各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2020

ジ・アヴェンジャーズ インフィニティー・クエスト(Pro版)

原題The Avengers Infinity Quest(Pro)
製作年度2020年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフフィールドデザイン:キース・エルウィン/ルールデザイン:キース・エルウィン、レイモンド・デーヴィッゾン/ソフトウェア:リック・ネイグル、レイモンド・デーヴィッゾン/美術:ゾンビ・イエテイ/音楽:ケン・ヘイル、ジェリー・トンプソン/メカニカルエンジニア:ハリソン・ドレイク/LCDグラフィック:チャック・アーヌスト
標準リプレイ点数
備考

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【1st.インプレッション&雑感】

 2012年に一度映画版「アベンジャーズ」のピンボールを発売していたスターンピンボール社だが、8年後の2020年に再度同じ題目を冠する「アベンジャーズ〜インフィニティ―クエスト」を発表した。

 同じテーマを再起用するには早過ぎないか……とも思ったが、エルヴァイラスタートレックスターウォーズも大体同じようなサイクル期間を経て再ピンボール,再々ピンボール化されているので、決して出涸らしということでも無いだろう。

 何より、今回はオリジナルコミック版を元にした商品化である。
 デッドプールの時と同様、映画版との繋がりが一切無い為、面倒な俳優肖像権の折衝が不要。

 むしろピンボール業界屈指・多士済々なアーティスト達による自由闊達アート及びストーリーテリングが存分に楽しめるコミックライセンシングに依拠した方が、よっぽど楽しいし、出来もいい。
 映画制作側の干渉をかわしながらも映画の機運に便乗するあざとさも見事だ。

 尚、ホットトイズジャパンのスターンディストリ契約が更新されなかった為、もう国内トイサピエンス店舗での設置は望み薄。
 だが日本での設置ロケーションとして大阪心斎橋《BigStep》[シルバーボールプラネット]が健勝。3バージョンあるうちのPro版が入荷しているのでご安心を。

 今作のデザインチーフは現役スーパープレイヤーの俊傑、キース・エルウィン

 他の熟練デザイナー達ですら諸手を挙げて絶賛する、業界嘱望の新鋭。
 今回も異口同音に“こんなデザインもボールフローも、見たことない!”……と、社内の誰もが後輩且つライバルであるエルウィンへの礼賛を惜しんでいない。


 さて、純然プレイヤーサイドである私の評価は、5段階評価で3点

 相変わらずプレイフィールドデザインは素晴らしい
 従来的メジャーショット編成と言えば、左右対のループとランプ,スクープ,そしてメインのデカキャラ……というのが基本だが、そのセオリーを一作ごとに打ち破れ!!と唱道する、彼らしい、攻めた作りになっている。

 標準キャビネットなのに、まるでワイドキャビネットかと錯覚しそうな伸びやかさ。
 込み入ったレーン構成をも絶妙に繋げて遍く活用したボールフロー。
 聳える[アベンジャーズタワー]からボールがフリーフォールのように急転直下するマグナキャプチャの使い方にも舌を巻く。
 状況が変転するフリーウィーリングディスクとサイドフリッパーの配置も心憎いし、通常フリップでもサイドフリップでも狙える上腕二頭筋のような形状の[ガントレットランプレーン]も大変気持ちがいい。

 ……しかし、ルールセットはどうだろう。
 きめ細やかで枝葉がむやみやたらと多いのだが、重心軸が細過ぎて散漫になってしまっている。
 メインの柱が観念的で、不明瞭なのだ。

 各レーンに役割,持ち場があって、シュートごとに段階が上がって満額になるとイベント開始!及びレベルアップ!!
 ―――という、マーズ・メディーヴァルやオースティンパワーズのような段階進捗⇒モードスタート⇒ミッション完遂コンプ構造があるにはあるのだが、その楽しさ、ヴァリューの高さが伝わって来ない

 一か所徹底して繰り返し集中ショットしただけでリプレイノッカーが鳴るので、かなり大きめのスコアが入ることは何となく分かる。
 しかしアベンジャーズキャラのコレクト、レベルアップ1、レベルアップ2、レベルMAXといった進化がディスプレイで行われていても、説明不足で面白みに欠けてしまっている。
 アイコンが氾濫したLCD画面は逆効果だ。

 最も残念なのは、バトルモードとバトル勝利の宝石集め。行程が煩雑なばかりで、戦いの興奮が乏しい

 力強い格闘ゲーム風LCD演出がドン!と始まって、こちらも一瞬身構えるのだが、なんとプレイヤー側のHPは何秒経ってもゼロにはならない。あの表示は無意味だった!

