各新鋭ブランド ピンボール・リスト

Spooky Pinball/2021

ジョン・カーペンターズ・ハロウィン

原題John Carpenter's Halloween
製作年度2021年
ブランド名スプーキー・ピンボール
メーカースプーキー・ピンボール・LLC
スタッフプレイフィールドデザイン:コリス・バーロフ…?(クレジット原文ママ)/LCDアニメ:ライアン・ポリッキー/ソフトウェア:デヴィッド・フォーズマ/許諾業務:デヴィッド“バニップ”ヴァン・エス/美術:ジェイソン・エドミストン/ゲームルール:バグ・エメリー、デヴィッド・フォーズマ/エンジニアリング:スプーキー・ルーク/製造監督:AJ/オリジナル楽曲:ジョン・カーペンター/音楽:マット“カウントD”モンゴメリー/フィギュア:マット・リースター
標準リプレイ点数デフォルトのリプレイ無し、マッチナンバーも当たらない
備考製造台数1,250台以上/アリスクーパーやリックモーティーの主要スタッフだったボウエン・ケリンズは同社から一時的に脱退、関わっていない。
▲中央ランプレーンを遮るように立つ3枚ドロップバンク。全部倒すとパンプキンモードが点灯。 ▲バックボックス。トランスライトアートのマイケルマイヤーズが神々しい。ただスピーカーシステムの音響はいまひとつ。
▲うおぉローリーストロード、ドクタールーミス、マイケルマイヤーズ揃い踏み!ホラー好きピンボーラーは幸せ。 ▲球を一気に駆け上がらせる設計が難しいはずの3階建てプレイフィールドは、金属製宙返りスクープランプを巧みに活用して実現している。
▲フロントキャビネット。永遠に10月31日の街ハドンフィールドの景観が垣間見える ▲こういう3階建てプレイフィールドって背が低い人は見えにくくて不利なんじゃないかな。操作も難しい。
▲生垣の裏にはマイケルが潜んでいる。ボールロック時やジャックポット有効時に稼働、くるんと姿を見せてくれる。但し、壊れやすい。 ▲重要なパンプキンホール。8つのパンプキンモードが掛かる他、エキストラボールも点く

― COMMENTS ―
●いやいや、びっくりした。まさかジョン・カーペンターの映画、しかも出世作「ハロウィン('78)」が、アーケード筐体のピンボールになるなんて。

 新作公開時の時勢に阿ったが大した名作映画とはならなかった「ブラム・ストーカーズ・ドラキュラ('93)」「メアリー・シェリーズ・フランケンシュタイン('95)」
 戦前戦後のエモーショナル・ノスタルジーとしての「モンスター・バッシュ('98)」「クリーチャー・フロム・ザ・ブラック・ラグーン('93)」
 米お茶の間TVの人気者としての「エルヴァイラ('89〜2019)」「テイルズ・フロム・ザ・クリプト('93)」。TVシリーズ「ウォーキング・デッド(2014)」

 これだけホラーテーマのピンボールが界隈に膾炙されているにもかかわらず、意外にも'70〜'80年代の名作ホラー映画が真摯にピンボール化された例は、実を言うと1本も無い。
 「エクソシスト」だって「オーメン」だって「サスペリア」等々も手つかずのまま。
 ジョージAロメロ映画なんか「ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド」がエルヴァイラさんのピンボール内でちっちゃく切り貼りして小ネタにされたのが関の山で、クローネンバーグ映画ピンボールも呼び声すらない。

 唯一、当時殺人鬼キャラクターのカリスマ性に耳目が集まっていた「エルム街の悪夢」を、プリミア社が「フレディ〜ナイトメア・オン・エルム・ストリート('94)」として商品化、日本のゲーセンでも出回った例はある。
 しかしこれは当時米国TVでアイドル化していたロバート・イングランド/フレディ・クルーガーのスター性に重点を置いた機種。バックグラスではフレディの衣装とメイクを施したロバートがプレイヤーに向かってダンディに微笑んでいる。
 要するにエルヴァイラやクリプトキーパーと同等の路線であり、故ウェス・クレイヴン監督や作品自体へのトリビュートは乏しい。

 ……それがどうだろう、バックグラスで刃を振り下ろさんばかりのマイケル・マイヤーズを見よ。恐怖におののくローリーの表情を見よ。マイケルを執念で追うDr.ルーミスいぶし銀の雄姿を見よ。そして監督ジョン・カーペンター自身作曲のテーマソングに耳をそばだてるがいい!

 ドライヴインシアター上映設定じゃない。怪物大集合でロックバンド結成とかで茶化してない。殺人鬼をアイドル扱いしない。
 本当に「ハロウィン」が!マイケル・マイヤーズが!ピンボール産業の一部になった!!
 作り手がこの名作を心底敬愛した、監督や作品そのものへの真摯なトリビュート。真の意味での、名作ホラー映画の初ピンボール化。ピンボーラーとしても映画ファンとしても感無量だ。


 かく言う筆者、'80年代ビデオレンタル少年世代。

 “遠くに50円2ゲームのゲームセンターがあるよ”、と友人の案内で自転車1時間こいで辿り着いたロケのすぐ近くに、見知らぬビデオレンタル店が。入ってみると、そこには観たくてもみつからずにずっと探していた「2000人の狂人」「墓地裏の家」があって飛び跳ねて喜んだ……なんて思い出もある。そんな、何とも愛らしいホラー映画少年だった。
 品揃えが全部似たり寄ったりな取り揃えの今と違って、当時は小さな会社や個人経営のお店が駅前にも郊外にもたくさんあった。ラインナップも店によってまるで違った。ゲーセンも、ビデオレンタル店も。

 ただ私にとって残念なのは、中学生時代にダリオ・アルジェント、ルチオ・フルチ作品をとり憑かれたように追い求め始めたのに比べ、ジョン・カーペンターへの認識と崇拝は遅れてしまった。

 なんと不幸にも、ハロウィン1作目よりも「ハロウィンUブギーマン」の方を先に観てしまったのだ。
 “つまらん映画!なんだよこれ?”

