各名門ブランド ピンボール・リスト

Stern Pinball/2019

ジュラシック・パーク(Pro版)

原題Jurassic Park(Pro)
製作年度2019年
ブランド名スターン・ピンボール
メーカースターン・ピンボール・インコーポレイテッド
スタッフデザイン:キース・エルウィン/ソフトウェア:リック・ネイグル/美術:ジョナサン・バージェロン/リードエンジニア:ハリソン・ドレイク/音楽:ジェリー・トンプソン/モーショングラフィック:チャック・アーヌスト
標準リプレイ点数
備考

― COMMENTS ―

【1st.インプレッション&雑感】

 これは傑作、面白い。

 スターンピンボールが2019年8月に発表した「ジュラシック・パーク」はその年、アメリカの大手ピンボール情報サイト“ディスウィークインピンボール”主催ゲームオブザイヤーにて、グランプリを受賞している。
 その他最優秀プレイフィールド賞、最優秀フィーチャー賞、ベストテーマ賞、ベストギミック賞……と各賞総嘗めで、プレイヤーからの絶賛たるや野火の勢い。

 筆者にとっても2019年のベストワンが本機種であることは間違いなく、そのゲーム性の高さ、奥行き、オリジナリティ溢れるストーリーテリングやその臨場感、緊迫感やリアリティ等々は、映画本編のクオリティなどとは比較にならない。

 キース・エルウィンはスピルバーグより偉大だった!

 そう言えるくらいスターンジュラシックパークに圧倒されている。
 五段階評価で言えば、★5つ以上の満点評価。殆ど礼讃惜しまず諸手を挙げ尽くすような絶賛状態だ。


 実は過去、映画ジュラシックパークシリーズは2度ピンボール化されているが、どちらもピンボール市場の汚点となった、恥ずべき駄作に終わっている。

 一度目はデータイースト'93年製「ジュラシック・パーク」

 当時はピンボール市場も日本のアミューズメント市場も有頂天の好景気で、勢いにまかせるまま日本中のゲームセンターに出荷されたが、その仕上がりは有名無実の醜悪さ

 他社大ヒット機種「アダムスファミリー」の剽窃と言っていいフィーチャーとプレイフィールドデザインに、映画のビッグタイトルをあてがったような浅ましいシロモノ。
 その割にゲーム性は大きく劣化している為、ピンボーラーはその面の皮千枚張りの賤しさに猛反発。

 しかも映画の公開に併せるべく拙速の短期間制作の為、故障や誤作動の多いメカニクスに孤立と行き止まりだらけのボールフロー、粗略なドットアニメ等々の仕上げもぎこちなく、次々とトラブルが頻発する粗悪台。ロムの耐性も低く、入荷当日から見る見るうちに各所が壊れてゆく。

 オペレーターにも大いに嫌われ、その年の当サークル人気投票ワースト2位も何をか言わんや。

 市場の景気の良さに飽かし、映画版権ネームの粗悪品を濫造するというこの同社の近視眼政策こそ、
 “ゲーム場を経営するなら先ずはピンボールを置けばよい。整備を怠らなければピンボールは売り上げも本体も10年もつ”
 という永年築いた信用を根底から破壊し、直後のピンボール市場凋落を招いた……と言っても過言ではない。
 データイースト版ジュラシックパークとは、ピンボールファンにとって気まずくも後ろ暗い存在だったのだ。

 一方、同スタッフチームが4年後再びジュラシックシリーズのピンボール化に臨んだ'97年製「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」だが、経営難の本家データイーストがピンボールファクトリーをやむを得ず手放し、セガがオーナーになったことにより辛うじて経営が継続できていた、苦しい時期の一作。

 製造台数はかつての10分の一となり、メカニクスやギミックもゲーム性に殆ど向上しないコケ脅し演出に終始している痛々しい仕上がり。
 日本ではマシンショーでの展示のみに終わった。存在しないも同然である。

 但し、プレイフィールドデザインや各フィーチャー、ループレーンの活用とそのディヴァートによる戦況明確化の重視など、ルールはある程度良くなってきている。


 そして時は2019年。永年溜飲の下がらぬジュラシックパークを懲りずにピンボール化するというのだから、“スターンピンボールの新作はジュラシックパークのリブート”との一報を聞いても、当初ピンボーラーは達は全く気が乗らなかったのだ。

 しかし蓋を開けてみたところ、懸念も不安も全て吹き飛んだ。

 誰も思いつかなかったギミックやフィールドデザインを随所に盛り込み、無理筋にならないギリギリまで踏ん張った緻密な設計を実現。
 殊にフィールド上部のボールフローは秀逸で、無限の小宇宙へ繰り出すような伸びやかさと奥深さを縦横無尽に開通させている。
 サイドループ、サイドフリッパー、ランプレーン。そのショットの爽快さと多様さと、組み合わせの巧緻さと言ったら筆舌に尽くし難いほど。

