各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2002

プレイボーイ

原題Playboy
製作年度2002年
ブランド名スターン
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフ原案:ドワイト・サリヴァン、ジョージ・ゴメス/デザイン:ドワイト・サリヴァン、ジョージ・ゴメス/ソフトウェア:ドワイト・サリヴァン、ロニー・D・ロップ、オリン・デイ/ドットアニメ:マーク・ガルヴェス/美術:ケヴィン・オコンナー/音楽:カイル・ジョンソン/メカニクス:ジョージ・ゴメス、ウェズリー・チャン
標準リプレイ点数
備考※ようつべに動画あるよ!⇒GO!
▲フィールド上部。金属製スクープ型ランプレーンはDサリヴァンが「チャンピオンパブ('98)」でも好んで用いていた構造 ▲バックボックス。当初草案ではヌードフォトスタジオでの撮影風景を模したアートで、メイクさんやカメラマン、照明に囲まれたプレイメイトが佇む姿が描かれていた
▲しかしやはりプレイボーイと言えばヒュー・ヘフナー!という訳で元プレイボーイ誌オーナーであるヘフナー壮年期のご尊顔を描くアートが採用となった ▲こちら裏スキルショットの仕掛けのあるキックアウトポケット。弱めのプランジ加減でしとめるとミニジャックポットが左ランプに点灯
▲アップポストとマグネットでボールコースがコントロールされ、ラビッドヘッドマークのトップレーンとバンパーへとフローする構造。地味なようでとても凝っている ▲フィールド下部。ラヴリーなカレンダーガール12人が勢ぞろい。全員揃えると最終ビッグゲーム開始よ
▲キャビネットフロント。やはりタイトルロゴとウサギのデザインは素敵ね ▲実はこのEx.レーンと右ランプレーン、狙い撃ちが難しい。ヌードピンナップ展開の仕掛けを優先したため、入口が奥まってしまったのだろう

― COMMENTS ―
●米ウィリアムスが消滅し、日本のデータイーストが和議申請となり、タイトーもピンボールのアフターケア及びパーツの取り扱いを終了。
 ゲームセンターから忽ち雲散霧消していったピンボールのその空席へパチスロ台がわっと進出し始めた、2002年頃のこと。

 実はひっそりと、スターン製「プレイボーイ」がタイトー社によって試験的に国内へ輸入されていました。

 同じくスターン製「ストライカーエクストリーム('00)」「ターミネーター3('03)」も、日本に1台もしくは2台程度の規模で設置され、これらは新宿パセオ、渋谷会館、タイトーステーションなどの都心部タイトー直営店や系列店でロケテスト台として稼働していました。
 しかし、やはりセールスが見込めないと判断され、一度たりとも正式にディストリされることはありませんでしたが、このタイトーの焼け棒杭のおかげで、かろうじて当時の日本のプレイヤーは国内でニューマシンに触れることが出来た訳です。
 因みにアトラス社がシンプソンズを皮切りにピンボール機ディストリを突然開始させるのは、この3年後のことでした。

 閑話休題、このスターン製2002年版「プレイボーイ」。その名の通り、これまで2度ピンボール化されている米プレイボーイ誌のライセンス台で、特に第1作目の'78年バリー製は、ゲーム性もアートワークも気高く麗しい、ピンボール史上不動の傑作として今も尚語り継がれている伝説モデルです。
 また'89年発表のデータイースト版もなかなかの出来で、ヒュー・ヘフナー氏やプレイメイトたちが戯れるハーレムの楽園ぶりを活写した実写バックグラスアートの豪奢な享楽ぶりは、バリー版に劣らぬ存在感をロケーションに醸し出しておりました。

 しかし今回のスターン版は趣きが変わり、プレイフィールドでは乳房の露出も辞さぬ妖艶なプレイメイトたちが豊満な肢体を随所でくねらせ、喘ぎ声が漏れ聞こえそうな程過激なショットのパッチワークが乱舞しています。
 これでは、格調高いプレイボーイのブランド品というより、個室ビデオか覗き部屋の張り紙ような卑俗ぶり。

