各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2018

プライマス

原題Primus
製作年度2018年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフプレイフィールドデザイン:デニス・ノードマン/ヴォイススピーチ:レス・クレイプール/美術:ゾンビ・イエテイ、ゾルトロン
標準リプレイ点数3,000点
備考スターン2015年製「ウォー・ネリー!」及びスターン2016年製「ザ・パブスト」と同フィールド/100台限定製造/メーカー希望価格7,995$/13トラック収録
▲トランスライトではなく本物ガラス製バックグラス。アートワークはプライマスアーティストのゾルトロン。 ▲キックアウトホール。リットバンパーソレノイドカウントが快感。
▲本物リールドラムメカニクス。ちゃんとグラチャンやハイスコアも記録してデモ中にシャカシャカ表示してくれたりもする ▲ピンボールアーティストのジェレミー・パッカーは元々ゾルトロンと共にプライマスライヴポスターの仕事をしたことがあった
▲フィールド上部。プランジャースキルショットは難しい。ここは4本トップレーンの方を確実に通しておきたい ▲フロントキャビネット。レグの緑色コーティングも豪華
▲揺らぐ常識。妙なる描写。溢れ出る色彩。見知らぬ誰かの悪夢の如き世界観。Welcom to This World! ▲フィールド下部。通常とは勝手が異なるショートフリッパーには上級者も苦戦を強いられる

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大阪心斎橋BigStep内3F《Silver Ball Planet》にて稼働中の「プライマス」は同名のロックバンドをテーマとしたピンボールだ。

 ロック・洋楽をテーマとしたピンボール新機種リリースはあらゆるメーカーの定番商品。その点では決して珍しくないのだが、今回ばかりは様子がおかしい。

 出自もゲーム性もデザインも極めて異色。誰が企画して、誰が開発して、どこからどうやってこの機種が生まれ出ることになったのか。ピンボール通ですらよく分からないマシンだ。
 どこのメーカー製なのかすら、はぐらかすようにしてあってハッキリしない。

 因みに、その米国のオルタナティヴ・ロックバンド プライマスも、本作ピンボールと同様に説明の難しい音楽性を究め続けている人達。
 貴族的なプログレとも、退廃的なパンクとも、狂暴性を帯びるヘヴィメタとも異なる、いびつに捻じれたこの独特の世界観。

 筆者もピンボールを打っているうちにその奇妙な音楽性に興味を抱き、アルバム「ポーク・ソーダ」1枚通して聴いてみたが、まぁ何とも居心地の悪い浮遊感。このずる賢そうで飄々とした歌声のイヤラシイ狡猾さ。下卑な低劣さの裏にある格調の高さ。それでいて世を達観して悟りを開いたような音楽性の高さと神々しさにも溢れていいる。その作風はグロテスクな愛らしさにスノッブなおしゃれさを錯綜させる各アルバムのジャケットアートにも共通性を感じる。

 このツイストの効いた音楽性が、ピンボールという理不尽なゲームにウンザリするほど親和しているのだ。

 特に、'50年代後半〜'60年代前半のデザインとゲーム性へのオマージュ、過ぎ去った時代への想いとトリビュートが頑強に据えられた本作の、冷酷非道にそっけなく終わる不条理さに、プライマスのサウンド感がピタッと嵌っている。

 現代ピンボールとは全く趣を異にしておきながら、でも、これは紛れもなく、誰がどう見てもピンボールなのだ。これは一体何だろう。
 ルール、フィーチャー、プレイフィールドはとてもシンプル。しかし攻略はとても難かしい。



【黄,緑 4個バンパー】――――――基本、一発1点。点灯時10点。フラッシュ時20点。リットはトップレーンと呼応。
 もしこの4つのバンパーヴァリューが10点、20点となれば、繰り返し放り込んで荒稼ぎの快感が楽しめる。
 このゲームで最も点数が稼げるのはバンパーであり、先ずはバンパーをドカスカ暴れさせるボールの打ち方を、プレイヤーが各々開拓せねばならない。

【左右ブルズアイターゲット】――――――基本、ワンショットヒットで5点/芯に命中は50点。リット時は50点/芯に命中200点。フラッシュ時になると芯に命中400点。
 ヒットやレーンスイッチでサイクル点灯する200点リットのヴァリューは高いが、実はクリティカルヒットが難しい。良い点数稼ぎとは言い難い。

