各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2018

ザ・ビートルズ ビートルマニア・ピンボール(ゴールドイディション)

原題The Beatles Beatlemania Pinball(Gold Edition)
製作年度2018年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフ未公表
標準リプレイ点数
備考旧スターン1980年製「シーウィッチ」と同フィールド

― COMMENTS ―

【1st.インプレッション&雑感】

 「ローリングストーンズ」「AC/DC」「キッス」「エアロスミス」等々音楽ライセンス購入政策がいよいよここで極まれり。
 2018年末にスターンピンボール社から「ザ・ビートルズ ビートルマニア・ピンボール」が発表された。

 年が明けた2019年1月。日本のピンボーラーの間ではお馴染み、大阪心斎橋ビッグステップ《SilverBallPlanet》に、ダイヤモンド,プラチナ,ゴールドの3バージョンあるうちの廉価版“ゴールドイディション”が入荷。洋楽ファンからも羨望を浴びる存在感を発揮している。

 ただ、ビートルズというビッグネームのライセンス商品故、他の洋楽アーティストやアメコミピンボール発売時以上に色んな人が集まってきてしまい、ピンボールへの見識が乏しいメディアが散々デマ記事を流してしまったのには閉口。

 “世界一高価なピンボール”
 “ビートルズのピンボールにはダイヤモンドが埋め込まれている”
 “ビートルズのスロットマシーンが登場”

 ……などなど、その情報は錯綜を極めた。

 これらのデマ報道について、スターンからビートルズコンテンツのライセンス契約業務を担った提携会社カポウ・ピンボール社責任者ジョー・カミンコウ

 “普段ピンボールに馴染みの無いメディアらによる誤った記事の配信については今更慣れっ子だが、私の名前の綴りを間違えていたり、この製品のデザイナーであるとして誤報されていることについては心外だ”

 と迷惑顔を露わに。返す刀でビートルズピンボールに対するそれ以上の問い合わせをお断りすると表明。

 ピンボール事情に決して明るくないメディアによる軽佻浮薄な記事の氾濫については、どうやらあちらでもよくあることのようだ。


 但し、販売価格がやや高めであることは否めないだろう。

 本作「ザ・ビートルズ」のようなシングルレベルのプレイフィールド機種はフルデザイン製品より二回りほど価格が小ぶりに設定されるのが相場だが、ダイヤモンド版、プラチナ版、ゴールド版のうち、最も低価格のはずのゴールド版ですら、マニアの憧れ「アタックフロムマーズ」の復刻限定版・プレミアム版の新品とほぼ同等の、8000$弱の値段でディストリ販売されていることも事実だ。

 従来通り、ディストリの値踏み判断は販売代理店に任されるというもの。

 だが相場を知らずにつけこまれたビートルズファンが2万$する「アダムスファミリーゴールド」よりもふっかけられることも(殊更日本では)ありえそうな話。
 ご購入検討時の御仁は取り敢えず公式サイト公認の海外の販売代理店で、きちんとピンボールの“適正価格”を調べることを推奨。

 尚、日本国内スターンピンボール代理店を名乗り、「ガーディアンズオブギャラクシー」「スターウォーズ」「デッドプール」を取り扱ったことになっているホットトイズジャパン社は、このビートルズのピンボール商品を無視した。


 さて、世間がどう騒ごうと我々ピンボーラーにとってはゲーム性の巧拙が何よりも重要。

 いつもなら5段階評価で星3つやら4つやらで評価するのだが、実はこの機種、今のピンボールシーンから見て、なかなかの変化球台。

 近年再び見かけるようになったシングルレベルのフィールドデザインで、且つトップレーンもキックアウトホールも無い。マルチボールルールはあるが、ボールロックの段階が存在しない。

