各名門ブランド ピンボール・リスト

Williams/1993

インディ・ジョーンズ〜ザ・ピンボール・アドベンチャー

原題Indiana Jones:The Pinball Adventure
製作年度1993年
ブランド名ウィリアムス
メーカーウィリアムス・エレクトロニクス・ゲームズ
スタッフ原案:マーク・リッチー、ブライアン・エディー/プレイフィールドデザイン:マーク・リッチー/ソフトウェア:ブライアン・エディー/音楽:クリス・グランナー、リッチ・カーステンス/美術:ダグ・ワトソン/メカニカルデザイン:ジャック・スカロン/ビデオアニメーション:スコット・マトリクス、ユージーン・ギーア
標準リプレイ点数2億5千万点
備考製造台数:12,716台/米リプレイマガジン誌ピンボールランキング21ヵ月ランクイン、初登場'93年10月号2位、'93年11月号〜'94年2月号4ヵ月連続1位/国内販売:タイトー
▲バックグラス正面に堂々と描かれたインディジョーンズの肖像。でもこれ実は…… ▲プレイフィールド下部にはインディの仲間たちのコレクト状況進捗表示が。トップレーン完成で立候補、ループショットで獲得。全員集合でループジャックポットリーチ。
▲クリティカルシュートに苦心するが、コツをつかめば入れやすいモードスタートホール。Ex.やミステリーもここ。 ▲ワイド筐体を活かそうと、かなり欲張ってランプレーンを敷いたフィールド上部。やはり詰め込み過ぎか。
▲ミニフィールドを傾けてボール操作するというアイディアだが、新鮮な感動より無理筋に閉口。但しエキストラボールもウィザードビリオンも関連している重要箇所 ▲後の名作アタックフロムマーズに通ずるものがある3枚ドロップバンク。後ろにはロックホールが隠れている。
▲フィールド下部ターゲット類はA-D-V,E-N-T,U-R-Eの綴りに準えてある。スペル完成でパスオブアドヴェンチャー入場権獲得。 ▲今回美術チーフ ダグ・ワトソンの功労が際立つ。のちに他社がより出来の良いインディピンボールを作ったが、妙にウィリアムスが貫禄勝ちしている。

― COMMENTS ―
『確かに面白い。大型でゴージャスで音響システムも新機軸。フィーチャーもギミックも盛沢山。だが、しかし……』

 「インディジョーンズ〜ピンボールアドベンチャー」は1993年のウィリアムスピンボールの大作であり代表作なのですが、“傑作”とは言えず。
 未だに古参プレイヤーにとっては胸のつかえがとれない、居心地の悪い問題作です。

 既に発売当時から、様々な論議を呼び起こしていました。

 故障、バグ、誤作動。
 当時としては極北的なサウンドシステムによる音響の濫用と、音楽性を急転させたことによるプレイヤー層からの反発。
 ワイドサイズ筐体特有の欠点の顕在化。
 高額映画版権の飽和と疲弊。
 完成直後の制作スタッフ連袂辞職騒動。その後のウィリアムス及びピンボール市場の急凋落。

 どこにメスを入れても病巣が出てくる反面、まばゆかったその時代の象徴的な輝きも随所に溢れています。

 本当に何から書くべきか迷うほど騒乱のエピソードに満ち溢れたモデルなのですが、とりあえず当時のプレイヤー層の反響から。


 筆者は先ず発売前に、タイトーのお店でロケテストのサンプル台をプレイしました。

 音響のリアルさと筐体全体が醸し出すゴージャス感に圧倒された反面、ミニゲーム・ルールセットの偏重と、過剰に複雑化する方向性に戸惑ったことを、今もありありと覚えています。

 特にワイド筐体のフィールドにぎっしり配置された、込み入ったレーン構成の圧迫感に苛立ちを覚え、ピンボールにおいて重要な伸びやかさと爽快が失われつつある趨勢と、そしてプレイヤー層の声に聞く耳持たず映画モチーフに執着するウィリアムスの頑迷さに、一抹の不安を感じました。

 “豪勢だけど、これなら同社同デザイナーの前作「フィッシュテールズ」の方が面白かったな……”

 そしていざ製品が発売になると、さすがピンボール市場及びゲーセン好景気のピークだけあって各ロケーションへよく出回ったのですが、

 『バグも故障もプレイフィールドも酷い!なんだあのちみっこいホールショットを繰り返させるモードスタートは』
 『いや、マルチとミニゲがちゃんと噛み合ってて楽しい』


 と、プレイヤーの評価は賛否両論。

 ゲーム内容とプレイフィールドメカニクスが破綻目前までエスカレートしていましたが、これらをどうにかして縫い合わせ、遊べるレベルのぎりぎりに仕上げてありましたからね。
 面白いことは面白いんです、確かに。