【星形ロールオーバーボタン】――――――基本1点。点灯時10点。リットはトップレーンと呼応。
 主なものとしてフィールド下部中央にまとめて4つあるので、通常は厄介な、スリングショットで暴れだす球の挙動も、そこそこ稼げるほどこし。他にも通路として成り立つ箇所にさりげなく設えてある。
 ところで通常のボタンと違い、ボールの軌道を変えないことで重宝された星形ボタンが登場したのは'50年代ではなく、'70年代初頭のゴットリーブ台から。尚、同時期のバリーは白ボタン、ウィリアムスは透明赤ボタンを採用している。

【赤青4本トップレーン】――――――点灯時10点。消灯時1点。フラッシュ時20点。
 バンパーと共に重要な機構。色に呼応してバンパー及び☆ボタンがリットするので、プランジ時もリエントリも、最優先で狙うべし。
 全4本完成+キックアウトホールで次のフェーズに移り、全箇所フラッシュ。ヴァリューは呼応バンパー/ボタンもろとも20点。更に全完成で次フェーズがあるのかは未確認。

【スキルショット・トップレーン】――――――各ボールプランジャー打ち出し時のみ200点。リエントリープランジャーショットも含む。オービットリエントリーは含まず。通常5点。
 このスキルショットは成功率が低いので割に合わない。赤青4本トップレーンを狙った方がタメになる。但し成功すると4本トップレーンのうち1本リットのご褒美も有り。

【キックアウトホール】――――――通常5点/リット時200点+リットバンパー自動ポッピング。フラッシュ時は400点!
 “イエーア、アウッアウッ!”と掛け声演出と共に点数が雪崩れ込む稼ぎ場所。狙い打ちは難しいが、200点と10点バンパーが掛かった時、トップレーン再リットが掛かった時、そして400点+20点バンパーに高騰した時のカウントは熱すぎる!

【リエントリーレーン】――――――トップレーンに再度突入出来る重要コース。
 まるでけものみちの様で分かりにくいが右オービット・リエントリーレーンと言えるコースが存在する。道中☆ボタン有り。
 左フリッパーからは、キックアウトホールか、このリエントリコースを狙うのがセオリーだ。

【パッシヴバンパー】――――――弾く力のないバンパー。ワンヒット5点。4本トップレーンとスキルショットトップレーンの間にある。
 一見高い点数だが、意図的に感知が甘く、ボールがしっかり触れないとスコアが入らない。
 なぜわざわざ弾かないバンパーが存在するのかと言うと、かつて戦前から戦後にかけ、ピンボールの球をバンパーで弾くことを禁止する自治体があったから。

【その他】
 アウトホールボーナスは無し。エキストラボールは無し。それはともかく'50s'60sの機種には必ず有るスペシャルが全く無いのは納得がいかない。
 点数表示はバックグラスの4桁リールドラムだが、実はエプロン左側部分のヘリに、とても小さな液晶モノクロディスプレイがある。コレのお陰で4人までの複数人数プレイも、ハイスコアネーム入力も可能だ。
 デフォルトリプレイ3,000点だが、上級者の平均点が1200点ぐらいなので非情なほどの難関である。



 結局、コレは面白いのか、つまらないのか。好きなのか、嫌いなのかを、筆者が問われたら。
 『もう1回、もう1回だ!ふざけんなこの野郎!!』
 と地団太や歯軋りさせながらも延々プレイを続ける、幼きゲーム少年の如き様相を、今もなお呈してしまっている。

 ホールディングやトラッピングの技を駆使しようとするも、定例的ピンボールの常識やフリッパーテクニックは通じない。
 でも2018年という比較的新機種なので、ショートフリッパーはキレキレに元気で、ポストラバーはバウンス豊かに弾む弾む。
 ショートフリッパーによる狙い打ちは難航するが、不可能という訳ではなし。点数の高低は、一見運任せのようで、ちゃんと腕前次第で叩き出せるのに、結局は大方運に振り回される。イラだつと余計惨敗に沈む。

 もう滅茶苦茶に理不尽で、腸が煮えかえる程に難しい機種なのだが、ほんの一瞬、努力と腕前が報われる時がやって来る。
 殊に、キックアウトホールでの大清算カタルシスは特筆。自動で打ち上げられるバンパーソレノイド。法悦の掛け声と共にリールドラムがスルスルと回るその最高額は480点。更にボールはバンパー地帯のど真ん中にキックアウトされる。ヒャッハー!
 ―――と欣喜雀躍もつかの間、次の瞬間対応する間もなくあっという間にセンタードレイン!なんてこともざら。あざ笑うかのような皮肉屋レス・クレイプールのヴォイスが体中の細胞に染みる……