 普通、バンパー地帯トップレーンレス構成だと'93年版「ジュラシックパーク」や「フーディーニ」,「バックトゥザフューチャー」,「レスキュー911」のように孤立してしまい、ボールを飛びこませる機会の乏しい無用の長物となりかねない。
 しかしスターンジュラシックのトップレーンレスバンパーへはセンターレーン、左サイドループ、右ループ、狭間貫通ショットの4つのコースから突入可能。お見事。

 同様にサイドフリッパーコースへのボールフロー及びサイドフリッパー自体の活用も多種多様。

 こんなにも詰め込んであるのに行き止まりや孤立、息苦しさが無い。ピンボールの経験値が高い者なら、このデザインの意匠がどれだけ細密か、打てば打つほど唸るはずだ。

 ボールを当てるとジープが方向転換する仕掛けのクラッカーボール(ニュートンボール)も面白い
 ボールショットを命中させてジープの向く方角が変わると島内マップの進行方向も戦況も変わる!T-REXバトルモードにも入れる!
 このアイディアの仕掛けはピンボール史上完全に初めての試みで、ちょっとした発明である。

 また、本来リミテッド版、プレミアム版ではボールを食い散らかすティラノサウルスや、ドロッピングターゲットによるボールロック&ボールヒットする度に猛々しくメカアクションするラプトルフィギュアヘリコプターの実働回転プロペラ等々、ワクワクするようなメカニクスの稼働があるのだが、国内で遊べるPro版ではそれらが取り除かれている

 確かに残念だが、そんなのに落胆してはいられぬ程熱いフィーチャーが盛りだくさんに用意されているので、すぐに応戦すべし。

 ゲームの進行の大動脈は3つも!

【パドックモード】―――左ランプレーンに掛かる。
 取り残されたスタッフ(Rescue赤ライト)を救助し、レーンからレーンへ逃げ回る恐竜(黄色点滅)を捕獲せよ!もたもたしてるとスタッフはレーンからレーンへ点滅移動してきた恐竜に喰われてしまう。
 恐竜捕獲の特典と難易度は小型,中型,大型種、草食,肉食によって異なる。そのヴァリューは500万点やエキストラボール、ボーナスXの他、島のボスを決めるティラノとスピノの激闘マルチボール!なんてのも。
 捕獲方法は、恐竜の存在を示す移動点滅を打つだけではダメ。予めトラップ(クラッカー背後のスタンダップ)を仕掛けてヘリコプター出動(右下宙返りレーン)を済ませた上で点滅恐竜へショット……という手順が捕獲のルール。
 肉食恐竜の方が点滅移動がすばしこかったり、大型恐竜になるほど人手(レスキュー人数)と手順(トラップ構築作業)が余計に必要になったり。ルールを掌握するまでは大変だが、玩味して理解すると非常に面白い。
 各パドックモードを終えて[ヴィジターセンター]に到達すると、とてもイイ事がある。

【T−REXモード】―――左ランプレーンに掛かる。
 @回目T-REX2ボールマルチ(青ライトショットでジャックポット獲りまくり)、A回目T-REXチェイス(ジープ方向転換でティラノと追っかけっこ!)、B回目T-REXランページ(左右ランプレーンで捕まえて左ランプで撃破)、C回目T-REXエンカウンター(フィールド右半分メジャーショットで人員救助して左ランプで脱出)、D回目ミュージアムメイヘム(あの博物館で最終決戦!)
 尚T-REXモードを点灯させるにはT-R-E-Xのレターを完成させるべし。このレターはジープクラッカーショットで進捗。

【コントロールルーム】―――左下端レーンに掛かる。
 シングルボールの時間制ミニゲーム。
 暴走したコンピューターシステムを修繕せよ!という作劇の元、45秒以内にメジャーショットレーンの点滅をやっつけるべし。用意された項目は[ウイルス除去],[システム再起動],[システム修理]の3種。選択式。
 完勝するとどれも大体トータル1億ぐらい稼げるし、パーフェクトのご褒美として化石アイテムも貰えるのだが、ショットの行程はかなり複雑。マルチボール併発のどさくさで片付くほど甘くはなく、難易度は非常に高い。
 3項目クリア後のプレウィザード[セキュアコントロールルーム]とは別に、その向こう側にある隠しフィーチャー[インヴェールドフレンジー]もやり応え有り。
 尚コントロールルームモードが点く条件は恐竜初確保、ラプトルマルチボール遂行、CHAOSレター2巡目完成、宙返りサイドランプレーン15回ショット、の4つ。


