Stern Pinball/2020ストレンジャー・シングス(プレミアム版) | ||
原題 | Netflix Stranger Things(Premium) | |
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製作年度 | 2020年 | |
ブランド名 | スターン・ピンボール | |
メーカー | スターン・ピンボール・インコーポレイテッド | |
スタッフ | デザイン:ブライアン・エディー/ソフトウェア:ロニー.D.ロップ、マイク・ヴィニコー、ブライアン・エディー/美術:ボブ・ステヴリック/音楽:ケン・ヘール/ヴォイススピーチ:デヴィッド・ハーバー(署長役俳優)/モーショングラフィック:チャック・アーンスト/リードエンジニア:ロバート・ブレイクマン | |
標準リプレイ点数 | ― | |
備考 | ― |
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【1st.インプレッション&雑感】 スターンピンボール製「ストレンジャー・シングス〜未知の世界」への評価が微妙だ。 閉鎖が迫るウィリアムスで「アタックフロムマーズ('95)」「メディーヴァルマッドネス('97)」なる快作で同社の掉尾を飾った伝説のピンボールデザイナー ブライアン・エディーが、20年余のブランクを経てスターン社と専属契約。 満を持して発表となった彼によるスターン第1作目が本機種なのだが、プレイヤー評価は良くも悪くもない…… と言うより、特殊なハードを搭載したその技術面には瞠目するが、ゲーム性の進化や将来的活路には値しない―――という真贋が、十指の指す結論へと落ち着いたようだ。 本機種の最たる白眉は、プレイフィールドに映写されるプロジェクションマッピング機能の搭載である。 開閉などのメカアクションのあるプレイフィールド上のスクリーンに、ドラマ本編やCG映像が戦況に応じて映し出される。 スクリーンのみならず、立体物であるランプレーン登坂部分やドロップターゲット、小さなスタンダップや左端スピナーに至るまで緻密且つ複雑に照射。豊富に図柄が変容し、流動する。 この製品を目の当たりにして実地でプレイした時、その技術の高さに驚愕したが、それと同時にピンボールが生来に求められる物理的ボールアクションやメカニクス機動の魅力が殺がれてしまったことを即日で思い知らされた。 室内照明の輝度を落とさねばならない上、盤面上の大掛かりな映写スクリーンはフィールドの景観を遮蔽する。 それらのもどかしさを挽回出来ているかどうかが巧拙の争点だ。 ここで思い出されるのがウィリアムス晩年の失態[PINBALL2000]。 自縄自縛のマネージメントにより市場が煮詰まった挙句の果てに、真っ暗にしたフィールドに映像を写し込む、似た手法のシステム開発に勇み足を踏んだ結果、ピンボールともビデオゲームともつかぬ邯鄲を歩む異形筐体を生んでしまい、セールスが伸び悩んだ末の部門解体……という末路を辿っている。 ゲーム性は、同デザイナーによる「アタックフロムマーズ」のセルフオマージュのよう。 左/右ランプ及び左/右ループシュート完遂でそれぞれイベント開始、中央巨大ギミック撃破でヴァリュー進捗とイベント開始の他、ボールロック3回でマルチボール開始。 ボールロックはプレイフィールド正面突き当りバックパネル表面に永久磁石で垂直ボールロック。マルチ開始時には3個結合した状態からリリースする凝った催しも。 他機種で盛んに用いられている電磁石は熱を帯びる欠点があり、モーター稼働で裏面の永久磁石を引き離してマルチリリース……というマグナマルチボールの新手法を取っている。 Bエディーの十八番である、全メジャーショットへ均等に、理路整然と整えたフィーチャーは今作でも楽しめるが、このスタイルは2000年代〜2010年代前半に亘り他のデザイナー達によって汎用と応用で研磨が重ねられており、現行では単純過ぎて、通には物足りない。 加えるに、ここまで同じゲーム内容ならアタックフロムマーズの方が面白いという事実に、プレイ中にふと気づいた瞬間は衝撃を受けた。 こうなるとストレンジャーシングスの存在意義が問われる。 ライセンス元が有料配信テレビドラマの場合、ネームヴァリューの浸透はどうしても個人差が出る。 物語や子役に興味が無いので、未だ'80年代から容色衰えぬ蠱惑の女優ウィノナ・ライダーにしか感興が湧かない。 そう言えば彼女、ピンボールメインキャストとしては「ブラムストーカーズドラキュラ('93)」以来の御登板だ。 もうひとつ気になったのは、ピンボールにそぐわぬ陰々滅々とした進行。 物語の年代である'80年代のロックやポップスを盛んに流し、尚且つドラマの持つユーモラス性の側面を強調、能天気で荒々しいヴォイスとサウンドで溢れさせる選択もあったはずだが、ゲーム進行は終始しんねりむっつりとした空気感に包まれている。 これはBエディーが番組本編であるSFホラードラマの雰囲気を重視した……と言うより、マーズやメディーヴァルの頃から指摘されていた、メリハリ無く空気の緩い彼特有の演出センスに依拠したものだろう。 