 確かに、これぞピンボールである。ロールプレイングゲームみたいに1時間かけてステイタスを進めて最終ウィザードに臨んだり、アカウントログインして自分の保持したレベルから始めるような近年のピンボールとは趣を異にしていながら、紛れもなくこれはピンボールだ。邪道じゃない。正統派だ。

 上級者ほど、マニアほど、屈服するかのように認めざるを得ない、忘れたかったピンボール本来の非情さを突き付けるような超怪作。
 傑作呼ばわりなんて冗談じゃない。カルト扱いもしたくない。でもあまりにも偏屈であまりにも異常な魅力を放つピンボールとしてロケーションで異彩を放っている。


 ゲームデザイナーはデニス・ノードマン。ウィリアムスの「ホワイトウォーター('93)」やエルヴァイラ三部作が有名で、最近では「ギャラクティック・タンク・フォース」をアメリカンピンボール社で発表している。
 美術はグレッグ・フレーレス。この方もフリーランスのピンボールアーティストの重鎮で、デニスとも永年コンビを組み続けている。

 この2人が、殆ど失業中の状態の時に立案したのが、後の「プライマス」と全く同じホワイトウッドプレイフィールドの「ウォー・ネリー!ビッグ・ジューシー・メロンズ(2015)」だった。

 このジューシーメロンの完成品がスターンに持ち込まれてファクトリー量産されることになり、更にそれを原基として作られたのがプライマスである。

 まずは「ウォー・ネリー!ビッグ・ジューシー・メロンズ」の発起と経緯から紐解いていきたい。


 2007年。アメリカで永年続くクイズ,ゲーム番組「ウィール・オブ・フォーチュン」のピンボールをスターン社で完成させたデニスノードマンだったが、翌年(散々高禄を食んだ本丸ウォール街の銀行連中は逃げ切って中流以下の大勢の人達が大きな代償を払ったと言われる)リーマンショックが勃発
 このアメリカ経済急転のあおりを受け、スターン社は多くのデザイナーも、エンジニアも、スタッフも工員も解雇した。その中にはパット・ローラー、スティーヴ・リッチーと言った名匠達の名も含まれている。そしてデニスも。

 「ビッグバックハンタープロ」「トランスフォーマー」のプレイフィールドのモックアップ(紙製模型)をこしらえていたはずのデニスにもレイオフが通知され、彼は否応なしにスターンピンボール社から解雇された。
 尚ビッグバックハンターはデニスのアイディアの片鱗は残しつつもジョン・ボーグが完成させ、トランスフォーマーに至ってはジョージ・ゴメスが自らの手で全て設計し直し、全く異なるデザインで商品化されている。

 '80年代、'90年代に続いて2000年代にまたもや業界からクビを切られたデニスはその反動と愛憎でピンボールからは距離を取り、その後しばらくはドールハウス模型制作といった意外な仕事をこなして糊口を凌いだ。

 しかしそこは名デザイナー。ファンは彼を放っておかない。

 2009年にシアトルのピンボールショーでデニスは講演の依頼を受け、大勢のプレイヤー達から多大な声援を受ける。またその会場で久し振りに旧友グレッグ・フレーレスと顔を会わせることになった。
 1996年にはデニスが、1999年にはグレッグがウィリアムスを解雇されて以来、名コンビであるはずの2人は殆ど会っていなかったそうだ。

 グレッグは丁度その頃合い、倒産したミッドウェイ社から放り出された直後で失業状態にあった。
 プライズ機のアートワークやビールラベルのデザインなどフリーの仕事はすぐに来るのだが、身を引いていたはずのピンボール業界やプレイヤーからはこんなに応援され、ショーに足を踏み入れれば下にも置かぬ歓待ぶり。何かやらなければ……。

 そこへ、“久々に2人で何かピンボール作らないか”と、同じような気持ちを抱いていたデニスが声を掛けたのだった。

 しかし景気が最悪の時期。大掛かりなファクトリー生産前提ではなく、カスタムピンボールで自分らのエンジンを掛けようじゃないか……と言う結論に至る。この小さなプロダクションのユニット名はウィズバン社とした。

 俎上に上ったのは、ゴットリーブ'57年製「コンチネンタル・カフェ」

 これが選ばれた理由は特にない。たまたま、そこに、デニスが何年か前に衝動的に買った同機種があったから。しかもバックグラスが割れているウッドレールのジャンク台でコンディションは最悪。