 しかしそれについて、デザイナーのジョージ・ゴメスはこうコメントしています。

 『ピンボールは毎日の習慣というより、土曜日の夜にひたる非日常の夢空間みたいなもの。スターンやピンボールのアートに似つかわしくないからと言って委縮したりせず、あえてヌードの露出を大胆にしたんだ。でもスタッフ内でそれについて反対意見もあって、美術班のケビン・オコンナーと協議の末、ヌードフォトはそれぞれのロケーションが適した過激さを選べるよう、乳房の露出がないAバージョン、露出のあるBバージョン、そして最も過激なCバージョン、の3つのバージョンを用意したよ。僕はB版ぐらいがお気に入りだけどね』


 そもそも、このスターン製「プレイボーイ」のとば口は、WMS時代にPINBALL2000仕様で同テーマの新作の開発を一度断念した過去を持つ、ドワイト・サリヴァンの言いだしっぺでした。

 彼はウィリアムスで「ジャンクヤード('97)」の制作中、途中仕上がり三分の一の段階でチームリーダーのバリー・オースラーがリストラ解雇される喫緊に遭遇。
 ピンチヒッターとしてクレーンや犬小屋トイギミックに取り掛かったアダム・リーネのヘルプにより、気息奄々どうにか完成にこじつける……という修羅場を体験。

 その後サリヴァンはスターン移籍後も、チーフデザイナーのジョン・ノリスが途中退場した「ゴールデンキュー/シャーキーズシュートアウト」のプログラミングを任されるというハプニングに再遭遇。

 そんなトラブルばかりに見舞われたサリヴァンにとって、この「プレイボーイ」はスターン移籍後にようやく立ち上げた、待望且つ自身渾身の企画でした。

 一方、ジョー・カミンコウ、ジョン・ノリスといった傑物リーダーを立て続けに失ったスターン社はこの時節、残った代役スタッフたちが仕上げた「ハーレーダヴィッドソン」「ストライカーエクストリーム」等の出来と売り上げが非常に頼りない結果に終わっており、優秀な人材の早急な確保が同社焦眉の課題として解決を迫られていました。

 そんな矢先、外注デザイナーによる前作「モノポリー」が、市場氷河期の当時としては大健闘と言える、三千数百台もの製造ユニット数を記録。
 新生スターンとしては初のヒット作となった故、今作プレイボーイもアウトソーシングに頼ることを決議します。

 白羽の矢が立ったのは前述のとおり、モノポリーのPローラーと同じくWMS出身で、ウィリアムス最後のヒット作「モンスターバッシュ('98)」を手掛けたジョージ・アルフレド・ゴメスその人。
 彼はWMSピンボール部門消滅後にフリーランスとなり、ミッドウェイスポーツディヴィジョン社でビデオゲームの開発に携わっていましたが、何年かぶりのピンボールの仕事オファーに、二つ返事で快諾します。

 『僕の意見ではあるけれど、ライセンス台ってのは、マニアオンリーなピンボールのアプローチ範囲を一気に拡充させる威力があるんだ。前作モノポリーが評判高かったのも、アートの魅力や訴求力の強さのなせる業。ピンボール産業はパブリシティの手段としてコピライト政策を常日頃から選んでいるものの、スターン社に超大作映画の全部をライセンス購入する余裕はない。けれど、部分的な契約とか折中とか、どうにか切り詰めて、いつも何とかしてるんだ。』

 そう語るGゴメスは、オリジナル企画台と比べ、ライセンス台の制作を手掛けることはむしろ楽しいと宣明。
 ジョン・ポパデュークジョン・ノリスがライセンスゲーム企画のお仕着せに嫌悪感すら示しているのに対し、コピライト取得により高名なビッグタイトルに自分のクリエイトが関われることに、ゴメスは毎作光栄を感じているそう。