 筆者運営ピンボールサークルの'93年度国内発売人気投票では、1位の「ホワイトウォーター」、2位の「トワイライトゾーン」、3位の「ブラムストーカーズドラキュラ」に次いで、やっと4位にインディジョーンズが上がってきています

 5位の片腹痛いデコスターウォーズにだけは、かろうじて辛勝。
 佳作,秀作と呼べるカテゴリ内でもインディはギリギリのランクインだったことを物語っています。

 余談ですが、米映画として原題は“Raiders of the Lost Ark”及び“Indiana Jones”で、一般的な邦題は「インディ・ジョーンズ」なのが通念。

 しかし筆者が人気投票を主催した時、私がこしらえた投票用紙に対して

“●インディ・ジョーンズ Indiana Jones The Pinball Adventure”

 ……と、わざわざ面当てとして抹消線を引いて書き換え、したり顔で突き返すようなことを毎回繰り返してくるベテランプレイヤーがいて。
 そう言えばこの人、対面で会話した時も必ず“インディアナ・ジョーンズだ”と呼んでいたっけ。

 こっちは皆に分かり易いよう、必ず邦題や規範を決めてノミネートしてるのは自明のはずですが?

 いやまぁ誰にでも拘りはあるし、私も顔文字やネットスラングには否定的だったりするし、齢一回り以上年嵩の先輩格プレイヤーは尊重すべき。別に笑顔でいなしとけばいいか……と、意に介せず看過してたら、年を追うごとに状況は悪化。

 “●フリントストーン〜モダン石器時代 The Flintstones”
 “●新スタートレック Star Trek The Next Generation”


 等々相手方から投票の度、こちらが日本公開タイトルやTV放映題に準拠して定めた呼称に、なんか突っかかってくるような顕示が続いた挙句。
 やがてグループ間で投票ノミネートラインナップ内容をこちらの許可なく改竄。その投票用紙を配布して集計を阻害する……という、人気投票の乗っ取りと集計妨害までするように。

 てめーこの野郎。ここまできたら私の顔に泥を塗る悪意も明々白々。

 日本のピンボールプレイヤーと言えばこの方々!と音に聞く団体でしたが、結局口裏を合わせて集計妨害に加担した方々とは交渉事を控え、以後疎遠としました。

 ただ時間が経った今、いかにもマニア臭いエピソードとして、古豪の皆さんとの楽しい思い出です。


 閑話休題、フィーチャーの撮要も最低限にかいつまんでおきます。



【ジャックポット】――――――右ランプレーンに掛かる。
 点灯させるにはマルチボール中に左ランプレーンに通すか、再度偶像にボールロックすべし。
 1回目の獲得は聖櫃ジャックポット2000万、2回目秘石ジャックポット2500万、3回目聖杯ジャックポット3000万……と3部作の秘宝に準えてある。JPは2X,3Xの倍掛けも可能だし、4回目以降にはキャプティヴボールのスーパージャックポットも用意されている。

【マルチボール】――――――ボールロックポイントは中央3枚バンクドロップターゲット背後のロックホール。
 ドロップターゲットを倒してボールロックすると、地下レーンで運ばれて中央右端偶像がくわえるメカ演出も見もの。3個ロックでマルチボール開始。

【モードスタート】――――――中部左寄りキックアウトホールに掛かる。全12種。
 映画3作の名シーンが再現されるミニゲームで、概ね時間制。プレイフィールドの各ポイントを汎用し、アローライト点滅を追って高額ボーナスをしとめる構成。それなりに楽しめるが、フィールドが入り組んでるので難渋な課役に。
 但し、中にはインスタント6ボールマルチや3種のビデオモードなんかも。各ビデオゲームはプログラマーが結構本腰で組んだもので、こっちも本気出さないと成果が出ない。

【ウィザード/10億点ボーナス】――――――6ボールマルチ。全モード消化後に同ホールへ掛かる。
 シングルボールへやつす前に、既にオール一千万点と化している全リット箇所全スイッチをクリアすると、10億点獲得。パスオブアドベンチャーの8レーンと2ホールが殊更難しい。獲得時、気合が入った絶叫デモにもこうご期待。

