒業したばかりだったというラリー・ディマーのこれら鬼神のような技術無しに、この完成度と仕上がりは実現し得なかったでしょう。

 その後ディマーは「スペースシャトル('84)」「ハイスピード('85)」「アダムスファミリー('92)」と言ったピンボールの歴史的傑作や一里塚モデルの数々において、毎作の如くプログラマーとして名を連ねてゆきます。

 Sリッチーやパット・ローラーの驥尾に付すどころか、内実彼のソフトウェアシステム無しではウィリアムスの夜も日も明けられない。
 そんな存在として名を轟かせてゆくこととなるのです。


 ところで、基本的にノンコピライトのオリジナル作であるはずの「ブラックナイト」のアートワーク、及びテーマ性についてですが。

 Sリッチーは後に、ブラックナイトの世界観はアーサー王宮廷の円卓の騎士伝説、及びキャラクターのインパクトは'50〜'60年代のマーベルコミック「サー・パーシー・オブ・スカンジア/ブラックナイト」をインスパイア元とした、と語っています。

 ……と言うことは、ブラックナイトの間接的モデルは実在のイングランド騎士ヘンリー・パーシーなのかな?
 そう言えば続編「ブラックナイト2000('89)」でドローブリッヂを降ろしてボールロックするお城って、アーサー王伝説に出てくるキャメロット城ということに!?
 もしかしてR-A-N-S-O-Mで身代金を要求された王様はリチャード1世とか!?

 などなど、あれこれ検索して勝手に憶測をしのばせるだけでとても楽しいのですが、いやいやそれより私が一番切望しているのが、「ブラックナイト」の映画化ですよ。

 今ハリウッドではヒロイック性全開なマーベルコミック実写映画化が隆盛を極めており、「スパイダーマン」「X−メン」の生みの親であるスタン・リー原作の「ブラックナイト」が、いつ映画化されてもおかしくない情勢です。

 つまり、映画化されたブラックナイトのコピライトをスターンピンボール社がライセンス購入すれば、スティーヴ・リッチー先生が「ブラックナイト2000」以来、30年ぶりに黒騎士ピンボールを手に掛ける!!
 ……なんてこともあり得るかも知れないのですよ。

 今こそスターンピンボールで甦れ!ブラックナイト伝説。


▲スピナーとホースシュー入口のアップ。バイレヴェル高架下をうまく活用している ▲上段ドロップ右側バンクのアップ。裏側をボールロックまでの通過レーンとして設えているのが上手い ▲下段から上段への金属製ランプレーン2本。上段から下段へボールをドレインさせる難敵でもある
▲左ランプ経由のロールオーヴァーにEx.ライト有り! ▲重厚感ずっしりなプレイフィールド全景。バイレヴェルに無理が無い打ちごこちとボールフローが素晴らしい ▲シューターレーン、シューターゲージ付近。筐体側面にマグナセーヴボタンがあることを矢印で指示している
▲左リターンからは対角右ランプショットでミステリーポイント獲得 ▲そのミステリーショットがもらえる右ランプのアップ ▲右リターン対角ショットはスピナーヴァリューだ
▲ぐるんとオービットさせるだけでも楽しいホースシュー。エキストラの他スペシャルライトもあるよ ▲オマケ画像。アタリ社25周年記念特集でSリッチーのインタヴューが載ってたReplayMagazine1997年7月号の表紙。 ▲せっかくなんでその号のPINランキングを。相変わらずマーズ、アダムス、シアターが強い。しかし何でコンゴが入って来てんの

(2016年12月28日)