 他にもたくさんアイディアがあったものの、戦前・戦後に汎用されていた果物の木箱(フルーツクレート)をアートのテーマにしよう!という方向性が決まる。
 '50年代ピンナップ風女の子で!ジューシーなデカメロンの巨乳で!……などなど、グレッグの創作意欲にも火が点き、意気投合。ここでジューシーメロンというタイトルが決まり、制作がスタートした。
 果汁たっぷりのメロンを巨乳美女が胸元に持つ……って俺たちは12歳男児かよ!と自分らに突っ込み入れながら大いに盛り上がったそうな。

 この時点ではスターンの工場で量産するような目途も無ければ前提もない。最終的にコンチネンタルカフェが4台手に入ったので、採算度外視の、たった4台だけの限定カスタマイズで行くことになった。

 さてここで心苦しいのは、この'57年製造のゴットリーブの貴重なピンボールマシン「コンチネンタルカフェ」。もう4台だけしか取引がない稀少なヴィンテージ機種が、カスタマイズの名の元に潰されてしまう―――ということ。

 しかしあちらのピンボールマシンコレクター界隈ではそれ程騒ぐような事態では無かった。同機種は凡作扱いで、これと言って秀でている美点は無い。

 同機種を'57年当時にデザインした故ウェイン・ナイアンズは《Pinball Magazine Vol.5》でこうコメントしている。

 『コンチネンタルカフェかい?あれには特筆出来る点はなにも無いな。傑作ではないし、これといった新機構もない。ロトターゲットも付いてないしな。ガッブルホールが3つもあるんだけど、真ん中だけポストで囲まれて全然入んないんだ。なぜかって?設計で楽したかっただけだよ(笑)。えっ?バックグラスにエルヴィス・プレスリーが描かれてるって?いやいや、あれは違うよ。』

 尚ガッブルホールとは、入ると1球ボールロストと引き換えに積み立てボーナスなどが貰えるホール。アウトホールボーナスが無かった頃は結構な稼ぎどころで、よくスペシャルのライトもあった。しかしソレが無意味に3つも中央に設けられていた。

 コンチネンタルカフェは、作った当人ナイアンズまでもが凡作と見なしていたのだった。


 こうして4台のコンチネンタルカフェは全てジューシーメロンに生まれ変わることになったが、当初はスロースターティング。

 2009年のエキスポで、初期段階のジュシーメロンを果物木箱に乗っけてエキスポ出展したところ、皆に“なんじゃコリャ?”という反応をされたそうだ。まぁ無理もないか。
 当時ご健在だったスティーヴ・コーデック師匠も、一目見て“!?!?……訳分からん。何しとんじゃお前らは”と呆れられたそうだ。

 しかし激賞してくれるプレイヤーも多く、デニス達のモチベーションは大いにあがった。

 その後メカニカルエンジニアとして「インディ500」「スケアードスティッフ」でもデニス達と一緒に仕事をしたマーク・ウェイナがグレッグからの電話1本で合流を決定。
 次に、シカゴの凄腕エレメカ業者《TeamEM》のケン・ウォーカーが4台のコンチネンタルカフェを全て稼働品としてばっちりレストアした。

 更に頼もしい助っ人としてケン・ウォーカーの友人ケリー・イミングが参画。
 彼は『古式エレメカをソリッドステイトに変換する』という好事家向けの事業を始めており、試しにグレッグの持っていた「ソーラー・シティー('77)」を預けたところ、本当にキレキレのソリステ稼働筐体にして返して来やがったぜ!?………うむ、ケリーならいける!

 プロジェクトに加わったケリーは2人プレイだったスコアリールドラムを1人用に除去及び配線し直し、モジュラー・ハードウェア・システムを構築してエレメカからソリッドステイトへ生まれ変わらせた。サウンドボードもデザインし、グレッグが選んだBGMもご機嫌。
 いよいよこのピンボールがゲームとして活き活きと呼吸をし始めた。

 フィールド中央に3つもあるガッブルホールはいくらなんでも厳しいから排斥。代わりにキックアウトホールとブルズアイターゲットを配置しよう。昔からの馴染みの材木店から材料を仕入れてきたデニスがホワイトウッドをカッティングし始めた。