 ビデオレンタル市場急成長期とビデオリリースが重なって前作のソフトより大量に出回った上、ジャケットやスチル写真もカッコ良かったこの2作目。前作を残毀し、悪影響をもたらすほどの酷い駄作である。唯一の収穫はコーデッツの挿入曲「ミスターサンドマン」が小気味よく流れたことくらい。
 ついでに言うと「悪魔のいけにえ」もハロウィンよりずっと先に観てしまっており、幼いホラー少年はすっかりレザーフェイスに恋してしまっていた。

 そんな理由で3年ぐらい経った高校時代に“一応見とくか”という気分で手に取った「ザ・フォッグ」を観て衝撃を受けるまで、カーペンターもマイケルマイヤーズも、作品を採択する眼中から退けてしまった。
 これは痛恨の不運である。

 そんな訳で、ピンボール界隈の方々で映画が未見の場合、必ず金字塔であるこの1作目“だけ”を鑑賞することを強く推奨
 のちにハリウッドアクション映画を手掛けて出世したドワイト.H.リトル監督の4作目を佳作、2018年版を真の続編……と見做す評もあるが、結局どれもこの映画の本質と認識が濁るだけである。1作目の立場に立ってみると、ハロウィンシリーズは本当に支離滅裂、滅茶苦茶なことになっている。もはや二次創作状態だ。

 むしろこの映画「ハロウィン」の世界にもっと浸かりたいならば、前述の同カーペンター監督作「ザ・フォッグ」「クリスティーン」「マウス・オブ・マッドネス」「光る眼」の方の購入をオススメしておきたい。漆黒の闇夜に押しつぶされるような圧倒的畏敬と戦慄はハロウィンフランチャイズ作よりも、むしろこちらの方に受け継がれている。カーペンター映画の名物である、車の中における密室感を巧みに強調した、陰影たっぷりの緊迫はどの作品も特筆。
 そうそう、カーペンターと言えば「ゴーストハンターズ」にもピンボール化の噂があるのでこちらの予習もしておいて損は無い。


 一方、ゲームマニアではないがホラー映画通,及びカーペンターファンの方でこのような辺境サイトに辿り着かれた方へのご挨拶代わりに、現行ピンボールゲーム産業について僭越ながら解説させて頂くと。

 今ピンボール市場は第4期黄金時代と言っても過言ではない程の盛況を呈している

 カーペンターフリーク諸賢なら映画経験値が高いのは勿論、あらゆるカルチャーに知見が広いであろう40代,50代以上がメイン層なので、ピンボールなる文化はある程度認識なさっていると思う。
 ケン・ラッセル監督の「トミー」も鑑賞済みだろうし、劇中、荒くれ者の家のセラーや胡散臭い金持ちの屋敷にピンボールマシンが設置してあったり、ベンチャー企業を立ち上げた兄ちゃんたちの仕事場にもなぜか置いてあったり。
 映画では何かと登場する、ちょっとしたアイテムだ。

 勿論、かつて日本のボウリング場やデパ屋のゲームコーナーでも見掛けた記憶はお有りだろう。

 しかし現実ではとうに衰退したはずのピンボールが今現在、意外な隆盛を迎えている詳細と事情まではご存じないかと思う。駆け足での解説にお付き合い願いたい。

 '70年代には日本国内でもあらゆる娯楽施設や駄菓子屋で数多く見かけたゲーム筐体“ピンボール”

 '80年代に入ると「スペースインベーダー('78)」と「パックマン('80)」によるビデオゲーム人気に一度は押し拉がれてしまうものの、'80年代半ば〜'90年代前半においては、ボールロック/マルチボールとランプレーン,ループレーンを導入した高いゲーム性と、
 “ノブを引っ張って思い切りプランジした後は、下りて来る球を左右フリッパーで打ち返すだけでもOK”
 という爽快な気楽さにより、「ゼビウス('83)」、「テトリス('88)」、「ストリートファイターU('91)」等々の流行ビデオゲームの移ろいに寄り添う形で、ゲームセンターで共存。殊に、「ターミネーター2('91)」「アダムスファミリー('92)」「リーサルウェポン3('92)」「スターウォーズ('92)」のピンボールは数百台規模で日本全国へ輸入された。

 ところが'90年代後半に差し掛かるとピンボール産業は急激に凋落。
 詳述は避けるが大手メーカーらの醜い争いや内訌及び失策の重なりにより不良品を連発。その矢先、日本ではプリクラや音ゲーの登場によるアーケードゲーム市場のパラダイムシフトが起こり始める。
 1999年にはピンボールメーカー最大手のウィリアムス社がなくなり、日本の代理店であるタイトーもピンボールの取り扱いを終了した。

 しかし世の動静がどうあれ、'90年代末にピンボール市場が壊滅状態となったのは『メーカー側がつまらない駄作や、故障が多く質の悪い商品を出し続けて信頼を失った』のが原因である事実に変わりはない
 2000年代にはピンボールが抜けた空席に、一時期パチスロがゲーセンの一画を陣取る光景も見られた。

 どっこい、まさかの新時代2010'sがやって来る。

 最新技術の向上とゲーム性ルールセットの洗練、お金に自由が利く購買層の高齢化などにより、アメリカではバーケード需要とホーム需要がじわり、じわりと伸び始める。
 そして一部現行世代にもその魅力は伝播。老齢ばかりだったプレイヤー層に若年世代が雪崩れ込み始め、欧米を中心に大会開催も鰻登りに盛んになってゆく。
 '80年代からの生き残りメーカーに加え、新興ピンボールメーカーも次々と立ち上がり始めた(これら新興メーカーのうちの一社がハロウィンPINを作ったスプーキー社なのだがこれについては後述)。

 『この緑の矢印ライト点滅箇所を全部やっつけて、あの怪物にドカンと食らわせれば、ボール6個の無敵状態マルチボールがわーっと大爆発!でも初心者はそこそこの点数しか稼げてないよね?実はマルチボールを始める前にコレとコレを完成させておかないと稼げないんだ。ジャックポットヴァリューが底上げされ、45秒間フィールドXが掛かって稼げるスコアが倍になる。だから上級者のスコアは桁が違ってくる。あと、このスピナーを70回転させておくとコレがリーチになるから、別口の3連続ループで開始できるソレと同時併発させて……』 etc,etc.