 時代の異なる旧スターン製「シーウィッチ('80)」のデザインを原盤としており、そのシーウィッチですら当時における異端デザイン作である。
 その旧態プレイフィールドに時間制ミッション/ソングクリア、マルチボール、プレウィザード、ミッションコンプ、ファイナルウィザード……と言った近代トレンドを盛り込み、ピンボールゲームにおける新しいスタイルを生み出している。

 メインのフィーチャーは時間制ソングコレクト。全5曲全てにおいてクリアレベルを最低値レベル1から最高値レベル5まで上げ、30秒以内にゴールドディスクを獲得せねばならない。失敗したら後でやり直しだ。

 [It Won't Be Long]のレベルアップ条件はバンパーヒット。
 [Ticket To Ride] の課役はスピナーショット。
 [I Should Have Known Better]ではドロップターゲットへのヒット。
 [Drive My Car]は左右ループショット。

 そして特殊なのは[All My Loving]のマルチボール!
 このソングは基本3ボール目以降でないと選択できないが、規定スイッチ数で左右ループに高額ジャックポットが点く上、このマルチ特有の長めのボールセーヴのおかげでしばらくは落としてもボールは復活し続け、打ち放題・落とし放題となる。(合図はSamePlayersShootsAgainの点滅・消滅!)
 初心者にもかなり有利なフィーチャーで、このトラックでのゴールドディスクは3回目のジャックポットで獲得だ。

 全ソングのヴィジット後には[A Hard Days Night]プレウィザードマルチボールが開始できる他、全曲ゴールドディスク獲得により最終ウィザード[Taxman]マルチボールが待ち構えている。
 この時スタンダップターゲットのスーパージャックポットはワンショット数百万にまで高騰!ウィザード開始時にゴールドディスクを獲得した全ソングの印税(?)がシャキーン!ジャキーン!ガシャシャシャーン!とカウントされるデモが見もの。

 他、ソングとは関係なく連続ループショットで得られる[BEATLEMANIA]順列アウォードや、各ボール打ち出し時は思い切り打ち出すよりちょっと加減するとイイ事があるスキルショットボーナス、3枚バンク,4枚バンク,4枚バンク総計11枚のドロップターゲット全て倒すと左右リターンレーンで獲得のチャンスがあるエキストラボールも押さえておきたいフィーチャーだ。


 本機種「ザ・ビートルズ」のマニアクラスプレイヤーからの評判は、概ね良いようである。

 玄人受けとも初心者狙いともつかない奇怪なゲーム性に当初かなり戸惑ったが、フィールド作りはシングルレベルでもルールはノスタルジーに委ねることなくかなり攻めているし、かといって近代ピンボールの過剰に緊密な編成やメカニクスの盛り込みはあっさり捨てている。
 ソングをコレクトしてゴールドディスクを獲得、最終ウィザードを目指す……といったゲーム性の奥行きにも納得と満足がゆく。

 殊に、スターン社開発のシステムボード“スパイクU”及び3チャンネルスピーカーで楽しめる音響は素晴らしい。
 AC/DCやKISSの時にも同じ感動を覚えたのだが、各ナンバーをイアホンや家庭用コンポで聴くのと、ピンボールの戦況に交えて筐体で体感するのとでは迫力も興奮も段違いなのだ。


 ビートルズに限って「キッス」「エアロスミス」「アイアンメイデン」のようなフルデザインを避け、シングルフィールドデザインに拘った真意は何だったのか?とか。
 なぜビートルズとはゆかりの無い1980年製「シーウィッチ」のプレイフィールドをわざわざ叩き台にしたのか?とか。
 このビッグタイトルに及んでなぜ上級プレイヤーをも歯ぎしりさせる程のやっかいなルールと難易度にする必要があったのか?等々。

 そんないくらかの疑問は残るものの、上述のようにゲーム性の高さとピンボールとしての品格は水準以上で、発売前に散々限定的なプレミア感を煽っただけあってセールスも上々。