 一方メインのマルチボールは、メジャーショットレーンのC-H-A-O-Sレター完成でリーチとなる[CHAOSマルチボール]と、左下のラプターペン装置にラプトルを捕えてボールロックとなる[ラプターペンマルチボール]の2本柱。
 ジャックポット/ダブルジャックポット/スーパージャックポットを獲り進めて巨額を稼ぐのは当然として、如何にこのマルチを上手く併発させてT-REXとのバトルやパドック恐竜捕獲、コントロールルームを遣り繰りするかか後半のカギとなってくる。

 3つもあるプレウィザードをクリアすると、最終ウィザード[エスケープニューブラー]へ。
 火山の爆発で火山弾と溶岩が迫りくる中、ジープ3台(つまり実質3ボール追加!)を使ってスタッフ全員を救出してヌブラル島から脱出を図る……という激動のクライマックスがプレイヤーを待つ!

 で、実際に正攻法でクリアしてみたが、ショットの行程が複雑だったものの、ここまでこれた兵卒なら決して不可能な内容ではない。

 島の脱出に掛かった時間は10分以上。収益トータル4億7千万。
 瀑布から滔々と流水するの泉のほとりがら飛び立ったヘリコプターが、斜陽を背に島を去るエンディングの満足感と達成感は格別。
 2周目には行かずハッピーエンドのゲームオーバーとなってしまうが、総じて1時間近くかかっているのでこれで終わってくれて充分だ。

 尚、デモ中“ボースフリッパーホールド+左右選択”の隠し操作後のSTART単品エスケープニューブラーが誰でも挑めるので、興味があればご試行の程を。


 返す返す、新鋭キース・エルウィンの斬新なゲームデザインの才覚には舌を巻く。

 彼の前作且つ商業デビュー作だった「アイアン・メイデン」では、老練デザイナー達の作家性と被らないよう気負い過ぎたようで、興味深い個性はあるものの灰汁の強いフィールドデザインが裏目に出ていた。
 その上普段ヘヴィメタを聴かないエクスキューズとしてアイアンメイデンのナンバーを戦況関係無くひたすら掛けっ放しにする居直りが、ゲームの冗長さへ加担する残念な仕上がりに。

 それが今作ジュラシックパークではどうだろう!前作の萌芽が一挙に結実する大豊作。

 緻密でダイナミックなフイールドデザイン。プレイヤーの意表を突くボールフロー。恐竜捕獲やティラノサウルスとのチェイスなどのドラマチックなストーリーテリング。そしてそのLCD&サウンド演出のダイナミズム。
 特に3つのプレウィザードによるラプトルとの手に汗握る決戦は、否応なしにアドレナリン全開に。
 この想像を絶する緊迫感と精密さは、ウィリアムス永遠の名作「メディーヴァルマッドネス」のクライマックスをも凌いでいる。

 コンボショットフィーチャー11種恐竜11種のDNA採取に準えており、例えば[ガリミムスDNA]はセンタースピナー経由からトラッククラッカーショットの2-Waysで簡単だけど、史上最大サイズ[スピノサウルスDNA]は6-Waysのショットが必要の最難関。だけどクリアすると希少化石が貰えたりする。

 その化石コレクトの御利益も絶大。

 T-REXモードや制御室モード、各マルチボール完勝で授与される化石の数を集めてゆくとボーナスコレクトが高騰するのだが、話はそれだけに留まらない。
 ツーペア,スリーペアのように同系統恐竜の化石セットが完成すると、プテラノドンアタックが10倍化だの2億5千万即金ボーナスだの、極度の暴利に転じる仕掛けだ。しかも化石の中にはワイルドカードのジョーカー化石もあって、大化けの連鎖まで仕組まれている。
 化石獲得条件が難しいからといって、そう無視は出来ない垂涎ヴァリューとゲーム性のトリックが潜んでいるのだ。

 個人的に一番燃えたフィーチャーは[スマートミサイル]
 ……いやいや、忌むべきデコジュラパやラストアクションヒーローの役立たずスマートミサイルとは完全に別物。

 これが掛かると一旦左フリッパー根本ストッパーでキャプチャーされ、次の瞬間バンパー狭間奥にある“琥珀ターゲットショット一発撃破ミッション”を課せられ、3...2...1...GO!と考える間もなく背中を蹴飛ばされる。成功率は上級者でも四分の一ぐらい。
 但し成功報酬は一発逆転級の高配当。即パドック完勝,即ラプトルマルチ開始,即インヴェールドフレンジー開始,即エキストラボール……などなど。開始までの3秒間はスマートミサイルボタンで項目選択可能。
 ウィリアムス'91年製「ターミネーター2」に端を発するスウィンギングランチャーよりシンプルなメカニクスでルールは同じ、でもこっちの方が断然面白い!なぜ今まで誰も気づかなかった……。