 そのゲーム性は[ガラスの下のボードゲーム]と呼ばれるほど、あらゆる世代のゲーマーをも虜にさせる奥行きを見せている。
 しかも、ゲームのテーマ性がKISSやエアロスミスだったりマーベル映画だったり東宝ゴジラ映画だったりと、年配層のジャンルファンやコレクターにも堪えられない。

 例えば2024年の最高作と目される「エルトン・ジョン」ピンボール。彼の代表アルバムを1枚1枚コレクトしたり、マイルストーントロフィー全てを獲得してワールドツアーに臨んだり、グランドピアノにボールロックして1975年ロサンゼルス、2009年のラスヴェガス等伝説のライヴ開幕!なんてのが大スクリーンで始まっちゃうもんだから痺れるのなんの。

 かつてのドットディスプレイに代わるLCD,いわゆるカラー液晶ディスプレイの搭載。まばゆいLED演出。音響設備。まるでテレビ番組のスタジオに主役で出演していかのような気分に没入させてくれる。
 さらに廉価版、豪華版、限定版……と、バージョンを分ける商品戦略による製造も可能となり、コレクターへの収集癖を強烈に刺激。

 中流家庭以上の邸宅には大き目のガレージやセラーがあって、尚且つ16歳で免許取って、車の手入れ、機材の搬入程度なら皆お手の物―――というのが、アメリカの土地柄,お国柄。
 元々大き目のゲーム筐体を購入し、自宅に設置出来る素養も環境も備わっている。

 日本人にとっては憧れの対象だが手が届きにくいテーブルフットボールやビリヤードテーブルと同じ様に、彼等にとってはゲーム筐体の設置はステイタス。お店を1軒2軒もつちょっとしたオーナーなら尚更。
 車を買う様な気分で大好きなピンボールマシンをどーん!と購入し、ニコニコと楽しそうに自宅に搬入してしまう。
 ちっぽけなガチャガチャやクレーン機相手に蕩尽し続ける蒙昧な日本人とはコレクションの概念が違うのだ。現在アメリカのコストコでは故障が少なくて修理保証もある、より管理が平易な[Home]版ピンボールマシンが売られている。

 各メーカーが発売時に1000台,2000台の生産を組んでも予約開始から数時間で完売する事態も珍しくはなく、「エルヴァイラ〜ハウスオブホラーズ」「ストレンジャーシングス」「ゴジラ」の様に、その後同機種のリプロダクションが組まれて更なる好セールスを獲得するという盛り上がりまで見せている。

 ただ欠点としてはピンボールにはメカ的トラブルが非常に多い上に規模も大きく、修理、レストア、メンテナンスなどの管理に専門知識と重労働が必要。故障が多くて筐体そのものも高額なため、日本での設置ロケーション箇所は限られている。

 しかし日本国内でも有志のプレイヤー達が関東、関西、北海道などで次々とミュージアム・ピンボール・ロケーションを立ち上げ、日に日に常連客が増加。日本ですら毎月のようにピンボール大会がどこかで開催されている程なのだ。

 今やどこを覗いてもクレーン機とガチャガチャだらけ。かつてはピンボールにとって同じ土俵だったはずのゲームセンターは、各アーケードゲームの美醜にも清濁にも免疫が無いような、我々よりずっと下の世代を鴨にしたイカサマ確立操作くじびき場と化し、運営側も法の抜け穴の荒稼ぎに甘んじている。
 [クレーンゲーム1プレイ500円]などという高額料金設定も平然と掲げ、まだ給料が低い20代の子や学生ら相手にスキーム手法で無限に注ぎこませて懐を肥やし続けた結果、ゲームセンターの店舗数は減っているはずなのに、大手運営のロケーションにだけ、不自然で異様な肥大化をもたらしている。このような事業は海外なら摘発されて当然の組織犯罪である。
 そんな現行ゲーセン従業員ら全員の知見は極めて浅学。ピンボールの設置なんて全くお話にならないし、とてもじゃないが任せられない。
 現在のピンボールは、斯様に健全づらした性悪ロケーションとは、全く次元を異にする粋人向けの娯楽へと昇華を果たした。

 レトロゲームの立ち振る舞いを装いつつ、その裏ではハード,ソフト,ゲーム性が急進。尚且つソーシャル性にまで着手を始めており、今もなお、秒単位での日進月歩の真っ只中。
 非常に高邁で裾野が広いが、基本の習得は難解。理解への道のりは彼方まで茫洋。そんな深遠なカルチャーとして、今や知る人ぞ知る、最も手ごわく成熟したアーケードゲーム。

 それが現代ピンボールである。

 本機種「ジョン・カーペンターズ・ハロウィン」は大阪心斎橋アメリカ村商業施設『BIG STEP』内《SilverBallPlanet》で稼働中
 “展示”ではなく稼働機種なので、[調整中]でさえなければ、営業時間中いつでもプレイ出来る。
 是非ホラーファン、映画ファン、そしてカーペンターフリークの方もご体験を。


 で、この「ハロウィン」ピンボールをこしらえてしまったとんでもない連中、スプーキーピンボール社。斯界でどの辺の位置づけなの?ピンボール業界第何位?
 そもそもハロウィンPINはピンボールゲーム商品としての成否は?傑作なの?駄作なの?海外の販売店やオークションとかに出てたらいきなり買って大丈夫?

 ……まぁ正直言うと、あらゆる側面にいくらかの欠陥があり、初心者にいきなりはオススメ出来ない

 故障やハングアップが多い。ゲーム性も難易度過剰だし、プレイフィールドデザインにも問題があって、ビギナーに不親切。
 トランスライトの耐久性も弱く、早くも2年で退色するばかりか、つなぎ目に剥離が起きている。
 見どころ、魅力、美点もたくさんあることは後述するが、良作と呼ぶのは苦しい。

 しかしこれはスプーキー社の製品としては相当な力作だし、プレイヤーなら十分愛せるモデルである。
 これはほら、カーペンター映画で例えると「ダーク・スター」「要塞警察」みたいなもんだと思って頂きたい。
 一般人にいきなり見せるには辛いものがあるが、“絵的にはショボいけど、こんな低予算と、苦しい特撮と、素人俳優起用で、よくこれだけ小粋な映画撮ったなぁ”と思わせられるような。そういう感じに受け取って欲しい。

 決してスターン社やジャージージャック社の様な大手メーカーのピンボールマシンほど、スプーキー製は堅牢で華やかではない。
 彼らは家族経営の小規模ファクトリーだ。1週間に5,6台ペースの製造力しかないので、商品発表から購入者への発送に1年かかっている。
 スプーキー社はそんな位置づけのピンボールメーカー。でも「ハロウィン」PINは正に、彼らにしか成し得ない商品―――と言えるのも確かなのだ。

 では、ルールセットの解説に入らせて頂きたい。各フィーチャーは映画本編に準えてあるので、ホラーファンはプレイしていて思わず膝を打つ!