 因みにこの時デニス達の手元に無かったCNCルーターは、何とパット・ローラーから拝借した。
 ルーターが無いんだけど使わせてくれない?とパットに連絡を入れたところ、“一式ここにあるから好きに使いなよ”と快諾してくれたのだそう。
 因みにこの時のそのパットの工房は、その後ジャージージャック処女作「オズの魔法使」の開発ラボ[ジャージージャック・ミッドウェストキャンパス]となっている。

 そして2011年。足掛け3年費やして完成直前となったが、儲けるよりも失敗して大金を失わないことを優先し、ウィズバン社としての製造数はたったの4台。このプロジェクトを拡大してビジネスモデルにすることに対してはずっと慎重だった。

 しかし完成したプロトタイプ4台は十分現代的で洗練されている。これならファクトリーに乗せられるのでは……!?

 デニス達は先ず、話の分かるJグァルニエリ社長率いるジャージージャック社に話を持って行ったが、ゴージャス思考の同社の方向性と合致せず、話はまとまらなかった。

 次に、デニスとの過去の遺恨は忘れてスターン社の所に話を持っていった。グレッグは当時フリーランスとしてスティーヴ・リッチー開発チームのスタッフ陣の一人としてスターンに出入りしている。
 話はまずまずの反応で受け入れられ、“市場調査では100台ほどの購入が見込まれる”とデザイン部長ジョージ・ゴメスの賛意もあり、かようにニッチなピンボール企画の商品化が徐々に進み始めた。
 毎週ミーティングを開き、ウィズバン社の部品票をスターン社の部品票に細かく変換し、双方得心のゆく、5278$という価格設定にも折り合いが付く。

 非常にニッチで偏狂な機種ということでスターン社プロジェクトの優先順位は低かったが、2015年。漸く量産と発売がかなったのだった。
 物好きな異色ピンボール「ウォー・ネリー!ビッグ・ジューシー・メロンズ」商品化というこの快挙。よくぞここまでこじつけられたものである。

 さて筆者の評価はともかく、本場プレイヤーの評価はどうなのか。

 “本当の意味で、マニアと初心者が平等に打てる台”
 “プレイフィールドは'50年代風だが、ルールは'60年代のそれに則っている。現代ピンボールに疲れ気味の人にとっては癒される”
 “クラシックなエレクトロメカニカルの持ち味が健在で、それでいて洗練された現代的な音楽とアートが融合している”
 “ スコアがインフレしている現代において、2500点でハイレベルスコアというのは興味深い”
 “運任せのようで、結局は実力勝負のゲーム”


 ―――等々、随分と高い評価を得ている、というか、これを腐すことは'50s'60sからのピンボールの歩みを否定することになるので、ピンボールマニアにとっては屈辱的ながら、断腸の思いで受け入れざるを得ない……と言ったところではないだろうか。

 その後同機種はスローバック機種(先祖返り)の先例として、スプーキー2017年製「トータル・ニュークリアー・アッナイレーション」、スターン2018年製「ザ・ビートルズ」、スターン2022年製「ジェームズボンド60th」、シカゴゲーミング2023年製「パルプ・フィクション」……と言った秀作を誘発させていった……と言っても過言ではなかろう。


 さて、この椿事の如き怪作ジューシーメロン。せっかくの特製プラットフォームなのだから、スターンでもう1作か2作、好事家向けにプレイフィールドを流用したリテーマ商品を作ろうということになった。
 それを「プライマス」にしよう!と言い出したのは、同社専属ピンボールアーティスト ゾンビ・イエテイこと、ジェレミー・パッカー

 そう、あのプライマスのバックグラスとプレイフィールドの、見入ると吸い込まれるような毒々しいアートワークを手掛けたのはスターンピンボール製「デッドプール」「ゴジラ」でも健筆を揮うジェレミー・パッカーと、プライマスのジャケット/ポスターアーティストのゾルトロン/Zoltron

 元々ジェレミーは10代の頃からプライマスを聴いており、過去にゾルトロンから、まさかの依頼で憧れのプライマスライヴポスターデザインの仕事をオファーされ、二つ返事で引き受けたことがある。
 ジョン・ポパデュークのジッドウェア社と付き合いがあった頃にも同社にプライマスのピンボール企画を推挙した……なんてこともあったそうだ。

 プライマスのマネージメントのジェイソン氏、ゾルトロン、スターン側のライセンスプロデューサー ジョディー・ダンクバーグらとも話がまとまり、いよいよプライマスのフロントマン レス・クレイプールも招聘される。

