― その他、スターン製「ゴジラ」記事で書き切れなかったエピソードなど ―
■キースの前作「アベンジャーズIQ」の、あの左右フリッパーからもサイドフリッパーからもすいっと通せる、不思議な上腕二頭筋型ランプレーン構造が革新的で、業界受け,マニア受けの覚えが大変めでたかったという。ジョージゴメズ部長ががわざわざ電話をかけて“アベンジャーズのゲーム、特にランプレーンの評判がいい!”とデザインチームに言ってまわるほどだった。ただ、宝石集めに拘泥するゲーム性やウィーリングディスクの理不尽さには疑念が残った為、「ゴジラ」はその反省を活かしたゲーム制作となった。

■まだゴジラにバンパーが2つ付けてあった段階で、一時期そのバンパー地帯の手前にドロップターゲット/背面スタンダップバンクがあった。あのバリー社'81年製「センター」みたいに。あの機種はキースのフェイヴァリットで、更にそこにスマホサイズの小さなLCDを立たせ、映画のシーンなどを流そうという案が他のスタッフからあったが、全て没に。

■ピンボールは所有したことが無いのに、とうとうスターン製「ゴジラ」は買ってしまった―――という人までいる。プログラマーのリック・ネイグルの父もその一人。息子がピンボールの仕事をしているのは知っていたが、このゴジラピンボールの迫力には圧倒されてしまい、ついぞ初めてお家用ピンボールを購入してしまったそうだ。

■スターンゴジラピンボールのフィギュアだけ取り出してEbayで売ってる奴がいたそうな。改めてゴジラフィギュア市場の大きさを痛感。プレイヤーの視界を遮らないよう細心にデザインしたのになぁ、だって。

■ローランド・エメリッヒ監督版「ゴジラ」は“巨大トカゲがニューヨークが走り回るつまらない映画だったが、そのセガピンボール版は面白かった”とはキースの発言。これに関しては十指が指すが如し同感だろう。セガゴジラはフリッパーなどのメカニクスは生硬なのだが、複数のマルチボール同時併発の一挙決壊がカタルシスを生む、なかなかの良作であった。

■スターンゴジラ成功の要因は、ライセンサーの寛大さが大きいだろう。キース曰く、過去やりたいことが出来ない作品もあり、自分の案を見合わせて妥協しなければならなかったことも多かった。しかし今回は“思いっきりやって下さい”と東宝が言ってくれたお陰で、とてもやりやすかったそうだ。「フーファイターズ」「デッドプール」も同じ成功例。デップーデザイナーのジョージゴメズは、デッドプールをディスコで踊らせ、ローラースケートをはかせ、ティラノサウスルスとおっかけっこさせたりして、好き放題の楽しいピンボールに仕上げていた。

■一方「ジェームズボンド」では、ライセンサーが“オールドファッションな、クラシックタイプのピンボールにして欲しい”と言い出して困ったそうだ。これ実は中途半端にピンボール知識がある許諾元が言い出しがちな、ライセンサーあるあるの事態。「ビートルズ」「パルプフィクション」なんかも、そんな同様のいきさつで出来上がってしまったアナクロ台なのだ。しかしゴメズがボンドライセンサーを根気良く説得し、まっとうなフルデザイン作が発売されたのは御存じの通り。

■ゴメズがフルデザインスタイルのショーンコネリーボンド制作に入ったけど、せっかく許諾がもらえるならアナクロ版も作ろうよ!……ということになり、クラシックさが香る、レトロなリールドラム、シングルレベルフィールドの「ジェームズボンド60th」の仕事がエルウインにまわって来た。ジューシーメロンみたいなのにしようか?それとも「シーウィッチ」を叩き台としたビートルズのようにするか?じゃあ旧スターンの「クイックシルヴァー」,「ギャラクシー」のフィールドデザインを元にしようか―――などなど、色々な候補が検討されたが、それを実現するにはCADファイルを入手する必要があり、作業が余計面倒だということで、結局一からキースがデザインすることとなった。ボールフローがきれいにフリッパーリターンするのではなく、ドロップターゲットやスピナーで、臨機応変に危険なバウンスへの対応が求められるスリルを重視したという。一方スピナーに関しては嫌いな奴はいないだろうからって、4枚もつけてしまった。『だって4コンボショットで4枚スピナーを連続でびらびら回したら、最高だろ!?』