【パス・オブ・アドベンチャー/横転ミニフィールド操作】――――――右ランプレーンに掛かる。
 ランプレーン途中にあるポストのストッパーで一旦ボールが留められ、ミニフィールドへ入場。プレイヤーは左右ボタンでこのフィールドの左横転/右横転を操作し、通すべき個所へボールを誘導する。
 一見プリミア製「ワイプアウト」スターン製「ロードオブザリング」、ジャージージャック製「パイレーツオブカリビアン」に搭載のミニフィールドと同類の仕掛けに見えるが、プレイヤーの意思で横転を操作する仕掛けは本作以外記憶に無い。
 この横転ミニフィールドは8本のレーンと2つのホールが有り、高額点やエキストラボールが掛かることがある。

【キャプティヴボール/2ボールマルチ】――――――1枚ドロップに遮られたキャプティヴボールへのヒットで2ボールマルチのチャンス。
 2マルチ中は同キャプティヴに高額ボーナスが掛かりっぱなし。1000万の偶像、1500万のダイヤ、2000万の壺、2500万の十字架、3000万のフィッシュテールズ……と宝物に準えてあるのが楽しい。6回目ヒット成功でスペシャルリット。

【ハリーアップ】――――――左右ランプレーンコンボコンプで発動、中央ロックホールで獲得。
 左右ランプレーンへのコンボショット成功を6回果たすとハリーアップ・カウントダウンボーナス開始。満額4000万(高額!)、最低額300万。
 複葉機との空中銃撃戦になぞらえた演出は迫力満点。ついでにボールロックも進捗する優れもの。

【バイ・イン・ボタン/ワンボールコンティニュー】――――――1クレジット消費で1ボールコンティニュー可能。
 トワイライトゾーンで登場した1ボールコンティニュー機能を継承。キャビネットフロント左側、スタートボタンのすぐ下にそのボタンが搭載。金さえあれば無限にコンティニュー出来るが、ハイスコアは別枠へ分けられる。


※他にもインディの仲間を全員揃えてループJP、キックアウトホールに点くミステリー、ミリオンバンパー、トロッコビデオモードの踊るカエルくん隠れキャラ等々も見逃せないが、これ以上の明文化は冗長なので割愛。



 前述のように局所偏重と複雑化が増悪したルール及び詰め込み過ぎプレイフィールドが圧迫的だったものの、マルチボールとジャックポットのゲーム性とミニゲームのルールは練られており、ゲームそのものは悪くない仕上がり

 ですがほぼ同じ制作チームで近いルール編成を誇る「フィッシュテールズ('92)」「ダイナー('90)」「タクシー('88)」の方が断然スマートで完成度が高く、減点要素も多過ぎました。

 先ず、通常キャビネットよりレーン2本分幅が広いSuperPin/ワイドサイズ筐体は、その後デメリットが露見して忌避されるようになったものの、なぜか当時の各デザイナー達が活路として勇んで採用していた仕様でした。

 インディジョーンズなるビッグタイトルにはワイド筐体こそ相応しい……とは確かに思える気もします。
 しかし電圧が低い上に土地事情も悪い国内では、欠点が殊に露見
 例えるなら、でかい風呂おけなんか日本の狭い家には設置できないし、火力や水圧が低ければぬるま湯がちょろちょろとしか入らなくて風邪をひくような体たらく。不便しましたね。

 特に、急勾配を一気に駆け上がらねばならないディヴァーターオープン時のジャックポット右ランプレーンショットは殊更に難所化
 コンディションが良くてもプレイ30分程で、所謂“コイル熱ダレ”フリッパー衰弱化が発生。右ランプレーンは鬼門となりました。

 パスオブアドベンチャー・ミニフィールドの稼働も、それぞれのロケーションによって問題発生。
 例えば左横転は浅く、右横転は深い……なんてことはざら。こうなると手前左レーンにはほぼ通せないですよ。ミニフィールドがヒクついてるだけで殆ど動かねぇ台もあったし。


 ウィリアムスが巨額を投じて開発した高音質音響システム[DCS]の初搭載に関しても、プレイヤーから拒否反応が出ました。

 それまで同社のピンボールは打ち込んだコードによりヤマハ製サウンドボードから音楽やサウンドが奏でられていたのですが、DCS採用以降はクリアな録音と瞬時の再生制御が可能に。
 これにより、従来ざらざらな音質で処理も容量も食うスタジオ録音または既存音楽の再生が、比較的クリアな音質で可能となりました。
 当時のアーケードゲームとしては間違いなく最高峰の技術です。

 ただその音質。
 確かに無線機みたいだった録音音声からは大分改良されてはいましたが、実際はAMラジオとFMラジオの間ぐらい。当時聴いても、ちょっと微妙なクオリティ。