 レス・クレイプールと言えば、セガピンボール時代の「サウスパーク('99)」同氏の手掛けたアニメソング使用を許可したお礼として、ゲイリー達は新品のサウスパークをクレイプールに贈呈している。
 ゾルトロンはクレイプール宅に遊びに行った際、そのサウスパークピンボールに一晩中、お酒を片手に夢中になっていたそうだ。

 ジェレミーはスターン側、ゾルトロンはプライマス側の交渉役として、それぞれ企画を進めていく。
 この時のプライマスはツアー中で疲労と多忙を極めていたはずなのだが、各メンバーは皆気さくで、電話口ながら真摯に対応してくれている。

 アートワークの主なテーマは何がいい?とゾルトロンがクレイプールに尋ねると、デビューアルバム「フリズル・フライ」を推輓。その世界観を元に、夢想空間に入り込んだような情景“Wellcom to This World”と題したラフスケッチを描いてメンバーに見せたところ、お墨付きのOKを貰えた。
 完成品の妙なる圧倒的妖しさと重厚さは、改めて言うまでもないだろう。

 フィーチュアされたトラックは13曲+α。さらにレス・クレイプールによる皮肉が効いた独特のヴォイスアクトも100トラックほど収録。

 限定100台製造の7,995$。バンド関係者イディションが別にもう8台有り。
 スターンの公式商品ではなく、プライマスストアのオリジナルブランドとして販売。
 レス・クレイプール、ティム・アレキサンダー、ラリー・ラロンデの現行メンバー3人がマシンにそれぞれサインしてくれている。
 実は音響もかなり良いのだが、アップグレードされたKenwoodサウンドシステムがさりげなく装備されている。
 当時全く情報が漏れていなかったので、ピンボールファンもプライマスリスナーも虚を突くようなサプライズ商品となった。

 そんなプライマスのピンボール、実はアメリカ以外のロケーションで設置されているのは日本に1台だけで、世界では2台だけなのだそうだ。因みにあと1台はノルウェーの《バーゲン・ピンボール・クラブ》。
 本場アメリカでもロケーション設置は10数か所程度で、売買される際にコンディションの良いものだと1万$の値が付けられて取引されている。新品並みの値段だ。


 ところで、プライマスには姉妹品がある。同社2016年製「パブスト〜カンクラッシャー」で、こちらもジューシーメロンのフィールドを原基としたリテーマ台。
 伝統的なビールブランドであるパブスト・ブルーリボンビールがテーマアートとなっており、こちらはエアロスミスピンボールのアートが印象的だったドニー・ギリースが立案して指揮を執っている。
 スターンの工場製ながらこちらもオリジナルブランド名パブスト・ブリューイング・カンパニーとしての発売。
 音楽はヘヴィメタバンドのレッド・ファング。ジェレミーパッカー組プライマスとのちょっとした競作になっているのが面白い。


 さて、現在大阪心斎橋BigStep内《Silver Ball Planet》に設置されている「プライマス」は、いっとき永らく休眠していた時期もあったものの、手入れもコンディションも最良と言える状態で絶賛稼働中。
 同ロケで開催される大会競技機種によくエントリーされており、マニア泣かせの鬼門台として上級者を苦しませているとか、いないとか。

 “ジューシーメロンの最高得点はデンバーのショーでプレイされたもので、7400点ぐらいだったよ。俺たちはこのゲームを購入した人たちに、このスコアを上回ったら必ず教えてくれるようお願いしているんだ”
 と当初グレッグは語っているが、SBPプライマスでの筆者の最高スコアは大分前に出した五千点台。
 一方、ピンサイドコムの記録によると同機種の3ボール制ハイスコアは6,496点。5ボール設定だと、何と信じられないことに18,870点だそうな。

 目指せ、3ボール1万点。Frizzle Fry Acid Trip!



▲左ブルズアイターゲット。同心円状の構造で、芯にヒットしないとリット200点スコアは得られない。 ▲プランジャーアクセサリーにインパクトはあるが、実はそのせいで打ちにくい。プランジャースキルが重要な台なのだが。 ▲スキルショットトップレーン。何度狙っても全然入らなくてイライラ。
▲左アウト/リターンレーン。アウトレーンは丁度良い落ち易さだとは思うが、この台はセンターの方が厄介 ▲プレイフィールド全景。確かにこれはピンボールだ。 ▲最後は右アウト/リターンレーンのアップで。ご清読ありがとうございました。

(2024年6月2日)