【ヘッジマルチボール】――――――生垣の影からマイケルが姿を見せたら、そこはジャックポットのチャンス!
 フィールド左端下部から中部にかけ、青々とした生垣ホールが3か所。ここぞボールロックのポイント。全てにボールロックを済ますと、“Look....”“Look Where?”とマイケルを目撃したローリーとアニーの会話シーンと共に、ヘッジマルチボール開始。
 マルチ中のジャックポットは、同じく生垣ホール3か所に掛かる。一度のショット成功でマイケル人形がくるんと現れて15秒間ジャックポットが有効。このJPリットは脇にあるスタンダップでも可。
 生垣3箇所全てのジャックポットを押さえた後は、中央ランプレーンにスーパージャックポットが掛かる。額はJP3つ分の総額。
 尚スーパーJPが取れずにマルチボールが終わった場合、パンプキンホールによるリスタートチャンス有り。

【サナトリウム2ボールマルチ】――――――車内の看護師が襲われる!危険な患者たちが徘徊!
 中段ミニフィールドホールに掛かる。そのホールを遮る1枚ドロップターゲットを倒し、中に入れるとサナトリウムモードに突入(まだマルチではない!)。モード中は同じく中段2Fミニフィールドに両脇2枚スタンダップ⇒1枚ドロップ⇒サナトリウムホールにヴァリューが掛かるので全てしとめる。これで2ボールマルチ突入。
 マルチ中はメインフィールドでのスタンダップヒットでワラワラと彷徨う患者たちを回収。1人につき22万5千点。全員回収で再度サナトリウムホールで50万点のスーパージャックポット。

【ハウス3ボールマルチ】――――――ローリーV.S.マイケル!クライマックスの死闘を再現
 中央ランプレーン5回ショット完了でVSモード突入(これもまだマルチではない)。まるで格ゲーの様にローリーとマイケルのライフバーが表示されるので、ローリーのライフが底をつく前にマイケルを倒せ!
 マイケルの弱点は上段3Fスピナー及びその設えがある8の字ループ、通称プレッツェル型ミニループ。マイケルライフがゼロになったら最上段バルコニーランプレーン突入でとどめを刺せ!ハウス3ボールマルチ開始。
 ハウスマルチボール中はランプレーンとループレーンが25万と化し、最上段バルコニーは250万+確保したJPの総額、となっている。

【ジャックオランタン恐怖シーンモード】――――――アニーが!ボブとリンダが!あの名シーンをショット毎に再現
 パンプキンホールに掛かる。T〜[まで用意された恐怖シーンをプレイヤーがセレクト。制限時間内に課役をクリアして恐怖シーンを完成させるべし。フィールド上部中央の3枚ドロップバンクが開始への鍵。シーンコンプリート時の倍額ハリーアップや終了後の血液回収も忘れずに。この血液はエキストラボールへの近道になっている。

[T:アニーの絶命]………有効ポイントは中央,左ランプレーン、左,右オービットの4箇所。コンプ終了時に力尽きて崩れ落ちるアニーの最期が見もの。
[U:ボブとリンダを処刑]………有効ポイントは3枚ドロップ⇒中央ランプレーン⇒最上段バルコニー⇒メインフィールドのリットレーン及びリットスタンダップ。行程が非常に煩雑で難しいが、ボブとリンダの描きおろしグラフィックが楽しい。尚“劇中セックスに興じる男女は必ず殺される法則”の発祥は、元を辿るとこの映画のこの場面から来ている。
[V:死体がいっぱい]………ランプレーン&両脇スタンダップの3箇所に点く緑のライトを狙え。但し赤ライトはお手付き。劇中では面白い場面だったけど、このモードの最中はディスプレイを見ている余裕がない。
[W:逃げろローリー!]………ローリー階段落下場面から始まるモード。有効ポイントは6箇所の血液スタンダップショット。簡単そうだがバウンスボールが暴れてアウトレーンドレインの危険性が高い。ヘッジマルチボールとの併用をおすすめ。
[X:お願いドアを開けて!]………3枚バンクドロップのうち1枚だけ緑、残り2枚が赤く灯るので、緑だけを打ち落とす⇔左右オービットへのショット、を2往復半り返す。玄関扉で助けを求めるローリーの背後にガガン!ガガン!!と忍び寄るマイケルが怖い。
[Y:ローリーよマイケルを刺せ!]………実は一番簡単で一番稼げるオランタンモード。点滅サイクル追っ掛けもので、自分が得意なショットへリットが巡って来た瞬間に狙い打ちすればOK。ソファーでおびえるローリーの背後でマイケルがナイフをちらつかせるグラフィックも面白い。
[Z:忍び寄るマイケル]………迫りくるマイケルを高額カウントダウンボーナスに準えた連続ハリーアップもの。映画のロケーション4箇所をプレイフィールド4分割エリアに分けた手法は面白いが、時間制限が厳し過ぎてマップを移動して楽しむ余裕が無い。
[[:ファーストキル]………詳細不明。ジャックオランタンマルチボール完了後に、なぜか勝手に済んだことになって選択不可になっている。勿論がそんなはずはないので、ただのバグではないか。本来は幼少マイケルによる姉ジュディー刺殺に準えたコンボショットハリーアップらしい。

 尚、Z,[は開始時プロテクトされていて入れないが、Y以下を1つでも単位修得で終えればアンロックされる……という趣向。
 “ヘッジ,サナトリウム,ハウスマルチボールの最中にも条件が揃えば勝手に選ばれて開始されている”、とのことだがそんな様子は無い。