 これまでの音源ボードでは得意だったドラムのハイハット風ビート“チッチッチッチッ”ウインドチャイムの“シャララララン……”系の音が、DCSでは高音部飛んじゃってて全然聞こえないし。
 今になってYouTubeで聴くことにより、かろうじて聴き取れる音質だった訳です。

 しかもウィリアムス側はその後も「デモリションマン」「スタートレック〜ネクストジェネレーション」「ポパイ」「フリントストーン」等々、なぜかクラシック風オーケストラやビッグバンドジャズ音楽ばかり再現させることに拘泥。

 ……嫌だよこんなの。ジャズやクラシック嫌いじゃないけど、ゲーセンでフィルハーモニー管弦楽団みたいなのばっかり、聞きたくない!

 現スターンピンボールの様にAC/DCやメタリカやKISSのご機嫌なナンバーをフィーチュアする知恵が全く回らなかったのは痛い!

 ピンボールの音楽が多様化するどころか、むしろ平淡になってしまいました

 またこのサウンドシステム、もっと早い段階で搭載するはずでしたがうまく稼働せず、今回のインディで漸く初披露となったものの、実はまだ若干不安定。
 プレイ中に瞬時の音量調節に度々失敗、大爆音になったり、音が消えたり。

 '95年頃だったかな。
 《ハイテクセガ金山店》(現:セガ金山)である時なんか、筆者のプレイ中に突然、ハリーアップの銃撃戦発動からライブハウス巨大スピーカー並みの狂った大爆音に定められたまま元に戻らず、女の従業員が駆けつけて筆者をどかして人為的に強制終了
 サウンドボリュームを完全にゼロにしてからサービスクレジット入れてハイどうぞ、だと。
 サウンドバグの不首尾により店側からに忌み嫌われたそのインディは、以降永劫に消音稼働となった……。
 そんな逸話も思い起こします。

 バグと言えば、フリーズ,再起動も度々起こっていて、特にウィザード/ビリオン関連が深刻。

 ウィザード[エターナルライフ]で全課役をクリア、“ビィイリオォォォンン!!!”の絶叫が轟いて10億獲得したはずが、なんとその10億が入っていない……とか。
 ビリオン獲得後に暫く無音フリーズ、根気よく待って再開……とか。
 待てば続きが出来るのはいい方で、そのまま電源落ちて没収ゲーム状態……とか。

 実はつい先日もロケーション本機種をプレイしていたらウィザード中にボールサーチ&フリーズ繰り返されて困っちゃいまして。
 グラチャン確定スコアを手放して電源off/onセルフ再起動する有様でしたよ。

 ソフトウェア担当のブライアン・エディーはラリー・ディマーに比肩するほどの才人プログラマーですが、今回DCS開発チームを交えて新機軸のソフト/ハード相手に、色々と勝手が違ったのでしょう。

 おまけにこのインディジョーンズ完成直後、ウィリアムス社内ではチーフデザイナーのマーク・リッチーを中心に、辣腕プランナーのパイソン・アンジェロ、プログラマーのビル・フッツェンローター、音楽家クリス・グランナーら中核を担うデザイナーやエンジニアらがウィリアムス社を連袂辞職、ごっそりカプコンへ移籍する内訌が勃発

 この離反騒ぎはウィリアムス社経営陣の怒髪天を突き、カプコンコインオップ社のみならずマーク達個人をも訴訟攻撃。
 その後もキリの無い泥沼裁判へと突入して足を引っ張り合った挙句、双方の会社は'90年代後半に破滅を迎えました。


 「ジャッジドレッド」「ポパイ」,「JM」,「コンゴ」もウィリアムスピンボール破綻の表徴として挙げられますが、元をただせばその最たる根幹は、一見ご立派につくろった本作インディに行き着くものだと筆者は確信。
 この機種は呪われた失敗作である―――と結論付けるに至りました。

 恐らく企画自体も、どうせマネージメントが暴走した挙句のスタッフへのお仕着せで、製作状況が混乱と逼迫を呈した挙句、スタッフらが見切りをつけてウィリアムスから逃げ出したのではないか。
 関係者たちは今も忸怩たる思いで、さぞ後ろ暗く感じているに違いない。

