各名門ブランド ピンボール・リスト

Spooky Pinball/2017

宇宙家族ジェットソン

原題The Jetsons
製作年度2017年
ブランド名スプーキー・ピンボール
メーカースプーキー・ピンボール・LLC
スタッフプレイフィールドデザイン:ダン・ゴエット、ネイサン・ゴエット/美術:ジョン・チャド
標準リプレイ点数デフォルトリプレイ無し
備考ファクトリーはスプーキー社だが企画はディストリ会社のピンボールカンパニー社によるもの

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【1st.インプレッション&雑感】

 2017年1月に「宇宙家族ジェットソン」のピンボールスプーキーピンボール社より発表された。

 “ジェットソン”とは、米ハンナ・バーベラ・プロダクションによるクラシックカートゥーンTV番組。
 「原始家族フリントストーン」「チキチキマシーン猛レース」「スクービードゥー」と並ぶ著名作である。

 (※デコの粗悪台ロッキー&ブルウィンクルのアニメ本編はハンナバーベラ製ではないのでご注意)

 ウィリアムス'94年製「フリントストーン」のように実写映画版を媒介してピンボール化された例はあるが、あのハンナバーベラ本家のタッチで、愛苦しい作風のままダイレクトにアーケードピンボール化されたのは、意外にも今回が初めて。

 しかも、そのピンボールメーカーはスターンでもジャージージャックでもない。
 「アリスクーパーズナイトメアキャッスル」,「ロブゾンビーズスクープショー」等、あのオドロオドロしいホラブルな作風で知られる、スプーキーピンボール社!というのが興味深い。

 “標準版”と“特別版”の2バージョン存在するこのジェットソンピンボールのうち、なんと豪華バックボックス仕様の特別版が大阪心斎橋ビッグステップ内《シルバーボールプラネット》に設置されている。
 マーベルヒーローや洋楽機種が粒立つ同店のラインナップ上では目立たないかも知れないが、マニアの瞠目を禁じ得ない珠玉の希少品である。勿論調整やコンディションも特上だ。


 さてゲーム性の巧拙について。
 客観視すると5段階評価では大目に見ても3点以下。

 相変わらずキックアウト角度が不安定なスクープや、ゲーム進行を妨げるバグが各所に見え隠れ。
 易しそうに見えて実質鬼みたいな難易度で初心者もマニアも翻弄する数々の理不尽な難点を鑑みれば、2点まで減点すべきかも知れない。

 しかし個人的には4点以上……いやいや、もう自分のサイトなんだから誰にも遠慮せず欲目で5点満点すらつけてあげたい程のお気に入り。
 まるで両手を優しく添えて寵愛で包み込みたい慈しみにかられるような、格別のいとおしさが全編に溢れている。

 ジェットソンファミリーであるジョージ,ジェーン,ジュディー,エルロイたち親子らは勿論、お手伝いロボットのロジーや愛犬アストロ,エルロイの親友でエイリアンのオービッティーをも含む、計7キャラ全員をコレクトし、プレウィザード[オービットシティーマルチボール]に到達せよ!

 さらに[スペースリーVSコッグスウェル]2ボールマルチをこなし、グランドフィナーレとして待ち受けるジェットスクリーマーのスペースライヴ[イープ・オップ・オーク・アッアー]のアンリミテッドマキシマムマルチボールを目指せ!

 ……という要諦がストーリーラインなのだが、プレイフィールドデザインもフィーチャー構成も、他社の台と比べて非常にすっきりとしている。

 それでいてランプレーン左右ループ開通、ビッグポイントが度々掛かる固定衝突球型キャプティヴ、ループレーン途中でのポストディヴァーター稼働……といった、近代デザイン的ボールフローのメソッドはきっちり押さえている。

 ノスタルジー路線に透徹した「ビッグジューシーメロン」「ザ・パブスト」とは根本から異なり、どちらかというとシングルレベルフィールドでゲーム性の奥行を追及したスターン製「ザ・ビートルズ」の路線に近いだろう。

 ファミリーのコレクトも、通す,当てることによる繰り返しのショットで獲得。そのアウォードはキャプティヴボールでのカウントダウンボーナスへ、全部ひとからげに統一。
 他機種などでよくある、各所シュート成功で加算されるコンボ数やショット数の規定値で多様なフィーチャーが次々とふりかかるような複雑な編成を、ここではあえて捨てている。これはこれで潔い。

 しかも、それらが決して単調になるようなことはない。コレクトひとつひとつをプレウィザードEx.リットにきちんと繋げ、ゲーム性の骨子を強固にしているのだ。
 ファミリーメンバーコレクト時のコーラスミュージックも大変気持ちが良い。

 但しレギュラーマルチボール[スペースリーVSコッグスウェル]は結構難し目だ。
 フィールド下部左端という、非常に狙いにくい位置にあるキックアウトスクープへのショットを3回も繰り返す……という難儀を課している。ソフトウェアボールセーヴで補ってはいるが、スクープのキックアウトにも問題あり。
 稼げるはずのマルチボール系ジャックポットも、点滅ショットをかなりしつこく狙わないと思う様に上がってくれない。

 実はマルチボールになったらJP点滅なんか無視してファミリーコレクトへひたすら勤しんだ方が得策
 ウィザードへの近道となるのは勿論、ファミリーコレクトで乗算されるアウトホールボーナス配分が恐ろしく高額で、これに気付くと途端にスコアが高騰する。

 家族全員揃ったら即スタートとなる3ボールマルチ[オービットシティーマルチボール(ディスプレイではジェットソンズマルチボールと表示)]もかなり楽しいのだが、この後もっとハッピーなご褒美が待ち受けている。

 最後にお目見えするのは、ジュディー達が夢中のロックンロールスター“ジェットスクリーマー”様による宇宙ライヴ[イープ・オップ・オーク・アッアー]アンリミテッドマキシマムマルチボール!
 ビートルズソングが潮流になるより少し前の、このブギウギ調ロックンロールのチャーミングなことといったら。

 “……僕は君を愛しているのさ。僕と一緒に空を翔けよう。僕と一緒に高く飛ぼう。それは僕たちの愛の言葉、イープ・オップ・オーク・アッアー!ハッハーァ、ベイビィ,ベイビー!!”

