各名門ブランド ピンボール・リスト

Jersey Jack Pinball/2019

夢のチョコレート工場(スターンダード版)

原題Willy Wonka and the Chocolate Factory (Standard Edition)
製作年度2019年
ブランド名ジャージー・ジャック・ピンボール
メーカージャージー・ジャック・ピンボール・インク
スタッフプレイフィールドデザイン:パット・ローラー/ソフトウェア:ジョー・カーツ/LCDアニメーション:ジャン-ポール・デ・ウィン/音楽:ヴィカス・ディオ/美術:ジョン・ユッシー
標準リプレイ点数
備考

― COMMENTS ―
ジャージージャックピンボール社が2019年に発売した、“ウィリー・ウォンカ・アンド・ザ・チョコレート・ファクトリー”。
 御存じ、2005年当時大評判となったティム・バートン監督作「チャーリーとチョコレート工場」のピンボール化!

 ……ではなく、1971年に発表されたものの、観客からも原作者からも評判が芳しくなく、日本では未公開に終わった「夢のチョコレート工場」の方の版権ピンボール作

 なぜ「ホビット」「パイレーツオブカリビアン」のピンボール版権取得の実績があるはずジャージージャックが、ティムバートン版ではなく、よりによって旧作の方を?

 ……と小首を傾げてしまうが、そこはジャージージャック社長の柔軟な機転に理由がある。

 「オズの魔法使」ピンボール製作が本決まりとなった時点で懇意となったワーナー映画社に、

 “オズと同レベルの、著名でありながら概要がパブリックドメインとなっているような映画といったら他に何があるかな?”

 と、プレジデントのジャック・グァルニエリが問うたところ、
 “あるとしたら、旧チョコレート工場だ”
 との助言をワーナーから得られた。
 またグァルニエリ自身も、幼少期から繰り返しテレビ放映される同作を普段から身近にを感じている。

 それで今回の製品化プランが始まったのだった。

 ジャージージャック社は早速存命のメインキャスト3人、チャーリー役のピーター・オストラム、ベルーカ役のジュリー・ドーン・コール、マイク・ティービー役のパリス・テーメンら出演者達に連絡を取った。
 更新されていない肖像権だったが、改めて使用の認可を貰い、マシン完成披露イベント登壇の内約を押さえた。


 一方、ジャージージャック社内でライセンス購入見切り発車のまま「トイストーリー」ピンボールの設計に勤しんでいたパット・ローラーに急遽、
 “そのプレイフィールドとゲームアイディア、ルールセットをチョコレート工場用にあてがって欲しい”
 ……と急な舵取りの変更が下達された。


 『商品化及び製造,発売できる期間契約の順列はチョコレート工場が先で、トイストーリーが後』
 ……と言う事態に迫られたのだ。


 “オリジナルピンボール機種の「ダイヤルディン」の制作は気楽だった。作る側の自分たちで全てを決められる。自由に作られる。”

 “しかしライセンス機種の場合、契約書に[許諾者の判断によりいつでも製品化を中止できる]と書かれている。もしそれが起こったら本当に計画が頓挫してしまう。例え発売の2週間前であろうと。ライセンサーがダメだと言ったら全てがご破算となる。版権機種にはそういった危険が常につきまとう。”


 そう制約下の苦労を講演で語るパットローラーは、ウィリアムスでもスターンでもライセンシング政策に振り回された苦い経験がある。今回の不測の事態は決して心穏やかでは無かったはず。

 しかしグァルニエリはパットローラーを説得。ローラー側も自分の作家性や世界観との相性が親和しており、決して悪くないテーマと素材であることを受け入れ、急ハンドルを切る今回のプロジェクトを承諾した。

 元々骨子がある程度出来上がっていたマシンだけあって、僅か1年弱で製品が完成。
 2年はかかる現代ピンボールの商品化としてはかなりのスピード制作となった。


 そんな紆余曲折を経て出来上がった「夢のチョコレート工場」ピンボールだが、筆者の判定は、5段階評価で2……いや、判定不能としたい。

 なんとボールを打ち返すフリッパーの打力が弱過ぎて、正常に遊べない

 本場や海外でも“ゲーム内容は素晴らしいが、フリッパーが弱い。もっとタフにしてあればより楽しめたのではないか”という評価が下されている。
 “PinballNews”のジョナサン・ジューステンも、ゲームは悪くないがフリッパーが弱い、との感想を述べている。

 この指摘に対しジャックグァルニエリは、
 “フリッパーの打力が弱いのは意図的で、ボールフローもショットラインも流麗で素晴らしく、無理なレーンショットが無い。強くする必要が無いからそう設定した”
 と答えている。

 しかしこの抑えめの打力設定は低電圧の日本国内稼働では致命的。
 必要最低限の閾値を下回り、明らかにゲーム進行に支障が出ている


 加えるに、フリッパーのみならずプランジャーレーンからのオートシューターも脆弱で、マルチボール打ち出しも滞って“団子状態”になることもしょっちゅうだ。
 偶にトラフからシューターレーンに乗っける所業さえ苦戦している。届かないバナナの実に必死に飛びつく猿のよう。これは困った。