 そう思って資料を紐解くと、実は“生涯最高の仕事が出来た!またとない体験だった!”と皆が朗々と思い出を語り、感慨深く振り返っていることに驚かされることになります。


 先ずウィリアムス社の会議テーブル上で、数多のピンボール商品化候補の1本として「インディジョーンズ」が挙げられてすぐ、「フィッシュテールズ」「タクシー」の名デザイナー マーク・リッチーと美術チーフのダグ・ワトソンらから、“是非やらせて欲しい!”と挙手があがります。

 特にワトソンは社内きっての映画通。のちの「シャドー('94)」でのエピソードとなりますが、制作取材時にラッセル・マルケイ監督とは対等に映画論で渡り合い、数時間ほどマニア話に花を咲かせた……なんて逸話もあるくらい。

 ウィリアムスはそんな彼らにインディプランを任せ、ソフトウェアやメカニクスなどもマークが信頼をおける最高のメンバーを揃えて取り組む方向で商品開発が本決まりとなりました。

 ピンボール部門GMのロジャー・シャープも、このビッグプロジェクトは必ずや成功させるべきだと意欲を燃やし、マークとダグを引き連れて飛行機でシカゴからロサンゼルスへ敢為邁往にひとっとび。
 天下のルーカスフィルム社相手に滔々と折衝を開始します。

 しかし懇請されたインディ3部作許諾を固辞し、代わりに駄作TV「ヤングインディジョーンズ〜若き日の大冒険」のピンボール化企画を本気でやらせようとしてきたルーカスフィルム連中。
 ここでロジャー・シャープは語気を強めます。

 “お宅らが今そのテレビ番組を推輓しているのは分かるが、それは我が社が担うことではないな。話にならん。悪いが、上の者を出してくれるかね”

 さすが'70年代に自ら法廷へ赴いて各州ピンボール禁止条例を叩っ斬ったロジャー。天下のルーカス社相手に一歩も引きません。一旦マークとダグを待たせて上層部オフィスへ。
 そこでプレイフィールドとバックグラスの起案アートを改めてルーカス側幹部にご披露しながら説得をかなえたロジャーは、無事本編ライセンス確保に成功します。

 次にマークらはルーカスフィルム社に保管されていた映画の資料や小道具を手に取って矯めつ眇めつ、しげしげと鑑賞。いよいよピンボール化のGOサインが出たことを肝に銘じ、更なるクリエイト意欲を滾らせてゆきます。

 尚、あの出来の良いピストル型オートシューターは劇中のハリソン・フォードが使用していたイギリス製リヴォルヴァーを忠実に再現したもの。
 この時にマーク達が実物の各小道具に触れることが出来たからこその仕上がりと言えましょう。

 シカゴのウィリアムスに戻り、マークのチームはゲーム制作に砕身。
 球を咥え込んでボールロックする偶像、プロペラがモーター回転する複葉機(商品版ではモーターのみ削除)、一段ずつ倒壊するトーテムポールに準えたロングドロップターゲット(これも商品版ではノーマルドロップに変更)等々。

 マークは漲る情熱をプレイフィールド・ホワイトウッドへと注ぎましたが、途中経過報告の会議ではマネジメント達から酷評されてしまいます。
 “どうも何かが足りないな。このままでは決定打に欠ける。改善したまえ”

 そこでマークは何かインパクトのあるバイレベルを加えるべく図面を引き直し、あのパスオブアドベンチャーのミニフィールド制作に入った訳ですが、ボールが蛇行するだけでこれまた面白みが無い。
 マークが考えあぐねていたところ、「ピンボット」「サイクロン」の生みの親パイソン・アンジェロが通りすがりにアドバイス。
 “左右に横転させて球を操作出来るようロッドを挿しちまえば?”

 こうして出来上がったのがあの横転ミニフィールド
 レーンを作り、落とし穴を空け、ランプレーン途中のストッパー作動でボール入場システムも装備。
 パイソンが当初想定したものはフロントキャビネットからにょっきり突き出た手動ロッドで左右の横転をマニュアル操作する……というシロモノでしたが、やはりマークの判断で左右の横転はモーター稼働でボタン操作できる、よりテクニカルな構造へ。

 一方、横転ミニフィールド追加制作とマーク私生活トラブル勃発によりゲームルール構築が足踏みするのを防ぐべくサポートしたのは、意外や美術担当のダグ・ワトソン
 彼はマークが手一杯の状態だった時に、数多くのミニゲーム・モードフィーチャーの各アイディアを、ドットアニメの絵コンテと共に提供しています。

 かつてのウィリアムス社内では影が薄かったダグ・ワトソン。ゲーム制作に献身の姿勢を見せたところで、
 “絵描き屋ふぜいが何を出過ぎた真似を。自分の仕事に集中しろ”
 ……と、部門マネージメントの一人であるウォーリー・スモルチャに睨まれておりました。