 また同氏によると、外部のデザイナーの立場でありながら、同社スタッフとの衝突やトラブルは一切無く、プログラムも担当したサリヴァンや、メカニクスのレイ・タンザーウェズリー・チャンなど、皆それぞれが互いにアイディアを自由に出しあう、雰囲気の良い理想的な現場であったとのこと。
 三角柱や袋とじピンナップのヌードフォトの展開で、ゲットバニー、スプラッシュ、トライアングルジャックポット等々の戦況を分かり易くしたり。それを単純なコイル仕掛けではなく、スローリィに稼働するモーター仕掛けにしてムードを出したり。
 またサリヴァンのアイディアである、ロングドロップターゲットヒットでヌードフォトがバックライトで照らされる案は没になり、代わってゴメス案のピーカブー・ビーズカーテンの妖しい演出の方が採用となりました。なかなかのスケベっぷりです。

 一方実写のプレイメイトを多人数採用したフィールドアートについてですが、サリヴァンたちは雑誌やビデオやDVDなどのパブリックプレイボーイから100人程をピックアップ。その選別会議にはなぜか社長のゲイリーも参戦。
 それからプレイメイトを一人一人、吟味に吟味を繰り返し、慎重に厳選していったそうで、「悩みに悩んだ大変につらい作業だった!」とサリヴァンは語っています。ホントかしら。


 さてお馴染み《心斎橋ビッグステップ/シルヴァーボールプラネット》でじっくりプレイできる機会に恵まれた筆者は、近年になってから2日間ほどやりこみましたが、品格が乏しくゴージャス感に欠けたアートワークに反し、意外とプレイ中はのどかでほんわかした雰囲気に包まれ、癒される程の穏やかさを感じました。
 裏スキルショット成功で稼働するヌードマガジン。無邪気なポーカーストリップ。はたまた男女のなれ初めから蜜月に至る寸劇をボールロックの段階と3ボールマルチで表現したり、ハリーアップ2ボールマルチをパジャマパーティのじゃれ合いと小気味良く響くシャンパンコルク音で描写したりする計らいも。
 卑猥などころか、艶福の幸福感に満ち溢れた、情愛と博愛を感じる、こんなにも温かみが溢れたマシンだったんですね。

 ただちょっと気になるのは、バニー数のカウントや1月〜12月カレンダーガールコレクションの獲得に実感が湧かず、把握が無いまま全部取得出来てしまって、いつの間にかウィザードモードに突入、首をかしげる一幕も。
 どうもルールが把握しにくくて説明不足のような気がするのですが。如何なものでしょうゴメスの旦那?

 『人によってはフィーチャーが分かりにくいみたいでよくルールを聞かれるんだけど、スコアを上げたい場合はとにかく女の子たちを脱がして好きにしちゃう方向で攻めるといいよ。そういう作りになってるからさ!』

 な、なるほど、さいですか……。

▲まぁ何てハレンチざます!ピーカブー・ビーズカーテン。このスケベな仕掛けはゴメス先生のアイディアです ▲実写フォトを多用したアートは賛否が分かれた。コレも悪くはないが、確かにデコ版やバリー版のアートの方が面白かった ▲ラビッドヘッドの三角柱。時間制トリプルジャックポットがかかるとコレがクルッと回って豊満なお姉さんの姿が!
▲3ボールマルチがかかるセンターフォールドランプレーン。因みにcenterfoldとは袋とじの意。マルチ中はパカっと開いちゃうわよ ▲カレンダーガールズのアップ。バニー数の獲得で進捗。Ex.も点灯。 ▲もしスターン社がゴメスを招聘せず、サリヴァンとタンザーだけで仕上げていたら、決してゲーム性は高くならなかったろう
▲左リターン付近のアップ ▲ホースシュー右奥のディティール。地味なようで重要なマグネットの使い方が面白い ▲最後は右リターン近辺のアップで

(2015年7月20日)