 よって、国内稼働でやり込む価値は乏しいと判断。フィーチャー解析も断念した。


 それでも刮目すべき箇所はいくつか。

 塩コショウを振る調味料器具の蓋のようにクル〜ッと現れるロックホールや、意表をついてサイドフリッパーへボールを分配するランプレーン構成、そのサイドフリッパーからサイドループショットが決まった時の軽快なスピナー回転サウンドなどは楽しい。

 予め5人のキッズをコレクトしておけばしておくほど、マルチの個数やジャックポットヴァリューも高まる[キッズマルチボール]は、ウィリアムス往年の名機「メディーヴァルマッドネス」を彷彿。
 “オーガスタス!バイオレット!ベルーカ!マイク!チャーリー!!キッズマルチボール!!!”と全員勢揃いでヴァリュー最高値になった挙句、あらかじめリーチ状態にしておいた[ゴッブストッパー]マルチボールが併発した日には気分も最高潮!

 この見る者の心をパーッと明るくさせる5人の子供たちの灼々たる表情がとても可愛らしいのだが、この肖像は写真ではない。全てジョン・ユッシーが写実的に描き下ろしている。

 これほどゲーム性は楽しいのに、フリッパーとプランジャーシューターが悄気ているのが本当に残念だ。

 何より、グラマラス美女やハードロック、酒や車、グロテスクホラーのテーマ性が主流のピンボール界隈において、お菓子がテーマのマシンはかなり貴重なのではないか。

 ケーキがバックグラスに描かれているバースデーパーティーをテーマとした「バッグスバニーズバースデーボール」の様なマシンは過去にもあったが、スイーツのピンボールなんて、永い永いピンボール史の中、殆ど初めてである。

 返す返す、この魅力的な失敗作におけるフリッパー打力不足の失当は口惜しい。


 さて、「夢のチョコレート工場」商品、及び発表時の梗概も記しておきたい。

 執り行われた完成披露の中で最も主立ったイベントが、2019年6月にマサチューセッツ州スターブリッジで開催された《ピンタスティックショー》。

 「夢のチョコレート工場」存命子役3人であるチャーリー役ピーター・オストラム、ベルーカ役ジュリー・ドーン・コール、マイク・ティービー役パリス・テーメンが登壇。

 ウィリーウォンカグッズに彼らのサインを入れてもらうと25$、セルフィー1枚は10$……という、なかなかのちゃかり料金でファンサービス。

 また300個限定でウィリーウォンカ特製チョコレートバーを販売。うち30個には商品引き換えのスペシャルチケット封入!という映画さながらのお楽しみつき。ピンボール工場見学は出来ないけどね。


 また10月にはコレクターズイディションの生産も開始。このバージョンにはベロニカソルトことジュリー・ドーン・コールのヴォイススピーチを特別インストール。

 またミラーバックグラス、トッパー、キャビネットアート、プレイフィールドアート、キャビネットボトム間接照明を搭載した他、元子役俳優3人とグァルニエリ、ローラー、そして美術担当ジョン・ユッシーのサイン入りプレートが付属。

 コレクターズイディションの冠は伊達ではない。


 お値段の方もチェック。

・コレクターズ版:12,500$
・リミテッド版:9,500$
・スタンダート版:7,500$

 コレクターズイディションは500台のみの製造。リミテッドは限定を謳いながらも実際は契約上5,000台製造可能だ。

 また同社は今回初めて廉価版であるスタンダードイディションを、ウォンカベータ―実働ロック機能を省いた上で用意している。

 “7500$の他社製品にこれ以上の商品は無いからね。ロケ先で競合する筐体より収益が上がり、信頼性も上がり、数年後には再生産ロットで更に収益が出ることを確信している。”

 “オズの魔法使の頃はホーム仕様前提だったが、徐々にバーケードロケーション前提の購入が増えてきている。マニアや好事家が地下室に置くのではなく、オペレーターが事業として、投資として購入し始めている。目指すはピンボール及びアーケードゲームの復興だ。”

 “大手チェーンからチョコレート工場2桁購入のオファーも頂いている。直営店舗に4,5台置いてみて、セールスがあればもっと買うって言ってくれてるんだよ。”


 ……と、グァルニエリは自信も手ごたえも上々の模様。


 最後に、「夢のチョコレート工場」の世界観の魅力をグァルニエリ社長に尋ねたところ……

 “ウンパルンパ族の歌とダンスとパフォーマンス最高に楽しい。また、良い子は報われて幸せな将来が拓けるけど、悪い子には怖〜いお仕置きが待っている。そんな勧善懲悪が描かれているところかな。”

 “でもチャーリーみたいにチョコレート工場を受け継ぐ、なんて悪夢だよね。配達とか注文とか管理職とか、考えただけで頭が痛くなる。ピンボール工場の経営なんてもっと悪夢だよ!





(2022年10月29日)