 しかし「ソーズオブフューリー('87)」「プールシャークス('90)」等々自らピンボール商品化の企画を立て、アートワークのデザインのみならずプレイフィールドやフィーチャーなど数々のアイディアを立案し、ドットアニメの絵コンテ、ヴォイススピーチの台本及び声優、モーションキャプチャの演者まで率先垂範。

 そんな多くの貢献を果たした結果、社内の敵だと思っていたスモルチャの顔色が変わり、それどころか昇給と正規契約の厚遇まで彼が直々に手配してくれる程にまで認められたのです。

 今回もロジャーとマークだけの予定だったロサンゼルス取材に、美術担当者の必要性と有益性を断固主張し、ルーカスフィルム社へワトソン自ら帯同。
 かいあって、黄金の如く輝きに満ちたゲーム筐体のアートワークを完成させました。

 もう一人、マークへの重要なサポートを果たした人物。
 ロックホールinの球が地下道を通って偶像の口に込められる装置は出来が良く、満場一致で製品化となりましたが、これに6ボールマルチの機能をつけよう!と言い出したのが、ソフトウェア担当のブライアン・エディー

 『いやちょっと待て。6ボールマルチなんてカオスなゲームは作らないよ。マルチは3ボールで十分だ』
 ……とマークはそのアイディアを却下しようとしますが、頑固なブライアンは折れようとしません。

 ならば6ボールを捌ける装置を俺が設計する!と言い出し、プログラマーでありながら6ボールマルチ用トラフとスイッチシステムを自力で開発。後日マークの目の前に現物を持ってきたではありませんか。
 この彼の異能と多才ぶりにはマークも思わず“ストライク・ジーニアス!”とかなり驚いたようです。

 こうして、「トワイライトゾーン」でもあり得なかった、唐突に訪れる爆裂6ボールマルチイベント[ウェルウオブソウルズ]が誕生
 更に6ボールマルチでビリオン獲得に挑むという、クライマックスのファイナルウィザードも従来のビッグゲームより深遠なものとなりました。

 因みにその後ブライアン・エディーは名作「アタックフロムマーズ」のデザインを手がけ、更に20数年越しにスターンで「ストレンジャーシングス」「マンダロリアン」のピンボールデザインチーフを務めるのですが、それはまた別のお話。


 加えるにもう一人。彼無しにはインディの夜も日も明けぬほどの重要な人物だったのが、作曲家クリス・グランナー

 音楽班の彼にしてみれば、かつての盟友ブライアン・シュミットと共にこれまでヤマハのシンセチップで培ってきた音楽プログラム技術を全て白紙に戻すのは名残惜しかったはずです。
 しかしウィリアムスが巨額を投じて開発したDCSなる新たなサウンドシステムは、既得を手放すのも厭わぬ価値のある、瞠目すべきものでした。

 クリスは一度トワイライトゾーンでDCS用に作曲を手掛けたものの、この開発途中のDCSはパフォーマンスに問題があって、どうも途切れ途切れでスムースに再生できない。結局従来のサウンドボード用に一通り曲を打ち直した……という苦い経緯がありました。

 しかも今作の作曲テーマは天下のインディジョーンズ。今度こそDCS開発エンジニアらと共に必ずや成功させなければ!と否応なしに鍵盤へ向かう肩の力が入ります。

 クリスが作曲用の資料を要請すると、早速ルーカスフィルム社からどさっと小包が送られてきました。開けてみるとそこには映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズの御手による、映画3作分の楽譜がぎっしり

 ピンボールファンにとってはクリスグランナーの音楽の方がジョンウィリアムズより断然魅力的でカリスマを感じますが、当人グランナーからすれば、その映画劇伴の楽譜を全て精査することにより、改めて自分と天才との格の違いを痛感してしまったそう。

 初めて肌で触れる、巨匠スコアのオーケストレーション。
 そこから6週間、映画3作のビデオにかじりついて、巻き戻しては楽譜を読んでは映像と見比べる。それの繰り返し。音楽家としても充実したスタディと体得だった……と回顧しています。

 勿論、出来上がったピンボール用の音楽は巨額を要する交響楽団レコーディングではなく、'90年代当時のE-MU Proteus(イーミュープロテウス)サンプルプレイバックのDTMオーケストラでしたが、生まれて初めてフルオーケストラ音楽をマスターし、いっぱしの形にして手掛ける事が出来たのは、今回のインディジョーンズの仕事のお陰。
 生涯思い出に残る、ぶっしん共々大変に満足のゆく仕事を終えることが出来たと語っています。