 ジュディーやジェーン達どころかプレイヤーまで彼に心を奪われてしまいそうな、スクリーマー様によるキュートでスイートな1曲が丸々歌い終わるまで、ボールセーヴ掛かりっぱなしのアンリミテッドマルチボールが全開となるのだ。

 こんなにも愛らしいハピネスな多幸感は、殺伐として物々しいテーマ性が多い他機種のピンボールでは味わえない!

 加えるにバックボックストッパーでスピナーショットの度、ふわふわの羽毛にスプリングの足でオービットシティーの空を巡る、くるっとした目のエイリアン、オービッティー君の可愛いこと!
 初めて存在に気付いた時は、“何だあの仔!?”と、日本のアニメキャラなんてメじゃないくらいの愛苦しさに呆気にとられてしまった。
 女の子かと思ったら男の子だそうで、オービットサテライトクレーター出身。長男エルロイ君が拾った卵が孵化して生まれた、絶滅危惧種エイリアンなんだって。

 勿論ワンちゃんのアストロ君や家政婦ロボのロジーさん、ちゃっかりママのジェーンや溌剌少女ジュディー、ダメおやじのジョージだって、みんなみんな愛嬌たっぷり。

 スキルショットの操作性に難が有ったり、マッチは時々当たるのにノッカーが鳴らなかったり、スリングショットの稼働が有り得ない程過敏で過剰だったり、やればやるほど困ったバグが見つかったり。
 オマケにフリッパーにも癖がある、異常に難しい台。決して一般人やビギナーには薦め易い台ではない。

 しかし全編を包み込む、こんなにもいとおしい幸福感は、他機種では味わったことがない。これは買いだ!
 しかも普段グロく厳ついゲテモノを好んでテーマとするスプーキー社製というのだから、また意外性とギャップ感が堪らないではないか。


 こうして「宇宙家族ジェットソン」は海千山千のピンボールマニアが羽を休めて一息つけるような気持ちの良い小品となった訳だが、返す返すスプーキーがこんな台を出してくるなんてどういうこと?チャーリー・エメリーに熱でもあったの?

 ……いやいやそんなことは無い。実はこのジェットソンピンボール、ファクトリー製造は確かにウィスコンシン州ベントンのスプーキーピンボール社製なのだが、企画はミズーリ州コロンビアのピンボールカンパニー社からの持ち込みによるもの

 ピンボールカンパニー社は元々アーケードゲームのローカルディストリビューター。

 オーナーのニック・パークス
 “この仕事を始めた理由も続ける理由も、全てはピンボール愛のため”
 と、自恃と共に壮語する、殊更のピンボールびいき。

 同社はオペレーターや個人所有のヘルプ・問い合わせには親身となり、心を砕いて対応することをモットーとしている。
 特にピンボール中古台のレストアはまかせろ!と、気概十二分の頼もしさ。

 同社が手掛けた完璧レストア「アタックフロムマーズ」が16,999$、完璧レストア「アダムスファミリー」なんか17,999$!
 まさにレストア職人として匠の技を持つ者が審美眼を持つ者に売るお値段である。
 コンディションもゲーム性も良くないのにマリオやデコスターウォーズが売りに出されるとすぐ飛びつく無知蒙昧な日本人の醜態が恥ずかしい……。

 ジェットソンのプレイフィールドデザインは、そんなピンボールカンパニー社の精鋭ダン・ゴエットネイサン・ゴエット。親子二代にわたるピンボールレストアエンジニアだ。
 美術担当はジョン・チャド。フィルム状のトランスライトを使うのが常態の現在において、バックグラスに本物のガラス製を採用するという拘りを見せている。

 制作スタッフらは家庭用ホーム市場を前提としたピンボールを商品化すべく、子供にも大人にも楽しめる、明るくシンプルで分かり易いゲーム性を目指したそう。
 但しメーカー希望価格は5999$。スターンのPro版よりやや高めか。

 一方、スプーキー社はファクトリー製造のみならず、ゲームデザインにも色々と助言した上で完成に至ったため、ジェットソン台はスプーキーと弊社の共作である……とニックは驕ることなく公言している。


 スプーキー側にとってジェットソンは「ドミノズ」に続いて二度目の委託製造となるが、案外ドミノピザやジェットソンのような柔和なテーマや作風の方が同社の持ち味がうまく活かされていることに気付いたのだが、いかがだろう。

 現在スプーキーのファクトリー力では週10台程度しか製造出来ない為、しばらくはオーダー殺到の最新作「リック&モーティ」の製造に大わらわとなりそうだが、これからも是非今回の様な企画台も手掛けて頂きたい。期待しよう。

(2020年3月17日)




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