【ジャックオランタンマルチボール】――――――難関オランタンモード挑戦者へのご褒美
 パンプキンホールに掛かる。数あるオランタンモードを、単位は落としても良いので2つ履修すればこれがリット。内容はシンプルな4ボールマルチで、3枚ドロップ、スタンダップ、各メジャーショットにヴァリュー灯る。特に最上階バルコニーは高額。但し他のフィーチャーと併用は不可。
 尚BGMはブルーオイスターカルトの「ドント・フィアー・ザ・リーパー」だが今一つハマっていない。ここはやはり「ミスターサンドマン」の方を流して欲しかった。

【血のアイテムストア】――――――点数に変えるか。戦況を有利にするか。
 パンプキンホールに掛かる。血液を3Blood以上集めると“Mystery is Lit!”とのコールアウトがあるが実際にはミステリーではなく、集めた血液数に応じてアイテムが買える。
 内容はミリオンスコア、3Fハウス突入権、アウトレーンボールセーヴ、45秒間フィールド2X、TILT警告1回猶予、エキストラボール……などなど。
 尚、血液回収はオランタンモードやマルチボール終了直後の血のしたたりイラスト点滅スタンダップ。“消えるまであと10秒!あと5秒!”とかアナウンスがうるせぇ。
 ところで、筆者が実地でプレイ確認した内容と、ルールWikiサイトを拝見した内容、さらに海外で高名なピンボーラーのプレイ動画で確認した内容とでは、全て値段や項目の詳細が異なる。Ver.違いだろうか。
 ただEx.が最も高価な10 Blood、12 Bloodで即Ex.獲得……というのは総じて同じようである。

【フリッパースキルショット】――――――開始打ち出し直後の腕鳴らし
 各Ballプランジャー打ち出し時、緑色ライトが灯っている箇所に高額ボーナスが掛かっている。仕損じると権利消失。
 この緑色のライトは打ち出し前にあらかじめ左右ボタンで選択移動可。難しい箇所ほどスコアは高い。
 ただ、ここでのオススメは裏スキルショット[ジュディスマイヤーズの墓石]で、ショット成功で1枚ドロップがボールをキャプチャーしてくれる。そのBall中はアドアボールとしてもボールセーヴとしても活用できる。

【ブギーマン/プレウィザード】――――――いよいよクライマックス!6ボールロックの試練
 筆者未踏。3種のマルチボール全てで単位を獲る、つまり各スーパージャックポットを撃破するとこれがリーチ。
 生垣3箇所、パンプキン、サナトリウム、そして最上階バルコニーへの、計6箇所へボールロックが課される。
 完了時はルーミス医師がマイケルに6発の銃弾を放つ!そしてヴィクトリーラップ6ボールマルチが開始。

【ザ・ナイト・ヒー・ケイム・ホーム/最終ウィザード】――――――最後はマイケルを主役に据えたグランドフィナーレ
 筆者未踏。これまでのローリー視点、ルーミス医師視点ではなく、マイケル・マイヤーズを主人公とした、多くのフェーズと多難な課役で固められたウィザードになっている……とのこと。



 ピンボーラーとしての筆者の評価は、5点満点で【3】
 ゲーム性は十分練られているし、ある程度商品にはなっていると思うが、いくつか疑問も残る。

 先ずプレイフィールドデザインについて。

 3階建て+バルコニーのボールフローは設計的にはうまく出来ている。かと言って、決してすいすい通せる作りではない。
 特にバルコニーからの金属マグナ・ハビトレイル稼働は、せっかくの大仕掛けなのに活躍不足。
 多層フィールドをこしらえて滅多に通せない箇所なんて設けるべきではない。バリーミッドウェイが凋落期に発表した「モータードーム」「エスケープ・フロム・ザ・ロストワールド」あたりが多言を要さぬ反面教師のはずだ。
 例え最上階の難関に見えようと「ホワイトウォーター」最上段からのInsanityFallsの様に、繰り返し何度も通し、条件下の違いでたくさんのフィーチャーを用意するべき。入口にとおせんぼ1枚ドロップなんて必要無い。

 マイケル人形が見え隠れする生垣ホールをあえて3つ用意したのも疑問。
 3箇所とも役割は同じなので、もっと信頼性の高いギミックひとつに絞るべきだった。上級者にとってもわざわざ3つを狙い打つ難易度は、果たして心地良いかどうか。

 また地下レーンからプレイフィールドに上げられるボールは、左右スリングシールドに隠されたドアからモーター昇降でフリッパーに流される。左スリングはローリー、右スリングにはルーミス医師が描かれるアートワークはとても素晴らしいのだが。
 なぜ、せっかくのドア開閉を覆って隠した?凝ったメカニクスでボールを運び上げてドアが開くギミックは目に見えるようにした方が利口だ。なのにそれを隠してしまった上にボールの登場も見えないので、ただの意地悪になってしまっている。

 各フィーチャーは面白いが、惜しい点もいくつか。

 [サナトリウム]マルチボール、[ローリーV.S.マイケル]ハウスマルチボールは、リット箇所に放り込んだら始まるのではなく、マルチを開始させる為に煩雑な過程が課されてしまう。これでは他のオランタンモードなどが混ぜっ返され、難易度が重くなるだけ。同時併発の利点が乏しい。
 別口の役に集中していた場合“しまった、始まっちゃったじゃん”と舌打ちしてしまうような編成だ。マルチボールが即始まらないマルチモードなんて嬉しくない。


 いやそんなことより、未だに最新Ver.でも発生するバグの多さ、ハングアップの頻発は、早急の是正措置が必要な深刻さ。

 最上階バルコニーマグネットメカ稼働時とTILT発生が重なるとボールサーチが起きず、なんと完全フリーズに陥る。もう電源off/onするしかない。困るよ。
 オランタンモードが盛り上がってる最中、前触れなく突然ハングアップ、ディスプレイではコードが表示される現象に3度も遭った。いやこれを一体どうしろと。私にデバッグでもしろと?困るよ。
 ヘッジマルチの最中に15秒程度で失効するはずのボールセーヴがなぜか延々消えなくなり、半永久マルチボール状態突入する現象も稀に発生。しかしJPヴァリューは最低値なのでプレイヤーの体力は消耗。ジャックオランタンマルチでも同じ現象を一度確認。困るってば。