オマケにプロジェクター映写の邪魔にならないようライトショウを抑えた結果、21世紀ピンボールの強みであるはずのLEDまばゆい絢爛の華やかさが喪失。これも寂しい。 尚、プレイフィールド及びそのボールフローはとても単純でスムース。 ボールリターンが親切過ぎるあまり、上級者にとっては御し易い。正直、ボール軌道を掌握したら落ちにくくなって冗長である。 筆者は入荷から半年控えてから打ち始めたが、それでもあっけなく2巡目に入り、最終ウィザードのコードがまだリリースされていないことを悟って早々と興味が薄れてしまった。 初心者には好適かどうかも結論は出にくい。 非ピンボーラーなストレンジャーシングスファンの感想を聞く機会も乏しく、日本語圏のサイトで感想を探しても、上がってくるのは実地に赴いた形跡なく何処も彼処もスターン公式ツイートや動画を貼り付けて同じソースから訳しただけのもの。 子供のお遣い程度の筆力しかない無能な記事にしか日が当たっておらず、何とももどかしい。 ただ、『あっストレンジャーシングスだ!』と感嘆の声を上げてコイン投入する一般プレイヤーも時折見かけるし、他のライセンス作には無い求心力は少なからずあると思われる。 スターン側は今回の発売戦略をどう采配したのか。 メーカー希望価格はというと、 プロジェクターとテレキネシスマルチの仕掛けを省いたPro版―――――6,099$ 目玉の各機能を備えたプレミアム版 ̄――――7,699$ 更にデコラティヴコーティングが豪奢な500台限定のリミテッド版―――――9,099$ UVアートが浮かび上がる別売りブラックライト機能キットのオプション有り。 特殊な機種の割に、3バージョンとも同社他機種と値段は変わらない。 高価に設定した為に従来のプレイヤーに倦厭される事態を避けたかったようだ。 2020年1月、同機種初披露となるイギリスはロンドン東部ドックランズ開催のゲームエキスポでスターンは、照明まばゆい会場展示を避け、灯りを落とした別室セッティングによる特別展示という形を取った。 勘の鋭いプレイヤー達は“これは通常の照明にプロジェクター映写が耐えられない証左ではないか”とこの時点で早くも疑念を抱いている。 そこを逆手にとって、ブラックライトアートオプションを既に案じていたのはさすがであるが。 とどのつまり結局、セールスは芳しくなかったようだ。 2020年11月に入ってから、スターンは窮余の一策なのかリミテッド版に主演の子役たちのサイン入りポストカード封入特典を追加した。 しかし正直言って子役の肖像やサインはピンボール購買層へのアピールは乏しいと思う。世代的にはウィノナ・ライダーの方が喜ばれたのではないか。 プロジェクター搭載機種にはピンボールの活路と未来性があると公言していたスターンだが、現在のところ新作で同システムを再起用する目途は立っていない。 筆者の評価は5点満点で3。 ピンボール市場が豊かな時節でも、ピンボールの本分を映像が侵すヴェクトルは[PINBALL2000]やゴットリーブ製「ケーヴマン('82)」,バリー製「ベイビーパックマン('82)」等々史実で繰り返しているように、決して実を結ばないことを世に示す習作になったと考えたい。 但し基本的ゲーム性はきちんと面白いのがかなり救いとなっている。 日本では有り難いことに、大阪心斎橋ビッグステップ内《SilverBallPlanet》でプレミアム版が設置。世界初のプロジェクションマッピング機能搭載ピンボールが僅か100円で体験出来る希少なロケーションである。 映写がずれたり照明を加減したり等、スタッフさんは入荷時のセットアップでは苦労なさったそうだ。 ところでブライアン・エディーはウィリアムスで「メディーヴァルマッドネス」を発表した後、どうしていたのか。 11歳でコモドールVIC-20を使いこなしてプログラマーを志したブライアンは21の時にウィリアムスに入社。 26歳の若さでWMSバリー製「ザ・シャドー('94)」のデザインチーフに抜擢。 メディーヴァルを最後に同系列ミッドウェイ社に移った後はビデオゲーム開発に肝胆を砕き、己の失策を棚に上げてピンボールスタッフを全員解雇した薄情な同社にも怨嗟を見せず、辣腕プログラマーとしてWMS社に献身した。 しかしミッドウェイのアーケード撤退に伴い、Xbox、プレイステーション等コンシューマーゲーム開発に活動の場を移している。 「サイオプス サイキック・オペレーション(2005)」「ストラングルホールド(2007)」は彼が開発チーフのゲームソフトである。 その後ジョー・カミンコウの会社スプーキークール社(現スプーキーピンボール社とは無関係)が当時の大手ズィンガ社に買収されるまでの数年間ソーシャルゲームを開発していたが、ピンボールという古里に戻れる機運を感じたブライアンは2018年、ピンボールデザイナーとしてスターン社と専属契約を果たした。 ブライアンによると、 “ウィリアムスはもう無いけれど、スターンピンボールはまるで故郷のようなところだよ。皆が優秀で、皆が家族であるかのように仕事がこなせているんだ” ……と公言。古巣の心地よさを毎日噛みしめている模様。 (2021/3/6) |
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