■またボンド60thでは、ターゲット3枚バンクをフィールド中央に付けたが、この構造のままではワンクッションでアウトレーンに落ちる死のバウンスと化す。この悪夢はプレイヤーの立場で嫌と言う程じゅうじゅう承知している。なので、3枚バンクの前にウィーリングディスクを取り付けた。これでバッドバウンスを緩和させたのだった。

■ジェームズボンド60thは余りにも高価過ぎるので自分は買わない、とはキースの弁。『バカ高い値段を内心みんなで失笑していた。でもゲームはとても楽しいものになったと思う。高くなった要因は、6人全員の肖像権だったんだ。6つのボンド許諾が取れることがどれだけ前代未聞、前人未到なのかを知らなかった。ゴメズがデザインしたあのトッパーはボンドグッズ史上とんでもないシロモノらしいんだ。いざトッパーも含めて出来上がったらとても麗々しくゴージャスだった。高すぎてプレイ出来ない人も多いかも知れないけど、機会が有ったら是非打ってみて欲しい』

■キースは“ボンド60thのフィールドデザインはやるけど、ルールセットはこしらえたくない”とジョージゴメズと約束した。『皆が思ってるよりゲームルール考案を詰めてゆく行程の方が遥かに大変で、意見の相違、衝突がしょっちゅう起こるんだ。どれとどれを相互作用させるか。気の遠くなるような作業。プレイフィールド設計の方が簡単で、ルールセットの方がずっと難しい。驚く人もいるけど、ピンボールを作ったことがある人なら、皆が首肯すると思うよ。』

■キースはボンド60thでベテランプログラマー マーク・ペナーチョと初めて仕事をこなした。ご存じウィリアムスの名作「フィッシュテールズ」のシニアプログラマーである。彼は2021年3月にスターン社シニアシステムエンジニアに就任。ボンド60thがスターンピンボールでの初コーディングとなった。キースにとって彼の印象は、『スターンにとっても自分にとっても有益で優秀。変更すべきところを変更してくれたり、良くない部分をきっちり否定してくれたりもする、頼もしい存在。』

■SF特撮雑誌《宇宙船》という雑誌が今も日本で刊行している。ゴジラやウルトラマンの他、今でいうニチアサ特撮ヒーロー愛好への求道を透徹する専門誌だ。こう書くと一見立派な雑誌のようだが、そこはマニア肌のサガなのか。意にそぐわぬ読者投稿やイラストを“こんなみっともない絵”と誌上で公開処刑したり、クリエイターへの卑劣な誹謗中傷,人格攻撃も全く厭わない。編集側の優位性を振りかざし、威福を恣(ほしいまま)にせんとする、大変鼻持ちならないマニア誌でもあった。今雑誌がそんな記事を書いたらSNSで大々的に討たれて忽ち渦中の火炙りへと燃え上がるだろう。

■筆者は'80年代後半〜'90年代初頭の朝日ソノラマ時代の《宇宙船》を、ホラー映画記事目当てで毎号購読していた時期がある。デヴィッド・シュモーラー特集、ウィリアム・フルート特集、ダルダノ・サセッティー来日インタヴューという記事のマニアックさにはとても唸ったが、前述のような執筆者たちの不遜な権勢ぶるいにはかなり辟易していた。その矢先、作品を批評するのではなく、特定の映画監督への人格攻撃と誹謗中傷にウハウハとアンチの筆を弾ませてウットリしている編集者の醜悪な筆端に一読者として忸怩を抑え切れず、購読を凍結。案の定、その後朝日ソノラマは閉鎖された

■そんな雑誌《宇宙船》は朝日ソノラマからホビージャパンへ出版社が変わって今も刊行しているのだが、残念ながらスターン「ゴジラ」及びスプーキー製「ウルトラマン〜怪獣ランブル!」のピンボール登場に関しては、検索で精査する限り、編集側は歯牙にもかけなかったようだ。やはり雑誌メディアはパブリシティーを働き掛けない限り、全く動こうとしないものなのだ。尚、東宝公式YouTubeチャンネルは、第一報としてゴジラピンボールを大々的に取り上げてくれている。