 他にも先述の様なルール進行上の致命的なバグも散見され、同社の環境を斟酌している上級者の私でも閉口するばかり。
 また前述の様なトランスライトの早すぎる劣化や、マイケルマイヤーズ人形の稼働もすぐに壊れ、耐久性が無い。

 はっきり言ってこの商品は欠陥品

 しかしそれでも、筆者はこのマシンを気に入っている
 ミスショットで突然終わる理不尽さや制限時間に追われるとピンボール特有の緊迫感と、マイケルがいつどこに現れるか分からぬ緊張感に包まれた「ハロウィン」のホラーテーマ性と、相性がぴったりなのだ。

 ガン……ガガン!ガン……ガガン!!というおっかないカーペンターサウンドと共に、ローリーの背後の忍び寄るマイケルから逃げおおせるべく課されたショットを、“次はココ、次はあの3枚!とどめはロックホール!!”……と、ハラハラしながら慎重にクリアしてゆく。
 この緊張感が、ピンボール元来の性質によく親和している。しかも生垣マルチボールでは、いよいよあの名曲が奏でられてゾクゾクする。

 まさかジョン・カーペンターの音楽がピンボールで聴ける日が来るとは、返すがえす夢にも思わなった。

 お気に入りは[オランタンモードT]でのアニー殺害。ファイナライズハリーアップをクリアすると“ギシャアァァァー!”という怖い効果音の高額ヴァリュー授与と共に、アニーが力尽きてゆく断末魔がディスプレイで観れるのだから、ホラーファンには堪えられない。

 他にもローリーやリンダ、ルーミス医師、看護師。そして枯れ葉がハラハラと舞い落ちる、寂し気な深秋の街ハドンフィールド景観の描きおろしグラフィックが随所に登場。しかも各オリジナルサウンドトラックを流しながら。

 かように、ピンボールとしては欠陥がありながら、ホラーファンのプレイヤーなら愛せずにはいられないモデルに仕上がっている。
 スターンの「ジェームズボンド」「マンダロリアン」、ジャージージャック製「ゴッドファーザー」ほど絢爛豪華ではないけれど、メジャースタジオでなくとも低予算で味のある作品が出来るのは、映画もピンボールも同じ……と言ったところ。
 同社の前作が「リックアンドモーティ」というプレイに耐えられぬ深刻な失敗作だったことも考慮に入れ、十分進展している点も評価すべきだ。

 カーペンターの出世作であり、ホラー映画の金字塔でもある「ハロウィン」を、よくぞピンボール化してくれた。スプーキー社チャーリー・エメリーらの英断と蛮勇に、心から喝采を送りたい。


 さて、スプーキー社は「ハロウィン」と同時発売、同工プレイフィールドで、なんと「ウルトラマン〜怪獣ランブル!」などという、カーペンターハロウィン以上に好事家ウケする機種を発表している。
 アートワークを異にしているがホワイトウッド及びフィールド設計は完全にハロウィンと同じで、ルールセットもほぼ似通っている。クライマックスでルーミス医師がマイケルに6発の弾丸を食らわせるボールロックショット遂行は、こちらではウルトラ兄弟大集合に準えられてある。

 このウルトラマンピンボールの詳細に関しては改めて稿を持ちたいが、この2機種同時に、同工製作という、文字通りウルトラC的な荒業政策の発端はなんだったのだろう。企画としてはハロウィンが先?ウルトラマンが先……?

 実を言うと彼らは初期段階、なんと「ジョン・ウィック」を作るつもりだった(2024年発表のジョンウィックピンボールは他社の別物)。
 3階建て+αのプレイフィールドはコンチネンタルホテルを表現していたし、生垣から顔を出すマイケル人形は銃を持った殺し屋達だった。

 同社ファウンダーのチャーリ・エメリーは聡明で口が堅く、ジョンウィック・ピンボール化プロジェクトが頓挫した理由を、カネダ・ポッドキャスト音声でもクリス・フランチのインタヴューでも、一切漏らしていない。
 “あれが原因だ、この人のせいだ”などと決して軽口を叩くような人物ではないのだ。

 ただ、ある程度の型が出来上がっていたジョンウィックプレイフィールドを、自分の大好きなテーマ2作品同時進行ピンボール化にあてがう無茶や無謀を閃いても、息子や娘ら家族たちは異を唱えたりしない。全員ホラー・特撮・SFが大好きな一家なのだから。

 先に押さえたのは、円谷プロからの許諾だった。

 チャーリー・エメリーらが日本へ家族旅行に赴いた時、仕事も兼ねてライセンス・コンベンションに足を運んだ。そこには、永らく海外で複雑化していたウルトラマンの権利を解決したばかりの[円谷プロ]がブース出展している。
 同プロダクションは今後、ゴレンジャーがパワーレンジャーとして発展したように、ウルトラマンを海外展開させることを望んでいた。
 円谷プロは怪獣好き,ウルトラマン好きのエメリーと商談するうち、ピンボール化がウルトラマンU.S.A.進出の一助になると考え、提携を認めたのだ。

 “ビジネス的な事情以前に、俺はウルトラマンも怪獣も大好きだった。放映日は学校から急いで帰ってテレビで見て育ったんだ。ウルトラマンの60年に亘る歴史には敬意の念がある。「ドクターフー」並みの偉業を成し遂げたテレビ番組だ。もし円谷プロがピンボール化に反対したら、それに従ったよ。”
 そう語るエメリーのこの熱意。すぐに円谷プロ側にも伝わっただろう。

 次に許諾購入を決めたのが「ハロウィン」だったのだが、現在進行形でフランチャイズが続くホラー映画シリーズ。当然だがライセンス料は高額。しかし「リックアンドモーティ」の次なるステップとして、エメリーらは自社にとって絶対に必要だと感じていた。
 リックモーティーは750造ったから、ハロウィンは1250に拡大したい。難しい選択だったが、自分らの信念を貫くことにした。

 映画「ハロウィン」のライセンス責任者はマリカ・コッドなる人物。残念ながら監督ジョン・カーペンターからの要望や提案は何も無く、リモートすら合うことはかなわなかった。
 しかしコッド氏からは“1978年の雰囲気を残して欲しい”という筋の通った要望があった。
 ライセンサー側の尊重を守りながらも、先鋭で洗練された2021年の最新ゲームとアートに臨むべく、使用する素材も1作目のみ……と素材を絞り込み、地歩を固めた。
 尚、この時点で映画のシリーズは枝葉も含めて11本が完成しており、その後さらに12本目が公開されている。'70年代ホラーファンとしてこの濫造の飽和状態は複雑な心境だ。