 例えヴィラン側HPが虫の息でも、プレイヤー側がボールドレインすれもこちら側が一発敗北。つまりせっかくの格ゲー画面はフェイクだ。なにくそ!と奮起できず、無力感が募る。
 宝石確保/喪失、この宝石にはこんな効力があって、そのジェムを誰に持たせるか/取り返すか……等々の宝石ルールも煩わしさが上回ってしまう。

 [トロフィーコレクト]の実感の薄さも同様の轍を踏む。ざくざく集める充足感が無く、やりがいが乏しい。

 24個集めると[トロフィーマニア]なるビッグゲームがあるものの、あまり集めたいと思わせてくれない。
 1個獲るごとにパワーアップやリットなど、明確な利点が生起すればまだ嬉しいのに。

 ……ていうか、“トロフィー”なんかみんな欲しくないよ。わくわくするような謎めいたアイテムの方がいいし、コレクト分はレッドとテッドのロードショー土産購入品みたいにざくざく高額カウント表示するべきだ。

 もどかしさのあまり同社2018年作「デッドプール」の、あの良く出来た明明白白な格ゲースタイルが恋しくなって、毎度お口直しにデップーを打ちに行くくらいだ。

 尚、アベンジャーズ全員集合の度に得られるウィザードが3つあるのだが、こちらは良くも悪くも十人並みのルール編成。
 但しフリッパー回数を制限して静かな緊張感をもたらす1st.ウィザード[ソウルジェム]だけは異彩を放つので、これをファイナルに持ってきた方がカッコ良かったのでは。

 加えるに、この色彩過剰なカラーリングの趣味の悪さは一体!?

 アメリカのグミキャンディーのパッケージ?コロコロコミックの表紙?
 これは明らかに美術班チーフ ゾンビイエティのセンスではなく、キース・エルウィンによるオーダーだろう。
 前作・前々作から多少気になってはいたが、このプレイヤーの気勢を殺ぐアートワークセンスへの指摘は本国でも少なくない模様。

 但し、前述のように基盤となるプレイフィールドデザイン及びボールフローは爽快なので、それらの欠点はかなり挽回している。

 ランプレーン⇒ループレーン⇒サイドランプ⇒サイドフリッパー⇒サイドループ⇒フリッパーリターン……とスムース且つ闊達なボールフロー。
 フェイクボール衝突球クイックマルチ始動フリーウィーリングディスぶん回しでバトルモードリーチアベンジャーズタワー袂から垂直に天端まで駆け上ってボールロック!

 うむ、これだけで十分楽しいのでよしとしよう。キャラクターも全員可愛いし。


 さて、コレクターを悩ます近年のピンボール価格高騰事情。

 スターンピンボール社は今作発売の2020年9月を機に、旧作生産分も含め、再び一律100$の値上げを発表。アベンジャーズIQのメーカー希望価格は以下の通りに。

Pro版――――――6,199$
プレミアム版――――――7,799$
リミテッド版――――――9,199$

 今や6千ドルを切る定価を維持するのは難しいようだ。

 キース・エルウィン自身も、
 “例えチーフデザイナーであってもリミテッド版に限ってはディストリから自腹でわざわざ購入しないと手に入らない”
 と嘆いていた。

 そんなリミテッド版及びプレミアム版には、ウィーリングディスクがガバッと盤面下からせり上がり、ロックホールが現れてボールをかどわかすギミックがある。
 まるでWMSバリー'97年製「サーカスヴォルテール」のリングマスターのように。

 そういえばエルウィンが好んで用いるフェイク衝突球ショット・クイックマルチボールの源流も、元をただせばWMSバリー'95年製「シアターオブマジック」だ。
 S-T-R-A-N-G-Eレターを揃えるフリーウィーリングディスクのインスパイア元も、恐らくウィリアムス'96年製「アラビアンナイツ」からだろう。

 2000年代以降は失態や不祥事の不名誉が重なり、今や誰もその人を敬わない状況だが、実は3作ともジョン・ポパデューク伝説の名機種なのだ。

 今やトップデザイナーとして遥か遠くまで追い抜いたKエルウィンも、内心では地に堕ちてしまったJポパデュークへのトリビュートと敬愛が今も深いのかもしれない。


(2021/12/4)





(年月日)