 そうそう、ヴォイススピーチ・レコーディング監督もクリスの仕事。

 ピンボールゲームの各ヴォイスサウンドは映画本編のセリフから大体は抽出して使えましたが、どうしても“ジャックポーット!”とシャウトするような、とりおろしテイクが入り用となってくるもの。

 社内の芸達者な誰かにしゃべらせてもいいが、やはりここは出演俳優のどなたかを呼べないだろうか。
 いやまさかハリソン・フォードのギャラは払えないし……とあれこれ考察していたところ、サラー役のジョン・リス=デイヴィスが、テレビドラマ「新・アンタッチャブル」の撮影で今丁度シカゴに入っていて、適量ギャランティーで1日だけレコーディングに対応できることが判明。

 ならば話は早い。デイヴィスのエージェントと連絡を取ったロジャー・シャープの手配により、彼参加のスタジオ録音が実現しました。

 流石本業の俳優さんだけあって演技が達者で理解も早い。打ち合わせもレコーディングも2,3時間程度でスムースに完了。
 “エックストラボォォォル!パッス,オブ,アッドヴェンチャ!ゲットざすーぱ、じぁっく,ぷぉーっと!!”

 ついでにどさくさで“フィッシュオブテイルズ!”なんて言わせたりなんかして。
 クリスグランナーの演技指導以上に気合の入ったテイクの録れ高を十二分に確保しました。

 因みにジョン・リス=デイヴィスさん、髭を蓄えた身長185cmの大柄な強面でありながら陽気なジェントルマンで、好奇心も旺盛。
 社内やファクトリーの見学も目を輝かせて喜んでまわる姿が皆の印象に残っています。


 こうして「インディジョーンズ〜ピンボールアドベンチャー」のゼロ号台が完成。ウィリアムス社内カフェテリアに置かれて皆がプレイし、バグ修正,プレイフィールド修正,綴りのミスプリントも修正。出来上がったプロトタイプもロケテスト用に各国へ搬出。
 初回ロット分が工場ラインにも乗り、最終製造台数1万2千台のうち、最初の200台ほどの製造が進んだ頃。

 マーク・リッチーはマネージメント達の罵倒を背中に浴びながら、ウィリアムス社を去って行きました。

 しかしそれは決してマークが会社の待遇に不満を持っていたからではありません。

 ただ、カプコン出資のゲームスター社(後のカプコンコインオップ社)からヘッドハントの話を貰えたのを機に、そろそろ新しいチャレンジに臨んでみてもいい頃合いじゃないか。新天地へ冒険してみたい。本当にただそれだけの理由だったようです。

 “僕はカプコン系列のゲームスターへ移籍する。みんなもその気が有るなら一緒に来ないか?”

 旧知の仲間がいた方が気を置かなくて済む。そう思って他のスタッフにも声を掛けた。
 すると、似通った格闘ゲームとガンシューティング筐体用音楽の仕事の繰り返しにうんざりしていたクリス・グランナーが、丁度いいとばかりにその渡り船に乗った。
 マークやクリスと一緒に新天地で仕事が出来るなら、とパイソン・アンジェロビル・フッツェンローターらも続いた。

 ウィリアムスのマネージメント側は、この連袂辞職を当然の如く背信とみなし、裏切り者を抹殺すべく、会社も個人も、敵側の財力が枯渇するまで法務攻撃を緩めず、3年かけて相手の息の根を止めた。

 この泥沼訴訟合戦において、双方・それぞれの弁護士達はドラマみたいに正義感を燃やして闘うことなどせず、自分らが潤うよう弁護士同士目配せして引き延ばしを繰り返した。

 結局カプコンピンボールは業界から抹殺され、各訴訟は自然消滅。
 多額で無益な裁判費用ばかり蕩尽された果て、更に3年後には自分の首を絞める結果となったウィリアムスも没落した

 これが本機種の顛末。インディジョーンズピンボール負のレガシーです。

 私がこのマシンに対面する度に今も心苦しく感じるのは、せっかくのビッグバジェットの出来に欠点があるからのみならず。
 その後のピンボール産業を凋落させた瘴気のみなもとが、ほぼインディジョーンズから放たれていることをリアルタイムで感じ取って来たから。