 ともあれ、映像と音楽と音声はまとめて使用許諾が下りたが、録り下ろしが必要なホスト声優は、故ドナルド・プレズンスに似た声質の声優を起用
 ……とのことだが、筆者個人としてこの声はプレズンスにあまり似ていないと感じた。演技や声質にも威厳性やオーセンティックさが欠けていて不満。何より若過ぎる。イケメンボイスだがここではミスマッチである。

 一方、ヒロイン的な声の録り下ろし演技は、今も益々ご健勝のヒロイン且つスクリームクイーンの異名を持つ、ジェミー・リー・カティスにオファー!……したいのはやまやまだが、予算的に手が届かない。今やアカデミー賞女優だ。

 そこで、なんとスプーキー達はリンダ役のP.J.ソールズを起用した
 快諾したソールズは相も変わらずの愛らしい少女声でゲーム展開を盛り上げてくれている。
 これはハロウィンファンにとっても大金星だ。43年ぶりに、あのソールズがリンダを演じてくれた!

 ただ、彼女はリンダ役という自分の肖像で乳房やヌードが描かれないか心配しだしたので、LCD,キャビネット,プレイフィールド等々、逐一リンダのアートワーク見本を、出来上がる度に彼女へ送信したという。

 この時点でP.J.ソールズの齢は70過ぎだが、それでも分かる気がする。ホラー映画ファンの私にとっても彼女は永遠に「キャリー」のノーマであり、「ハロウィン」のリンダなのだから。

 “ソールズは気さくで仕事もし易い方だった。未だに女の子みたいにご自分の絵をはにかんでいて、可愛らしいひとだったよ”
 ―――とはエメリーの談。


 一方、映画ファンのアーティストがうらやむような本作マシンの美術担当に就任したのは、ピンボール産業では新人のジェイソン・エドミストン

 彼はカナダのオンタリオ州にある美術大学を卒業後、同国で雑誌や新聞の広告アートで10年程食っていたが仕事の充実感がなく、日々に物足りなさを感じていた。
 旧態印刷メディアが目に見えて衰退していく時期だったこともあり、ポートフォリオを携えてアメリカへ移住。元来ホラー好きの彼はホラーコンベンション、コミックコンベンションへ積極的にブース出展。やがて映画ポスターやホラー雑誌のオファーも舞い込むように。

 そんな彼が出展していた《Gフェスト》で出会ったのが、チャーリーエメリーらスプーキー社だったのである。

 エドミストンはピンボールの通ではないがアーケードビデオゲーマーで、伏流的にピンボールのプレイ経験がある。
 ホラー愛好家で絵のセンス抜群、且つ“ピンボールアートの仕事!?是非KISSが描きたい!!”などと言い出す彼の基本的見識はむしろ水準以上とみたエメリーは、彼に「ハロウィン」のプレイフィールド、トランスライト、キャビネットアートの美術を一任した。

 “キャラクターの全身を風景と同じように描くと人物が矮小になってしまう。そこで魚眼レンズや遠近法を投影した描き方を採用した。映画のスクリーンみたいにね。マイケルを中心に描いて、家やタイトルロゴを3Dの如く弓なりに描いたんだ。偉容で高圧的になるように。それから橙色,夕焼け色を多用するよう意識した。パンプキンカラーということもあるけど、オレンジ色はピンボールアートで殆ど見かけない色なんだ。大体は青、濃い緑、黒が多いよね。だからオレンジカラーは目立つはず。日が落ちて夕焼けが垂れこめ、いよいよ恐怖の夜が始まるぞ!っていうワクワク感を出したかった。このアイディアはスプーキー側も賛成してくれたんだ。”
 “でも自分がピンボールアートを担うことになるとは夢想だにしていなかった。そういうのって特別な学校か何かに行かなければ絶対にやらせて貰えない仕事のひとつだと思っていたからね。”


 そう語るエドミストンが手掛けたアートは、目の肥えたピンボールマニアから見ても至宝の仕上がりとなっている。殊にサイドキャビネットアートのローリー、ルーミス医師、そしてあのシーツとメガネ着用マイケルらの迫力は素晴らしい

 一方LCDアニメーションはスプーキーファミリー身内やマニア仲間内ではなく、デンヴァーを本拠に活動する本職プロダクションのライアン・ポリッキーに依頼。

 運転席のアニー、おびえるローリー、惨劇の舞台となるハドンフィールドの家々や室内などの描きおろしアニメーション。このグラフィックがゲーム展開上で快適に作用。
 「マンダロリアン」「ジェームズボンド」などが陥っていた、本編映像のくどいループが良くない効果を及ぼしがちだった映画やTVライセンス作の陥穽をうまく回避している。

 音楽は、オリジナルサウンドトラック使用許諾もしっかり購入[オリジナル音楽作曲:ジョン・カーペンター]と、夢のクレジット表記も叶えられた。筆者もこの表記を見つけた時は万感ひとしお。
 メインテーマは勿論アウトホールボーナスカウント時も馴染みのあるメロディが奏でられ、ホラーファンはニヤリとさせられる。重ね重ね、筆者はプレイしながら随喜の落涙。長生きしてよかった。

 ただゲーム上どうしても必要な追加トラックは、ロブゾンビのベーシスト マット・モンゴメリーが手掛けている。
 彼は同社2018年製「アリス・クーパーズ・ナイトメア・キャッスル」追加曲コンポージングに続いて2度目の登板。そのものずばり「ロブゾンビ(2016)」のピンボールも過去にスプーキー社が手掛けている。
 今作ハロウィンでは映画公開当時1978年風のクラシカルな劇伴を違和感なく添えており、実にいい仕事。