 普段は前もって必ず公表する価格設定を、発売まで一切シークレットとしたスターン側の所業こそデマや噂が飛び交った原因のひとつなのだが、それこそスターンの遠謀深慮な戦略であったのかも知れない。
 高額ライセンス企画に気負うことなく、機略縦横に舵を取ったスターン陣容の狡猾さには改めて感服する。


 ところで、

 “ビートルズピンボールの企画は元々ディープルートピンボール社が推し進めていたものなのに、そのプロジェクトをスターンがむしり取っていった”

 という物騒な証言も飛び出している。

 これは「ピンボット」「サイクロン」といった往年のウィリアムス名機の生みの親で、当時ディープルート社へコンサルティングに赴いていたバリー・オースラーが明かしたもの。

 ビートルズコンテンツの北米ライセンスエージェントであるブラヴァード・マーチャンダイジング社とディープルート社が交渉中だったそのライセンシングの内容は、

@レコードアルバムのアートや写真は使用可
A各曲を使用出来るのは15秒まで
Bビートルズのクリップなどを店で勝手に流せないのと同じように無断設置は不可とする
Cエド・サリヴァン・ショーの動画は使用禁止
Dコンサートビデオ映像の使用は禁止
Eビートルズにとって重要な年である1964,1968に因んだユニット製造数を守って欲しい

 ……と言った、かなり窮屈で束縛のある契約内容であった。

 しかしご存じの通り、スターンが完成させた「ザ・ビートルズ ビートルマニアピンボール」は、ビートルズサウンドと映像とアートが伸びやかに楽しめる快作に仕上がっている

 特にゲームスタート時に“Ladieeees aaand gentlemeeeen!The Beatleees!!”とコールされるエド・サリヴァン・ショーのオープニングヴィジョンには毎回ワクワクするし、当時のコンサート会場で熱狂する少女たちの姿や、ホールオブフェイムDJカズンブルーシーによる艶のあるスピーチとコールアウト、そして何よりドレインするまではワンコーラス堪能できる各トラックのサウンドは、洋楽マニアでなくとも堪えられない陶酔感があるだろう。

 常にライバル他社を脅かす最大手スターンによるパワーゲームの噂は、キッスやゴジラのライセンス交渉を他社から攫った際などにも度々聞かれるが、ピンボール産業もビジネスであることを考えれば、別に彼らが特段にあくどい訳ではない……と察するべきだろう。

 当然、スターン側にとってライセンス購入には相当の費用と苦労が伴ったようである。

 ライセンス購入業務を担ったカポウ社とスターン社が、ゲーム開発のプランがまとまってライセンサーたちへ交渉しに行った時の事。
 列席していたオリヴィア夫人がソングリストを見て“夫ジョージの書いた曲が無い”とごねはじめ、ライセンス承認が危ぶまれる事態も発生。

 やむを得ずスターン/カポウ側は急遽、当初購入予定では無かったはずのジョージ・ハリスン作曲「タックスマン」への費用も捻出することになった訳だが、お陰でライセンス費用はピンボール史上最高額の7桁突破となった。

 ノーマルBGMとしてここちよく流れていたと思ったら、実は最終ウィザードのテーマだった……というイキな使われ方をしていたタックスマンだが、その裏にはこんな事情とスタッフ暗闘の上に奏でられていたのだ。


 本機種の美術を担当したのは同社製「ガーディアンズオブギャラクシー」「バットマン66」でもその辣腕を振るったクリストファー・フランチ
 この度のアートワークにおいてはビートルズをグループや偶像ではなく、一人一人のパーソナルを描き出すことに心を砕いたという。

 ただ、彼はどさくさで愛娘プレスリー・フランチの姿をこっそり描きこんだ。
 また、左フリッパーすぐ上に描かれているポータブルレコードプレイヤーのメーカー名が“キュービン”となっているが、これは原盤となった「シーウィッチ」のオリジナルデザイナー マイク・キュービンへの献辞なのである。


(2019/9/10)
(オリヴィア夫人エピソード追記2020/3/20)






(年月日)