 産業に命運をおよぼした傾国の王子なのです。


 それから15年経った2008年。ルーカスフィルム社及びパラマウントが映画シリーズ4作目「インディ・ジョーンズ〜クリスタル・スカルの王国」を制作したところ、今度はスターン社がその機運に合わせて「インディジョーンズ」のピンボールを発表しました。
 このスターンによる映画ライセンシング再製品化に関しては賛否ありましたが、出来栄えは上々。

 映画4作を、所謂“マーズメディーヴァルスタイル”で4か所点綴のメジャーショット課役進捗で作劇し、ルールバランスは抜群。
 隠し扉のモーター稼働、アークが開いて大量マルチボールを放つメカニクスなど、みどころ,打ちどころ盛沢山の秀作で、こちらの方は筆者のお気に入りです。

 そして現在、大阪のプレイスポット《SilverBallPlanet》ではこのスターン版インディとウィリアムス版インディが轡を並べるように隣同士設置

 ゲーム性はスターン版の方が断然優れているはずなのですが……なぜだろう。見栄えもプレイした感触も、ウィリアムス版の方がずっと風格があるんですよね。

 ―――あぁ、そうだよな。壮年のウィリアムスが潤沢の予算をもって、最高のスタッフ、最高の制作環境で仕上げた、贅を尽くして時代の粋を集めたピンボールだったんだもの。
 この貫禄は、二度と再現できないのかも知れない。

 何だか、改めて'90年代往時のピンボール黄金期の煌めきをしみじみ懐旧した次第です。


 さて。散々語って参りましたウィリアムスのインディジョーンズですが、まだひとつだけ指摘していない、致命的にオカシなところがあるのにお気づきでしょうか。
 特に、バックグラス中央とフィールド下部中央。お分かりです?よく見てください。

 このインディ、ハリソン・フォードじゃないんです

 えっ!?……えーっ!!!

 そう、ウィリアムス社はハリソンフォードの肖像権を購入していなかったんです。

 ルーカスフィルム社を通じ、ハリソン当人は自分の肖像がゲームキャラとして使われることに対し拒絶する意思があることを伝えらた為、その対策として、

 『ハリソンフォードとは別人だけど、誰がどう見てもインディジョーンズのイメージそのもの』

 という男性キャラクターの顔かたちを美術チーフのダグ・ワトソンにオーダー。ワトソンは見事にハリソンフォードではないインディジョーンズを、全く違和感なく創生した
のであります。

 や、やられた!この事実を資料で知るまで、私も全く気づきませんでした。

 そういえばデコスターウォーズでもフィールドアートにハリソンはいなかったし、主役なのにバックグラスでちっちゃく描かれるハンソロの顔も微妙でした。当人が描かれるのを拒んでいたんですね。

 しかしその後、1997年版2017年版、と度重なるスターウォーズやインディジョーンズの再ピンボール化において、ハリソン・フォードは肖像アートをOKしています。
 賑やかしいピンボールアートで他の俳優がいきいきと描かれているのに、自分だけおいてけぼりになっているのは寂しいですものね。いざ完成品を見て本人も考え直したのでしょう。

 という訳で、ハリウッドセレブの皆さん。ピンボール産業からの肖像許諾は、クリストファー・ロイドやビル・パクストン、サンドラ・ブロック、ケヴィン・ベーコンみたいに、常に欣々然と快諾しましょう。
 でないと、マイケルJフォックスやウェスリー・スナイプス、トム・ハンクスみたいに、後々つまらない思いをしますよ。

 プレイ歴47年のピンボーラーからの老婆心でした。ではご機嫌よう。



▲DCSサウンドシステムが完成したのは、インディ制作開始の僅か3週間前だったそうだ ▲蕩尽のイメージがある本機種だが、版権料は想定内に抑え、本体予算も通常マシンとそれ程変わらなかったという ▲相変わらずマークリッチーは脇から猛々しくボールを放つ装置が大好きなようだ。
▲飛行機のプロペラが回る仕掛けは削除されたが、機動の土台はあるので腕のあるオーナーがその気になれば稼働させられる ▲段階ごとに沈むトーテムポール型ロングドロップターゲット装置を作りたかったが断念。あのディスプレイアニメはその名残 ▲難関の右ランプレーン。ジャックポットが掛かる重要箇所だが、低電圧でフリッパーが弱い日本では通すのに苦労した
▲アウトレーンにはスペシャルライト有り。運ではなく実力で点けられる ▲初期/後期ロットのミニフィールドは金属製金色/銀色,プラスチック成型……と多くのバージョン違いが存在する。 ▲結構落ちやすい右アウトレーンだが、一旦落ちたとしてもリターン抜け道ゲートに入って助かる施しも有り。

(2022年1月24日)