 余談だが、ロブゾンビとアリスクーパーはエージェントが同じ女性。
 クーパーは過去に『是非俺っちのピンボールも作ってくれ!』と“他社”の門を叩いたが、可哀そうにすげなく断られてしまった。
 彼が消沈していると、エージェントが『スプーキーの奴らに頼めば?』と仲介してくれたという。
 それが「ナイトメアキャッスル」に繋がったし、モンゴメリーのハロウィンPIN音楽起用の縁をも招いている。
 因みに映画監督でもあるロブゾンビは2007年に「ハロウィン」、2009年には「ハロウィンU」のリメイクまで手掛けている
 もはや縁が縁を引き寄せる数珠繋ぎ状態だ。

 題材にも人材にも矢継ぎ早に恵まれてゆく僥倖の連続については“運が良かっただけ”とチャーリーは謙遜しながらも、こうも述べている。
 『ライセンシングは簡単じゃない。小切手1枚切って済ませられるような仕事じゃないからね。双方が会議を繰り返してじっくり話し合って、敬意と誠意を見せ合い、尚且つ請求書どおりの金額を期日までに振り込まなければならない現実もある。「リックアンドモーティ」は制作中に権利がアダルトスウィム社からワーナーブラザーズ社に移譲されるごたごたがあったけど、それも冷静に対処することが出来た。そういった数々の場数をこなしたお陰で経験値が上り、更に今回の様な大きなテーマライセンスに挑める自信が付いたんだ。』

 また、同作のデザインチーフ名は“コリス・バーロフ”となっている。ホラーマニアサイドの諸賢ならピンとくると思うが、明らかに存在しない人物、且つ戦前に活躍したモンスター映画俳優ボリス・カーロフの捩りだ。

 『ハロウィンとウルトラマンのデザインは主に3人のクリエイターが手掛けているけど、他にも大勢の有志が一時的に参加したり、手を添えたり、アイディアを思いついたり、修正してくれたり、退場したりもしている。一人の力量には集約できない。例えばこの3階建て+αの大胆なプレイフィールドは誰のアイディア?という質問に対しては、3人が話し合っているうちに自然と出来上がった……と答えている。誰かが一人で断行した訳じゃない。』

 『だからデザインチーフの名をコリス・バーロフとした。ピンボールが成功すると名声はどうしてもデザインチーフ一人に集まってしまう。でも実際はたくさんの人達のお陰でハロウィン/ウルトラマンを完成させることが出来たのだから、たったひとりに称讃があつまるのを避けたいんと思ったんだ。』



 さて、完成した「ジョン・カーペンターズ・ハロウイン」は1250台ユニット製造と発表。
 スタンダードイディション:6995$。特典付きブラッドサッカー・イディション:7995$。最上級版コレクターズイディション:8995$。
 2021年7月7日に午前9時(アメリカ中部標準時)に購入受付開始。

 するとウルトラマンも含め、全て4時間で完売したという。

 『たった1日で1750台の全てのゲームが売り切れたんだ。トラフィック集中によるウェブサイトダウンまで引き起こし、嬉しい悲鳴どころかパニックに陥ったよ。警告メッセージが止まらない。大慌てでウェブストア各社へ電話連絡を入れて、制限解除を頼み込んだんだ。』

 その後スプーキーは最終アッセンブルと検品用ファクトリーを増築し、スタッフも増員。週5,6台程度だった製造数も、2022年春頃には週40台までに拡充している。

 また同年スプーキー社はシカゴのホラーコンヴェンションイベント《Days of the Dead》に、ハロウィン/ウルトラマンをひっさげてブース出展。ピンボール門外なホラー,特撮ファンからの求心と好評を博している。

 ひょっとして「ゴーストハンターズ」もピンボール化するの?との質問に、エメリーはこう答えている。
 『あー……タイトルは出さないけど、ゴーストハンターズ以外のカーペンター監督作であと2本、作ってみたいヤツがあるんだ。』
 むむ。ひょっとして「ニューヨーク1997」「エスケープフロムL.A.」だな?絶対そうだろ!お見通しだぜ!!

 その後2022年末には、またもや大型ライセンス作且つ、同社初のワイドキャビネットモデルのピンボール「スクービー・ドゥー」を発表。
 スプーキーピンボールの快進撃はしばらく続きそうである。


 ……しかしその後、2023年末。ピンボールマニア、ホラー通の双方にとって目の覚めるような電撃ショックニュースが踊り込んだ!
 轟音うなるチェーンソー!ハンマーひとふりでホフられるカーク!絶望的に閉められる鉄製スライド扉ズバ―ン!!軽々と持ち上げられて肉鉤フックにぶすりと吊るされるパム!脳天から車椅子ごと真一文字に電ノコ引き裂き真っ二つなフランクリンの阿鼻叫喚!人肉の宴で血だるまに泣きわめくサリーの絶叫―――!
 ザ!テキサス!チェーンソウ!マッサクァァァ!! スプーキー製ピンボールの新機種は「悪魔のいけにえ」だー!!!
 ………こうご期待。

▲これは映画のオープニングでも登場する、幼少期のマイケルマイヤーズ。 ▲プレイフィールド盤面下部から中部にかけてのライト表示は、ファイナルへ進出する里程標となっている。 ▲最上段3Fミニフィールドアートは可愛くてよろしい。但し使いこなしは難航。
▲左ランプレーンと中央ランプレーン。十分通しやすく設計してくれたと思う。 ▲プレイフィールド全景。バイレベル高架下を開通させ、狭苦しさを感じさせない。 ▲こちらマイケルの姉の墓石も実はボールロックポイント。この2ボールマルチにJPはないが、ボールセーヴやEx.代わりの利点がある。
▲これら生垣ロックの難しいことといったら。でもマルチ時のスタンダップ狙いまくりは楽しい。 ▲最上階バルコニーランプレーンの作りには疑問の余地あり。ホワイトウォーターという手本があるのにこのぎこちない構造はどうかと。 ▲尚ドロップ3枚バンクの上に橋渡されたアクリル板は、ボールの飛び上がり防止策。これが無いと跳ね返り球がフリッパー飛び越えるのよ。
▲ローリー・ストロードことジェミー・リー・カーティス。「トゥルーライズ」も面白かったよね! ▲ピンボールには勿論'70sホラーには数十年越しの思い入れがある。この度「ハロウィン」には熱を込めて解説を書かせて頂いた。最後までご清読感謝! ▲ルーミス医師ことドナルド・プレズンス。ピンボールご出演は本作とジェームズボンドで2回目!?

(2024年9月10日)