 データイースト版ジュラシックパークは半年も遊べない粗悪品だったが、スターンジュラシックはこの先10年楽しめる名作だと断言しよう。

 ライセンシングなテーマ性もこの先風化せず永年的だろうし、今後映画がフランチャイズ化されて主演が入れ替わる可能性を考えると、俳優肖像を殆ど避けたのも正解かも知れない。

 スターンピンボール社及びキース・エルウィンは本当にいい仕事をしてくれた。ブラボーキース!


 ところで本作はプランニング当初、決してキース・エルウィンの担当では無かったし、案件も映画シリーズ通算4作目となる「ジュラシック・ワールド」の方。
 企画自体は商品化へ動き出していたものの、スターン社の熟練デザイナー達は皆難色を示していた。
 恐らくデコジュラシック、セガジュラシックの脛の傷が痛んだ我々プレイヤーと同じ気持ちだったのだろう。

 それでスーパープレイヤー且つ新米デザイナーのキース・エルウィンにお鉢が回った訳だが、先達デザインを真似るのを嫌うエルウィンは当初、ティラノがボールを咥えるガジェットの開発に反対していた。

 しかしプレジデントのゲイリー・スターンとデザイン部門チーフのジョージ・ゴメスが実働T-REXギミックの必要性を力説。
 試しに左上にティラノの仮のフィギュアを置いたところ、それだけでプレイフィールドの見栄えが格段と引き締まった。

 結局頑固なエルウィンも納得し、レックスのボール喰いメカ演出が今回も生きることになった。

 またWMSバリーでは「コルヴェット('95)」をデザインし、スターンでは「マスタング(2014)」の企画を後押ししたカーキチとして知られるジョージ・ゴメスはチーフの立場を利用、どさくさで自分がデザインしたジープをクラッカーボールミニカーとしてキースに採用させている。

 とは言え、これは映画ジュラシックパークで実際に登場するジープが版権の問題で使えない事情があった為。
 ジープにはちゃんとゴメスによるブランド名も付いていて、その名も[GMC]!ジョージゴメスカンパニーの略だそうな。
 (ならGGCでは?というか今度はGMC方面の皆さんに怒られるんじゃないかな……)

 また、権利の問題においてはジェフ・ゴールドブラム、サム・ニールといった主演俳優達を再起用すべきかどうか色々検討したようだが、結局ヒーロー俳優達の高価な肖像購入は諦め、その代わり狂言回しの巨漢プログラマー デニス・ネドリー役ウェイン・ナイト一人に起用を絞り、ヴォイススピーチレコーディングやアートワークやLCDデモ等々、重点的に採用している。

 一方、今作の美術担当は順番からして、バットマン66ビートルズガーディアンズオブギャラクシー……と近年のスターンピンボールで大車輪の活躍だったクリストファー・フランチへ本来出番が回ってくるはずなのだが、彼は「マンスターズ」を最後にスターン社を去っている。

 これはフランチがプライベートで参加しているコミックイベントでの二次創作ファンアート即売を、ライセンシング姿勢に厳格なゲイリー・スターンが問題視した為。

 どちらの立場も分かるだけに心苦しい話である。

 代わって今作の美術を担当したのはピンボールアート初仕事のジョナサン・バージェロン

 ジョニークラップの名でナイキシューズやスノーボードのアートデザインを手掛けていた彼だったが、自身がプレイヤーであるだけでなく、ガンズアンドローゼズアンスラックスアルバムジャケットアートやポスターの仕事も手掛けている

 とりわけアンスラックスのギタリスト スコット・イアン「ブラックナイト ソードオブレイジ」の音楽を手掛けたことが、スターン社との良縁に繋がったもよう。
 バージェロンがピンボールのアートを手掛けるのは運命且つ必然だったのだ。


 さあ!漸く私も最終ウィザードをクリアしてニューブラー島から脱出できて、キースエルウィンのゲームデザインに勝てたぞ……!

 と思ったら、何と3つのプレウィザードと島脱出をパーフェクトでクリアした時にだけ入れるシークレットウィザード[ホェンダイナソールールジアース]が存在することが判明!
 あれだけ苦労したのに、まだ完勝じゃなかったのか!?

 くぅ、やるなエルウィン!

(2020/5/22)





(年月日)